脱炭素時代に注目される木造建築

~木造建築の基礎知識と国内事例~

近年、SDGsや脱炭素目標の達成に向けた取り組みが世界的に活発化しています。それに伴い、木材の利用が脱炭素に貢献するという観点から、木造建築への関心が高まっています。
本レポートでは、国内における木材利用の促進策や木造建築の構造に関する基礎的な情報をまとめました。また、所有者から見た木造建築のメリットや国内事例も紹介しています。

【サマリー】

  • 木材は長期間炭素を貯蔵できることから、カーボンニュートラルにおける「吸収剤」の役割を果たすとして、木造建築は脱炭素社会の実現への貢献が期待されている。国内では、木材の原料となる森林資源は十分にあるものの、建築用材の自給率は50%を割っており、国内資源の一層の活用が望まれる。
  • 国内林業の発展やカーボンニュートラル達成を目的として、木材利用促進法や建築基準法の改正、補助金の整備など、国による促進策も拡充されてきている。
  • 欧米を中心とした「CLT工法」の発展により、従来の木造建築の課題であった耐震性や耐火性の問題をクリアし、中高層の木造建築が可能となった。一方で、国内のCLT市場は未だ発展段階であり、一層の拡大が期待される。
  • 木造建築の所有者は、SDGsや脱炭素に向けた取り組みを行っていることを対外的にわかりやすくアピールできるため、採用強化やテナント誘致・賃料設定など様々なメリットが享受できると考えられる。国内の事例を確認すると、2022年以降、中高層木造オフィスの竣工が増加しており、デベロッパーだけでなく一般事業法人も含めて積極的に木材利用への取り組みを行っている様子が窺える。
  • 企業規模や業種を問わずすべての企業において、脱炭素経営やウェルビーイングへの積極的な取り組みが求められており、これらに貢献する木造建築は、今後の不動産戦略を考える上でひとつのポイントとなる。

Ⅰ.木造建築の外部環境

ⅰ.木造建築の脱炭素効果

近年、木造建築が注目を集めている大きな理由として、木材の利用が気候変動対策や脱炭素社会の実現に向け、有効な手段となることが挙げられます。
樹木は、成長の過程で大気中の二酸化炭素を吸収し、炭素を貯蔵します。そしてその樹木が伐採され木材となっても、炭素を貯蔵し続けることができます。そのため、木材を建築物に利用することで、炭素を長期間固定することが可能です。さらに、木材は鉄やコンクリートと比べ、製造・加工時の二酸化炭素排出量も少なく抑えられます。このような特性から、木材の利用はカーボンニュートラルにおける「吸収剤」の役割を果たすとして、木造建築は脱炭素社会の実現への貢献が期待されています。

カーボンニュートラルを実現するためには、温室効果ガスの排出量・吸収量を把握することが非常に重要です。木造建築が二酸化炭素の削減にどの程度貢献するかを評価するため、林野庁1のガイドラインに基づき、建築物に使用された木材の炭素貯蔵量(CO2換算量)の算出方法は以下のように定められています。

Cs = W × D × Cf × 44/12

  • Cs:建築物に利用した木材に係る炭素貯蔵量(CO2換算量)(t-CO2
  • W:建築物に利用した木材の量(㎥)
  • D:木材の密度(t/㎥) ※樹種別に指定
  • Cf:木材の炭素含有率   ※製品別に指定
  • 44/12:炭素量を二酸化炭素に換算する係数

1農林水産省の外局。森林の保続培養、林産物の安定供給の確保、林業の発展、林業者の福祉の増進及び国有林野事業の適切な運営を図ることを任務とする。

ⅱ.木材市場

【図表Ⅰ】人工林・天然林別の森林蓄積
林野庁「森林面積・蓄積の推移」より野村ソリューションズ作成

このように注目を集める木造建築ですが、国内の木材市場はどのような状況にあるのでしょうか。日本は世界有数の森林大国であり、森林の面積は国土面積の約3分の2を占めています。森林面積は1966年から2022年の56年間でほとんど変化がありませんが、森林を構成する樹木の幹の体積を表す森林蓄積は、3倍近くに増加しています。特に、木材の生産目的のために人工的に育てられた人工林(育成林)は6倍もの増加となっています(図表Ⅰ)。このように木材の原料となる森林資源は十分にあるものの、国内の建築用材の自給率は50%を割っています。人工林の高齢化が進む中、二酸化炭素の森林吸収量は減少傾向にあります。森林吸収量を強化するためには、「伐って、使って、植える」循環を促進し、若い森林を増やす必要があり、国内森林資源の一層の活用が望まれています。

