民泊事業について 3つの制度と上乗せ条例並びに収支構造

コロナ禍で先行きが不透明だった状況がようやく収束へと向かい、訪日外国人(インバウンド)が数年ぶりの活況を見せている今、観光需要の復活で民泊ビジネスが注目を取り戻しつつあります。

本レポートでは、国内の民泊事業における3つの制度と上乗せ条例並びに収支構造についてまとめました。


【サマリー】

  • 民泊が日本で注目される背景として、訪日外国人観光客の増加に伴う、宿泊施設の不足が挙げられる。また、空き家を宿泊施設として有効活用することで、空き家問題の解決にも貢献することが期待されている。
  • 現在、日本国内で民泊ビジネスを行うには、旅館業法に基づく営業許可の取得、国家戦略特別区域法の認定の取得、民泊新法の届出の3つの制度から選択することとなる。民泊新法では年間の営業日数が180日以内と制限がある。また、法規制に加えて、自治体による条例(上乗せ条例)により、フロント体制、営業日数や用途地域などが制限され、民泊開業のハードルが高いエリアもある。
  • 2023年以降、民泊新法の届出件数の増加に伴い、届出住宅数、宿泊者数および宿泊日数も増加が見られる。2022年以降は外国人宿泊者の割合が増加し、2024年4-5月は全体の5割超を占めている。
  • 運営代行の場合、収入は、宿泊料となり、費用として初期費用・運営代行費用・維持管理費用がかかる。営業日数制限がない旅館業法に基づく民泊は、収益面でのメリットが大きく、民泊新法に基づく民泊は、年間の営業日数が180日以内という制限があり、収益面で劣るため、未稼働時期をマンスリーマンションとして活用するなど工夫が必要となる。
  • 民泊の収支内容は、制度や運営方法(運営代行・サブリース)によって異なり、事業ハードル、収益性、収益変動、運営の手間、コスト面等を比較し、どの制度、運営方式を選択するか検討する必要がある。

Ⅰ.民泊の定義と民泊が注目される背景

ⅰ.民泊とは

民泊についての法令上の明確な定義はありませんが、「戸建住宅や共同住宅などの住宅の全部または一部を活用して、宿泊サービスを提供すること」を指して、民泊ということが一般的です。
2008年創業のAirbnb(エアビーアンドビー)に代表される、所有する空き家や空き部屋を短期で貸したい人と宿泊を希望する旅行者とをマッチングする仲介サイトの登場もあり、世界で民泊の普及が急速に進みました。日本においても、国による新法制定や法改正が行われており、民泊ビジネスに参入する、個人、企業、投資家が増えています。

ⅱ.日本国内で民泊が注目される背景

(Ⅰ)増加する訪日外国人と宿泊施設の不足

民泊が注目される背景として、訪日外国人の増加が挙げられます。
図表1は、訪日外国人数の推移です。コロナ禍により急減した訪日外国人客数ですが、新型コロナウイルス感染症対策の緩和や円安などの影響により、2023年は2507万人とコロナ前の8割まで回復し、2024年は更に増加が見込まれます。

また、訪日外国人の増加に伴う全国的な宿泊施設の不足も背景として挙げられます。特に、大都市圏や人気観光地では、ホテルや旅館が足りず、観光客の宿泊需要に対応できていないのが現状です。

【図表1】訪日外国人数の推移
20241210_image1.jpg出所:国土交通省観光庁「訪日外国人旅行者統計」より当社作成
※2024年は1月〜6月

図表2は、2024年1~5月の地域別客室稼働率の推移です。東京都と大阪府の客室稼働率は全国平均と比較して高い数字となっており、80%近い稼働状況となっています。また、近年は東京都や大阪府、京都府など主要エリアのホテルの客室単価も高騰しており、急速に増加し続ける訪日外国人の宿泊需要の受け皿として民泊が注目を集めています。

【図表2】地域別客室稼働率(2024年)
20241210_image2.jpg出所:国土交通省観光庁「宿泊旅行統計調査」より当社作成

(Ⅱ)社会的問題となっている空き家の有効活用

空き家の有効活用の観点からも民泊は注目されています。
図表3は、空き家数および空室率の推移です。日本では人口減少や高齢化、人口の都市集中化により2023年時点での全国の空き家数は900万戸で過去最多となり、空き家率も13.8%と過去最高となりました。この状況において、空き家を宿泊施設として有効活用することで、空き家問題の解決や地域活性化に貢献することが期待されています。

