「東京都心部オフィスビル市場」の現況と見通し

東京都心部Aクラスビル の空室率は、テレワークの普及など先行き不透明感が広がるなか上昇基調で推移し、3%台に達した。成約賃料は、2014年第1四半期の水準まで下落した。本稿では、東京都心部Aクラスビル市場の動向を概観し、2026年までの賃料と空室率の見通しを解説する。


エグゼクティブサマリー

●ESPフォーキャスト調査を参考に、野村不動産ソリューションズが経済見通しを設定。
●空室率は、上昇基調が継続すると予想する。特に、2023年と2025年は大量供給の影響を受けて空室率が上昇し、2026年には約6%となる見通しである。
●成約賃料(2021 年=100)は、2022 年に「98」、2023年に「96」、2026 年に「94」と、緩やかな下落を見込む(図表-17)。

Ⅰ.東京オフィス市場の現況

東京都心部Aクラスビル[1]の空室率は、2020年第4四半期以降、上昇基調で推移している。2022年第1四半期は、前期から小幅低下したものの3.3%(前期比+0.1%)となり、2017年第2四半期以来となる3%台に達した。

Aクラスビルの成約賃料(オフィスレント・インデックス[2])は、2020年の大幅下落を経て、概ね横ばいで推移していたが、2022年第1四半期は29,185円(前期比▲4.9%、前年同期比▲17.3%)と2014年第1四半期の水準まで下落した(図表-1)。リーシング活動が長期化したビルでは、賃料等を柔軟に調整しテナントの誘致を促進する動きもみられるようだ。

Bクラスビル及びCクラスビルでは、空室率は上昇傾向にあるものの、そのペースは鈍化している。2022年第1四半期の空室率は、Bクラスビルで4.6%(前期比+0.3%)、Cクラスビルで4.5%(前期比+0.4%)となった(図表-2)。

また、成約賃料は概ね横這いで推移している。2022年第1四半期の成約賃料は、Bクラスビルで19,726円(前期比▲1.6%、前年同期比▲2.3%)、Cクラスビルで17,438円(前期比+4.5%、前年同期比+1.9%)となった(図表-3)。

賃料と空室率の関係を表した「賃料サイクル[3]」をみると、東京オフィス市場は2020年第3四半期以降、「空室率上昇・賃料下落」の局面が継続している(図表-4)。



[1] 本稿ではAクラスビルとして三幸エステートの定義を用いる。三幸エステートでは、エリア(都心5区主要オフィス地区とその他オフィス集積地域)から延床面積(1万坪以上)、基準階床面積(300坪以上)、築年数(15年以内)および設備などのガイドラインを満たすビルからAクラスビルを選定している。また、基準階床面積が200坪以上でAクラスビル以外のビルなどからガイドラインに従いBクラスビルを、同100坪以上200坪未満のビルからCクラスビルを設定している。詳細は三幸エステート「オフィスレントデータ2021」を参照のこと。なお、オフィスレント・インデックスは月坪当りの共益費を除く成約賃料。

[2] 三幸エステートとニッセイ基礎研究所が共同で開発した成約賃料に基づくオフィスマーケット指標。

[3] 賃料サイクルとは、縦軸に賃料、横軸に空室率をプロットした循環図。通常、①空室率低下・賃料上昇→②空室率上昇・賃料上昇→③空室率上昇・賃料下落→④空室率低下・賃料下落、と時計周りに動く。

Ⅱ.企業のオフィス戦略見直しを踏まえた、今後のオフィス需要を考える

新型コロナウィルス感染拡大を背景に在宅勤務が普及し、企業がオフィス戦略の見直しを進めるなか、最適な「オフィス面積」の検討は重要な課題の1つである。ザイマックス不動産総合研究所によれば[1]、「オフィス面積」は、これまで「オフィス利用人数×1人あたりオフィス面積」で考えられてきた。しかし、在宅勤務が浸透したことで、「座席数(在籍人数 × 出社率[2] × 席余裕率[3])× 1席あたりオフィス面積」でオフィス面積を捉える考え方が広がっている。