Ⅱ.木造建築に関する法規制と補助金

国内林業の発展やカーボンニュートラル達成を目的として、木材の利用は国を挙げて推進されています。本章では、木造建築を推進するための代表的な法規制と補助金について確認します。

ⅰ.木材利用促進法

木材の利用を促進するため、2010年に「公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律」、通称木材利用促進法が制定されました。この法律は、公共建築物を対象に、木材の利用を促進し、林業の持続的かつ健全な発展を図り、森林の適正な整備や木材自給率の向上に寄与することを目的としています。国・地方公共団体は木材の利用促進に関する施策を策定・実施すること、木材利用促進本部2を設置することが求められました。
この法律により、公共建築物の床面積ベースの木造率は、法制定時の8.3%から2019年には13.8%に上昇しました。しかし、民間建築物については、非住宅分野や中高層建築物の木造率は低位に留まっています。また、当初の目的は日本の森林資源を活用し、地域経済の活性化を図ることでしたが、カーボンニュートラルの実現など、さらに達成すべき目標が掲げられ、地球温暖化防止も重要な目的となりました。
こうしたことを背景に、2021年に「脱炭素社会の実現に資する等のための建築物等における木材の利用の促進に関する法律」への改正が行われました。この改正では、対象が公共建築物から建築物一般(民間施設を含む建築物)に拡大され、目的には脱炭素社会の実現に資することが追加されました。


2構成メンバーは、本部長:農林水産大臣、本部員:総務大臣、文部科学大臣、経済産業大臣、国土交通大臣、環境大臣等。

ⅱ.建築基準法改正(防火規制の合理化等)

2022年6月に公布された「脱炭素社会の実現に資するための建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律等の一部を改正する法律」により、段階的に建築基準法・建築基準法施行令の改正が行われます。この改正では、木材利用の促進を目的とした防火規制の合理化等が図られることとなりました。

条項番号 改正前 改正後
施行令
107条
主要構造部の耐火時間は、階数に応じて60分刻みで規定。
最上階から階数4以内:1時間耐火
最上階から階数5以上14以内:2時間耐火
最上階から階数15以上:3時間耐火
木造による耐火設計ニーズの高い中層建築物に適用する耐火性能基準の精緻化。(2023年4月)
最上階から階数4以内:1時間耐火
最上階から階数5以上9以下:1.5時間耐火
最上階から階数10以上14以内:2時間耐火
最上階から階数15以上19以内:2.5時間耐火
最上階から階数20以上:3時間耐火
第21条2項 3,000㎡超の大規模建築物を木造とする場合、壁・柱等を耐火構造とする(=木造部分を石膏ボードなどの不燃材料で被覆する)か、3,000㎡ごとに耐火構造体で区画する。 火災時に周囲に大規模な危害が及ぶことを防止でき、構造部材の木材をそのまま見せる「あらわし」による設計が可能な構造方法を導入。(2024年4月)
第2条9号の2 耐火性能が要求される大規模建築物において、壁・柱等の全ての構造部材は例外なく耐火構造。 防火上・避難上支障がない範囲内で、部分的な木造化が可能。(2024年4月)
第21条
第27条
第61条
大規模建築物の低層部についても高層部と一体的に防火規制を適用し、建築物全体に耐火性能を要求。 高い耐火性能の壁等で分棟的に区画された高層部・低層部をそれぞれ防火規定上の別棟として扱うことで、低層部の木造化が可能。(2024年4月)
第20条1項2号 以下の範囲を超える木造建築物は、高度な構造計算により安全性を確認する必要があり、一級建築士でなければ設計または工事監理をしてはならない。
高さ13m以下かつ軒高9m以下
二級建築士でも設計できる簡易な構造計算で建築可能な範囲を拡大。(2025年4月)
階数3階以下かつ高さ16m以下

