基礎知識
BCP(事業継続計画)とは何かを簡単に・わかりやすく解説
新型コロナウイルス感染症パンデミックは、BCP(事業継続計画)の重要性を認識する機会になりました。しかし、言葉の意味や内容がよくわからないという方も多いでしょう。
この記事では、BCPとは何かを簡単にわかりやすく解説します。BCPの意味や導入効果、策定の手順などを理解することにより、緊急時に備えられるようになります。BCPについて知りたい方や、BCPの策定を検討している企業の方は、ぜひ参考にしてください。
Ⅰ.BCPとは何か?
BCPとは、会社の存続自体が危ぶまれるような緊急時に事業を継続するための計画を指します。ここでは、BCPとは何かについて、言葉の意味や導入効果などをわかりやすく解説します。
BCPとは何の略?
BCPとは「Business Continuity Plan」の略語で、「事業継続計画」と訳されるリスクマネジメントの用語です。
具体的には、大災害や感染症のパンデミック、サイバー攻撃などで事業が危機的状況に陥った場合に備え、企業の重要な業務を継続するための方策を策定した計画を指します。
BCP導入効果のイメージ
BCPを導入すると、緊急事態が発生した場合でも被害を最小限に抑えられ、企業の中核事業を継続させることが可能です。
例えば、BCP対策としてテレワークを導入しておくと、感染症のパンデミックが発生した場合でも従業員は通勤しなくても自宅で業務を継続できます。業務を停止させることなく継続させることで、取引先や顧客からの信頼を得て、事業拡大や新たな顧客の獲得につながることもあるでしょう。
Ⅱ.BCPが注目されている理由
BCPが注目されている理由として、新型コロナウイルス感染症パンデミックによる中小企業の倒産の多発が挙げられます。中小企業の多くはBCP対策ができておらず、飲食店や宿泊業などの倒産が目立っています。
また、2011年の東日本大震災では多くのサプライチェーンが寸断され、事業継続に影響を与えたことでBCPが注目されました。パンデミックや自然災害だけでなく、サイバー攻撃や企業SNSの炎上などのITリスクもあり、BCPを策定する企業が増えつつあります。
国もBCPの策定を推奨しており、2005年には内閣府が「事業継続ガイドライン」を定めました。特に介護業界では、「令和3年度介護報酬改定」において2024年度からBCP策定が義務化されており、BCPへの取り組みが喫緊の課題となっています。
Ⅲ.BCPの策定状況
内閣府「令和3年度 企業の事業継続及び防災の取組に関する実態調査」によると、BCPを策定済みの大企業は70.8%、中小企業は40.2%になっています。策定中を加えると大企業は85.1%、中小企業は51.9%で、大企業を中心にBCPの策定は進んでいます。
Ⅳ.BCP策定の目的
BCP策定の目的は、緊急時に迅速かつ適切な対応をすることで事業継続を目指すことにあります。あらかじめ緊急時の対応方法を定めておくと、現場の混乱を防いで適切な対応をすることが可能です。
ビジネスシーンではITシステムの導入が進んでいますが、IT-BCPを策定しておくとサイバー攻撃に遭った場合でも速やかに対処でき、損失を最小限に抑えられます。
病院などの医療機関ではBCPを策定しておくことで、大震災や感染症のパンデミックなどの緊急時でも止まることなく、医療の提供を維持できます。
BCPを策定していなければ緊急時に適切な対応ができず、営業利益の損失や信用の失墜などを招き、事業の継続が危ぶまれることもあるでしょう。
Ⅴ.BCP策定のメリット
BCP策定の目的は緊急時における事業継続と早期復旧にありますが、それ以外にもさまざまなメリットが得られます。ここでは、緊急時に備えてBCPを策定しておくことのメリットを解説します。
災害からの事業の早期復旧が可能になる
当然ながら、緊急時に事業の早期復旧に向けた対応がスムーズに行えることがBCP策定の最大のメリットです。あらかじめ、緊急時の対応手順や行動手順を決めておくことで現場の混乱を防ぎ、被害を最小限に抑えられます。
想定外の被害が発生した場合でも、BCPマニュアルを参考に臨機応変に対応することが可能です。緊急時に早期復旧を図ることで機会損失を防ぎ、新たな顧客や取引先の獲得につながる可能性もあるでしょう。
