SDGs
SDGs専門家に聞く「SDGsを社内浸透させる3つのテクニック」
SDGsの取り組みをすすめる上で多くの企業が直面する壁が社内浸透です。SDGsの認知度が高まり存在を知っている人は増えていますが、実際に取り組みを進めている人・企業はまだまだ多くはありません。
企業がSDGsの取り組みで成果を上げるには全社的な取り組みが不可欠です。そこで必要になってくるのが、従業員にSDGsへの理解や行動を促すことを目的としたSDGsの社内浸透です。
今回の記事では、これまで40万人以上のビジネスパーソンにSDGsを伝えてきた専門家である筆者が、SDGsの社内浸透に役立つテクニックを紹介します。
Ⅰ.大企業でさえ社内浸透に課題感を抱えている
大企業のテレビCMや広告などで自社のサステナビリティ・SDGsへの取り組みを訴求する場面をよく目にするようになりました。また企業同士のやり取りでもサステナビリティ・SDGsの話題が出ることもあるでしょう。
数年前と比較し状況が大きく変わっているので、多くの企業でSDGs推進がうまく進んでいるように見えます。しかし、現場の声を聞くとどうもそうではなく、サステナビリティ・SDGsの発信を行う企業でさえ、推進がうまく進められている企業は限られます。
実際に大企業の役員やSDGs担当者と打ち合わせや商談を行う中で、SDGsの社内浸透に課題を感じているという声を最もよく聞きます。
具体的には、研修や eラーニングなどの学習機会を設けても、SDGs推進の取り組みが一部の担当者に留まり全従業員へと広まらない状況があるようです。社内浸透の取り組みが成果につながらないことから、社内浸透は簡単ではないという認識を持つ読者もいるでしょう。
Ⅱ.SDGsを社内浸透させる3つのテクニック
このように企業規模を問わずSDGsの取り組みを進める上で、社内浸透を成功させるために担当者がまだまだ工夫できる点があります。
ここでは、3つのテクニックを紹介しますが、それぞれは社内浸透に効果がある具体的な方法ではなく、社内浸透の担当者が持っておくべき心得です。
この心得を自社の状況に合わせて取り入れることで、社内浸透の成功を目指しましょう。
①対象者に対して声を届けやすい人物を起用する
SDGsやサステナビリティが目指すゴールは、『きれいごと』だとも捉えられるため机上の空論だと否定的な意見を持つ人も少なくありません。このような考えを持つ人に対しても、担当者としてSDGsやサステナビリティの重要性や自社の方針・姿勢を伝えて理解してもらわなければなりません。
社内浸透を目的にした研修や勉強会での講師は、一般的に自社の担当者自らが行ったり、外部の専門家を招いたりして行われます。ですが、ここで使えるテクニックは『対象者に対して声を届けやすい人物を起用する』ことです。言い換えると、SDGsを理解してもらいたい相手に対して、影響力を発揮しやすい人物に社内浸透を担ってもらうのです。
自社の社長からSDGsの重要性を従業員に伝えてもらう企業が多いですが、これも同様のテクニックを活用しています。SDGsに否定的な社員であっても「社長が言うのなら仕方がないか」と受け入れてもらえるケースがあります。
他にも筆者がよく用いるのは『ステークホルダーの視点から伝える』ことです。例えば、自社の主要な取引先の動向から予想できる、将来的なSDGs・サステナビリティに関する要請をよくお伝えしています。これによって普段の業務とSDGsとの関係性が理解しやすくなるので、SDGsに取り組む重要性を理解してもらいやすくなります。
他にも消費者の購買ニーズの変化に対応するためにSDGsへの取り組みが必要になるといった、ステークホルダーの視点で自社を取り巻く環境が変化していることをストーリー仕立てで伝えることができれば、SDGsが自社にも必要である理由がわかる人も多いです。
②横文字を避け、日本語で伝える
SDGsについて勉強していくと、ESG・サステナビリティ・CSR・バックキャスティングなど、これまで知らなかった横文字にたくさん出会います。SDGsはグローバルなテーマであるため、関連する情報にも横文字が含まれているのです。
ただしSDGsを推進していくだけなら、それらの横文字の概念をそのまま使用する必要はありません。そのため社内浸透を図る上で、聞き慣れない横文字ではなく、日本語に言い換えることで理解しやすくなるように工夫しましょう。