ⅲ.補助金

木造建築物への補助金制度も存在します。住宅・建築物の木造化を促進するため、先導的な技術の普及啓発に寄与する木造建築物の整備事業(サステナブル建築物等先導事業(木造先導型))や、炭素貯蔵効果が期待できる木造建築物の整備事業(優良木造建築物等整備推進事業)が募集・審査され、採択された場合には国が費用の一部を支援します。特に、サステナブル建築物等先導事業(木造先導型)では、先導的な木造建築の設計・技術を国内に広く普及させるリーディングプロジェクトであるかどうかが重視されています。

サステナブル建築物等先導事業(木造先導型)の概要は以下の通りです。

◆補助対象事業者
民間事業者、地方公共団体等
◆補助額
【調査設計費】 先導的な木造化に関する費用の1/2以内
【建設工事費】 造化による掛増し費用の1/2以内(算出困難な場合は、建設工事費の15%)
※補助額の上限は合計5億円
◆対象プロジェクト要件
  • 構造・防火面で先導的な設計・施工技術が導入され、耐久性にも十分配慮するもの。
  • 使用材料や工法の工夫によるコスト低減等の、木材利用に関する建築生産システムの先導性を有するもの。
  • 主要構造部に木材を一定以上使用するもの。
  • 建築基準上、構造・防耐火面の特段の措置を要する一定規模以上のもの。
  • 先導的な技術について、内容を検証し取りまとめて公表するもの。
  • 建築物及びその情報が、竣工後に多数の者の目に触れると認められるもの。
  • 省エネ基準に適合するもの。(公的主体が事業者の場合は、ZEH・ZEB 3の要件を満たすもの。)

3ZEH(ゼッチ)はNet Zero Energy House(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)、ZEB(ゼブ)はNet Zero Energy Building(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)の略称。建築物における一次エネルギー消費量を、建築物・設備の省エネ性能の向上、エネルギーの面的利用、オンサイトでの再生可能エネルギーの活用等により削減し、年間での一次エネルギー消費量が正味(ネット)でゼロ又は概ねゼロとなる建築物のこと。

Ⅲ.木造建築の構造

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続いて、木造建築の構造について説明します。
木造建築において、世界的に広く採用されている工法のひとつが「CLT(直交集成板)工法」です。CLTとはCross Laminated Timber(JAS(日本農林規格)では直交集成板)の略称であり、ひき板(ラミナ)を繊維方向が直交するように積層接着した木質系パネルのことです。CLTは1990年代中頃からヨーロッパを中心に発展し、現在ではアメリカやオーストラリアでも普及しています。CLTは板の幅や厚みの自由度が高く、構造躯体としての利用が可能です。さらに、断熱性、遮炎性、遮熱性にも優れていることから、マンションや商業施設、ホテルなどの壁や床として使用されています。日本では、2013年12月にCLTの製造規格となるJASが制定され、2016年4月にCLT関連の建築基準法告示が交付・施行されました。これにより、通常の建築確認でCLTを使用した建築が可能となり、一般的な利用が開始されることとなりました。

CLTを用いた工法には以下のような種類があります。

【図表Ⅱ】CLT工法の種類
20240521_image3.jpg※出所:愛媛県CLT普及協議会「CLT建築物の設計ガイドブック」

続いて、CLT工法のメリットとデメリットを確認します。

【図表Ⅲ】CLT工法のメリットとデメリット
メリット
  • 施工が早い
    事前に加工されて搬入されるため、現場での作業が少ない。コンクリートに必要な養生が不要。
  • 地盤補強の負担・基礎コストの軽減、材料輸送費削減
    コンクリートよりも軽量のため。
  • 耐震性が高い
  • 耐火・耐熱性が高い
  • 断熱性が高い(=冷暖房などのランニングコストを低く抑えることができる。)
    ※断熱性能は、「10cm厚CLTパネル」「1.2m厚コンクリート」「5cm厚グラスウール」が同等。
デメリット
  • 材料や技術コストが高い
  • 加工工程が多いため、無駄になる木材量が多い