以下では、①今後の「在籍人数」を見通すうえで重要となる「オフィスワーカー数の動向」、②「出社率」をはじめとする「在宅勤務の状況」、③「席余裕率」に影響する「フリーアドレス[4]の導入状況」、④「1席あたりオフィス面積」を定める「オフィス環境整備の方針」について概観し、今後のオフィス需要への影響を考察する。



[1] ザイマックス不動産総合研究所「コロナ禍で変わるオフィス面積の捉え方」(2021.12.14)

[2] オフィスと在宅での勤務割合

[3] 出社するワーカー1 人に対する席数割合

[4] 従業員が固定した自分の座席を持たず、業務内容に合わせて就労する席を自由に選択するオフィス形式。

Ⅲ.オフィスワーカー数の動向

内閣府・財務省「法人企業景気予測調査」によれば、「関東地方」の「従業員数判断BSI[1]」(全産業) は、2020年第1四半期の+20.3から2020年第2四半期の+4.6へ大きく低下した後、緩やかな回復が続いており、2022年第2四半期は+15.1となった(図表-5)。新型コロナウィルス感染拡大によって雇用環境は一時悪化したが、その後は順調な回復を示している。

業種別にみると、「製造業」、「非製造業」ともに回復しており、2022年第2四半期に「製造業」は+9.2、「非製造業」は+17.9となった。オフィスワーカーの割合の高い「非製造業」は、人手不足感がより強いと言える。

次に、東京都の就業者数(対前年同期比)の動向を確認する。総務省「労働力調査」によれば、東京都の就業者数は2020年第1四半期(▲0.2万人)から3期連続でマイナスとなった。その後、2020年第4四半期(+23.5万人)にプラスに転じたが、2021年第2四半期(▲10.0万人)は緊急事態宣言や新卒採用抑制の影響等を受けてマイナスに、翌第3四半期(+11.8万人)は再びプラスとなるなど、一進一退の動きとなっている。足元の2022年第1半期は+11.0万人となった(図表-6左図)。

産業別(前年同期比)では、都心5 区のオフィスワーカーに占める割合の大きい「学術研究,専門・技術サービス業」が+14.0%、「情報通信業」が+5.9%となった(図表-6右図)

このように、東京都の就業者数は全体では増えていないものの、オフィスワーカーの比率の高い産業では就業者の増加がみられる。引き続き、雇用情勢を注視する必要があるが、東京都心部のオフィスワーカー数が減少する懸念は小さいといえよう。

(出所)東京都「東京の労働力(労働力調査結果)」をもとにニッセイ基礎研究所作成



[1] 従業員数が「不足気味」と回答した割合から「過剰気味」と回答した割合を引いた値。マイナス幅が大きいほど雇用環境の悪化を示す。

Ⅳ.在宅勤務の状況

新型コロナウィルス感染拡大への対応で、東京では「在宅勤務」が急速に普及した。都内企業のテレワーク実施率をみると、緊急事態宣言の発令期間(2021年1~3月、4~6月、7~9月)は60%台、それ以外の期間は50%台で推移しており、2021年12月調査では56%となった(図表-7)。

ニッセイ基礎研究所・クロスロケーションズ「オフィス出社率指数」 によると、東京都心部のオフィス出社率は2021年12月末に75%となった。2021年9月末に緊急事態宣言が解除された後、緩やかにオフィス回帰が進み、感染拡大の第2波以降のレンジ(45~65%)の上限を上回った。なお、2022年1月前半は70%以上の水準を維持したが、1月後半以降はオミクロン株の拡大により、再びオフィス出社を控える企業が増えた。

