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住宅ローンコラム 知っておきたい!住宅ローンの最新動向

頭金、出すべきか、出さざるべきか?

2015年06月24日

「頭金は物件価格の何割」という発想はナンセンス

住宅ローンについて記述のある書籍やインターネットのガイドには、「頭金は物件価格の2~3割は準備すべき」と書いてあるケースが多いようです。しかし実際に不動産会社、住宅販売業者、施工会社の人達と話をすると、「頭金ゼロでも家は買える」と主張します。銀行に問い合わせてみても、「頭金ゼロでも問題ない」と答えます。
これらの答え、どちらが正解なのでしょうか?

実は、「頭金は物件価格の何割」と議論する時点で、ポイントがズレています。
というのも、銀行は頭金ゼロでも住宅ローンを組ませてくれるので、頭金の準備は借入の必要条件ではないからです。以前は頭金が物件価格の2割ないと貸してくれなかったのですが、そんな時代はとっくに終わっています。

誤解を恐れずに言えば、物件価格だけで頭金の割合の水準を決めようとすることがナンセンスなのです。なぜ物件価格から「一定の比率で」頭金を必要とする議論がいまだに続いているのか理解に苦しみます。

頭金を決めるための3つのステップ

住宅取得のための資金計画を立てる場合に、筆者は頭金の水準を決める3つのステップをおすすめしています。このステップ通りに頭金の額を検討すれば、まず失敗しないでしょう。特に、Step2の「手元資金」についての検討をしない人がかなり見受けられますので、ご注意ください。

Step1 総資産を把握する
現在の総資産を正確に把握している人は、ほとんどいないと思われます。
住宅購入をきっかけに文字通り、資産の棚卸をおすすめしています。

Step2 手元資金の必要額を算定する
将来の家計を安定させるために必要な額を軸として手元資金を算出し、確保します。
手元資金が不十分な場合は、補填するための対策を立てることが必須です。

Step3 頭金の金額を算定する
手元資金を確定させた後、ここで初めて頭金の水準を検討しましょう。
水準の決定は、利息削減と毎月返済負担の軽減のバランスを考えて行うことが大切です。

「手元資金をいくらにするか」が大事

頭金は『あった方がよい』資金ですが、手元資金は『なくてはならない』資金です。
手元資金が十分になければ、将来の家計運営が不安定になるリスクが高くなるため、資金計画で頭金の水準を決める前に、「手元にいくら残すのか」の方を先に決めなければなりません。

手元資金の必要額を計算するため、筆者は3つの貯金箱というフレームで検討することを提案しています。
第1の貯金箱:万が一のための資金(病気、ケガ、勤務先の倒産などのリスクへの対応)
第2の貯金箱:1年以内の高額出費のための資金(引越し費用、家具・家電の購入、学費等)
第3の貯金箱:将来の高額出費のための資金(老後資金、介護資金、大学の入学費用等)

それぞれの貯金箱にいくら入れるべきかを、具体的に検討してください。これは、住宅取得にかかる計画、ライフプラン、家計の状況に応じて変わるため、必ずご自身で計算しなければなりません。

上述の説明を見ていただければ、住宅の購入時に絶対に資金が必要なのは、第2の貯金箱だとわかるかと思います。ここに資金がなければ、もらうか、借りるか、何らかの方法をもって準備しなければなりません。

それに対し、第1と第3の貯金箱が不足する分には、直ちには困りません。もちろん必要な資金ではありますが、今すぐに準備できなければ、少し時間をかけて徐々に準備すればよいと考えます。

頭金を増やすことによるコスト削減効果

手元資金を確保してなお余剰資金があって、ようやく頭金をいくらにするかを検討する用意が整います。「コスト削減」と「家計の安定」のバランスをどのように実現させるか、という観点で検討するといいでしょう。間違ってもコスト削減効果だけを考えて決めないでください。

頭金を多く準備できれば、借入金額が減額され、返済額も減少し、支払利息を抑えることができます。また、返済額の減少分を貯蓄に回すこともできるでしょう。

では、それは実際にどれぐらいの効果があるのでしょうか?