このように、CLT工法は従来の木造建築の課題であった耐震性や耐火性の問題を解決し、中高層の木造建築を可能にする技術です。また、施工期間の短縮や材料輸送費、冷暖房等のランニングコストの削減など、多くのメリットが存在します。しかしながら、国内におけるCLT市場は未だ発展段階であり、CLTパネルの材料・加工技術コストが高いため、建築費の総額としては鉄骨造等と比べて高額になるのが現状です。また、CLTは加工工程が多く、他の素材に比べて歩留まりが低いこと、国内の樹種(スギ、ヒノキ)はCLTパネル加工に手間がかかることも、CLTの普及を遅らせる要因となっています。実際にCLTの製造・加工工場は国内に数えるほどしか存在せず、木造建築の普及の第一歩としてCLT市場の一層の拡大が期待されます。

20240521_image4.jpg

Ⅳ.所有者から見た木造建築のメリット

続いて、不動産の所有者から見た木造建築を所有するメリットを確認します。
木造建築を所有する最大のメリットは、SDGsや脱炭素に向けた取り組みを行っていることを、対外的にわかりやすくアピールできる点です。SDGsや脱炭素は主に大企業が取り組む課題であると考えられているかもしれません。しかし、カーボンニュートラルを達成するためには、サプライチェーン全体での温室効果ガス排出量削減が求められており、今や企業規模や業種を問わず、すべての国・企業・団体で取り組むことが必要不可欠となっています。

上記対外的アピールのほか、木造オフィスを所有することで、次のようなメリットが考えられます。

ⅰ.優秀な人材の確保に繋がる

脱炭素への取り組みは、企業にとって採用強化に繋がると考えられます。環境問題への積極的な取り組みは、企業のCSRの一環として高く評価され、ステークホルダーからの信頼を高めることができるでしょう。加えて、脱炭素に取り組む企業は新たなビジネスチャンスを生み出す可能性があり、成長性の高い企業として魅力が高まることも期待されます。また、オフィスに木材を使用し働きやすい環境を整備することは、従業員のモチベーション向上に直結します。これらの点から、企業への信頼や期待、従業員満足度が向上することが予想され、優秀な人材の確保や定着に繋がると考えられます。

ⅱ.鉄骨造と比べて節税効果が期待できる

建物の減価償却費は、取得(建築)価格と耐用年数によって決定されます。木造建築物は、鉄骨造と比べて耐用年数が短く設定されているため、取得(建築)価格が同等の場合、年間の価値の減価は木造の方が大きくなります。そのため、償却期間の利益を相対的に多く減らすことができ、法人税等の節税効果が期待できます。事務所用の建築物の耐用年数は、木造が24年、鉄骨造が22~38年、鉄骨鉄筋コンクリート造・鉄筋コンクリート造が50年と設定されています。混構造の場合、どの構造に属するかは建物の主要部分によって判定されます。ただし、構造別に区分可能であり、社会通念上別の建物とみられる場合には、それぞれの構造ごとに区分して、その構造の耐用年数を適用することとされています。
また、耐用年数とはあくまで「固定資産が使用できる期間として、法的に定められた年数」のことであり、実際の耐久年数とは異なる場合があります。適切なメンテナンスや修繕を行うことで、耐用年数以上の使用が十分可能になります。

木造オフィスにより脱炭素へ向けての取り組みを対外的にアピールできるという点は、不動産の所有者だけでなく入居テナントにとっても同様です。そのため、木造オフィスをテナントへ賃貸する場合には、以下のようなメリットも考えられます。

