不動産投資コラム

投資効率を上げるための課税繰り延べについて

物件を購入して、利益が出てくると多額の税金を支払わなくてはなりません。もちろん税金を払うことは銀行からは優良な事業者として見られ、不動産購入時に有利な条件で融資を受けられる可能性がでてきます。ただ、課税所得を減らして納税額を減らし、再投資資金に回すことは、不動産投資を拡大するうえではとても重要なことです。
今回はこの納税を先送りして当面のキャッシュを再投資できる課税繰り延べとその効果についてお話ししたいと思います。

累進課税による負担の増加

前回「売却すべき物件とその基準は?」でもお話ししましたが、日本の税制制度は累進課税制度をとっています。そのため、所得が多くなると、課税割合が段階的に増えてきます。これは個人でも法人でも一緒です。そのため、ある一定の利益がでてくると個人の場合は所得税と住民税で最大で55%の納税、法人では約37%の納税をしなくてはなりません。

不動産投資において、自分がどの規模まで拡大するかは人によって違いますが、自分の目標レベルに達するまでには購入時の頭金である自己資金がとても重要です。
ある程度の自己資金がないと融資もなかなか受けられませんし、不動産の賃貸収入も大きくなりません。

そこで、所得や課税売上を上手に減らし、納税額を抑えてその資金を再投資に回すことが不動産投資規模を拡大していく上では重要となってくるわけです。

課税繰り延べの複利効果

さて、この課税繰り延べをするとどんな効果があるのでしょうか。ここではその課税繰り延べによる複利効果について具体的な数字で説明したいと思います。

例えば、所得や課税売上のうちから500万円分の所得を減らすことができたとします。税率は個人や法人の決算状況によっても違いますが、ここでは一例として税率を30%として計算してみます。

500万円の30%ですから、150万円の納税が減ることになります。
その本来なら納税する150万円が手元に残り、それを再投資資金として運用できることになります。
投資家として、例えば年利5%でその資金を運用するとします。
1年後 150万円 × 1.05=157.5万円
2年後 157.5万円 × 1.05=165.4万円
3年後 165.4万円 × 1.05=173.67万円
4年後 173.67万円× 1.05=182.35万円
5年後 182.35万円 × 1.05=191.47万円
このようにたった150万円の課税繰り延べでも5年後には191.47万円に増えます。

これが年利8%で運用できれば、5年後には220.4万円になります。
さらに年利10%で運用できれば、5年後には241.58万円になり、10年後には389.06万円になります。

このように、納めなければならなかった税金の納税時期を何年か遅らせることにより、本来手元からなくなっていた資金を使って、その何倍ものお金を生み出すことができます。複利の運用効果というのは投資においては非常に重要なものなのです。

これは単年度だけの計算ですが、毎年同じような課税繰り延べをおこなえば、それによる運転資金の拡大は非常に大きなものになります。

課税繰り延べの留意点

それでは、課税繰り延べの留意点というのはなんでしょうか。
課税繰り延べを行う目的というのは、納税のための資金の支払いを遅らせて、その間にその資金を利用して再投資資金を稼ぐことです。しかし、経費を発生させて、その分の納税を減らすことができても、その経費を使用すれば、最終的に資金は減ってしまいます。

例えば、100万円分の経費を使って、40万円の税金を減らすことができても、結果として資金から60万円が減ってしまいます。これだけであれば、40万円を納税して、60万円のキャッシュフローを得て、それを再投資した方が、効率が良いでしょう。

無駄な経費を発生させて、納税額を減らすことは全く意味がありません。経費化だけではなく、その資金のほとんどを再投資に回せることが重要であるということです。

課税繰り延べの方法

では、具体的に課税繰り延べの方法としては、どのようなものがあるでしょうか。ここでは私が実践している課税繰り延べを行うための有効な方法についてお話ししたいと思います。

1)小規模企業共済
小規模企業共済は、小規模企業の経営者や役員、個人事業主などのための、積み立てによる退職金制度として行われています。毎月7万円まで(積立額の上限なし)積み立て可能で、その積立額は全額控除対象になります。

例えば、夫婦で個人事業主になっていたり、家族が法人の役員であった場合は、それぞれが毎月7万円まで積み立てることができます。
この資金が積み立てられることによって、その全額が経費化できますが、それによって納税額が減ったとしても、実際の資金として積立金は運転資金からなくなってしまうことになります。もちろん、将来の退職金のための積立ですから、手元から資金がなくなったとしても、しっかり外部にお金をためていることにはなる点は自己資金の充実という意味ではメリットです。
私の場合は、個人事業主として私と妻が加入し、家族は所有している法人の役員になっていますので、それぞれが加入し、毎月7万円ずつ積み立てています。そのため、毎月20万円以上が資産として積みあがっています。