ここでは具体的に100万円を頭金にするとして、借入金額3000万円、借入期間35年、金利2%、元利均等方式の場合を試算します。借入金額を100万円減らせば、毎月返済額は99,378-96,066=3,312円だけ家計収支が楽になることがわかります。
これを20年間、運用せずに貯蓄すると794,880円になります。

同じ前提での各金額による経済効果を表のように試算してみました。

頭金投下額 100万円 200万円 300万円 500万円 1,000万円
返済額の減少額 ▲3,312円 ▲6,625円 ▲9,938円 ▲16,563円 ▲16,563円
利息の削減総額 ▲139万円 ▲278万円 ▲417万円 ▲695万円 ▲1,391万円
20年後の貯蓄増 79万円/td> 159万円 238万円 397万円 795万円

ご覧のように、頭金を100~200万円ぐらい増やしても、目先の月々の収支には大して貢献しません。500万円以上でやっと収支に効いてくる感じですが、ここまで頭金を投入すると、手元資金が十分ではないリスクを回避できているかを確認しなくてはなりません。

具体的には次の式を満たすような関係になっていることを見ればよいでしょう。

●将来の家計の安定性の実現
手元資金+家計収支の余剰分×期間≧将来の高額出費

これを満たす関係となっていれば、その頭金の水準はほぼ問題ないと言えます。

頭金を減らすことで収益が増える?

現在は超低金利に加え、政府が住宅所有を奨励するために税制面で特典を与えてくれています。そのおかげで、信じられないことが起きているのを、ご存知でしょうか。
なんと、借入金利が実質マイナスになってしまっているのです。

例えば、2015年6月のフラット35の基準金利は最も安いもので1.54%となっています。
フラット35S(金利Aプラン)が適用できる住宅であれば、10年間は金利が0.6%引かれます。加えて、住宅ローン減税により、住宅ローン残高の1%の税額控除が10年間受けられます。つまり、優遇制度をフル活用できれば、実質金利は▲0.06%となり、きわめて特異な状態となっています。

言い換えれば、借入から10年間は、住宅ローンをなるべく多く借りた方が得するのです!

頭金の水準による収支の変化

次に、頭金が変化すると、収支にはどのような影響となるかについて試算してみましょう。

今回は頭金の投入額の違いの効果をみるため、総額2000万円から、500万円刻みで頭金の金額を変えて投入し、残金があれば、11年目に繰上返済するという前提で計算しています。
例えば、頭金を1000万円投下すると決めた場合、借入金額は3000万円で11年目に1000万円の繰上返済を期間短縮型で行う、といった要領です。

借入金額 2,000万円 2,500万円 3,000万円 3,500万円 4,000万円
頭金 2,000万円 1,500万円 1,000万円 500万円 0万円
融資手数料 10.8万円 12.5万円 15.0万円 17.5万円 20.0万円
団信特約料 136.5万円 146.7万円 156.9万円 167.2万円 178.8万円
抵当権設定登録免許税 2.0万円 2.5万円 3.0万円 3.5万円 4.0万円
総支払利息 471.7万円 398.0万円 374.3万円 374.9万円 442.2万円
住宅ローン減税控除分 172.6万円 215.7万円 258.8万円 301.0万円 346.0万円
収支 ▲448.5万円 ▲344.1万円 ▲290.4万円 ▲262.1万円 ▲299.0万円
借入期間 27年6ヶ月 22年10ヶ月 19年9ヶ月 17年7ヶ月
※住宅ローンは、フラット35S(金利Aプラン)0.94%、金融機関は優良住宅ローン、融資手数料は住宅性能評価証明書ありで借入金額の0.5%、元利均等方式で35年間の借入とし、住宅ローン減税は満額控除が受けられるものとした
※物件総額を4000万円とし、借入金4000万円の場合には金利が0.13%上がるものとして計算した
※利息以外の費用としては、借入金額に応じて金額が異なる、融資手数料と団信特約料、抵当権登録免許税のみとした

この収支を見れば、頭金を減らした方が収支はよくなる傾向になることがわかります。ただ、物件総額全額を借り入れることにすると適用金利が上乗せされることがあり、このケースで上乗せ幅を0.13%とした場合、収支は悪化しています。従って、このケースで最も収支がよくなるのは、物件総額の90%である3,600万円の借入金と、400万円の頭金という組み合わせになると推測されます。