ザイマックス不動産総合研究所の調査によれば、コロナ禍収束後に想定する出社率について、「100%(完全出社)」との回答は全体で24%となった。

業種別をみると、「100%(完全出社)」の回答は「金融業、保険業」が39%、「卸売業、小売業」が35%と高くなる一方で、「情報通信業」は8%に留まった(図表-8)。

ところで、公益財団法人日本生産性本部「働く人の意識に関する調査」によれば、「コロナ禍収束後もテレワークを行いたいか」という質問に対し、「そう思う」と「どちらか言えばそう思う」が合計で約7割を占めた(図-9)。家族との時間が増えた等のメリットから、今後もテレワークを中心とした働き方を希望する人が増えている。

以上の状況を鑑みると、コロナ禍収束後も、「オフィス勤務」と「在宅勤務」を組み合わせた新しい働き方が定着すると想定される。オフィスワーカー比率の高い「情報通信業」等では、「在宅勤務」との親和性の高い業務も多く、「在宅勤務」を中心とする勤務形態に変更する企業が増えている。一方で、対面でのコミュニケーションを必要とする職種では、「在宅勤務」は非効率で生産性が低下するとの指摘もあり、「従業員がコミュニケーションを図り共創する場」としてのオフィスの重要性が認識されて、「オフィス勤務」に戻す動きもみられる。

Ⅴ.フリーアドレスの導入状況

「働き方改革」の一環として、従業員間のコラボレーションやフレキシブルな働き方の促進を目的として、フリーアドレスを採用する企業はこれまでも一定数存在していた。しかし、コロナ禍で「在宅勤務」が急速に普及しオフィスに出社するワーカー数が流動的となるなか、フリーアドレスを導入する動きが広がっている。

森ビルの「東京23区オフィスニーズに関する調査(2021年)」によると、「フリーアドレスの導入状況」に関して、「既に導入している」との回答は、2019年の19%から32%に増加した(図表-10)。

CBRE「オフィス利用に関するテナント意識調査」によれば、ワークプレイスの形態に関して、「現時点(2020年10月時点)」では「全部固定席」との回答が最多(61%)だが、「今後の予定」では27%に低下し、「フリーアドレスと固定席環境が混在するハイブリット型」との回答が22%から34%に増加した(図表-11)。

フリーアドレスは、今後想定されるフレキシブルな働き方に即したオフィスの利用形態であり、また、従来通りの全て固定席ではスペースの有効活用が難しいとの事情もあろう。ザイマックス不動産総合研究所の調査によれば、「席余裕率」(中央値)は、「2021年4月時点の実績値」が1.85席/出社人数であるのに対して、「コロナ禍収束後の意向」では1.2席/出社人数に縮小した。今後、フリーアドレスと固定席が混在するオフィス利用が進むことで、出社人数に対し余裕をもって座席を用意する企業は減少すると考えられる。

Ⅵ.企業のオフィス環境整備の方針

森ビルの「東京23区オフィスニーズに関する調査(2021年)」によると、「新規賃貸する理由」は、「働き方の変化に応じたワークプレイスの変更のため」との回答が30%で第1位となった。昨年トップであった「賃料の安いビルに移りたい」との回答は37%から29%に低下した(図表-12)。

企業のオフィス投資では、「オフィス勤務」と「在宅勤務」を組み合わせた新しい働き方への対応に重点が置かれている。また、コロナ禍前(2019年)と比較して、「立地の良いビル(26%・2019年28%)」や「耐震性能の優れたビル(20%・同18%)」、「セキュリティーの優れたビル(19%・同15%)」、「設備グレードの高いビルに移りたい(18%・同18%)」といった前向きな移転ニーズは変わらず高い。「働き方改革」を契機に強まった、従業員満足度の向上や優秀な人材確保などを目的とするオフィス環境整備は、コロナ禍を経ても継続している。

一方、「オフィス環境づくりにおける課題」としては、「効率的なレイアウトによるコストダウン」(35%)と「社内のコミュケーションンやコラボレーションの強化」(35%)との回答が最も多く、次いで「社員への健康配慮」(33%)との回答が多かった(図表-13)。

