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老後の暮らしとお金のコラム知らないと損をする相続・贈与対策

2014/07/07
いつまで自宅に住む?元気なうちに自分で決断しよう

いつまで自宅住み続けられるか?

自分たちで購入し、子どもたちが生まれ育った家にはいろんな思い出や思い入れがあるものです。誰しも、最後まで住み慣れた自宅で暮らし続けたい気持ちがあるでしょう。しかし、現実では、ずっと住み続けることが難しくなることも想定されます。
たとえば、子どもたちが家を離れても、夫婦2人で生活できるうちは問題ありませんが、どちらかが先に亡くなり、独り暮らしになった場合はどうでしょう?
あるいは、子どもとの同居が望めず、夫婦2人の生活で80代、90代になった場合、それでもずっと今の家に住み続けられるでしょうか?

税金相続も合わせて対策をする

いずれは訪れる相続のことを考えると、家を所有する人が自分の家をどうするかを自分の意思で決めておくことが、一番の節税対策です。なぜなら、自宅を売る場合、所有する人が売却することで居住用財産の3,000万円控除の特例が活かせるからです。
また、自宅の評価をした際に相続税の基礎控除を超えることが確認できても、同居する配偶者に子供がいない場合は、自宅に住む相続人がいないため、居住用の特例が使えず、節税することはできません。たとえば、自宅を売却し、老後の不安がないケア付き賃貸マンションに住みかえるとともに、売却代金で賃貸物件を購入すれば、財産評価は下落。賃貸事業での小規模宅地等の特例を活かせるようになるので、節税効果が出せます。

認知になったら対策できない。本人の意思確認不可欠

超高齢化社会に突入し、財産を持つ人の年齢もどんどん上がっています。60代から高齢者と言われますが、70代、80代の方は増え、いまや90代の方も珍しくはありません。
どなたも元気で長生きをされるならよいのですが、体は元気でも意思能力が低下し、「認知症」と診断をされる人も増えてきました。しかし、銀行預金の引き出しや不動産の売却など、すべてのことは「本人の意思確認」が原則です。「認知症」と診断されたり、その後、成年後見制度(※)によって財産管理をする成年後見人が選任されると、相続人全員の合意があっても相続問題はなかなか前に進みません。

※成年後見制度...認知症や知的障害、精神障害のある方など、判断能力が不十分な人の財産管理や生活・医療・介護などに関する、代理権や同意権・取消権が付与された成年後見人等が行う仕組み。成年後見人は家庭裁判所の審判によって選任される

【実例】クリニック併設の自宅を売ってマンションに住み替えたHさんの場合

Hさん:80代男性 相続人:Hさんの奥さん+子ども3人

夫婦2人暮らしのHさんは80代、奥さんは70代。開業医のHさんは所有するビルの1、2階でクリニックを経営し、3階を自宅としていました。ビルは築40年。頑丈な造りなので、それほど老朽化した感じではありませんが、用途が限られており、80歳のときクリニックをやめたあとは再利用が難しい状況でした。3人いる子どもたちがクリニックを継ぐこともありませんでした。

このままでは、自宅の固定資産税だけでも負担です。また、不動産がひとつしかないため、相続の時に子どもたちに分けることもできません。さらにクリニックをやめた後は収入がなく、これから先の生活も不安でした。

そこでビルを売却することを決意。自宅を売却すると居住用の特例が活かせ、売却金のうち3,000万円までは譲渡税がかかりません。ビルは財産評価額をやや下回る1億2,000万円で売却でき、売却代金の半分程度で分譲マンションに住みかえ。残った売却代金は子どもたちに相続することを想定し、賃貸用の区分マンションを2ヵ所購入しました。これにより、家賃収入が入るようになって金銭的に余裕ができ、今後、ケア付きマンションに移ることを想定しても、資金面での心配がなくなりました。

[対策前]
●財産評価 1億6,800万円
内訳
所有ビル(自宅・土地・建物):1億2,800万円
その他(預金、有価証券):4,000万円
[合計]1億6,800万円

●相続税 1,715万円(改正法)
(計算式)
1.課税価格の合計額から相続税の基礎控除額を差し引き、課税遺産総額を計算します。
 財産評価 1億6,800万円 - 基礎控除 5,400万円(3,000万円+600万円×法定相続人数 4人)=1億
 1,400万円
2.奥さんの課税遺産総額を法定割合2分の1と想定し、5,700万円に税率30%を掛け、定められた控除
 額700万円を引きます。
 5,700万円×30% - 700万円=1,010万円
3.子ども1人の課税遺産総額を法定割合6分の1と想定し、1,900万円に税率15%を掛け、定められた控
 除額50万円を引きます。さらに3人分を合算します。
 1,900万円×15% - 50万円=235万円、235万円×3=705万円
4.奥さんと子ども3人の相続税を合算し、合計額を出します。
 1,010万円+705万円=1,715万円

◇対策
1.自宅とクリニックが入ったビルを1億2.000万円で売却。居住用財産の特例が適用(不動産を売却し
 て生じた所得から3,000万円の控除)され、売却金に対する課税(譲渡税)は1,339万円に。さらに
 仲介手数料などの諸経費を差し引いて1億円が手元に残る。
2.1億円のうち6,000万円で自分たちが住む分譲マンションを購入。評価額は50%と想定し、3,000万
 円に。
3.1億円のうち4,000万円で2戸の区分マンションを購入。評価額は30%と想定し1,200万円に。

[対策後]
●財産評価 8,200万円
内訳
自宅マンション:3,000万円
区分マンション:1,200万円
その他(売却金の残金、預金、有価証券):4,000万円
[合計]8,200万円

●相続税 約298万円
(計算式)
1.課税価格の合計額から相続税の基礎控除額を差し引き、課税遺産総額を計算します。
 財産評価 8,200万円 - 基礎控除 5,400万円(3,000万円+600万円×法定相続人数 4人)=2,800万
 円
2.奥さんの課税遺産総額を法定割合2分の1と想定し、1,400万円に税率15%を掛け、定められた控除
 額50万円を引きます。
 1,400万円×15% - 50万円=160万円
3.子ども1人の課税遺産総額を法定割合6分の1と想定し、約466万円に税率10%を掛けます(控除な
 し)。さらに3人分を合算します。
 466万円×10%=約46万円、約46万円×3=約138万円
4.奥さんと子ども3人の相続税を合算し、合計額を出します。
 160万円+約138万円=約298万円

【節税額】対策前の相続税 1.715万円 - 対策後の相続税 約298万円 = 節税額 約1,417万円

※さらに小規模宅地等特例、配偶者の特例を適用すれば0円にすることも可能です。

Hさんの場合、早めにご自身で決断されたことで、安心できる老後生活を手に入れられました。
自宅をどうするのかを決断するべきターニングポイントは...

・夫婦2人暮らし、もしくは、独り暮らしで高齢になってきた
・自宅は相続税がかかり、同居する相続人がいない
・老後は子供の世話になりたくない、あるいは世話してもらえない
・認知症にはなっていない

など。自分の意思でしっかり決断し、残された家族が相続問題で困らないように心がけましょう。

執筆者:曽根恵子

公認 不動産コンサルティングマスター、相続対策専門士。日本初の相続コーディネーターとして1 2000件以上の相続相談に対処。感情面、経済面に配慮した“オーダーメード相続”を提案し、家族の絆が深まる「夢相続」の実現をサポートしている。NHK「あさイチ」」、TBS「はなまるマーケット」、フジ「とくダネ」などに出演。新聞、雑誌の取材も多数。「相続税を減らす生前の不動産対策」(幻冬舎)など著書多数。
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