SDGsによる経済・環境・社会の三位一体で地方活性化、不動産業界の役割

「SDGs」(持続可能な開発目標)という言葉もすっかり一般的なものになりました。2018年には、自治体によるSDGsの達成に向けた優れた取組を提案する都市を選定する「SDGs未来都市」制度が始まっています。国だけではなく自治体にとっても、SDGsというのは極めて重要な要素になっているのです。今回は北海道下川町の取り組みをヒントに、SDGsを活用したまちづくりについて考えていきましょう。

Ⅰ.代表事例から見るSDGsと地方活性化の関係(北海道下川町)

「SDGs」(エス・ディー・ジーズ)という言葉を聞かない日はなくなりました。SDGs(持続可能な開発目標)は、2015年国連サミット合意文書「世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ」(以下「2030アジェンダ」)に盛り込まれました。

これは世界193カ国の合意のもとで策定された、2030年に向けた17目標と169のターゲット(具体的目標)からなる持続可能な社会づくりの「羅針盤」です。

日本では、政府は全閣僚からなり総理を本部長とする「SDGs推進本部」をつくり、2016年にSDGs実施指針を定め推進しています。地方活性化政策面でも、2018年に自治体によるSDGsの達成に向けた優れた取組を提案する都市を選定する「SDGs未来都市」制度ができました。2022年度までに154都市が選定されています。

筆者は、この政策は自治体でのSDGs 実装に大いに役立っていると考えます。そこで、今回は、SDGsを活用したまちづくりの代表事例である北海道下川町の取り組みからヒントを探りましょう。

北海道下川町は、「ザ・SDGs未来都市」といってもよい、日本を代表するSDGsまちづくりの事例です。政府が優良な取り組みを表彰する「ジャパン SDGs アワード」で内閣総理大臣賞を受賞しています。それも記念すべき第1回(2017年12月)での受賞です。また、2018年には第1回目「SDGs未来都市」に選定されています。

下川町は、もともと木材資源の活用を重点としていましたが、今では環境・社会・経済の総合的な視点での戦略的なまちづくりとしてモデルになっています。

同町は北海道の北部に位置する内陸の町で、人口は約3,000人です。町の面積は東京23区の面積に相当し、約9割が森林で覆われ、豊かな自然資源を背景に農林業を基幹産業としています。

しかし、ほかの市町村と同様に、過疎化や少子高齢化に悩み、何とか地域資源を生かした地域活性化につなげたいと考えていました。

そこで、2018年4月23日にSDGsを取り入れた「2030年における下川町のありたい姿(下川版SDGs)」を地域住民が中心となって策定しました。SDGs活用を契機として、自然資源産業など新たな価値を創出し続けています。

Ⅱ.SDGsによる「経済・環境・社会」の三位一体

具体的に、下川町の森林環境を利用した地域社会形成の推進を見てみましょう。

まず、SDGs の取り組みとして、循環型の森林経営と木材をムダなくつかう加工システムを導入した森林総合産業を発展させています。森林バイオマスの熱供給システムを公共施設や住宅に取り入れている点も、下川町におけるSDGs活動の特徴です。

最近、製材端材や木くず等も活用する「木質バイオマス」という再生可能エネルギーが注目されています。下川町は、2008年からすでに森林バイオマスによるエネルギー転換に取り組み、地域熱供給システムまで整備する等低炭素化を先駆的に進めました。これらは全国の小規模山村地域の先駆的モデルとして認められています。関係府省が共同でとりまとめた「バイオマス事業化戦略」に基づく「バイオマス産業都市」としての認定も受けています(2014年)。

下川町では、バイオマスの再生可能エネルギーで企業誘致に成功したオーストリアの「ギュッシング市」という町の事例に学んでいます。ギュッシング市は「オーストリアで最も貧しい地域」といわれていた、人口わずか約4,000人の地方自治体です(オーストリアの東端に位置)。

この町では、バイオマス発電で町おこしをした結果、安価なエネルギーコストや研究開発環境に魅力を感じた大手フローリング会社やプラント設計開発メーカー企業等の誘致に成功しました。その数、20年間で50社といいます 。

下川町は、ギュッシング市をはじめ、オーストリアのヴェルフェンヴェング村やスウェーデンのベクショー市等の中小規模の森林活用先進地へ職員を派遣しています。恒常的に情報交換を行い、森林施業やバイオマス活用に関して欧州とのネットワークでノウハウの習得を図っています。

