日本の都市計画は何が問題か

~その現状と課題、将来展望について~

戦後の日本の都市計画では、急速な経済成長に対応するための都市化と再建が重視され、特に1950年代から1970年代にかけて、多くの都市で高度経済成長に伴う人口の増加や産業の集積が見られました。この時期には、工業地帯や新都市開発(ニュータウン)が盛んに行われ、郊外型の住宅地も拡大しました。しかし、都市の過密化や環境問題、交通渋滞、都市のスプロール化(無秩序な拡大)といった問題も同時に顕在化していきました。

本稿では、日本の都市計画の現状や課題、政府の政策や諸外国の事例を検討し、今後の日本の都市計画の在り方や展望について、考察します。


【サマリー】

  • 日本の都市計画では、急速な経済成長に対応するための都市化と再建が重視され、特に1950年代から1970年代にかけて、多くの都市で高度経済成長に伴う人口の増加や産業の集積が見られました。都市計画法と建築基準法の制定により、戦後復興やインフラ整備の効率化、災害リスクへの対応などが図られましたが、人口減少社会に入り、これらの法制度が必ずしも現在の状況に合わない事象が生じてきました。
  • また、日本の都市建造物には統一性が欠如しているといわれます。戦後の急速な発展、規制緩和、土地利用の多様化、建物スタイルの多様性といった複数の要因が組み合わさった結果です。さらに、日本の都市計画は、老朽インフラの維持、人口減少や少子高齢化による空洞化や過密化、そして自然災害への備えといった多岐にわたる課題を抱えており、日本政府も、環境に優しく災害に強い都市の実現を目指して、各種施策の推進と改善を図っています。
  • 他国の例では、デンマークの建築基準に見られる持続可能性への配慮や統一感のある都市計画は、日本の都市開発や建築にも多くの示唆を与えています。今後の都市計画は、持続可能なインフラの整備や地域経済の振興、多様な価値観の尊重と支援制度の見直しが、日本の未来を支える鍵となるでしょう。そして、これらの取り組みを通じて、すべての人が安心して暮らせる豊かな社会を築くことが目指されます。

Ⅰ.都市計画法や建築基準法制定の背景

日本の都市計画法や建築基準法は、戦後復興期や高度経済成長期に制定され、当時の社会課題やニーズに対応するための法制度として設計されました。また不動産に関する税制も同時期に制定された背景があり、人口増加や経済拡大を前提とした仕組みとなっています。そのため、現在の人口減少や高齢化社会に適合していない点が指摘されています。以下に、具体的な背景と課題を説明します。

ⅰ.背景:戦後復興と高度経済成長の影響

戦後、日本は急速な経済復興と都市部への人口集中が進み、住宅供給や都市インフラ整備が急務でした。

都市計画法(昭和44年制定)や建築基準法(昭和25年制定)は、戦後復興、住宅地の開発促進、都市部のインフラ整備、災害対策などを目的に制定されました(図表1参照)。

【図表1】総人口・人口構造の推移と主な不動産関連事項の変遷
20250109_image01.jpg出典:総務省「国勢調査」、社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(令和5年推計)中位推計」等より野村不動産ソリューションズ作成

ⅱ.建築基準法の制定(昭和25年)の背景

(Ⅰ)戦後の都市再建

第二次世界大戦による都市部の大規模な破壊(特に空襲による被害)により、住宅不足と無秩序な建築が深刻な問題となりました。そのため、安全性や都市の秩序を確保するための基準を設ける必要がありました。

(Ⅱ)地震対策の必要性

日本は地震大国であり、戦前にも1923年の関東大震災などの災害経験がありました。戦後の復興にあたり、耐震基準を強化した法律が求められました。

ⅲ.都市計画法の制定(昭和44年)の背景

(Ⅰ)高度経済成長による都市化の進展

1950年代後半からの高度経済成長により、大都市を中心に急速な都市化が進行しました。しかし、無秩序な開発や住宅不足、公害問題が発生し、計画的な土地利用が求められました。

