不動産DXの概要について

今般「不動産DX」という言葉を目にすることが増えました。本レポートでは、「不動産DX」の概要について記載したいと思います。

【サマリー】

●「不動産DX」とは、ICT技術の導入によって不動産分野の企業の活動や生活の質を向上させることを指します

●不動産DXは下記分野に分けられます。
・基盤整備となるような事項:不動産IDや3D都市モデル(Plateau)
・現在の運用を効率化する事項:大手やスタートアップ企業がサービスを提供
・将来的に不動産の市場価値に大きく関連する事項:メタバースや建築の自動化

●メタバースによってテレワークが効率的になったとしても、生産性の向上が期待できるため、オフィス需要が減少するとは限りません。


Ⅰ.不動産DXとは
DXとはデジタルトランスフォーメーションの略であり、ICT技術の導入によって企業の活動や生活の質を向上させることを指します。 ICT技術の進歩は、サービスのコストを削減もしくは無償化することとなります。
不動産業界でも媒介契約書や賃貸借契約書が電子化されるなど、順次ICT化が進みつつある分野があります。一方で、効率化や省力化等を進められる分野は多岐にわたり、その改善の余地は非常に大きいともいえるでしょう。効率化は単に利便性が増加するだけでなく、これまで市場が当たり前のこととしていた事項も大きく変革させる場合があります。不動産DXによる変化は、効率化と大きな変革の両方を検討する必要があると考えます。

Ⅱ.不動産DXの分野と内容
前項に記載の通り不動産に関連するDXの分野は多岐にわたり、その影響の度合いも様々です。
まず挙げられる分野は、不動産市場全体を改善するための基盤整備となるような事項です。不動産IDや3D都市モデル(Plateau)等がそれにあたると考えます。
次に現状の運用を効率化する事項です。既に大手のみならずスタートアップ企業が、顧客にサービスを提供し収益を上げている分野です。最後に、現時点では直接的な影響が大きいとはいえませんが、将来的に不動産の市場価値に大きく関連する事項です。メタバースや建築の自動化をその分野と考えています。

Ⅰ.不動産市場の基盤整備に関する事項

ⅰ.3D都市モデル(Plateau)

国土交通省では、「3D都市モデル」(Plateau)を開発し、都市を構成する建物や構築物についてCADソフト等を用いてモデリングしています。すでに東京23区を含めた56都市分について作成が進められており、うち40都市は公開されています。
グーグルマップが建物と地面が一体となったデータであるのに対して、Plateauは建物や土地ごとのデータであるため、より精緻な分析が可能です。
人流や防災シミュレーションのみならず、将来的にはドローンの運行マップの検討などこれから導入されるサービスの検証にも使うことができるとのことです。
このほか公共団体や事業者が持つデータと組み合わせて様々なシミュレーションを行うことが期待されています。

【図表Ⅰ】Plateauの画像
出所:国土交通省Project PLATEAU より 野村不動産ソリューションズ作成

ⅱ.不動産ID

不動産取引の活性化を促すため、全不動産に固有のIDを割り当てる「土地建物 官民共通IDの付与」が検討されています。一つの不動産について、今までバラバラだったデータをひもづけることを目的としています。
議論は進んでおり、早ければ次年度にはなんらかの動きがある可能性があります。既存住宅の取引の活性化、空き家問題の見える化、物件調査の効率化が期待されています。また不動産に関する巨大なデータベースが構築されることから、将来的には既存の不動産流通の仕組みに変化を生じさせる要因となる可能性があります。

ⅲ.デジタル証券による不動産投資

デジタル証券とは、ブロックチェーンなどの技術を活用し、電子的に発行された有価証券のことです。
これまでREITを除くと、規模の大きい不動産に出資するためには、まとまった資金が必要でした。
デジタル証券の導入は、運用や資金集めのコストダウンにつながる事項となります。したがって規模の大きな不動産への投資に対しても、小口のお金を多数集めて運用するスキームが可能となりました。
優良な不動産の小口投資はもちろんですが、これまでコストの壁を越えられなかった物件への資金流入も期待されます。例えば、金額が大きくはない不動産や小規模な不動産等を束ねたファンドへの投資などがあげられます。

Ⅱ.現状の運用を効率化する事項

ⅰ.不動産分野

現在の不動産サービスの仕組みを基本として、その効率化をICTで達成すべく、多くの企業が様々な分野に参入しています。
一般社団法人不動産テック協会では「不動産テック カオスマップ」を公表し、その企業をまとめています(図表Ⅱ)。分野は、「ローン保証」等の12分野で、2016年には80社であった掲載企業が2021年7月には446社と大きな広がりを見せています(図表Ⅲ)。
同協会は不動産テックの定義として「不動産×テクノロジーの略であり、テクノロジーの力によって、不動産に関わる業界課題や従来の商習慣を変えようとする価値や仕組みのこと。」と記載しています。今後も、既存のサービスの低コスト化のみならず、新規サービスの提供が期待されます。