【図表3】空き家数および空き家率の推移
20241210_image3.jpg出所:総務省「令和5年住宅・土地統計調査」より当社作成

Ⅱ.民泊に関連する3つの制度と東京23区の上乗せ条例

現在、日本国内で民泊ビジネスを行うには、大きく分けて3つの制度から選択することとなります。図表4は、これら3つの制度の比較表です。1つ目は、旅館業法に基づく営業許可を取得する民泊、2つ目は、国家戦略特別区域法の認定を得る民泊、3つ目は、住宅宿泊事業法の届出を行う民泊です。それぞれ違った法律で制度が定められており、要件が異なりますので、民泊を運営していく目的や物件の立地・特徴などに合わせてどの制度かを選ぶ必要があります。それぞれの制度内容の特徴を確認していきます。

【図表4】民泊に関連する3つの制度比較表出所:観光庁「民泊制度ポータルサイト」より当社作成
旅館業法
(簡易宿所)
国家戦略特別区域法
(特区民泊)
住宅宿泊事業法
(民泊新法)
所管省庁 厚生労働省 内閣府
(厚生労働省)
国土交通省
厚生労働省
観光庁
許認可等 許可 認定 届出
住専地域での営業 不可 一部可能 ※制限あり
(認定を行う自治体ごとに、制限している場合あり)
可能
(条例により制限されている場合あり)
営業日数の制限 制限なし 年間営業日数の上限なし
(下限日数は条例により定まる。2泊3日以上の滞在が条件)
年間提供日数180日以内
(条例で実施期間の制限が可能)
宿泊者名簿の作成・保存義務 あり あり あり
玄関帳場の設置義務(構造基準) なし なし なし
最低床面積(3.3㎡/人)の確保 最低床面積あり
(33㎡。ただし、宿泊者数10人未満の場合は、3.3㎡/人)
原則25㎡以上/室 最低床面積あり
(3.3㎡/人)
衛生措置 換気、採光、照明、防湿、清潔等の措置 換気、採光、照明、防湿、清潔等の措置、使用の開始時に清潔な居室の提供 換気、除湿、清潔等の措置、定期的な清掃等
非常用照明等の安全確保の設置義務 あり あり
(6泊7日以上の滞在期間の施設の場合は不要)
あり
(家主同居で宿泊室の面積が小さい場合は不要)
消防用設備等の設置 あり あり あり
(家主同居で宿泊室の面積が小さい場合は不要)
近隣住民とのトラブル防止措置 不要 必要
(近隣住民への適切な説明、苦情及び問合わせに適切に対応するための体制及び周知方法、その連絡先の確保)
必要
(宿泊者への説明義務、苦情対応の義務)
不在時の管理業者への委託業務 規定なし 規定なし 規定あり

ⅰ. 旅館業法

1948年に施行された旅館業法に基づく民泊で、厚生労働省が所管しています。旅館業法では、旅館業は旅館・ホテル営業1、簡易宿所営業2、下宿営業3に分かれており、民泊事業を行う場合は簡易宿所営業か旅館・ホテル営業のどちらかで許可を取得する必要があります。旅館・ホテル営業はフロントの設置義務があるエリアもあることから、簡易宿所営業の許可を取得するのが一般的です。旅館業法の一番の特徴は、宿泊日数制限と年間営業日数制限がないため、日数に縛られずに年間を通して民泊運営が可能であることです。一方で、住居専用地域での営業ができないことや、ホテル・旅館として扱われるため、建築基準法や消防法で定める構造や設備を有している必要があるといった要件があります。3つの制度の中では開業のハードルが高いと言えそうです。


1 施設を設け、宿泊料を受けて人を宿泊させる営業で、簡易宿泊所営業及び下宿営業以外のもの
2 宿泊する塲所を多数人で共用する構造及び設備を主とする施設を設け、宿泊料を受けて、人を宿泊させる営業で、下宿営業以外のもの
3 施設を設け、1ヶ月以上の期間を単位とする宿泊料を受けて、人を宿泊させる営業

ⅱ.国家戦略特別区域法(特区民泊:国家戦略特別区域外国人滞在施設経営事業)