下川町の取り組みは地元企業を巻き込むSDGsの進め方や、小さくてもできる、小さいからこそできる、という良いモデルとして、専門家からの評価も高いです。

SDGsには次の5つの原則があります。

(1) 普遍性(ユニバーサルティ) 先進国・途上国共通の目標。
(2) 包摂性 「誰一人取り残さない」(no one left behind)という表現にもつながるSDGsの基本的考えです。
(3) 参画型 あらゆる関係者の参画を重視し、全員参加型で取り組む。
(4) 統合性 SDGsの目標とターゲットは統合され不可分のものであり、経済・社会・環境の三分野での統合的解決が必要。
(5) 透明性と説明責任 優良事例の横展開のためにも、透明性と説明責任が重要。

このうち、企業の対応や官民連携などでは、4つ目の「統合性」が重要です。「経済」「社会」「環境」の三側面を不可分のものとして三位一体を目指すという原則です。

SDGsを活用することによって、自治体が抱える多様な課題について、経済・社会・環境の3分野の相互関連性を常に意識して考えていくことでこの三位一体が図られていく効果が高いと思います。

これまでも、環境にやさしい政策などがありますが、経済性がついていかないために政策の継続性が確保できないこともありました。また、社会性の課題解決でも経済性抜きに考える政策は長続きしません。

この点は「SDGs未来都市」制度で図のように基本とされています。

冊子「地方創生に向けたSDGsの推進について」(内閣府)より
https://www.chisou.go.jp/tiiki/kankyo/pdf/sasshi.pdf

まさに、下川町の事例も、少子高齢化などの社会課題や森林資源の保全などの環境課題と地域資源を活用した地域の経済活性化という三位一体を実現しつつあると評価されます。

Ⅲ.「住み続けられるまちづくり」と不動産業界の役割

地域活性化に最も関連性が強いSDGs目標が、目標11「住み続けられるまちづくりを」ですが、下川町の事例からもわかる通り、関係者(ステークホルダー )との連携も重要です。

持続可能なまちづくりのためには、都市化の問題をはじめ、多くの課題を解決していく必要があります。課題先進国の日本では、少子高齢化に歯止めをかけ、地域の人口減少と地域経済の縮小を克服し、将来にわたって成長力を確保することが必要です。行政、民間事業者、市民などの関係者間でSDGs を共通言語として活用することで、政策目標の理解等が進展し、地方創生の課題解決を促進することが期待できます。

また、この目標を中軸にしてみると、他の16目標と密接にも関連しています。
目標16 は「都市SDGs」ともいわれますが、 目標の中で唯一、都市やコミュニティなどの具体的な空間をイメージしたものです。都市は「Systems of systems 」といわれるように、多種多様なシステム(エネルギー・交通・下水道・社会・経済など)を持つため、最も連携が必要とされています。

持続可能なまちづくりは、不動産業界と最も関連の深い目標の一つです。
まず不動産業界は、目標1 「貧困」では暮らしの基本の住宅の整備、目標2 「飢餓」では持続可能な農業土木、目標 3「保健」は健康な室内環境整備、目標 4「教育」では技術教育が該当します。目標5 「ジェンダー」では女性活躍の推進。目標6 「水・衛 生」の水関係や衛生設備整備は不動産関連業の基幹的事業です。

また、環境面では、目標 7「エネルギー」は建造物での省エネの推進、目標 9「イノベーション」では、不動産業は経済活動の基盤を提供し、持続可能で強靱なインフラの整備が重要です。

環境関連の目標 12「持続可能な生産と消費」、目標 13「気候変動」、目 標 14「海洋資源」、目標 15「陸上資源」は、不動産業では、環境負荷低減設計、温室効果ガス排出抑制、海洋汚染防止、自然生態系保全のすべてで果たす役割は大きいのです。

不動産業のSDGsの重点は、目標 9「イノベーション」におけるインフラ整備力で目標11の「持続可能な都市」づくりを行うことです。いずれも不動産業の役割が期待される目標です。

笹谷秀光

1976年東京大学法学部卒業。 77年農林省(現農林水産省)入省。2005年環境省大臣官房審議官、06年農林水産省大臣官房審議官、07年関東森林管理局長を経て08年退官。同年に伊藤園入社。取締役等を経て19年4月退職。2020年4月より現職。日本経営倫理学会理事、グローバルビジネス学会理事、人サステナビリティ日本フォーラム理事、宮崎県小林市「こばやしPR大使」、文部科学省青少年の体験活動推進企業表彰審査委員、未来まちづくりフォーラム実行委員長(2019~)。主な著書『Q&A SDGs経営 増補改訂・最新版』(日本経済新聞出版社・2022)、『SDGs見るだけノート』(監修・宝島社・2020)、『3ステップで学ぶ自治体SDGs』全3巻(ぎょうせい・2020)。企業や自治体等でESG/SDGsに関するコンサルタント、アドバイザー、講演・研修講師として、幅広く活躍中。 笹谷秀光・公式サイト「発信型三方良し」https://csrsdg.com/

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