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老後の暮らしとお金のコラム家族に迷惑をかけない相続

2017/08/28
財産は不動産だけ。という方のための相続対策

財産は自宅だけ、しかも複数いる子ども(相続人)の中には、親(被相続人)と同居し、介護など面倒をみている人がいる。
そんな、少し複雑な事情を抱えた不動産を「争族」なく相続するにはどうしたらいいのでしょうか?
自宅を売却し、現金にして分けますか?
もし、自宅を手放さずに子どもたちも争わないで済む方法があればいいですよね。
事前に対策することで揉めなくても済むかもしれないヒントを、事例を交えてご紹介します。

親と同居し、その面倒もみているのに実家を相続できない?

例えば、親と同居して扶養していたり、介護をしている子どもが、親がなくなった際に実家を相続できなかったという話を聞いたら、皆さんはどのように思われますか?
「そんな馬鹿な、実家は親の面倒をみていた子どものものだろう」
「親の面倒をみていたとしても、相続の権利は平等では?」
など、いろんな意見をお持ちの方がいらっしゃることでしょう。

以前、私のところに来られたお客様(以下A様)、次のような相続の相談を受けたことがありました。

「父親名義の家を新築に建て替え、土地は父親名義、建物は夫名義で現在ローンを支払っています。
他には、私が受取人の生命保険が約1,000万円、現金が200万円ほどあるだけ。
税理士さんの話では相続税評価は2,000万円になるそうです。
私には兄がいますが、亡くなった母親の介護を手伝ってくれたことはなく、父親の生活の面倒も私たち夫婦で看ています。
そのような状況ですが、実家を確実に私たち夫婦のものにするには、どうすれば良いでしょうか?」

不動産には一物四価といって、4種類の公的土地評価が存在します。

①国土交通省が公表する公示価格
②都道府県が公表する基準価格
③国税庁が公表する路線価
④総務省が公表する固定資産税評価額

また、実際に売買するときの時価を加えて、一物五価とする場合もあります。
この価格の違いが相続の時にはよく問題になります。
税金を計算する際は③の路線価を用いますが、実際に遺産分割する際には時価を用いるからです。

A様も、相続税評価を2,000万円としながら土地の時価(売買価格)は3,000万円になるとのことでした。
相続税は基礎控除の範囲内に収まるので支払う必要はありません。
時価にて兄妹で遺産分割をした場合、現金200万円はお葬式代に消えたとして、兄には法定相続分(1/2)の1,500万円を受け取る権利があります。
生命保険の1,000万円を兄に渡したとしても500万円不足することになります。

A様は実家を新築するにあたって、現金を使い果たしており500万円を支払うのは現時点では苦しく、心情的にも兄に法定相続分を支払うことに抵抗がありました。
そこで、私のビジネスパートナーである弁護士と一緒に提案した解決策は、父親に「公正証書遺言」を遺してもらうということでした。

民法第877条では、「直系の血族、それに兄弟姉妹はお互いに扶養する義務があり、家庭裁判所は、特別の事情があると認めたときには、三親等内の血族や姻族に対して、扶養の義務を負わせることができる」と記されてあるため、残念ながら親の面倒を看ていたという理由だけでは、法定相続分よりも多く財産を相続することは難しいのです。
しかし、公正証書遺言で「不動産は妹に相続させる」と明記し、「また兄には遺留分(※)を相続させる」としておけば、750万円を兄に渡せば法的には問題がないことになります。
※遺留分=法定相続分×1/2
(この例の場合、兄の法定相続分は1/2でその1/2が遺留分)
幸いにもA様が受取人となる生命保険1,000万円があるため、そこから兄に750万円を遺留分として渡せます。
ただ、これでは兄妹仲が悪くなる恐れがあるため「付言事項」に父親の想いを遺してもらうことにしました。
遺言には付言事項といって、法的効力はありませんが、補足として想いを遺せる部分があり、そこに「妹夫婦が自分たち親の面倒を看てくれたので不動産を遺してやりたい」こと。
「兄は自由にさせてきたので遺留分で納得して欲しい、自分が亡きあとも兄妹仲良く幸せな人生を送ってくれるとお父さんは嬉しい」という趣旨のことを、父親に書いていただきました。

生命保険を活用すれば、分けられない不動産が分けられる

A様の例では、公正証書遺言を遺すことを父親が快諾してくれたので、分けにくい不動産をなんとか分けることができました。
しかし、もし生命保険がなかったらどうなっていたでしょう?
実家を売却することは現実的に難しいため、兄への遺留分が支払えず、いくら付言事項で父親が想いを伝えたとしても、遺留分さえもらえない兄は納得しないでしょう。
そんなときに生命保険が役に立ちます。

ちなみに、生命保険は相続対策において主に3つの効果があります。

①納税資金を確保する ⇒ 保険金で相続税を支払う
②非課税枠を利用して節税する ⇒ 500万円×法定相続人数までは相続税がかからない
③代償資金として使用する ⇒ 生命保険は受取人固有の財産のため遺産分割の対象外

不動産が主な財産で法定相続人が複数いる場合、③の効果を活用されるのがおすすめです。
生命保険は相続の対象にはならないので、もし不動産を取得できない相続人がいたとしても法定相続分か、最低でも遺留分を確保することができます。

あとは、念には念を入れて、公正証書遺言+付言事項、できればエンディングノートも用意してもらえるとベターです。
エンディングノートとは、自分にもしものことがあったときのために、自分の想いや家族に伝えておきたいことをまとめておくノートです。
親の意思を法的に確実に実行するには公正証書遺言が有効ですが、それだけでは揉めてしまうかもしれません。
その点を付言事項で補い、さらに詳細をエンディングノートにして遺しておけば、大切な家族が揉めることは少なくなるでしょう。

打つ手のない不動産はどうなってしまうのか

皆さんも新聞などで「空き家」という言葉を聞いたことがあると思います。
その中でも、最近は特に「相続空き家」が増えてきています。
この相続空き家は、親の実家しか財産がなく子どもが複数いる場合に起こりやすい傾向にあります。
相続人が3人いたとして、生命保険もないとしたら、どうやって分ければよいのでしょう。

単純に実家を売却して分けることができればよいのですが、公正証書遺言がない場合は遺産分割協議をする必要があります。
そのような場合、同居をして親の面倒を看ていた子どもがいたとしたら、実家を売却することに同意するでしょうか?
そのようなケースから、相続人同士が揉めてしまい、その末に相続空き家となってしまうことがあるのです。

相続対策はいつ始めても早いということはありません。
むしろ、グズグズと後回しにしてしまったことで、手遅れになってしまうケースがほとんどです。
特に、分けにくい不動産をお持ちの方は早目に対策をして後悔しないようにしていただきたいと思います。

執筆者:一橋香織

AFP 相続診断士 家族信託コーディネーター 終活カウンセラー上級。
頼れるマネードクターとしてこれまでに1,500件もの相続・お金の悩みを解決した実績を持つ。講演・メディア出演多数。システムダイアリー社の「エンディングノート」監修。
著書「家族に迷惑をかけたくなければ相続の準備は今すぐしなさい」(PHP出版)。
相続診断士事務所「笑顔相続サロン」代表 東京相続診断士会会長。
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