(Ⅱ)戦後復興期の課題

戦後の土地利用は復興を急ぐあまり短期的な対応に偏っており、都市部ではスプロール現象(無秩序な都市拡大)が進みました。これにより、公共インフラの整備が追いつかず、住環境や交通環境が悪化しました。

【図表2】焦土と化した東京下町
20250109_image02.jpg出典:中野区ウェブサイト

Ⅱ.人口減少社会に合わなくなってきた都市計画制度

戦後復興期・高度経済成長期に作られた建築基準法、都市計画法は大きな役割を果たしましたが、人口減少社会に入り、法制度と人口減少社会の間にミスマッチが生じてきました。以下、この問題について説明します。

ⅰ.人口減少社会に合わなくなってきた建築基準法

(Ⅰ)日影規制

人口が減少し、土地利用密度が低下している地域でも一律に適用されており、土地の有効活用を妨げています。また都市中心部での高層化を抑制し、土地不足や建築コスト増加の一因となっています。

さらに日照を重視する価値観が変化している中、地域ごとに柔軟な運用が難しいという問題も生じています

(Ⅱ)道路斜線制限・隣地斜線制限

低密度な地域でも同様の規制が適用されるため、建築計画が非効率になり、土地の有効活用を阻害しています。新しい建築技術やデザインを取り入れにくく、柔軟な都市景観の形成を妨げています。

(Ⅲ)都市美観や景観保護の不十分さ

建築基準法は建物の構造や用途に関する規定が多く、景観や美観を重視した規制が必ずしも十分ではありません。特に、観光地や歴史的地域において、無秩序な建物が景観を損なうことが指摘されています。

ⅱ.人口減少社会に合わなくなってきた都市計画制度・税制度

(Ⅰ)空き家問題の顕在化

人口減少に伴い、地方や都市部でも利用されない住宅が増加しています。空き家の放置による治安・防災リスクが問題化しています。

固定資産税は住宅用地に対して優遇措置(課税標準を6分の1に軽減)が設けられています。これにより、老朽化した住宅を取り壊すと税負担が増えるため、空き家が放置されるケースが増加しています

(Ⅱ)土地利用の硬直性

都市計画法に基づく用途地域制度は、住宅地や商業地などの用途を細かく規定しています。しかし、人口減少により、商業地や住宅地としての需要が減少しても、用途変更が困難で土地利用の効率化が進んでいません。

また都市部や地方の土地利用効率が低下しており、税制がその改善を十分に促進できていません。所有者が土地を遊休化させても大きなペナルティがないため、放置が進んでいます

(Ⅲ)都市スプロール問題の持続

郊外開発を優先した過去の政策により、広範囲にわたるインフラが必要となり、人口減少により維持費用が重荷となっています中心市街地の空洞化が進行し、都市のコンパクト化が難航しています

Ⅲ.日本の都市建造物の統一性の欠如

日本の都市建造物は統一性に欠けるという指摘があります。例えば、図表3は、日本のどこの都市でも見られる不統一な街並みです。では、どうしてこのような街並みが形成されてしまったのでしょうか。以下、この点について考察します。

【図表3】不統一な街並み
20250109_image03.jpg出典:筆者撮影

ⅰ.戦後の急速な発展

第二次世界大戦後、日本は急速な復興と経済成長を遂げる過程で、都市の計画的な発展よりも、住宅や工場、インフラの緊急整備が優先されました。このため、長期的なビジョンに基づく統一的な都市デザインは後回しにされ、地域ごとに異なる建物やインフラが乱立することになりました。特に東京や大阪のような大都市圏では、住宅地、商業地、工業地が混在し、バラバラな建築スタイルが目立つようになっています。

ⅱ.日本人の価値観の多様化

日本人の「なんでも受け入れる」という価値観は、都市建築物の多様性を生む一方で、景観の統一性の欠如を招く一因となっています。このような状況は、柔軟性と多様性を尊重する日本独自の文化の反映であると言えます。