2014年に施行された国家戦略特別区域法に基づく旅館業の特例(以下、特区民泊)で、内閣府・厚生労働省が所管しています。国家戦略特別区域のうち、特区民泊条例を定めている自治体のみで認められた民泊4で、都道府県の特定認定を受ける必要があります。旅館業法の適用が除外され、住居専用地域での営業も可能となりますが、自治体により制限がかかります。また、年間営業日数制限はありませんが、宿泊者には最低2泊3日以上の連泊が必要であるといった要件があります。特区民泊は、施設の使用方法に関する外国語を用いた案内、その他の外国人旅客の滞在に必要な役務を提供する要件があり、外国人の滞在ニーズへの対応が高く求められます。

ⅲ.住宅宿泊事業法(民泊新法)

2018年に施行された住宅宿泊事業法(以下、民泊新法)に基づく民泊で、国土交通省・厚生労働省・観光庁が所管しています。この法律は、旅館業法の無許可営業、地域住民とのトラブル防止などに対応し、健全な民泊サービスの普及を図るために成立しました。宿泊施設が住宅として扱われるため、住宅専用地域での運営が可能であることが特徴です。ただし、年間の営業日数が180日以内に定められており、常に宿泊施設として利用することはできないことがデメリットとして挙げられます。民泊新法は、届出のみで簡単に民泊を始められるため、旅館業法と比較すると開業までのハードルが低いと言えそうです。

20241210_image5.jpg
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4国家戦略特別区域のうち、条例を定めている自治体のみで、特区民泊の開業・運営が認められている。
【特区民泊の認定地域】

  • 東京都大田区:第二種住居地域・準住居地域・近隣商業地域・商業地域・準工業地域・第一種住居地域(3,000㎡以下)。
  • 千葉県千葉市:若葉区及び緑区の市街化調整区域及び住居専用地域。
  • 大阪府守口市、泉佐野市、松原市、大東市、柏原市、能勢町、忠岡町:市街化区域のうち工業専用地域を除く全地域で実施。
    ※諸法令による制限を受ける場合がある。
  • 大阪府岸和田市、池田市、泉大津市、貝塚市、茨木市、富田林市、河内長野市、和泉市、箕面市、羽曳野市、門真市、摂津市、高石市、藤井寺市、泉南市、四條畷市、大阪狭山市、阪南市、島本町、豊能町、熊取町、田尻町、岬町、太子町、河南町、千早赤阪村:市街化区域のうちホテル・旅館の建築が可能な地域(第1種住居地域にあっては、床面積 3,000㎡以下)において実施※住居専用地域、第1種住居地域(床面積3000 ㎡超)、工業地域では実施不可。諸法令及び都市計画による制限を受ける場合がある。
  • 大阪市:第二種住居地域・準住居地域・近隣商業地域・商業地域・準工業地域・第一種住居地域(3,000㎡以下)。
  • 大阪府八尾市:第二種住居地域・準住居地域・近隣商業地域・商業地域・準工業地域・第一種住居地域(3,000㎡以下)。
  • 大阪府寝屋川市:第二種住居地域・準住居地域・近隣商業地域・商業地域・準工業地域・第一種住居地域(3,000㎡以下)。
  • 新潟県新潟市:市街化調整区域内。
  • 福岡県北九州市:郊外部の市街化調整区域、第1種・第2種低層住居専用地域。

ⅳ.東京23区の上乗せ条例

民泊新法と旅館業法で定めたルールを超えて、物件の所在地を管轄する自治体による条例、いわゆる上乗せ条例を定め、さらにルールを厳しくしている場合があり、自治体ごとに条例の内容は異なります。図表5は、東京23区の上乗せ条例一覧(旅館業法・民泊新法)です。民泊新法は家主不在型5の場合に該当する内容としています。民泊新法で上乗せ条例が存在しない区は、「墨田区・豊島区・北区・葛飾区・江戸川区」の5つですが、それ以外の区では営業日が制限されるところも多く見られます。また、旅館業法では、スタッフ常駐やフロント設置を要件とするなど要件が厳しくなっている区が見られます。

