SDGsを重視した不動産投資とは?

~国内外の取組事例もご紹介~

SDGs(持続可能な開発目標)が国際社会全体の目標とされていることから、投資家は企業に対し、ESG(環境・社会・ガバナンス)への配慮を求めるよう促すようになってきており、そしてその動向が拡大しつつあります。
日本でもSDGsの観点から見た不動産投資やESG投資などのあり方について政府が検討しているところです。

本記事では、SDGsを重視した不動産投資の考え方についてご紹介します。
不動産業界で取り入れられているSDGsについてご興味のある方は、ぜひ参考にしてください。

Ⅰ.SDGs(エス・ディー・ジーズ)とは

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SDGsは持続可能な社会のために国際社会が目指す目標であり、日本も積極的に取り組んでいます。ここでは、SDGsの概要について紹介します。

ⅰ.持続可能でよりよい世界を目指す国際目標

SDGs(Sustainable Development Goals)とは、2030年までに持続可能で、よりよい世界を目指す国際目標です。2015年9月の国連サミットにて全会一致で採択されました。
「誰一人取り残さない」をキーワードに、2030年を年限として17の国際目標を定めています。
全ての国の行動が重要であり、全てのステークホルダー(経営者など企業のあらゆる利害関係者)が役割を担い、社会・経済・環境へ統合的な取り組みが求められています。
日本国内でも2016年5月にSDGs推進本部を設置し、年2回のペースで本会合を開催しています。
また、日本政府は2023年3月に「SDGsアクションプラン2023」を作成し、SDGs達成に向けて基本的な考え方を示すとともに、日本政府の施策や予算額を整理する目的で重点事項のリストアップも行いました。

ⅱ.SDGsの17の目標

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SDGsには17の目標があり、人権、経済・社会、地球環境など、さまざまな分野に及びます。

17の目標の中には、「1:貧困」や「2:飢餓」「4:教育」など、いまだに解決できない社会面の開発アジェンダや、「7:エネルギー」「8:資源の有効活用」「8:働き方の改善」「10:不平等の解消」など、世界中の国が持続可能な形で経済成長を目指す経済アジェンダがあります。
また「12:生産・消費する責任」や「13:気候変動」などは、地球の環境を良くするための環境アジェンダとしても重要な事項となっています。
このようにSDGsは、社会・経済・環境の3点から17の目標を統合的に解決することで、持続可能な地球の未来を実現しようとしています。

ⅲ.企業がESGの課題に取り組むとSDGsの達成につながる

SDGsと並んで注目されているのがESGを考慮した企業活動です。
ESGとは、Environment(環境)、Social(社会)、Governance(ガバナンス(企業統治))を考慮した投資活動や経営・事業活動を指しており、SDGsと共通する項目が多いのが特徴です。
SDGsが目標ならば、ESGはそれを達成するための手段としての意味合いが強いといえます。
近年、日本の企業でも、環境問題やジェンダー問題に配慮したESG経営が実践されています。環境・社会・企業統治への取り組みが企業の長期的成長に必要であると投資家や金融機関は考えているため、そのような経営を実施することで、その企業の信頼を高めることに繋がります。

Ⅱ.SDGsの視点で見る不動産投資

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世界中の国において「SDGs」が注目される中、不動産は環境や社会に対する影響が大きいため、不動産投資分野においてもSDGsが重要視されています。

SDGsに着目した不動産投資には以下の6つが挙げられます。

  • 長期間利用できる不動産への投資
  • 省エネ・創エネが可能な物件に投資
  • 不動産のレジリエンスの維持・向上に投資
  • 建物の脱炭素化
  • 利用者のウェルビーイングにも配慮
  • 高齢者向けの不動産整備

ここでは、上記6つの不動産投資を実践した場合のSDGs効用についてご紹介します。

ⅰ.長期間利用できる不動産への投資

近年の建物は耐久性が高いため、長期間利用することが可能になりました。
長期間利用できる不動産に投資することで、以下の目標に貢献できます。

  • 住み続けられるまちづくりを
  • つくる責任、つかう責任
  • 陸の豊かさも守ろう

建物を定期的にメンテナンスして、経年劣化をできるだけ遅らせることも肝心です。
「つくっては壊す」から、「長持ちさせながら利用する」方向へのシフトチェンジが求められています。
不動産の価値を経年で高めていくことを重視して、開発・整備から、改修、管理・運営までを踏まえた中長期の目線で取り組むことが必要です。