例えば、マテリアリティは重要課題、KPIは目標数値、カーボンニュートラル経営は脱炭素経営など、ほとんどの用語は日本語に言い換えても伝えたいことが伝えられます。
また横文字の場合、話し手と受け手の解釈がズレることがあり、筆者自身もコンサル支援現場でクライアントとのコミュニケーションに苦労した経験があります。このズレに気付いてから日本語に言い換えることで、お互い理解し合えました。
なお企業として、いくつかの用語は横文字のまま使いたいケースもあるでしょう。そのような場合には、用語の意味や定義を丁寧に繰り返し説明することで理解してもらえるようにしましょう。避けるべきことは、説明を十分にせずに横文字を用いて、従業員にSDGsがよくわからない・めんどくさいものだと思われることです。
③最低7回は社内浸透の機会を設ける
SDGs研修を受講すれば、SDGsが自社にも必要だと実感するビジネスパーソンは多いでしょう。しかし、時間の経過とともにその実感は薄れていきます。そのため、担当者は研修の効果が出ていないことに頭を抱えるのです。
ここで重要なのは、研修の質ではなく量です。筆者の経験上、1回だけのSDGs研修によって多くの社員がSDGsを自分ごとに捉えてその気持ちが長く持続したような企業は見たことがありません。
この現象は、セブンヒッツ理論でも示されています。これは広告やマーケティングでよく使われる概念で、人は繰り返し同じものを見させられたり、接触を繰り返すと好感度が上がる傾向があるため、広告に7回接触すると購入率が高くなるという理論です。
この理論は、皆さんの感覚にも近いのではないでしょうか。これをSDGsの社内浸透にも取り入れましょう。実力のある講師を招いた1回きりの研修も大事ですが、手を変え品を変え定期的な社内浸透に取り組むほうが、従業員の理解を助けます。
筆者がオススメするのは、とにかく毎月何かしらの方法で社内浸透施策を実施することです。例えば、社内報・社内イベント・動画の展開・エコグッズの提供など調べれば各社が取り組む社内浸透の施策は見つかります。
このような社内浸透施策を1年も続ければ、SDGs社内浸透の効果は出ます。ぜひ社内浸透施策の年間計画を立てて実行していってください。
Ⅲ.質にもこだわれば鬼に金棒
先程、質よりも量が大切だとお伝えしましたが、もちろん質も上げられるなら上げましょう。筆者の経験として、SDGs社内浸透のご相談をいただいた企業から、過去に実施した社内浸透で用いた資料を拝見すると、驚くことが多いです。なぜなら、文字が多い・意味が理解しにくいイラストがあるなど、情報の受け手を想像できていない資料であるからです。
そのため、基本的な資料作りからでも社内浸透施策の質を上げていくことはできます。また最近では、SDGs・サステナビリティに関するYouTubeやTikTokの動画を用いた浸透施策も好意的に受け止められるようになってきました。
動画は文字の5,000倍もの情報量があるとも言われているため、それらを活用して取り組みの質を上げることもぜひ検討してみてください。
Ⅳ.まとめ
良質な社内浸透なくして企業のSDGsへの取り組み成功はありません。それほど、社内浸透施策は重要でありますが、企業規模を問わず苦戦している現状があります。せっかく時間とお金をかけて研修を実施しても、従業員の反応や姿を見るとSDGsへの理解が進んでおらず頭を抱える担当者の気持ちは痛いほどわかります。
SDGsの社内浸透に課題を感じているのであれば、今回お伝えした3つのテクニックを用いて、1人でも多くの従業員がSDGs・自社の方針や目標を理解して、日々の業務に取り入れてもらえるように工夫していきましょう。
玉木 巧(たまき こう)
合同会社波濤 代表 兼 株式会社Drop SDGsコンサルタント
1988年12月生まれ 大阪市出身。 SDGsコンサルティングを手掛ける株式会社Dropの創業メンバーとしてジョイン。事業部責任者として、これまで大企業から中小企業のサステナビリティ推進を支援。それらの経験をもとに、これまで40万人以上のビジネスパーソンにセミナーも実施。 株式会社Dropのメンバーとして働きながら、企業のサステナビリティ推進をより加速すべく、2022年9月に自身の会社として合同会社波濤を設立し、現在は二足の草鞋を履いて活動中。 他にもYouTuber・Voicyパーソナリティー・Schoo講師など、SDGs を軸に多角的に活動を広げる。
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