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特集コラム

#マンション構造のヒミツ

2018.10.09

知ってるようで知らなかった「フローリングと床の中身」

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マンションの床の仕上げとしてスタンダードになっているフローリングには、中身の構成による違いがあります。意匠面、また機能やメンテナンス、コストなどから決まってきているフローリング床について、それぞれの種類の特徴をみてみましょう。

フローリングが居室で主流になった理由

欧米の人が日本人の住まい方を見て、少し驚く光景があります。それは、フローリングの床に寝転んで過ごすこと。西洋とは違って玄関で靴を脱ぎ、室内で素足になったり床に座ったりすることも多い日本人にとって、床の仕上げは身体に直に接する重要な要素です。

また、床の面は印象に残りやすく、仕上げの材料や色、風合いによってインテリアの雰囲気は大きく異なってきます。そして、マンションでは上下階を伝わる音の具合が、床の仕上げや中身によって変わります。

日本の初期のマンションでは、室内の床は主に畳と板張りでした。畳は居室、板張りはダイニングキッチンや廊下などに使われていました。それがより一層の西洋化や高級志向に合わせて、リビングや個室などの居室で、畳に代わってカーペットが床に使われるようになります。

表面が柔らかいカーペットは、板張りで問題になっていた「軽量床衝撃音」が解消されるメリットがありました。これは、スプーンなどの小物を落としたり、椅子を引くときなどに下階に伝わる音のことです。

ところが、カーペットではダニやダニの死骸が掃除で取り切れないというイメージが広まり、フローリングが居室の床仕上げとして台頭してきます。ここで再び、上下階で伝わる音の問題が出てくるようになりました。そこで建材メーカーが工夫を凝らしたフローリング製品が、さまざま使われるようになってきました。

フカフカした踏み心地のするフローリングがあるのは、このためです。フローリングの裏には、主に軽量床衝撃音を軽減して遮音性を高めるために緩衝材が貼られることがあり、遮音性能が高くなると一般的に柔らかくなります。

マンションの床のつくり方には、第1回目のコラムでみたように、直床と二重床があります。現在ではコンクリート版の上に隙間をあけて床下地と仕上げを施す二重床が主流で、遮音材は床下地の上に施されます。

天然木が使われなくなっているフローリング

フローリングは大きく分けて、1枚の木材を加工した「無垢フローリング(単層フローリング)」と、合板などの基材に化粧材を貼り合わせた「複合フローリング」の2種類があります。

無垢フローリングは木本来の質感や肌触りが特徴ですが、木の持つ吸放湿性のために起こる収縮や反りで、板同士に隙間ができることがあります。また、補修しやすいとはいえ表面にキズや凹みが付きやすいため、マンションではこれらの問題をクリアした複合フローリングが主流になっています。特に、床暖房が採用される場合は、熱に対して収縮を起こさないように複合フローリングを採用することが一般的です。

フローリングといえば木のイメージですが、複合フローリングのうち、現在の新築マンションで多く採用されているのは「シートフローリング」です。これは合板などの上に、木目柄をプリントしたオレフィンシートなどを貼り付け、表面に保護層の加工を施したもの。収縮や水分に強く、プリント技術の発達によって本物の木のような色合いや風合いを持つ製品もありますが、木本来の表情や触感に及ばないのは仕方がないことでしょう。また、細かいキズは付きにくいですが、何らかの理由で深いキズが入った場合や表面のシートが剥がれてしまった場合は、不自然さが目立ってしまいます。

リアルな木の質感を求める場合、木材を0.2~0.6mm程度で紙のように薄くした「突き板」を合板などの上に貼った、複合フローリングが用いられます。この突き板は、家具の扉材などにもよく用いられている材料で、樹種ごとの色や木目を楽しめます。さらに無垢材のような味のある質感や手触りを求める場合は、木材を鋸などで2mm程度の厚みに切った「挽き板」を合板などの上に貼った複合フローリングが用いられます。

コストは床材として人気のある天然の木の使用量に応じて、シートフローリング<突き板フローリング<挽き板フローリングの順に高くなります。天然の質感を求める住まい手がリノベーションするときは、挽き板や無垢のフローリングが採用されることがありますが、マンションの管理組合で定められている遮音性能が満たされることをよく確認しないと、トラブルの元となります。

工事のしやすさからも決まっているフローリングの種類

フローリングに使われる樹種や色味、木目、また板の幅のサイズには、ゆっくりとですが時代ごとの流行があります。特に板幅は現在、100mmを超える「幅広フローリング」と呼ばれるものが人気です。

無垢フローリングや天然木を使う複合フローリングでは、120mm、150mm、200mmと板幅が大きくなるほど、幅の広い板を確保することは難しいので価格は上がります。

また、幅広になるほど乾燥の影響を受けやすくなりますが、複合フローリングでは天然木の厚みが少ない、または天然木が使われていないので収縮しにくいといえます。

画像提供:永大産業株式会社「EIDAI」

ちなみに複合フローリングでは、板が1本ずつの製品もありますが、2本分や3本分の幅にまとめてパネル状にした製品も多くあります。この理由は主に、工事をしやすくするためです。部屋の中で使う木の色味を調整しながら、1本ずつ留め付けていく作業を軽減する効果があります。ただし、長手方向の途中ではパネルごとの目地が出てくるので、不自然に感じます。

幅が狭く短い木片をパターン張りする「パーケット張り」や「ヘリンボーン張り」も根強い人気がありますが、工事の手間がかかりコストアップします。これらの張り方でも、複数の木をあらかじめ集めた部品のようにして、工事をしやすくした製品が出ています。

ちなみに、床周りでは「幅木(巾木)」という、床と壁がぶつかる部分に回される材料も、地味ではありますが部屋の印象を左右します。幅木には壁を保護する役割があり、掃除機のヘッドや足先が当たっても、壁にキズや汚れがつきにくくなります。また、工事では床のフローリングと壁の取り合い部分に多少の隙間が生じやすいものですが、幅木は隙間をカバーして綺麗に見せる役割があります。

マンションの幅木は壁の上に取り付ける形態が一般的で、「ソフト幅木」と呼ばれる製品も普及しています。これは木ではなく塩化ビニル樹脂製のもので、釘を使わず接着剤で貼ることができ工事の手間とコストは軽減されます。幅木もフローリングと同様に、リアルな木の質感を求める場合は本物の木が使われます。幅木の色は、フローリングの色に合わせるか、壁の色に合わせると目立たず広く見えるので、一般的にはどちらかに揃えられます。幅木の高さは40~100mm程度で、低いほどスッキリと見えますが、壁の保護という観点では弱くなってきます。

私たちが日常的に接し、無意識のうちに多くの影響を受けているのがフローリングです。見た目だけでなく、使われている素材や構成といった中身にもこだわれば、より自分らしく、快適な住まいを得ることができるでしょう。

加藤純(かとう・じゅん)

加藤純(かとう・じゅん)

1974年生まれ。建築ライター・エディター。出版物やWEBコンテンツ等の企画・編集・執筆を行い、意匠・歴史・文化・工学を通して建築の奥深さを広く伝える。1997年東京理科大学工学部第一部建築学科卒業、’99年同工学研究科建築学専攻修士課程修了。株式会社建築知識(現・エクスナレッジ)月刊「建築知識」編集部を経て、2004年独立。著書に『日本の不思議な建物101』(エクスナレッジ)、『「住まい」の秘密』<一戸建て編><マンション編>(実業之日本社)など。

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