企業価値の向上につながる
BCPを策定しておくと緊急時に事業継続や早期復旧が図れることで、企業価値の向上につながります。BCPを策定している企業は、顧客や取引先、株主、行政などから災害時でも事業継続ができると評価されます。
東日本大震災では連鎖倒産が相次いで深刻な問題になりました。BCPを策定している企業は連鎖倒産を防ぐため、取引先にもBCPを策定していることを望む傾向があります。BCPを策定しておくと、取引先に安心感を与えられるでしょう。
従業員のリスクに対する意識が高まる
帝国データバンクが実施したアンケート調査によると、BCP策定による効果として「従業員のリスクに対する意識が向上した」という回答が全体の53.7%(大企業は58.4%、中小企業は51.6%)でトップになっています。
BCPを策定しておくと、定期的な教育や訓練などを通じて従業員のリスクに対する意識が高まります。緊急時に冷静に対応できるようになるだけでなく、平常時でも社内の重要業務とは何かを見直すことで、生産性向上につながるような策を講じられるようになるでしょう。
出典:株式会社帝国データバンク 「事業継続計画(BCP)に対する企業の意識調査(2022 年)」
Ⅵ.BCP策定のデメリット
中小企業ではBCP策定が進んでいませんが、その理由としてコストがかかることなどが挙げられます。BCPを策定する際はメリットだけでなく、デメリットについても知っておくことが大切です。ここでは、BCP策定のデメリットを解説します。
策定コストがかかる
BCP策定のデメリットとして、策定コストがかかることが挙げられます。BCPを策定するには専門知識が必要であるため、コンサルティング会社や行政書士、中小企業診断士などの専門家に依頼するのが一般的です。費用の相場は30万~100万円以上であり、相応のコストがかかります。
また、より実効的なBCPを策定するうえで、自家発電装置や安否確認システムといった設備・物品の購入やサービス導入などのコストが発生することもあります。ただし、自治体や各種団体の中にはBCP策定推進のための助成金や補助金の制度を設けているところもあり、それらを活用すれば費用を大幅に抑えることも可能です。
想定通りに機能しない場合がある
BCPを策定しても、想定通りに機能しない場合があります。特に新型コロナウイルス感染症のパンデミックは想定外の緊急事態であり、計画通りに機能しなかったケースが数多く見受けられました。
緊急時にBCPを計画通りに機能させるには、あらゆる事態を想定して訓練を繰り返し実施することと、定期的な見直しが大切です。
Ⅶ.BCP策定の注意点
災害はいつ起こるかわかりません。BCPを策定していない場合は早めに計画を立てることが大切です。また、計画を立てたら終わりではなく、定期的な見直しも重要になってきます。ここでは、BCP策定にあたっての注意点を解説します。
実現可能な計画にする
BCPを計画通りに機能させるには、実現可能な計画を策定することが重要になります。あらゆる事態を想定することも大切ですが、すべてのリスクに対処できる完璧な計画を立てるのは困難です。
BCPを策定する際は優先順位を決めて、できることから少しずつ策定するようにします。完璧な計画を立てようとすると時間がかかり、災害時に間に合わなくなるおそれがあります。
また、他社のBCPを流用しても、自社にとって実効性のある計画にはなりません。自社の環境に合わせて策定することが大切です。
ブラッシュアップを続ける
BCPを策定後は定期的に見直しを行い、ブラッシュアップを続けることが重要です。ブラッシュアップし続けることで、より効果的なBCPに改善できるでしょう。BCPを見直すタイミングは定期訓練の実施後です。
定期訓練を実施した結果、問題点が発覚した場合は、優先順位が高いものから対策を講じましょう。BCP関連のマニュアルは、ブラッシュアップを繰り返すことで手順や書類が増えていきがちです。緊急時にスムーズに手順を確認できるよう、内容をシンプルにまとめ、チェックリストやフローチャートを使うなどしてわかりやすいマニュアル作りを心掛けてください。
Ⅷ.BCP策定の手順
