岸田総理大臣施政方針演説に見る不動産市場への影響<2023年1月>

2023年1月23日 第211回国会において岸田総理大臣の2度目となる施政方針演説 (他所信表明演説3回)が行われました。演説にて表明された内容から、大都市圏等の不動産市場に関連する事項について考えてみたいと思います。

Ⅰ.施政表明演説の経済面の概略

岸田総理大臣の施政方針演説で語られたテーマとおおよその分量(首相官邸HP掲載の行数べースは以下の通りです(出所:首相官邸HP より野村不動産ソリューションズ作成 以下同じ)

前回の所信表明演説(以下「前回演説」)から3ヶ月半の期間を経ました。基本方針は変わらないものの、前回演説にはない項目もありました。

前回演説にて、経済に関連して新たにとりあげられた事項のほとんどは、今回も「四 新しい資本主義」に項目として設定されています。

「(二)物価高対策」では、「足下に」「的確に対応」、「今後も必要な政策対応」を行うとしています。

「(三)構造的な賃上げ」では、「賃上げ」について「公的セクター」「政府調達に参加する企業」「中小企業」への対応が取り上げられました。生産性の向上については、前回演説での「リスキリング」「労働移動」に加え、「非正規雇用の方の正規化」「日本型職務給の確立」があげられました。

「四 投資と改革」 では、前回重点とされた「(GX)」、「(DX)」、「(イノベーション)」、「(スタートアップ)」に加え、「(資産所得倍増プラン)」があげられています。


また、「六 包摂的な経済社会」でも経済関連の事項が取り上げられています。「(女性)」が項目設定され、「女性の就労の壁となっているいわゆる百三万の壁や、百三十万の壁といった制度の見直し」を行うとされています。「(地方創生)」では目玉政策である「デジタル田園都市国家構想」、のほか、「観光」「農業」「公共交通」「企業立地支援」「海外人材」「施設整備」と多くの項目が掲げられています。観光では、「外国人旅行者の国内需要五兆円、国内旅行需要二十兆円という目標の早期達成」が記載されています。


Ⅱ.大都市圏の不動産市場に関連する事項


各章でとりあげられた今後の不動産市場に関連する項目についてとりあげます。

不動産に与える影響は、一部を除き、前回演説時と大きな違いはないと考えます。

1. 各章に記載された不動産に関連された事項


ⅰ.「(三)構造的な賃上げ」


「中小企業」がとりあげられた一方、大企業について言及はありませんでした。大企業の賃上げは実行段階にうつっているとの認識があるからだと考えます。


前回演説の当社レポートでは、日本の労働生産性の向上やそれに伴う賃上げは必須であるものの、賃上げ自体は、コスト増となる要因でもあるため、企業業績の悪化や採用の抑制につながる可能性を否定できない旨記載しました。今回もその可能性は完全には否定できないものの、日銀短観の人員の項目では、新卒採用は活発、雇用はひっ迫している業種が多くなっている状況です。したがって賃上げを理由としたオフィスの空室増加は考えにくい状況といえるでしょう。


短期的にも悪影響が考えにくく、
労働者の最適配置・付加価値増加は、賃料負担力の増加につながり、中長期的には大きなプラスの影響となることが期待されます。


ⅱ.
「四 投資と改革」


今回とりあげられたどの分野も経済の活性化につながり、いずれは不動産需要につながるものです。とりわけ「(資産所得倍増プラン)」は、「(GX)」とともに、東京都の国際金融都市化、ひいては活発なオフィス需要にも大きく関連する事項になることが期待されます。貯蓄から投資への流れやグリーンファイナンスの拡大により、外国の資産運用会社のビジネスが拡充され、周辺ビジネスも含めた多くの外国人の日本での就業が促されるからです。


「六 包摂的な経済社会」でとりあげられた、女性の就労の壁の「制度の見直し」は岸田政権ではあまり目立った議論がなされなかった印象を持っています。「非正規雇用の方の正規化」との相乗効果が発揮され、女性の時間がより多く労働市場に供給されれば、オフィス市場や世帯所得にプラスの影響を与える可能性があると考えます。


一方、デジタル田園都市国家構想について、その戦略において、2021年度は83,827?の転?超過であった東京圏への転入2027年度に東京圏の転出と均衡させると目標を定めています。東京圏[1]の人口約37百万人 に対しては0.2%ですが、もし毎年のこととなると不動産市場にも一定の影響が発生するものと思われます。構想実現のためのさまざまな施策が、検討者に移住(または地方にとどまる)ことを決意させるほどのものか、注目されます。


なお前回は円安対応が掲げられていましたが、今回は取り上げられていません。前回演説で、円安対応に関連する事項とされていた「観光」は、今回は「(地方創生)」でのトピックスになっています。前回演説で設定された「外国人旅行者の国内需要」[2]の年間5兆円の目標金額は、今回ものべられています。円安メリットがない中で、どのようにして過去最高の需要を達成するのか、その施策が注目されます。



2.まとめ


労働者の生産性向上を含む構造的賃上げ方針、就業の壁の排除の検討、資産所得増加プラン、観光活性化等、中期的に大都市圏の不動産市場が活性化する方針が打ち出されています。しかしながら東京圏の転入・転出の均衡化は、他の大都市圏への追い風になる可能性がある一方、東京圏には逆風となる可能性があります。デジタル田園都市国家構想戦略の施策の実行やその効果の推移に着目する必要がありそうです。




[1] 東京都・神奈川県・埼玉県・千葉県
[2] 前回演説では外国人旅行消費額


提供:法人営業本部 リサーチ・コンサルティング部

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