• 地価調査

地価調査に関する考察 ~当社取引事例より~

提供:法人営業本部 CRE情報部 2020年11月10日

9月29日に発表された令和2年の地価調査について、当社取引事例を用いて考察します。

地価調査とは、国土利用計画法施行令第9条に基づき、都道府県知事が毎年7月1日時点における土地の標準価格を判定するもので、全国約2万地点の「基準地」について、各1名以上の不動産鑑定士による鑑定評価をもとに決定されます。

国土利用計画法による土地取引規制の際の価格審査や、地方公共団体等による買収価格の基準となることにより、適正な地価の形成を図ることを目的としています。

I.地価調査 結果

今回の地価調査では、新型コロナウイルスの影響により地価の回復基調が止まり、住宅地・商業地・工業地などを合わせた全用途の全国平均は3年ぶりの下落となりました。先行き不透明感もあり、各地の地価が軒並み悪化したためです。

全国平均は0.6%の下落とマイナスに転じ、三大都市圏は昨年の2.1%上昇から横ばいに、地方圏は下落率が0.5ポイント拡大し0.8%のマイナスとなっています。全国約2万カ所の調査地点のうち、下落地点数の割合は48%から60.1%と5年ぶりに6割を超え、上昇地点数は21.4%にとどまりました。

用途別にみると、新型コロナウイルスの影響が際立ったのは商業地で、全国平均は昨年の1.7%上昇から0.3%の下落に落ち込みました。住宅地も全国で0.7%の下落となりましたが、下げ幅自体は商業地の方が大きくなっています。

エリア別にみると、三大都市圏はインバウンド需要が大きい分、新型コロナウイルスによる影響も大きくなっています。三大都市圏では、調査地点に占める全用途の下落地点の割合が、昨年の19.2%から44.6%にまで拡大しました。特に商業地の苦戦が目立ち、三大都市圏の商業地の価格は昨年の5.2%からから0.7%に上昇率が鈍化しています。

インバウンドの消失が大都市の繁華街や有名観光地の地価を押し下げた格好で、全国で最も地価が高かった東京・銀座2丁目の「明治屋銀座ビル」も5.1%下落(1平方メートルあたり4100万円)と、9年ぶりのマイナスとなりました。また、住宅地にも影響は波及しており、三大都市圏の住宅地は0.3%下落と、7年ぶりのマイナスに転じています。人気の高い東京23区も住宅地は1.4%の上昇となり、昨年の4.6%上昇から減速しました。

II.当社取引事例の検証

次に、2020年2月以降の当社取引事例について、新型コロナウイルスによる価格への影響を検証します。

①東京 商業ビル
本取引は、都内有数の商業地に存する一棟商業ビルの売買です。

本物件のテナントは物販への1棟貸しです。買主は年初から検討していましたが、新型コロナの影響が拡大するに従い、高い市場性のある立地の評価は変わらなかったものの、テナントリスクがより増大したとして交渉、若干の価格修正が行われました。

②東京 収益ビル
本取引は、都内に所在する一棟空ビルの売買です。

本物件は交通利便性の高いオフィス街に存し、買主はテナントリーシング後、収益ビルとして中長期保有目的での購入を検討していました。新型コロナウイルスによる想定賃料への影響はなく、新型コロナウイルス発生以前と同等価格での取引となりました。

③東京 ホテル用地
本取引は、都内に所在する開発素地の売買です。

本物件は住宅とオフィスビルが混在するエリアに立地し、最寄り駅至近、大通りに面する物件です。買主はホテルを開発するデベロッパーで、新型コロナウイルスによる影響は見込まず、新型コロナウイルス発生以前の売主希望価格での取引となりました。

④東京 賃貸住宅
本取引は、都内に所在する一棟収益レジの売買です。

本物件は、住宅とオフィスビルが混在するエリアに立地する築浅の賃貸住宅です。新型コロナウイルスによる賃料への影響がなかったことから、買主の取得目線も変わらず、新型コロナウイルス発生以前と同等価格での取引となりました。

⑤大阪 賃貸住宅
本取引は、大阪に所在する一棟レジの売買です。

本物件は交通利便性の高い立地に存し、安定稼働が期待できる物件です。買主は長期保有を目的としており、新型コロナウイルス発生以前と同等の価格での取引となりました。

III.まとめ

今回の地価調査は、新型コロナウイルスの影響を色濃く反映した結果となりました。

インバウンド需要の消失や外出自粛による国内経済の停滞により、都市部の商業地への打撃が目立ちました。昨年7月から1月は地価が上昇したものの、新型コロナウイルスの影響により今年1月から7月は下落したため、ほぼ横ばいという今回の結果に落ち着いたという見方もあります。

三大都市圏の住宅地については、昨年の0.9%の上昇から、▲0.3%と下落へ転じています。野村不動産アーバンネット社の7月の地価動向調査によれば、東京都内の住宅地の地価変動率は、直近1年の下落率の方が直近6か月の下落率よりも小さくなっており、昨年7月から今年1月までは若干上昇し、今年1月から7月にかけて下落したことが読み取れます。また、大阪市内の住宅地については、直近1年間で変動はなく、横ばいという結果が出ています。

実際の取引事例を見てみると、商業地について新型コロナウイルスによる価格の傾向は下落といえるほど明確ではなく、住宅地についてもその傾向はまだ見られていません。

特に商業地については、新型コロナウイルスの影響が考えられる2月以降には、売り手は価格が下がった意識はなく、買い手は現状で価格の妥当性がないとして、価格が折り合わず売買の取引自体が少なかった可能性も指摘されております。

今後の商業地の地価動向については、新型コロナウイルスの影響による商業・ホテルの売上悪化や働き方改革によるオフィス市場への影響の状況によって変わっていくと思われます。一方、住宅地については、さらなる景気の著しい悪化がない限り、需給については堅調と考えられるため、下落傾向となる可能性は高くはないと考えます。

※内容は2020年10月2日時点のものです

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