【図表5】東京23区上乗せ条例一覧(旅館業法・民泊新法)出所:各自治体公表資料及びヒアリングに基づき当社作成(2024年9月時点)
旅館業 民泊新法
常駐業務 フロント 駆けつけ 鍵渡し 家主不在型の宿泊日制限に該当する内容
千代田区 あり あり 直接対面 文教地区等・学校等周辺は日曜日の正午から金曜日の正午までは宿泊不可
中央区 あり あり 直接対面 月曜日正午から土曜日正午までは宿泊不可
港区 なし なし 10分以内 キーボックス不可 住居専用地域・文教地区は下記期間は宿泊不可
・1月11日正午から3月20日正午、4月11日正午から7月10日正午
・9月1日正午から12月20日正午
新宿区 なし なし 10分以内 キーボックス可 住居専用地域は月曜の正午から金曜日の正午まで宿泊不可
文京区 あり あり 直接対面 住居専用地域・住居地域・準工業地域・文教地区は日曜日の正午から金曜日の正午までは宿泊不可
台東区 あり あり 直接対面 月曜日の正午から土曜日の正午まで宿泊不可(祝日、年末年始除く)
墨田区 なし なし 徒歩10分以内 キーボックス不可 上乗せ条例なし
江東区 なし なし 徒歩10分以内 キーボックス不可 月曜日の正午から土曜日の正午までは宿泊不可(祝日の正午から翌日の正午までは除く)
品川区 なし なし 10分以内 制限なし 商業地域・近隣商業地域(文教地区を除く)以外の用途地域は土曜日の正午から月曜日の正午までと平日の祝日は宿泊不可
目黒区 なし なし(施設外可) 10分以内 直接対面 日曜日の正午から金曜日の正午までは宿泊不可
大田区 なし なし 10分以内 制限なし 住居専用地域・工業地域及び工業専用地域、文教地区及び特別業務地区、流通業務地区は不可
世田谷区 なし なし 10分以内 キーボックス不可 住居専用地域は月曜日の正午から土曜日の正午までは宿泊不可(祝日除く)
渋谷区 なし なし 10分以内 キーボックス不可 住居専用地域・文教地区は下記期間は宿泊不可
・4月5日から7月20日まで、8月29日から10月の第2月曜日の前の週の水曜日まで
・10月の第2月曜日の前の週の土曜日から12月25日まで、1月7日から3月25日まで
中野区 なし なし 10分以内 キーボックス可 住居専用地域は月曜日から金曜日まで宿泊不可(祝日除く)
杉並区 なし なし 徒歩10分以内 制限なし 住居専用地域は月曜日正午から金曜日の正午までは宿泊不可(祝日前の正午から祝日後の正午の期間を除く)
豊島区 なし なし 10分以内 直接対面 上乗せ条例なし
北区 あり あり 直接対面 上乗せ条例なし
荒川区 あり あり 直接対面 月曜日正午から土曜日正午までは宿泊不可(祝日正午からその翌日正午までを除く)
板橋区 なし なし 徒歩10分以内 直接対面 住居専用地域は日曜日の正午から金曜日の正午まで宿泊不可(祝日の前日の正午から翌日の正午までを除く)
練馬区 あり なし 直接対面 住居専用地域は月曜日の正午から金曜日の正午までは宿泊不可(祝日の前日の正午から祝日の翌日の正午までを除く)
足立区 なし なし 徒歩10分以内 制限なし 住居専用地域は月曜日の正午から金曜日の正午まで(祝日の正午から翌日の正午までを除く)と12月31日正午から翌年の1月3日正午までは宿泊不可
葛飾区 なし なし 徒歩10分以内 制限なし 上乗せ条例なし
江戸川区 なし なし 10分以内 制限なし 上乗せ条例なし

ここまで各制度や東京23区の上乗せ条例について確認してきましたが、Ⅲ章では、開業までのハードルが比較的低い民泊新法における民泊に焦点を当て、民泊の利用状況や仕組みなどを確認していきます。


5家主不在型とは宿泊者が滞在している間に家主(届出者)が不在となり、住宅宿泊管理業者に管理委託する場合のこと。

Ⅲ.民泊新法の現況と仕組み 

ⅰ.民泊新法の届出状況

図表6は、住宅宿泊事業届出住宅数等の推移です。2024年7月12日時点における住宅宿泊事業の届出件数は42,010件、事業廃止件数は16,684件、届出住宅数は25,326件となりました。届出件数を見ると、2018年の法施行日から19倍まで増加しており、コロナ禍においても増加していることがわかります。2023年以降は、届出件数の増加が加速し、それに伴い届出住宅数も増加しています。一方で、事業廃止件数も増加しています。旅館業または特区民泊へ転用するケースや収益性が見込めないという理由から、事業廃止する住宅宿泊事業者がいることが窺えます。