ⅲ.土地利用の多様化

都市が多様なニーズに応えるように進化する中で、土地利用も多様化しました。住宅、オフィス、商業施設が混在する混合型のエリアが増え、特に駅周辺などは開発が急速に進み、様々な建物が密集しています。これにより、都市全体での統一感が欠如し、雑然とした景観が形成されました。

ⅳ.バラバラな建物スタイル

日本では伝統的なデザインを保護する施策等が少ないため、各建物が異なる設計やスタイルを持つことが一般的です。特に個人住宅や小規模ビルの建築では、建設主の自由な意向が反映されやすく、都市全体としてのデザインが統一されにくくなっています。また、日本では建物の法定耐用年数が短いため、頻繁に建て替えが行われ、長期的な景観の維持が難しくなっています。

ⅴ.防災の観点

日本は地震や台風が多いことから、防災を重視した設計が優先され、景観やデザインの一貫性が後回しになる場合があります。

Ⅳ.現在の日本の都市計画が抱える課題

現在の日本の都市計画は、社会的・経済的・環境的な変化に伴う多くの課題に直面しています。以下、それぞれの観点から説明します。

ⅰ.インフラの老朽化

戦後の経済成長期に建設された道路、橋、上下水道といったインフラが老朽化しており、維持や更新が急務となっています。例えば、道路橋は建設後50年以上たった割合が、2020年の約30%が2040年には約75%になると推計されています(国土交通省ウェブサイトより)。しかし、更新には膨大なコストがかかり、人口減少により税収が減少する中で、十分な予算を確保するのが困難です。さらに、老朽インフラが放置されると、安全性が低下し、住民の生活や経済活動にも影響を及ぼします。

ⅱ.人口減少・高齢化社会

人口減少に伴い、地方や中小都市では過疎化が進んでいます。これにより、都市の一部が空洞化し、インフラや公共施設の維持が経済的に難しくなる状況が見られます。人口減少が進む地域では、都市計画の再編が必要ですが、既存の法制度が柔軟に対応できないため、取り組みが進みにくい状況です。

高齢化の進展により、医療や介護などの福祉施設が増加する一方、住宅需要は減少しています。また、高齢者が増えることで、都市の構造や公共交通の整備が必要となりますが、こうしたニーズに応えるための計画が追いついていません。高齢者に優しい都市づくりを進める一方で、少子化への対策として若年層が住みやすい住環境の整備が求められています。

ⅲ.自然災害リスクへの対応不足

日本は地震や台風、豪雨といった自然災害が頻発する国ですが、災害に対する備えが不十分なケースも見られます。特に首都圏や大都市では、密集した住宅や老朽化した建物が多く、地震時の倒壊や火災のリスクが懸念されています。また、洪水や土砂災害なども都市計画においては重要な要素であり、災害に強いまちづくりが必要とされています。

ⅳ.都市の拡散と密集

都市部では過密化が進む一方で、郊外や地方都市では空き地や空き家が増加し、都市のスプロール現象(無秩序な拡大)が問題となっています。都市の拡散はインフラの整備や管理コストを押し上げる原因となり、効率的な運営が難しくなります。一方、都市部の密集地では過密状態が続き、交通渋滞や環境悪化といった問題も生じています。

ⅴ.建設費の高騰

近年、建設資材や労働力のコストが上昇し、新しい都市開発や再開発にかかる費用が増大しています。特に、少子高齢化等による人手不足が建設業界にも影響を及ぼし、建設費が高騰していることから、インフラの更新や新規の住宅・都市開発が遅れるケースが増えています。これにより、老朽化した建物のリニューアルやインフラの再整備が進まず、都市の質が低下する可能性があります