資産サイドの変化も確認

頭金を減らすということは、その期間は預金残高にその分が加わってきます。つまり、資産の推移についても合わせて確認しなければ、家計への影響を見る上では片手落ちです。

そこで、前提条件として以下の内容を追加します。頭金+繰上返済=2000万円の前提は変えず、それとは別に当初500万円の資産がある前提とし、現在は35才で住宅ローン+余剰金=14万円を支払全体予算とし、65才からの住居費は10万円に減額します。また、退職金はないものとします。

借入金額 2,000万円 2,500万円 3,000万円 3,500万円 4,000万円
手元資金 500万円 1,000万円 1,500万円 2,000万円 2,500万円
余剰金年利0.2% 3,867.1 4,478.5 5,057.4 5,617.0 6,109.3
余剰金年利2.0% 5,803.7 6,699.5 7,626.6 8,567.5 9,426.
※余剰金は、手元に残った資金、借入金額や団信保険料の予算との差額、住宅ローン減税で戻ってきた税金をすべて合計し、毎月複利で運用します

資産サイドから見れば、頭金を減らして運用に回せば回すほど良い結果が得られます。
負債サイドと資産サイドを合計すれば、改めて頭金を0円にして4000万円満額を借りる方が有利だとわかります。また金利が上昇するならば、その差はかなり大きく開くため、十分な検討をしていただきたいと思います。

借入金額を増やす限界とは

だからといって、借り入れる金額を無制限に増やすべきではありません。前述のとおり、これは政治や経済が作り出した「借入金利が実質マイナス」という特殊な状況から起きているものからです。

また利用している商品や制度に条件があることも忘れてはいけません。

具体的には、フラット35Sや住宅ローン減税に、金額面で制限があります。
フラット35は最大8000万円、更にフラット35Sは2015年いっぱいで予算がなくなり次第終了する予定ですので、時間的な制限もあります。住宅ローン減税は、長期認定優良住宅等で5000万円、一般住宅で4000万円までで、いずれも2019年6月入居までとなっています。

例えば、一般住宅で4000万円以上借りると、超過部分については住宅ローン減税が適用されずに「借入金利が実質マイナス」とはなりません。この場合は借入金額を4000万円まで減らす方が有利となるでしょう。

もう一つ、借入金を増やし過ぎると、家計収支が安定しなくなる可能性があることを考慮しなくてはなりません。筆者は、家計を安定化させるためには、借入後の余剰資金を月収の5%以上とすることが必要だと考えています。(この基準は、将来の老後資金を準備するには十分な金額ではありませんが、将来の給与上昇等を期待して設定しています。)

住宅ローンを組んで、どれだけの余剰資金ができるのかを計算し、借り過ぎとならない水準に収めるようにすることが重要です。

頭金は、出せる人と出してはいけない人がいるのです

まとめますと、物件価格から頭金の水準を決めるのはやはり適切ではありません。
頭金は、「保有資産の全体像」「手元資金」「家計収支のバランス」から決めるべきです。

結果として、頭金を出してはいけない人がいます。それは「手元必要資金≧総資産」の人です。この方は頭金よりもまず手元資金を確保しなくてはなりません。たとえ銀行員から「頭金を出した方がよい」とアドバイスがあっても、頭金を出さずに住宅を買うべきです。どうしても頭金を出したければ両親からの援助のような外部調達を検討しましょう。

一方で「手元必要資金<総資産」となっている人は、頭金を出してもよい人です。総資産から手元必要資金を差し引いた分について、頭金とするのか、それとも手元で運用するのかを、自分の考え方に応じて決めることができます。

ちなみに筆者個人としては、コラムの内容と矛盾するようですが、物件価格の2割程度の現金は準備すべきであるし、これは住宅購入の最低条件と考えています。手元資金を十分に確保できていれば、その2割程度の現金の使途を住宅購入希望者が自分の家計収支と突き合わせながら自由に決定すればよいと思います。

もし、この程度の資金の準備ができていないのであれば、住宅購入は先延ばしにするか、親から借りてでも手元資金となる現金を確保しなければ、将来家計に禍根を残すことになるでしょう。

執筆者:淡河 範明(おごう のりあき)

ホームローンドクター株式会社代表取締役。
住宅ローンアドバイザー。銀行、外資系証券会社を経て、1997年に住宅ローン専業のコンサルティング会社の同社を設立。家を購入するための資金計画づくりと住宅ローンの選択について、金融知識と実務経験を活かし、将来の生活にゆとりを築くための設計をするサポートしている。住宅ローンの著書5冊、日経電子版コラムの執筆など。

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