ⅱ.省エネ・創エネが可能な物件に投資

省エネや創エネができる物件に投資することにより、以下の目標の解決を目指せます。

  • エネルギーをみんなに。そしてクリーンに
  • 住み続けられるまちづくりを
  • 気候変動に具体的な対策を

例えば、ZEBなど省エネルギーな建物に改修したり、BEMSを導入したりすると、ビル内で使用する電力を効率よく使用することが可能です。
建物のZEB化は改修工事でも可能で、外皮断熱、高効率空調機、LED照明、太陽光発電など既存の汎用的な技術を活用して行えます。
ZEB化を実現すると不要なエネルギーを抑えられるため、電気代などランニングコストを削減できるのも大きなメリットです。

ⅲ.不動産のレジリエンスの維持・向上に投資

不動産のレジリエンスの維持・向上に投資することで、以下の目標の解決が期待できます。

  • 住み続けられるまちづくりを
  • 気候変動に具体的な対策を

企業における不動産の事業期間は20年以上のものも少なくないため、その間には大きな自然災害が発生する可能性があります。
万が一、災害が発生した場合には、建物の棄損を最小限にとどめられるため、その建物を利用する人の安全を確保することが可能です。
また、立地や建物性能などハード面だけでなく、災害時用の備蓄や防災訓練などのソフト面も兼ね備えた建物であるならば、市場で高い評価を得られます。

ⅳ.建物の脱炭素化

建物を脱炭素化すると、以下の目標に対する解決が期待できます。

  • すべての人に健康と福祉を
  • エネルギーをみんなに。そしてクリーンに
  • 気候変動に具体的な対策を
  • 陸の豊かさも守ろう

近年は温室効果ガスを削減する目標を達成するために、住宅やビルでの対策も求められています。
高性能で環境にやさしいビル等の場合は、SDGsを意識する企業の受け皿としてその役割を担い、その結果、テナント誘致の競争力や資産価値評価が高くなる傾向にあります。

ⅴ.利用者のウェルビーイングにも配慮

建物を利用する人のウェルビーイングに繋がる配慮を行うことで、以下の目標に貢献できます。

  • すべての人に健康と福祉を
  • ジェンダー平等を実現しよう
  • 安全な水とトイレを世界中に
  • 人や国の不平等をなくそう
  • 住み続けられるまちづくりを

近年のオフィスビルでは労働環境が従業員の健康に及ぼす影響が大きいことから、利用者が快適に過ごせる環境が求められています。
日本政策投資銀行が行った調査によれば、環境配慮やウェルビーイングに対応したオフィスビルは、賃料を上げることを許容する企業が存在します。企業がオフィスビルを選ぶ際も重視されるため、ウェルビーイング等に対応していることは、当該ビルのセールスポイントとなります。

ⅵ.高齢者向けの不動産整備

高齢者向けの不動産を適切に整備することで、以下の目標を目指せます。

  • ジェンダー平等を実現しよう
  • すべての人に健康と福祉を
  • 人や国の不平等をなくそう
  • 住み続けられるまちづくりを

持続可能な社会の実現には高齢化への配慮も欠かせません。
高齢者向けの支援施設においては、高齢者が安心して利用できるバリアフリー設備(手すり、スロープ、多目的トイレ等)の設置が必要です。

日本は将来的に高齢化がさらに進むため、一般的な商業施設やオフィスビルなどでもバリアフリー化が必須となります。

Ⅲ.SDGs目標へ貢献した不動産事例

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近年ではSDGsに貢献するオフィスビルや商業施設が増えています。
ここでは、SDGsに貢献したと評価されている不動産開発事例について紹介します。

ⅰ.京橋エドグラン【東京都】

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東京都中央区の有形文化財である歴史的建築物が残る伝統的なエリアで、再開発事業と共に、歴史的建築物のリノベーションが実施されました。
京橋二丁目西地区における再開発で建築された建物が「京橋エドグラン」です。保存・再生した歴史的建築物棟である「明治屋京橋ビル」と、新築した再開発棟の2棟で構成されています。
再開発棟低層部は日の光と風を感じるガラスファサードを採用する等、明治屋京橋ビルの歴史的価値やデザインとの対比を強調しながら、お互いに引き立て合う外観です。