BCPを自社で策定する場合は、効率的な手順にしたがって策定することが大切です。コンサルティング会社などに依頼する際も、策定の手順を知っておくと要望をしっかりと伝えられます。ここでは、BCP策定の手順を解説します。
想定されるリスクを洗い出す
BCPを策定する際は、緊急時に想定されるリスクを洗い出すことから始めます。緊急時のリスクとして、以下のものが挙げられます。
● | 災害リスク |
● | 人的リスク |
● | 労務リスク |
● | 経営リスク |
● | 法務リスク |
● | 財務リスク |
それぞれの担当部署から想定されるリスクを洗い出し、可視化した上でBCPの対象になるものを絞り込みます。
基本方針を策定する
BCPの対象になるリスクを絞り込んだら、次は優先順位を決定します。優先順位を決める際は、企業の中核事業に影響を及ぼすリスクを優先するのがポイントです。
判断基準としては、「企業の収益獲得に最も貢献している事業」や「早期復旧しなければ甚大な損害が発生する事業」などを優先させ、事業継続に不可欠な事業を選び出します。
体制を構築する
BCPの基本方針が策定できれば、発動後の運用体制を構築します。BCP発動はトップダウン方式で行うのが基本です。経営者をリーダーとする指揮命令系統を構築し、全従業員にスムーズに伝達できるようにします。
緊急時に効果的にBCPを機能させるには、経営者の右腕になるサブリーダー的な責任者を決めておくことがポイントです。
BCPマニュアルを策定する
BCPマニュアルの作成は、自社で作成する方法と専門家に依頼する方法があります。自社で作成する場合は、中小企業庁の「中小企業BCP策定運用指針」や内閣府の「防災情報ページ」などが参考になります。
コンサルティング会社などの専門家に依頼すると費用がかかりますが、より効果的なBCPマニュアルの作成が可能です。
教育や訓練を実施する
BCP策定後は、教育や訓練を実施することが不可欠です。教育をすることで従業員にBCPを周知でき、リスク意識が高まるでしょう。また、訓練を実施することでBCPの内容を検証でき、問題点をあぶり出せます。
主なBCP訓練として「机上訓練」「電話連絡網・緊急時通報診断」「代替施設への移動訓練」「バックアップしているデータを取り出す訓練」「総合訓練」などがあります。
定期的に見直す
BCP策定後は、定期的に取り組み状況を確認した上で見直しを行うことが必要です。BCPを点検する際は、チェックシートを用いると確認項目の評価がしやすくなります。点検の結果、問題点があった場合は、改善点をBCPマニュアルに反映させます。
BCP策定後に検証と改善を繰り返すことで、緊急時の対応に強い組織を構築できるでしょう。
Ⅸ.BCP策定のポイント
BCPを活用して事業継続につなげるには、「リスクとそのダメージを整理」し、「事前の対策」と「緊急事態発生時の対応」を考えておくことがポイントです。
まず、ヒト・モノ・カネなどの経営資源を整理し、事業継続にダメージを与えるリスクを洗い出します。次に、リモートワーク環境などが必要であれば事前に整えておきます。
緊急事態発生時の対応は「初動対応」「緊急対応」「復旧対応」の3段階に分け、パニックにならずにスムーズに行動できるようにしておきましょう。
Ⅹ.まとめ
BCP(事業継続計画)とは、緊急時に企業の中核事業を継続させ、早期復旧を図るための計画のことです。BCPを策定しておくと、緊急時でも事業を継続できるようになり、社会的信用の向上や販路拡大につながる可能性もあります。
BCPを策定するには手間とコストがかかりますが、緊急時の対応に強い会社にすることで企業価値の向上や従業員のリスク意識向上など、得られるメリットは多くあります。企業競争力を高め、持続的な企業経営を実践するためにも、BCPの策定をおすすめします。
北浦 章弘
大学卒業後、不動産コンサルティング会社に入社。 専業トレーダーを経て、2011年よりフリーランスライターとして活動を始める。 金融や不動産を中心に、さまざまなジャンルにおいて豊富な執筆実績がある。 保有資格:宅地建物取引士
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