不動産投資コラム

どっちが有利?アパートVS一棟マンション

初めて不動産投資をする場合、「いきなり何億円もの一棟マンションを買うのは抵抗がある」という人は少なくありません。「売りアパートのほうが、価格が低めで投資しやすそう」というイメージがあるようですが実際はどうなのでしょうか。

「価格が低くて利回りが高い」のは、売りアパート!?

まず、現在流通している売りアパートと一棟マンションの平均像を見てみましょう。

表1は「ノムコム・プロ」に掲載されている収益物件の最新データです(収益物件全体の平均相場を示すものではありません )。

表1・売りアパートと一棟マンションの平均像(ノムコム・プロ掲載物件・全エリア平均)

売りアパート一棟マンション
平均利回り※1 6.88% 6.37%
平均価格 1億1,072万円 2億6,297万円

※1 満室時想定
(2018年10月時点)

同じエリア、同じ規模で比べると「売りアパートのほうが、利回りが高く、価格は低め」とイメージできそうです。
では、こうした違いは何が要因なのか、詳しく見てみましょう。

売りアパートは、経費が少なく手取りが多い?

売りアパートと一棟マンションの違いを、価格(投資額)、収入、支出の面から考えてみます。

【価格(投資額)】 売りアパート<一棟マンション
同じ規模の売りアパートとマンションの建物の価格は「売りアパート<一棟マンション」です。これは、建物構造の違いがあるからです。一般に「アパート=木造」「マンション=鉄筋コンクリート(RC)造」となっています(※)。現在の建築コストの単価は、ごく大ざっぱに木造が坪60万円、RC造が100万円くらいでしょう。
※建物の構造には、木造とRC造以外にもいくつかありますが、ここで代表的なタイプに絞ります。

また、同じ敷地面積でも、アパートよりマンションのある土地のほうが、単価は高いことが多いでしょう(もちろん、似た地域内での話です)。
土地・建物の両面で、アパートのほうが総投資額が低めになる傾向があります。


【収入】 売りアパート<一棟マンション
賃料は、同じ立地・同じ間取りタイプ(同一面積帯)であれば、RC造の一棟マンションのほうが高めになるのが一般的でしょう。その理由の一つは、木造よりRC造のほうが、遮音性・耐久性・耐火性などの住まいとしての基本性能が高いからです。


【支出 : 現金出費のある経費】 売りアパート<一棟マンション

■公租公課=税金
RC造より木造のほうが評価額が低いため、同じ建物規模なら木造のほうが、固定資産税・都市計画税などの税負担は軽くなります。なお1m2当たり評価額は、木造共同住宅=100,000円、RC造共同住宅=143,000円となっています。
(東京法務局管内新築建物価格認定課税標準価格認定基準表/基準年度:平成30年度)

■維持管理経費
売りアパートを2階建ての低層タイプ、一棟マンションを4~5階建て以上 という前提でいうと、建物の共用設備の面で違いがあります。

一棟マンションには、エレベータ、給水用の貯水タンク・ポンプ、屋内消火栓・避難ハッチ・梯子などの消火設備があり、これらの設備には、法定点検、清掃・整備・補修など維持管理のコストがかかるわけです。売りアパートの場合は、こうした設備がほとんどないのが一般的なため、維持管理のコストも低くなります。


【支出 : 現金出費のない経費】 売りアパート>一棟マンション

■減価償却費
減価償却費は、建物価格と法定耐用年数によって決まります。法定耐用年数は木造が22年、RC造が47年です。建物価格が同じ程度であれば、耐用年数の短い木造のほうが年間に計上できる減価償却費は多くなります。

減価償却費の金額が多くなるほど、賃料収入から差し引ける経費が大きくなり、支払う所得税(個人の場合)や法人税は少なくて済みます。その一方で、減価償却費は実際の現金出費のない経費のため、キャッシュフロー(現金収支)は減りません。

以上の点から、キャッシュフローに関しては、売りアパートのほうが多くなるといえるでしょう。

表2は、実際に売り出された事例です。税引き前キャッシュフローは、売りアパートのほうが一棟マンションより年間約40万円多くなっています。

似た価格・エリアのアパートとマンションを比較し、アパートのほうがキャッシュフローが多いという結果になりました(満室想定時・表面利回り)。しかし、これはあくまでも机上の試算で、実際の不動産投資、賃貸運営の面では、必ずしもこうした試算通りに行かないことがあります。

ここからは、より現実的な視点で、投資の「入口」「運用中」「出口」の3つの側面から考えてみましょう。

入口⇒ アパートは融資面では不利?

不動産投資の入口、つまり物件の購入においては、ローンを抜きに語ることはできません。

ここでは返済期間にスポットを当てて考えてみましょう。借入金額と金利が同じなら、返済期間が長いほど月々の返済額は低くなり、キャッシュフローは良くなります。

収益物件に対する融資の返済期間の上限は、法定耐用年数から築年を差し引いた年数にしている金融機関が多いのが現状です。そのため法定耐用年数が長いほうが、融資面では有利に働きます。

一棟マンション=RC造の場合は法定耐用年数が47年のため、築15年でも30年返済で借りられます。しかし、売りアパート=木造の場合、法定耐用年数は22年で、築10年を超える中古に対しては、返済期間が10~15年以下と極端に短くなるのです。築10年超のアパートは融資対象から外している金融機関もあるということから、RC造の一棟マンションのほうが、不動産投資用ローンの選択肢は広いでしょう。

また、金融機関によって「1棟目の融資には柔軟だが、2棟目以降は審査が厳しくなる」「RC造の一棟マンションには積極的だが、築年数の古い売りアパートには厳しい」といった融資姿勢の違いがあり、築年の古い中古アパートを1棟目に購入してしまうと、2棟目が購入しづらくなる恐れもあります。

運用中⇒ アパートはマンションより空室率が高い!?

続いて、実際の運用状況について見てみましょう。

マンションよりアパートのほうが、空室率が高いというデータがあります。RC造マンションのほうが基本性能が高く、セキュリティ面でも優れており、入居者には好まれるからでしょう。

エリアによっては、アパートが供給過剰なケースもあります。

また、木造の売りアパートは劣化するスピードが速く、家賃の下落率もマンションより高い傾向があります。こうした競争力の低下を防ぐために、特にアパートでは、大規模修繕やバリューアップ(価値向上)のリノベーションが必要になりやすいでしょう。

出口⇒ アパートはマンションより出口戦略が厳しい?

入口(物件購入)の部分で触れたように、融資の面では、売りアパートより一棟マンションのほうがやや有利です。これは出口、つまり売却する際にもいえます。

たとえば、RC造の一棟マンションを築10年の時点で買って10年後に売る場合、築20年ですが、その時点でも買い手は25年融資が受けられます。

一方、木造の売りアパートの場合、融資を受けるのはマンションより厳しくなります。つまり買い手を見つけにくくなるわけです。

ただし、建物が使い物にならなくなり、「古家付き土地」として売却する場合には、RC造のマンションより解体費の安い木造アパートのほうが有利になる面もあります。

また、土地の条件によっても売りやすさに違いがあります。
立地や土地の条件、建物の規模、出口戦略、そして資産形成の目標まで、トータルで考えないと、どちらが有利かどうかの判断はできないといえるでしょう。

宮澤 大樹
宮澤 大樹

宮澤 大樹野村不動産ソリューションズ株式会社 プライベートコンサルティング営業部

1998年から不動産業界に携わり、首都圏のマンション販売・投資用マンションの販売を経験。 その後、2005年より主に一棟マンション・ビル等の投資事業用不動産を中心とした仲介業務に従事。

 

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