ⅲ.テナントに選ばれやすい

日本政策投資銀行と価値総合研究所が実施した「オフィスビルに対するステークホルダーの意識調査2023」(以下、「同調査」)では、環境配慮の観点からオフィスビルへの木材活用が一定の関心を集めていることがわかります。オフィスビルへの木材活用に関する関心の有無についての質問では、テナントは半数以上、オーナーサイド・投融資サイドでは8割前後が木材活用に関心を示しているという結果となりました(次頁図表Ⅳ)。また、木材活用に関心のあるテナントに対し、木造オフィスに期待する効果を調査した結果、環境負荷低減(木材活用によるCO2削減効果・固定効果)が最も多くなっています(次頁図表Ⅴ)。オーナー側は木造オフィスのCO2削減・固定効果を数値として明確に示すことが、テナント誘致に効果的であると考えられます。

【図表Ⅳ】オフィスビルへの木材活用に関する関心の有無
【図表Ⅴ】木材を活用したオフィスビルに期待する効果

※出所:日本政策投資銀行・価値総合研究所「オフィスビルに対するステークホルダーの意識調査2023」より野村不動産ソリューションズ作成

ⅳ.賃料単価の上昇が期待できる

脱炭素経営への取り組みをアピールできるオフィスビルは、テナントに選ばれやすいだけでなく、賃料単価の上昇も期待できます。環境に配慮したオフィスビル(グリーンビルディング)は木造に限らず増加しており、様々な環境認証が存在しますが、木材の持つリラックス効果や健康増進効果などから、木造オフィスは従業員満足度の向上、ウェルビーイングという観点でも効果が期待されています。
前述の同調査において、環境配慮性能、ウェルビーイング対応に関する賃料負担許容度を確認すると、いずれも前年より許容度はやや上昇し、半数のテナントが賃料上昇を許容すると回答しています(図表Ⅵ・Ⅶ)。いずれの効果も期待できる木造オフィスについては、他のオフィスビルと比べ高水準の賃料単価設定が可能となり得ると考えられます。また、オーナーサイドの賃料負担期待度も高まっており、オフィスマーケットも強気の賃料設定がなされる流れとなっていく可能性があります。

【図表Ⅵ】環境配慮性能に関する賃料負担許容度
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【図表Ⅶ】ウエルビーイング対応に関する賃料負担許容度
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※出所:日本政策投資銀行・価値総合研究所「オフィスビルに対するステークホルダーの意識調査2023」より野村不動産ソリューションズ作成

また、ビル規模別の賃料負担許容度については、中規模・大規模クラスのビルに入居する企業の方がより賃料負担許容度は高いものの、小規模ビルのテナントについても半数近くが賃料上昇を許容しており(図表Ⅷ・Ⅸ)、ビルの規模や企業規模に関わらず、環境配慮性能・ウェルビーイング効果の高いビルが求められていることがわかりました。

【図表Ⅷ】入居するビルの規模別(延床面積)環境配慮性能に関する賃料負担許容度
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【図表Ⅸ】入居するビルの規模別(延床面積)ウエルビーイング対応に関する賃料負担許容度
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※出所:日本政策投資銀行・価値総合研究所「オフィスビルに対するステークホルダーの意識調査2023」より野村不動産ソリューションズ作成

Ⅴ.国内の木造オフィス事例

本章では、国内における木造オフィスの事例を紹介します。

東京海上ホールディングスは、丸の内に存する東京海上日動ビル本館・新館を、柱や床に国産木材を使用した「木の本店ビル」として建て替える計画を発表しました。新たなビルは「木造ハイブリッド構造」による高さ100mの高層オフィスビルで、木材使用量は世界最大規模、2028年竣工予定です。国産木材を多く使用することなどから、一般的なビルと比べ、建築時の二酸化炭素排出量を3割程度削減する見込みです。東京海上ホールディングスは、経済性や企業価値の向上に加え、国内林業の再生や地方における雇用の創出、地域循環型経済の構築に寄与することを目指しています。