【図表Ⅱ】不動産テック カオスマップ
出所:不動産テック協会HP
【図表Ⅱ】不動産テック カオスマップ
出所:不動産テック協会HP

ⅱ.建設分野

不動産と密接にかかわる建設分野についても、株式会社FIRST「建設テック(国内) カオスマップ 2021年版」が発行されています。27分野で134社が掲載されています。

【図表Ⅳ 建設テック(国内)カオスマップ】
株式会社FIRST「建設テック(国内) カオスマップ 2021年版」

Ⅲ.不動産の市場価値に大きく関連する事項

本項における事項は、今後の発展が期待される分野です。今の時点で不動産市場に対する影響を図るには早い事項ですが、大きな変革を起こす可能性があるため、取り上げさせていただきます。

ⅰ.メタバース

(Ⅰ)概要
ここでは仮想世界・仮想空間サービスの総称とします。インターネット上の自分の分身であるアバターを使って、現実世界同様に仮想空間での活動を行うことができます。双方向でのコミュニケーションが可能であり、ゲーム、物販、イベント、会議等への利用が典型例といわれています。現在の会議システムよりもスムーズで密なコミュニケーションが期待されます。
不動産市場については、将来的に現実のオフィスや商業そして住居の利用される面積や設置される場所にメタバースがどのような影響を与えるのかが課題となります。
メタバースの展開により、これまでテレワークやテレ会議の課題とされていた事項も相当改善されることとなりそうです。また移動の時間や設置のコストが削減できることから、現実のスペースを使うことなく、数多くのイベントの開催や参加が仮想現実でなされることとなるかもしれません。

(Ⅱ)オフィスへの影響
それではテレワーク等の活用拡大により、オフィスの需要は大きく減少するのでしょうか?結論から申し上げますと、そうとは限らないと考えます。
確かにテレワークにより、従業員は出社することにより放棄していた時間やその自由度・人によってはより望ましい労務環境を手にできる可能性が出てきています。効率的になったテレワークやテレ会議の利用者は現在よりも増加することも予想されます。そのことを理由として、オフィスの需要は減少する可能性があるという方がいても不思議ではありません。
その一方で、重要な意思決定やゼロサムという場面においては、直接面談の優位性は変化しないのではないかと考えます。また「ひらめき」も直接面談が有利と判断されるかもしれません。
そしてメタバースは日本のみならず世界から従業員を募集できる可能性も広げると考えます。その結果、国内にいる社員の責任の重さや生産性は増加し、コミュニケーションの価値は今よりも大きくなっていることも考えられます。生産性が向上すれば、企業がそれを補って余りある報酬や労働環境を従業員に与えることもできます。
そして労働者側が転職するためのスイッチングコストや企業側の新規募集のコストは双方の歩み寄りを促すこととなります。さらに通勤時間の短縮や設備の充実があれば労働者の満足度を補うことになるでしょう。
待遇の向上は、オフィスに出社する労働者の自分が会社に提供する価値は通勤時間等を含めたものと考えても満足し、意義を感じる方々が増加することとなります。
したがって、メタバースの一般化によるオフィスのニーズは減少するとはいえず、維持・増加する可能性すらあるものと考えます。

ⅱ.建築の自動化

建築の自動化が進み、費用の大幅な削減や施工期間の短縮が図られれば、相対的に土地の価格が上がる可能性があります。
期待収益率が一定であれば、土地建物への投資総額は変わらないこととなります。したがって建物の価格が下がれば土地の価格があがることになるからです。
技術としては、スマート・コンストラクション等のほか、3Dプリンターによる手法があります。スマート・コンストラクション等は、現在の建築手法の一部についてICT技術を用いて効率化する手法です。3Dプリンターは、建物躯体または部材を現場で製造する手法です。
住宅建築費の大幅な削減を目的とするならば3Dプリンターによる住宅建築は有力な候補の一つと考えられるでしょう。日本で初めての3Dプリンター住宅専業メーカーであるセレンディクス社は100㎡300万円の住宅建築を目指しているとのことです。
しかしながら3Dプリンター住宅の課題の一つに強度不足があり、地震国である日本にとっては普及への大きなハードルとなります。専門家の中には、それを理由に3Dプリンター住宅は急激な市場拡大には至らないのではないかとの指摘もあります。技術革新が進んだ後に期待される住宅密集地への建築は、まだ先のことになりそうです。 

提供:法人営業本部 リサーチ・コンサルティング部

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