【図表6】住宅宿泊事業届出住宅数等の推移(全国)
20241210_image7.jpg出所:観光庁「民泊制度ポータルサイト」より転載

ⅱ.宿泊者数・宿泊日数、および外国人宿泊者の割合

図表7は、宿泊者数および宿泊日数の推移です。2020年度以降一貫して増加しています。直近の2024年度4-5月には宿泊者数は325,616 人(前年同期比 131.0%)、宿泊日数は299,719 日(前年同期比 138.4%)に達しており、届出住宅数の伸びと並行して順調な増加が見られます。図表8は、日本国籍を有する宿泊者と外国人宿泊者の割合です。2020年度から2021年度までは、日本国籍の宿泊者が全体の9割以上を占める状況となりました。しかし、2022年度以降は外国人宿泊者の割合が増加し、直近の2024年度4-5月は、外国人宿泊者が全体の5割超を占めています。

【図表7】宿泊者数および宿泊日数の推移
20241210_image8.jpg
【図表8】日本国籍宿泊者と外国人宿泊者の割合
20241210_image9.jpg出所:観光庁「民泊制度ポータルサイト」より当社作成(図表7・8)

ⅲ.民泊新法の仕組み

民泊新法の仕組みについて確認します。図表9は、民泊新法の3種類の事業者の役割と義務を図示したものです。民泊新法では、制度の一体的かつ円滑な執行を確保するため、住宅宿泊事業者、住宅宿泊管理業者、住宅宿泊仲介業者という3つのプレーヤーが位置付けられており、それぞれに役割や義務等が決められています。

【図表9】民泊新法の3種類の事業者の役割と義務
20241210_image10.jpg出所:観光庁「民泊制度ポータルサイト」より転載

(Ⅰ)住宅宿泊事業者

住宅宿泊事業者は、民泊の運営に携わるオーナー(ホスト)を指します。都道府県知事に届出が必要となります。住宅宿泊事業には「家主居住型」と「家主不在型」の2つの選択肢があります。「家主居住型」とは、届出住宅に住宅宿泊事業者が居住して不在とならない民泊(自宅の2階を使用する・自宅の離れを利用する等)で、この場合は自身で管理することができます。家主が不在6となる届出住宅の場合は「家主不在型」となり、「住宅宿泊管理業者」に住宅の管理委託をする必要があります。また、住宅宿泊事業者は宿泊者の衛生・安全の確保、宿泊者の快適性及び利便性の確保、宿泊者名簿の備付け、その他さまざまな義務が課されます。偶数月ごとに、届出住宅に人を宿泊させた日数、宿泊者数、延べ宿泊者数、国籍別の宿泊者数の内訳の届出も必須です。

(Ⅱ)住宅宿泊管理業者

住宅宿泊管理業者は、住宅宿泊事業者から委託を受け、報酬を得て、住宅宿泊管理業を営む者をいいます。国土交通大臣に登録を受ける必要があります。

(Ⅲ)住宅宿泊仲介業者

住宅宿泊仲介業者は、旅行業者以外の者が報酬を得て、住宅宿泊仲介業を営む者をいいます。観光庁長官に登録を受ける必要があります。住宅宿泊事業者から民泊に関する物件情報を提供してもらい、Webサイトなどを介して事業者と宿泊者とのマッチングを行ないます。民泊仲介サイトに物件を登録し、仲介業務を依頼する際には手数料が発生します。一般的には、サイト経由で利用されるたびに3~10数%程度の手数料がかかります。


6 一概に定めることは適当ではないとされているものの、家主が不在となる時間は原則1時間とされており、諸々の事情を想定しても2時間程度の範囲とされている。その他、細かな諸規定が法令で明確に示されている。

Ⅳ.民泊の収支について

近年、民泊投資を検討する投資家が増えています。民泊ビジネスを始める際には、どれくらいの収益が期待できるのか気になるところです。民泊ビジネスにはさまざまな費用がかかるため、ここで確認していきます。
図表10は、民泊(運営代行)と民泊(賃貸・サブリース)、住宅(賃貸:管理委託)の収支概念を民泊の運営代行会社へのヒアリング内容も踏まえ図示したものです。図表11は、民泊営業に必要な費用を示しています。民泊ビジネスを始める際には、物件購入費用に加えて、リフォームを要する場合はリフォーム費用、家具・家電や備品の購入費用、消防用設備の設置費用、開業許可申請代行費用などの初期費用が必要です。また、民泊運営中には住宅宿泊管理業者や運営代行会社への運営代行手数料や清掃費などの民泊運営費用が発生します。さらに、固定資産税や建物メンテナンス・修繕費用、保険料など維持管理費用もかかります。