ⅵ.非居住エリアにさまざまな建築物が建設可能

建築物の制限が緩く、商業地域や工業地域では、さまざまな建物(商業施設、工場、住宅など)が建設可能です。特に、商業地域では住宅やオフィスビルの混在が見られます。

市街化区域は計画的に開発が進められるエリアですが、非居住エリア(工業地域など)では統一性が低くなる傾向があります。市街化調整区域では規制が厳しいものの、違法建築や例外的な開発が都市計画の一貫性を崩す場合があります。

Ⅴ.都市計画における政策と改善の取り組み

日本政府は、持続可能な都市開発と環境への配慮を目的に、多方面での取り組みを進めています。以下に、カーボンニュートラルの実現、都市のスマート化、防災都市計画、地方分散化、立地適正化計画制度を含む政策と具体的な取り組みを詳説します。

ⅰ.カーボンニュートラルの実現

日本政府は2050年までにカーボンニュートラルを目指しており、その一環として都市部においても脱炭素社会の実現が求められています。諸外国では、建築物のカーボンニュートラルの規制が強化される方向にあり、エンボディドカーボン(建築物の輸送や建設、修繕、廃棄・リサイクルなど、運用以外で排出されるCO2)への対応は国際的な潮流になりつつあります。例えば、欧州では国によって規制の内容は異なりますが、エンボディドカーボンの算出義務化のほか、排出量そのものの規制があります。

具体的な施策として以下が進められています。

  • 再生可能エネルギーの導入:
    都市インフラへの太陽光発電、風力発電、地熱発電の普及を図り、エネルギー自給率の向上を目指しています。
  • 省エネ建築物の普及:
    ゼロエネルギービル(ZEB)やゼロエネルギーハウス(ZEH)の推進によるエネルギー消費の抑制、エンボディドカーボンの削減の推進。
  • 電動車インフラの整備:
    都市部における電気自動車や水素燃料車の充電スタンド整備を進め、交通分野でのCO2 削減を推進。

ⅱ.防災都市計画

日本は地震や台風などの自然災害が多い国であるため、防災計画は都市開発において重要な役割を果たします。

  • 災害リスク評価:
    ハザードマップを活用し、リスクの高いエリアに対する土地利用の規制を行っています。
  • 耐震建築の普及:
    新築建物には耐震基準を適用し、既存の老朽化した建物の耐震補強も推奨しています。
  • 避難インフラの整備:
    災害時の避難所、緊急物資供給ネットワークの整備が進められており、災害発生時の迅速な対応を目指しています。

ⅲ.地方分散化

東京一極集中を避け、地方の活性化を図る政策も推進されています。都市機能を分散させることで、環境負荷の低減や防災リスクの軽減を目指しています。

  • 地方への移住・転職支援:
    地方への移住やリモートワークを推奨し、都市部の人口過密問題の緩和を図っています。
  • 地域振興政策:
    地方産業の振興、観光資源の活用による地域経済の活性化を支援し、地方自治体の独自性を生かした発展を目指しています。

ⅳ.立地適正化計画制度

立地適正化計画制度は、都市の持続可能性と住環境の向上を目指した計画です。適切な場所に居住地や商業施設を配置し、効率的で快適な生活環境を構築します。立地適正化計画は、居住機能や医療・福祉・商業、公共交通等のさまざまな都市機能の誘導により、都市全域を見渡したマスタープランとして位置づけられる市町村マスタープランの高度化版です。令和6年3月31日時点で747都市(全市町村の約44%)が具体的な取り組みを行っています。

【図表4】立地適正化計画の概念図
20250109_image04.jpg出典:国土交通省ウェブサイト
  • コンパクトシティの推進:
    商業、医療、福祉などの生活機能を中心部に集約
    し、高齢者にもアクセスしやすい都市構造を目指しています。
  • 公共交通インフラの整備:
    都市中心部へのアクセス向上と環境負荷低減のため、公共交通網の整備が行われています。
  • 居住誘導区域の指定:
    持続可能な都市開発を目指し、人口減少に伴うスプロール現象を防ぐために、住宅や商業施設の開発区域を制限しています