「在宅勤務」を実際に経験することで、「従業員がコミュニケーションを図り共創する場」としてのオフィスの重要性が再認識されるなか、オープンなミーティングスペースや、web会議用スペースを充実させる企業が増加している。

また、多数の利用者が出入りするオフィスビルでは、感染症拡大防止や利用者の健康に配慮した対応が必須となる。ザイマックス不動産総合研究所「働き方とワークプレイスに関する首都圏企業調査(2021 年7月)」によれば、コロナ危機後、メインオフィスの施策として関心があるものとして、「健康や感染症対策に配慮したオフィス運用に見直す(衛生管理等)」との回答が約4分の1を占めた。従業員の「Well-being」に配慮したワークプレイスの構築が企業の経営課題の1つとなっている。日本経済団体連合会「オフィスにおける新型コロナウィルス感染予防対策ガイドライン」では、「従業員が、できる限り2メートルを目安に、一定の距離を保てるよう、人員配置について最大限の見直しを行う」とされており、ソーシャルディスタンスへの配慮が求められている。

今後も、従業員にとって快適なオフィス環境を整備する取組みは継続すると考えられる。特に、従業員間のコミュニケーション促進や「Well-being」への配慮は重視されるだろう。したがって、利用効率性のみが追求され、オフィス床面積(1席あたりオフィス面積)が大幅に縮小する懸念は小さいと考えられる。

Ⅶ.経済見通し

2022年1-3月期の実質GDPは、前期比▲0.1%(前期比年率▲0.5%)となり、まん延防止等重点措置に伴う民間消費の低迷や外需の悪化により、2四半期ぶりのマイナス成長になった。

野村不動産ソリューションズは、ESPフォーキャスト調査[1]を参考に経済見通しを設定し、2022年度は1.6%、2023 年度は2.0%とする(図表-14)。


[1] 公益社団法人日本経済研究センターが実施している日本経済の将来予測に関する調査。民間エコノミストが見込む将来の経済・景気動向、等についてのコンセンサスを明らかにすることを目的としている。

Ⅷ.Aクラスビルの新規供給見通し

三幸エステートの調査によれば、2022年の東京都心部での新規供給量は約6万坪となり、新規供給が多かった2020年(約20万坪)の約1/3に留まる見通しである。しかし、2023年は、港区虎ノ門地区で大規模ビルの竣工が複数棟予定されており、新規供給は再び約19万坪に達する。2024年は一旦落ち着くものの、2025年は品川駅周辺等で大規模開発が予定されており、新規供給量は約27万坪と、過去最高を上回る見通しである(図表-15)

Ⅸ.Aクラスビルの空室率および成約賃料の見通し

新型コロナウィルスの感染拡大後も、人手不足の状況が継続している。また、オフィスワーカーの比率の高い産業では就業者の増加も確認できており、東京都心部の「オフィスワーカー数」が大幅に減少する懸念は小さい。また、「Well-being」など従業員にとって快適なオフィス環境を整備する取組みが継続するなか、「1席あたりオフィス面積」が大幅に縮小する懸念は小さい。

一方、「在宅勤務」を中心とする勤務形態を導入する企業は増えており、オフィス出社率がコロナ禍以前の水準に戻る可能性は低い。また、「フリーアドレス」の導入が広がるなか、余裕のある座席数を確保する企業は減少すると考えられる。以上を鑑みると、今後のオフィス需要(オフィス利用面積)は力強さを欠くと見込む。

そのため、今後5年間の空室率は上昇基調が継続すると予想する。特に、2023年と2025年は大量供給の影響を受けて空室率が上昇し、2026年には約6%となる見通しである(図表-16)。

また、東京都心部Aクラスビルの成約賃料(2021 年=100)は、2022 年に「98」、2023年に「96」、2026 年に「94」と、緩やかな下落を見込む(図表-17)。

作成:ニッセイ基礎研究所

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