不動産投資コラム

同族会社への貸付金の相続税評価と問われる回収不能の客観

1.被相続人の貸付金めぐる税金トラブル

不況期になると事業収支が悪化することなどから、比較的多く見かけられるのが、被相続人の同族会社等への貸付金をめぐる相続税のトラブルです。

その中心は、貸付金が回収されるものとして元本で評価できるか、それとも回収見込みがないため、回収可能見込みの金額で評価されるかという点です。

今回は最近の裁決事例から、考え方を整理してみましょう。

2.貸付金の相続税評価

被相続人の貸付金は相続財産に含まれ、相続税の課税対象になります。したがって、貸付金も相続税の評価をして相続税の課税価格に算入します。

相続財産の経済的価値を見積もる実務上の基準となっている国税庁の財産評価基本通達(以下、評価通達という。)204によると、貸付金は元本の価額と利息の価額との合計額によって評価することになっています。

(1)貸付金債権等の元本の価額=その返済されるべき金額
(2)その利息=課税時期現在の既経過利息として支払を受けるべき金額

ただし、その貸付金等の全部又は一部が、主に次の場合に該当するときは、回収不能と認められる所定の金額は元本の価額に算入しないこととされています(評価通達205)。

相続開始時点で、債務者について、ア手形交換所において取引停止処分、イ会社更生法の更正手続き開始の決定、ウ民事再生法の再生手続開始の決定、エ会社法の規定による特別清算開始の命令、オ破産法の破産手続開始の決定等があったとき、カ業況不振のため又はその営む事業について重大な損失を受けたため、その事業を廃止し又は6か月以上休業しているときなどの貸付金等に該当するとき。

3.最近の裁決事例から

相続人(請求人)が被相続人の同族会社に対する貸付金について回収可能性が極めて低いため、同族法人の清算価値を基準に評価すべきとして、税務当局に対し貸付金雄評価を減額する更正の請求をしたところ、税務当局が貸付金について回収不可能又は著しく困難であるとは認められないとして更正処分して争いとなった事例があります(国税不服審判所(以下、審判所という)平成30年12月3日裁決)。

問題になったのは、同族会社が被相続人から借りていた短期借入金です(相続開始日を含む平成26年1月期の事業年度)。外部の金融機関からの借入はなく、相続開始時点では、この同族法人は事業を継続中で、なおかつ、上記評価通達205にみられるような債権回収が不可能又は著しく困難であると見込まれる事由があるときに該当しない状況でした。

しかし相続人は概ね、相続開始前の事業年度から同族法人は債務超過であったことなどから、貸付金の時価は法人の清算価値を基準に計算して元本より小さくなると主張していました。

4.審判所の考え方

相続人からの審査請求を受け審理した審判所は、上記の評価通達205について、「その他その回収が不可能又は著しく困難であると見込まれるとき」とは、「債務者の資産状況及び営業状況等が破綻していることが客観的に明白であって、債権の回収の見込みのないことが客観的に確実であるといい得るときと解するのが相当」との考え方を示しました。

具体的な検討では、①債務超過であっても事業活動を継続し、返済期限の見直しや返済の猶予等を受けながら借入金の返済を続けている会社は多数存在するし、債務超過の状態であるからといって、必ずしも本件貸付金の将来回収可能性は極めて低いとはいえないこと、②相続人主張の貸付金評価額は、平成26年1月期の決算書等の資産及び負債を基に、資産の換価価値を認めたもののみを抽出し、そこから請求人らが被相続人からの借入金に優先して弁済すべき債務と認めたものを控除した金額であり、相続人独自の見解に基づく金額だと認定しました。

また、相続の調停における相続人らによる遺留分減殺請求に対して弁償すべき価額を計算する際に、この貸付金について帳簿価額と異なる評価がされているのに、帳簿価額で評価したことは非適正と相続人が主張する点については、審判所は「貸付金の相続税法上の評価額を確定させるものではなく、当該調停の当事者間においてそのような合意があったことを意味するにとどまる」として、評価通達の定めに従って評価した価額が時価と推定することを妨げ、あるいは覆すに足る事情は認められないとしています。

税理士法人タクトコンサルティング

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