さらに、小規模共済の積立金は掛金の範囲内で一般事業資金の貸付制度を利用出来るのがメリットです。低金利で、即日貸付けも可能です。積立額の全額ではありませんが、掛金の範囲内(掛金納付月数により、掛金の70~90%)を低金利で借りることができ、それをそのまま再投資資金として利用することができます。
私の場合は、現在、積立額のうちから、それぞれが500万円ずつを1.5%の金利で借りています。これを毎年借り換えしながら借り続けることで、毎年1500万円分を運用し続けています。
掛け金はすべて経費にできて、さらにその積立金を低利で借りて再運用して資産を増やすようにしています。

2) 経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済)
こちらは1年以上の事業を継続的に行っている個人の事業者及び一定の条件を満たす法人であれば、入会し積み立てすることが可能です。もし自分の会社が健全経営でも「取引先の倒産」という事態などの不測の事態に直面した場合に迅速に資金を借りることができる共済制度です。毎月一定の掛金を積み立てた加入者は、取引先が倒産した場合に、積み立てた掛金総額の10倍の範囲内(最高8000万円)で回収困難な売掛金債権等の額以内の貸し付けを受けることができます。

積立金は毎月20万円までで、総額800万円までは積み立てることができます。
こちらも全額が経費として控除可能で、一時貸付金の制度があります。この一時貸付金を利用して再投資ができることがこの共済のメリットでもあります。

私は2社の資産管理会社を所有していますが、どちらも満額の800万円まで積み立てています。そのうちから、こちらは金利0.9%で借りることができ、こちらも1社当たり500万円を借り入れ、毎年500万円ずつを再投資に回しています。
積立金の上限は800万円なので、それがもう少し増えると助かるのですが、毎月20万円積み立てると3年とちょっとで満額になってしまうのがちょっと残念です。

また、これまでは毎年の家賃収入による所得について有効な課税繰り延べ手段を説明いたしましたが、不動産投資においては物件の売却によるキャピタルゲインとして数千万円という多額の利益が出ることがあります。
個人の場合は、これらは分離課税のため繰り延べはできませんが、法人の場合は総合課税のため納税の繰り延べを実現することができます。

売却益が数千万円にも及ぶ場合は、その納税額も数千万円になってしまいます。そのような場合はやはり課税繰り延べを行うことで資金が有効利用できます。
こんなときに役に立ちそうな繰り延べ手段には以下のようなものがあります。

高級車への投資
お金持ちがフェラーリやランボルギーニなどのスーパーカーに乗っているというのは、お金があるからではありません。
趣味が車だったり、サーキットを走ったりする人はそれだけでも何十%引きで買えるわけですから、それだけでもメリットはあります。

しかしそれだけではありません。クルマの購入方法として、残価設定ローンを利用しているのです。
例えば、3年後に残価設定70%で3,000万円の高級車を購入した場合、3年間で900万円を支払えば、あこがれの高級車に乗ることができます。さらに、この手の車はほとんど値段が下がりません。
簡単に計算するとキャピタルゲインの3,000万円を経費にすれば、税率40%なら1,200万円の納税が繰り延べできます。
その繰り延べした資金を再投資に回し、複利の運用をすることで、高級車に乗りながら、その資金を運用できるわけです。
3年後には市況にもよりますが、少なくとも残価以上の資金が戻ってきますし、希少な車になればなるだけ、上手くいけばほぼ買値で買い取ってもらうこともできます。

わたしはスーパーカーのような高級車を所有していませんが、国産車でも値落ちの少ないSUV車を残価設定50%以上にして購入し、ローンの支払額は繰り延べできた税金分以下にして、毎年実質無料で車を所有することができています。

過去には一括償却可能だった太陽光発電を私は4基ほど所有しており、現在効果は減りましたが逓増保険での繰り延べもやっています。
また、オペレーティングリースなどもありますが、こちらは資金が一旦凍結してしまうので、個人的にはお勧めしていません。

さらに、これ以外にも有効な方法として海外不動産があり、私は海外で複数の物件を運用していますが、海外不動産に関しては、内容がとても複雑で多岐にわたりますので、次回に詳細に説明したいと思います。

赤井 誠
赤井 誠

赤井 誠

1985年、北海道大学大学院工学研究科卒、大手電機メーカーに27年勤務、2004年より不動産投資を開始し、その後、サラリーマンを退社、専業大家となる。16棟117室所有。家賃収入は年間1.2億円。不動産会社を経営しながら、そこで得た知識や情報をブログやコラムで全国に発信し、またセミナー講師としても活動中。著書は「ゼロからの不動産投資」「本気で始める不動産投資」(すばる舎)。

 

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