【図表10】民泊(運営代行、賃貸:サブリース)、住宅(賃貸:管理委託)の収支概念図
20241210_image11.jpg出所:各種資料、民泊代行・賃貸業者ヒアリング内容より当社作成
【図表11】民泊営業に必要な費用
20241210_image12.jpg出所:各種資料、民泊代行・賃貸業者ヒアリング内容より当社作成

ⅰ.民泊(運営代行)の場合

民泊運営代行とは、外部の運営代行会社がオーナーに代わって民泊の運営を行うサービスのことを指します。運営代行会社は、宿泊施設の管理や運営に関するさまざまな業務を行い、オーナーに代わって宿泊予約の管理、清掃、チェックイン・チェックアウトの手続きなどを担当します。運営代行の利点は、オーナーが宿泊施設の日々の管理にかかる労力や時間を削減できることです。収入面では、宿泊料や稼働日数によって収入拡大の余地があります。旅館業法に基づく民泊の場合は、営業日数制限がないため収益面でのメリットが大きく、民泊新法に基づく民泊では、年間の営業日数が180日以内の制限があり収益面で劣るため、未稼働時期をマンスリーマンション※として活用するなど工夫が必要です。
費用面では、売上の15~20%程度が運営代行会社への手数料として発生するため、収益面での考慮が必要です。運営代行業務の範囲や手数料は運営代行会社ごとに異なりますので、収益面や労力を考慮して運営代行会社を選定する必要がありそうです。一方で、繁忙期や閑散期などの季節要因、近年のコロナショックや景気変動などの外部環境の変化により、収益面でリスクが生じる可能性があります。また、近隣に設備の整ったホテルや旅館が存在する場合、収益に影響を及ぼす可能性があります。


※マンスリーマンションとしての運用では、1か月以上の滞在契約を結ぶことが一般的であり、この場合、旅館業法ではなく、借地借家法が適用されます。

ⅱ.民泊(賃貸:サブリース)の場合

民泊用賃貸とは、オーナーが所有している不動産を貸し出し、賃借人(運営代行会社や住宅宿泊管理業者)が民泊サービスを提供することです。この場合、収入は家賃となりますので、民泊施設の稼働状況に関わらず安定した収入を得ることができます。また、住宅賃料相場よりも高い賃料が得られる立地や商品の場合、住宅(賃貸:管理委託)よりも収益が拡大する可能性もあります。しかし、賃貸:サブリースの場合も未稼働時期をマンスリーマンションとして活用するなど工夫が必要です。

Ⅴ.まとめ

以上、国内の民泊事業における3つの制度と上乗せ条例並びに収支構造について確認しました。民泊は現在の日本が抱える宿泊施設の不足や空き家問題という大きな課題に大いに貢献できる可能性を秘めており、今後さらなる成長が期待される不動産ビジネスの一つです。特に外国人観光客の急増により、民泊はますます重要性を増しています。
一方で、民泊投資を行うためには民泊に関連する法規制だけでなく、自治体の条例や消防法、建築基準法など、さまざまな法令や条例の遵守が求められます。特に各自治体の上乗せ条例は、開業のハードルを高めています。収益面でも、民泊新法で民泊運営を行う場合は、営業日数の制限などを考慮しながら、民泊投資を行うエリアを慎重に選定する必要があります。最後に民泊の制度、運営方式別に事業ハードル・リスクとリターンの関係を図に表し、住宅(賃貸:管理委託)と比較しました(図表12の通り)。それぞれメリットとデメリットがありますので、これらの要素を踏まえながら、どの制度、運営方式を選択するか検討する必要があります。

【図表12】住宅(賃貸)と民泊運営の比較イメージ(事業ハードル・リスクとリターンの関係)
※一般的な住宅(賃貸)と比較
20241210_image13.jpg出所:各種資料、民泊代行・賃貸業者ヒアリング内容より当社作成

提供:法人営業本部 リサーチ・コンサルティング部

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