立地適正化計画はあくまで「誘導」を目的としており、強制的に住民や事業者を特定区域に集約する仕組みがありません。例えば、居住誘導区域外での建築を完全に禁止することはなく、許可を受ければ建築可能です。また居住の選択は住民の自由であるため、計画通りに人口が集中しないケースが多いです。実効性のある仕組みづくりが今後の課題です。

Ⅵ.他国の都市計画事例と日本への導入可能性

ここでは他国例としてデンマークの都市計画を取り上げます。デンマークでは、持続可能な都市計画や環境に配慮した建築基準が進んでおり、その特長が日本でも注目されています。以下に、いくつかの主要な特長を挙げ、その要素が日本に導入される可能性について考察します。

ⅰ.デンマークの事例

(Ⅰ)統一感のある街並み

デンマークでは、建築物や公共空間において統一感を保ちつつ、周辺環境との調和を重視したデザインが行われています。例えば、建物の高さや外観デザインに関するガイドラインが設定され、地域の美観を損なわないよう配慮されています。このような方針により、居住者が安心して暮らせる美しい街並みが維持されています。

【図表5】統一感のある街並み(デンマーク)
20250109_image05.jpg

(Ⅱ)持続可能な街づくり

デンマークの都市計画では、エネルギー効率や環境保護を考慮した「持続可能な」アプローチが重視されています。
コペンハーゲン市などは、再生可能エネルギーの利用促進や歩行者優先の都市デザインを通じ、2050年までのカーボンニュートラル達成を目標としています。

またデンマークの首都コペンハーゲンは「世界一の自転車都市」を目指し、市民へのアンケート調査を積極的に実施し、市民が自転車に乗りたくなる街づくりに取り組んできました。現在、コペンハーゲンでは、自転車が通学・通勤の交通手段の約50%を占めています。自転車が最も快適で速くて便利な上に、健康にも環境にも良いという、良いこと尽くしであるためです。

【図表6】持続可能な街づくり(コペンハーゲン)
20250109_image06.jpg

(Ⅲ)エンボディドカーボン

エンボディドカーボンとは、建物の建設や材料生産に伴うCO₂排出量を指します。デンマークでは、建築材料におけるエンボディドカーボンの評価が義務化されており、環境に配慮した建材選びが推奨されています。例えば、再生可能資源やリサイクル材の活用が奨励され、長寿命で環境負荷が低い建物が評価されています。

(Ⅳ)コンバージョン(用途変更)

デンマークでは、既存建物の用途を変更して再利用する「コンバージョン」が一般的で、住宅からオフィス、商業施設、教育施設への転用が行われています。これにより、建物の廃棄を抑制し、資源の有効活用が図られています

ⅱ.日本への導入の可能性

日本でも、特に観光地や歴史的な地域で統一感のある街並みを重視する動きが見られますが、都市部では法規制が緩和されていることもあり、多様なデザインが見受けられます。もしデンマークのようなガイドラインを導入するならば、地区ごとの個性を活かしながら統一性を保つ規制が有効です。具体的には、特定のエリアにおける建物の高さ制限や景観調和のためのデザイン指針などが考えられます。

また日本も脱炭素社会を目指しており、再生可能エネルギーの普及や電動モビリティの導入が進んでいます。しかし、都市部の密集したインフラや車両依存の強い都市設計の影響で、デンマークのような持続可能な都市計画の実施には課題があります。デンマークの事例を参考にし、歩行者や自転車に優しいインフラ整備や再生可能エネルギーを活用した街区単位のエネルギー供給システムを試験導入することが、日本における持続可能な都市計画の実現に役立つかもしれません。