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関係するSDGs

8:(働きがいも経済成長も)
9:(産業と技術革新の基盤をつくろう)
11:(住み続けられるまちづくり)など

ⅱ.大阪梅田ツインタワーズサウス【大阪府】

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阪急阪神ホールディングス株式会社が開発した、総合的な防災対策の実施をしたビルです。
耐震性能、水源確保、津波対策などを備えており、オフィスフロアにはテナント向けの備蓄倉庫を分散配置しています。
環境負荷を低減し、まちと賑わいを共有するオーガニックファサードを取り入れ、建物の前面には生物多様性に配慮した緑地も設けています。

関係するSDGs

8:(働きがいも経済成長も)
9:(産業と技術革新の基盤をつくろう)
11:(住み続けられるまちづくり)など

ⅲ.いざりえ恵庭ビル【北海道】

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北海道においてはヘルスケアリートへの売却を前提とした開発で、いざりえ恵庭ビルが誕生しました。公有地を活用したヘルスケア施設開発として注目されています。恵庭市では空洞化する駅前を再生してコンパクトシティ化を推進しており、民間のノウハウや資金が活用された官民複合施設です。

関係するSDGs

8:(働きがいも経済成長も)
9:(産業と技術革新の基盤をつくろう)
11:(住み続けられるまちづくり)など

ⅳ.コープ共済プラザビル【東京都】

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コープ共済プラザビルは、緑豊かなファサードが印象的なビルです。地球環境にやさしい設計・思想で建築されました。

自然換気でクリーンな空気を取り入れ、逆スラブ構法と天井放射空調・床染出空調を組み合わせたことにより、オフィス内の環境を良好な状態に保ちます。
2020年には、第8回カーボンニュートラル大賞選考委員会「選考委員特別賞」を受賞しています。

関係するSDGs

7:(エネルギーをみんなにそしてクリーンに)
8:(働きがいも経済成長も)
9:(産業と技術革新の基盤をつくろう)
11:(住み続けられるまちづくり)など

ⅴ.戸田建設 筑波技術研究所 グリーンオフィス棟 【茨城県】

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『戸田建設 筑波技術研究所のグリーンオフィス棟』もウェルビーイングの向上をコンセプトに設計されました。環境にも配慮しており、ZEBを達成した上でライフサイクルでのカーボンマイナスを目指しています。

社員の心身的ストレスの軽減につながるようオフィスの内装には国産木材を採用し、木の質感を感じられる温もりのある環境を形成しています。

関係するSDGs

7:(エネルギーをみんなにそしてクリーンに)
8:(働きがいも経済成長も)
9:(産業と技術革新の基盤をつくろう)
11:(住み続けられるまちづくり)など

Ⅳ.海外のSDGs不動産 海外におけるSDGS目標に貢献した開発事例

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海外でもSDGsにつながる不動産開発が注目されています。
ここでは、海外の開発事例について紹介しましょう。

ⅰ.エネルギー島の建設(デンマーク)

デンマークでは北海において、洋上風力発電所と国内外の送電線を接続する中継基地となる世界初の「エネルギー島」の建設計画を進めています。
2033年までに、ベルギーとデンマークをつなぐ初期発電容量3GW(ギガワット)の洋上風力の「エネルギー島」を設立し、将来的にはドイツとオランダとも接続する予定です。また、2030年までには合計で10GW、2050年までに最大35GWの洋上風力発電容量の確立を目指しています。

ⅱ.街区全体の木造・木質化(フィンランド)

森林大国フィンランドでは、木材を利用した「木造街区」が進められています。
近年では、シベリウス・ホール(2000年完成)、カンピ・チャペル(2012年完成)、ヘルシンキ中央図書館(2018年完成)など、都市部において木材で建築された建物が数多く建てられました。

自国にある豊富な木材を建築に利用することで、森林資源を有効活用し、脱炭素社会を実現しようとしています。

Ⅴ.まとめ

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近年の世界では、貧困、紛争、感染症、気候変動、資源の枯渇など、さまざまな問題に直面しています。SDGsは、持続可能な世界を実現するための目標であり、すべての国で持続可能な社会を実現することが求められています。

不動産投資においてもSDGsに配慮した建物へ投資することにより、社会的な価値が高まるため、資産価値も上がります。また損失リスクの低減につながるのもメリットです。
今後の不動産投資の際にはSDGsの考え方も取り入れてみましょう。

矢口 美加子

宅地建物取引士、整理収納アドバイザー1級、福祉住環境コーディネーター2級の資格を持ち、不動産やリフォーム、不動産投資などに関する記事を複数のメディアで執筆。ライター業のほかに、家族が経営する会社所有の投資用物件の入居者管理もこなす。

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