当社グループ会社の野村不動産は、2023年10月末に野村不動産溜池山王ビルを竣工させました。地下1階、地上9階建ての「木造ハイブリッド構造」で、木造の賃貸オフィスビルとしては、現時点で国内最大規模となっています。木材使用量は約470㎥であり、建築時の二酸化炭素排出量約125tの削減と、二酸化炭素約285tの固定化を実現しました。高い耐震性能・耐火性を確保しつつ、心地よい無柱の木質オフィスを実現したことが評価され、2021年度の国土交通省サステナブル建築物等先導事業(木造先導型)に採択されています。環境配慮とウェルネスにこだわった取り組みがテナントにも評価され、竣工前に一棟での賃貸借契約が完了しました。

その他、国内の主な中高層木造オフィスの事例は以下の通りです。2022年以降、竣工が増加しており、デベロッパーのみならず一般事業法人においても、積極的に木材利用への取り組みを行っている様子が窺えます。

【図表Ⅹ】国内の主な中高層木造オフィス事例(地上6階以上)※出所:林野庁HP、各種公表資料等より野村不動産ソリューションズ作成
建築物名 階数 構造 用途 所在地 建築主 竣工年
高知県自治会館 6階 RC造+木造 事務所 高知県 高知県 2016
国分寺フレーバーライフ本社 7階 木造ハイブリッド 事務所 東京都 ㈱フレーバーライフ 2017
東京発条製作所本社 6階 RC+S+木造 事務所、共同住宅 東京都 ㈱アライHD 2018
松尾建設本社 6階 S造+木造 事務所 佐賀県 松尾建設㈱ 2018
PARK WOOD office iwamotocho 8階 S造+木造 事務所 東京都 三菱地所㈱ 2020
タクマビル新館 6階 S造+木造 事務所 兵庫県 ㈱タクマ 2020
髙惣木工ビル 7階 木造 店舗、事務所、住宅 宮城県 髙惣合同会社 2021
H1O青山 7階 S造+木造 事務所 東京都 野村不動産㈱ 2022
KITOKI 10階 SRC造+木造 店舗、事務所 東京都 平和不動産㈱ 2022
COERU SHIBUYA 13階 S造+木造 事務所、店舗 東京都 東急不動産㈱ 2022
銀座高木ビル 12階 S造+木造 店舗、事務所 東京都 ㈱高木ビル 2022
Port Plus 11階 木造 研修施設 神奈川県 ㈱大林組 2022
都島プロジェクト 8階 S造+木造 事務所、共同住宅 大阪府 オリオン建設㈱ 2023
ジューテック本社 8階 S造+木造 事務所 東京都 ㈱ジューテック 2023
東洋木のまちプロジェクト
(高層棟)
15階 RC造+木造 共同住宅、事務所、店舗 千葉県 ㈱東洋ハウジング 2023
野村不動産溜池山王ビル 9階 S造+木造 事務所 東京都 野村不動産㈱ 2023
アキュラホーム純木造ビル 8階 木造 事務所、宿泊体験棟 ㈱アキュラホーム 2024
京橋第一生命ビル 12階 S造+木造 事務所、店舗 東京都 第一生命㈱ 2025~
日本橋本町1-3計画 18階 ハイブリッド木造 事務所、店舗 東京都 三井不動産㈱ 2026

また、ゼネコン各社により今後の大規模な木造建築物の構想も発表されています。

※出所:各種公表資料より野村不動産ソリューションズ作成
プロジェクト名 階数(高さ) 構造 建築主 用途
Alta Ligna Tower 20階(100m) S造+木造 (株)竹中工務店 事務所・店舗
LOOP50 30階(120m) 木造 (株)大林組 住宅・公共施設・エネルギーセンター
W350計画 70階(350m) 木鋼ハイブリッド 住友林業(株) 店舗・事務所・ホテル・住宅

Ⅵ.まとめ

2050年のカーボンニュートラル達成に向け、今後も国を挙げて建築物の木造化が促進されると予想されます。企業規模や業種を問わずすべての企業において、脱炭素経営やウェルビーイングへの積極的な取り組みが求められており、これらに貢献する木造建築は、今後の不動産戦略を考える上でひとつのポイントとなります。需要の拡大に伴い国内CLT市場の発展が進むことで、木造建築市場がより活発化することが期待されます。

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提供:法人営業本部 リサーチ・コンサルティング部

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