さらに日本では、ゼロエネルギーハウス(ZEH)の普及や省エネルギー基準の義務化が進んでいますが、エンボディドカーボンの観点から建材を選ぶ動きはまだ限定的です。デンマークのように、エンボディドカーボンの算定と報告を義務化することで、日本の建築業界においても環境に優しい建材の利用が促進されるでしょう。また、公共建築や大規模開発プロジェクトでのエンボディドカーボン規制の導入が、先行的なケーススタディとして効果的です

日本でも、少子高齢化に伴い使われなくなる建物が増えており、コンバージョンのニーズは高まっています。特に都市部での空きビルを住宅等として再利用する動きは、今後の不動産活用において重要な手法となります。コンバージョンの視点でより現状に合った柔軟な規制を整備することは今後重要となるでしょう。法的な柔軟性や地域ごとの用途変更ガイドラインを整備することで、コンバージョンを促進し、資源の有効活用を図ることが可能です。

20250109_image07.jpg

Ⅶ.日本の都市計画の将来展望

日本の未来の都市計画においては、持続可能性の確保や地域経済の強化、価値観の多様化への対応、制度改革、コンバージョンの推進が中心的なテーマとなります。これらの視点から、日本が直面する課題に対応しつつ、魅力的で機能的な都市の実現を目指す必要があります。

ⅰ.持続可能な都市計画

持続可能性は、今後の都市計画の中心に位置するべきテーマです。エネルギー効率の高い建築物や再生可能エネルギーの導入、緑地の拡大など、カーボンニュートラルが実現した環境に配慮した都市づくりが求められます。さらに、交通インフラの見直しも重要で、自動運転車の導入や電気自動車の普及を促進することで、CO₂排出の削減が期待されます。加えて、都市部の過密と地方の過疎化を是正するため、リモートワーク環境の整備を進め、住居や職場の分散を促進することも重要です。

ⅱ.地域経済の活性化

地方経済の活性化は、特に人口減少が進む地域で重要です。地元資源を活用した産業の開発や観光業の振興が求められます。また、都市から地方への人材や企業の移住・移転を促す政策が必要です。例えば、地方のデジタルインフラを整備し、テレワークやリモート学習を推進することで、都市の経済活動が地方にも波及する可能性が高まります。

ⅲ.人々の価値観の多様化

少子高齢化や国際化の進展により、個人の価値観やライフスタイルも多様化しています。この多様な価値観に対応するため、住居形態(新築 or 中古、持ち家 or 賃貸)や働き方の選択肢を増やし、生活の質を高める環境づくりが求められます。例えば、単身者向けや高齢者向けの住居を整備したり、異文化や異世代が共存するコミュニティ空間を提供することが重要です。また、多様な家族形態や価値観を尊重する法制度や社会制度の整備も、未来の都市において不可欠な要素となります。

ⅳ.制度改革・税制改革

都市計画における制度や税制改革は、都市部・地方の双方での活性化に大きく寄与します。たとえば、すでに導入されている民間のリノベーション投資を促進する施策を拡充することが考えられます。また、地方移住を希望する人々に対する税制優遇や補助金を整備し、人口分散を促進することも効果的です。さらに、持続可能なエネルギーの利用や省エネ建築への投資を支援する税制改革により、都市全体のエコシステムを向上させることが可能です。

ⅴ.コンバージョンの推進

既存の建物やインフラを有効活用するためのリノベーションやコンバージョンは、都市計画の効率性を高める手段として重要です。日本には老朽化した住宅やビルが多数存在しており、これらを再利用することで建築資源の浪費を抑えることができます。また、古い建物に新たな価値を加えることで、地域の景観や文化を保存しつつ、住環境やビジネス空間を改善することが可能です。コンバージョンによって、多様なライフスタイルに対応する柔軟な居住空間や、地域の特性を活かした用途を提供することができます。

ただし、都市計画法の用途地域の制限より、例えば、オフィスを住宅にコンバージョンするにあたって、支障が生じる可能性があります。この点につきましては、今後の検討項目と言えましょう

提供:法人営業本部 リサーチ・コンサルティング部

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