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特集コラム

#マンションの間取り考

2022.08.04

「子育てがしやすい」マンション選びと間取りのポイント

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前回までは、マンションの間取り図によく見られる略語や数字が持つ意味、広さや向きの確認方法、間取り図の読み方とチェックポイント、マンションの間取りの分類などを解説いたしました。これからは具体的にテーマを決め、そのテーマにあう間取りの選び方をお伝えしてまいります。今回のテーマは「子育てがしやすいマンションと間取り」です。

親の負担が大きい現代の子育て事情

少し前まで子育ては、同居または近居する祖父母やおじ・おばなど親戚ぐるみで、または近所の人に見てもらうなど、助け合って行っていました。ところが近年になり、主に都市部において「夫婦のみ」または「夫婦と未婚の子のみ」など「核家族」の世帯が増える一方で三世帯同居の数は減り、その結果、子育ては親のみで行う家庭が多くなりました。さらに共働きをする夫婦も増え、子育て世代は仕事と子育ての両立で忙しく、負担も大きくなっています。

現代の子育てにマンションが向く理由

マンションは同じような年代で、家族構成が似たファミリーが集まる傾向があります。同じマンションに住んでいると子育てに関する情報を共有しやすく、子どもたちにとっても同年代の子どもが近くにいて遊びやすいなど、子育て世帯にとってさまざまメリットがあります。

マンションはセキュリティが高く、共働きで子どものみで留守番をすることがある家庭にとっては安心であること、共用施設としてキッズスペースやパーティルーム、専用庭があれば外に行かなくても子どもが安全に遊ぶことができ、また親同士の交流を深めることもできます。いわば「マンションのコミュニティ」が親戚や近所に代わって子育ての一端を担うようになってきたと言えます。

子育て世帯に向くマンションとは

本コラムの本題である「マンションの広さ、間取り」のお話の前に、子育てしやすいマンション選びで大切な立地について簡単に触れます。

立地
子育てという観点で見た立地もマンション選びで大切な要素です。購入後長くお住まいになるという想定であれば、子どもの成長を見越した立地選びをすると良いでしょう。具体的には、学区内の学校までの距離、塾や習い事教室、スポーツクラブ、公園などの周辺施設の有無はチェックしておきたいです。

広さ、間取り
子育て世帯に向く間取りを考える時、まずはどの程度の専有面積があるとよいか見てみましょう。ひとつの指標として国が掲げる「誘導居住面積水準」があります。誘導居住面積水準とは、世帯数に応じて、豊かな住生活を実現するために「このくらいの広さがあるとよい」と考えられる、理想の住まいの広さです【表1】。

【表1】誘導居住面積水準(赤枠内:マンションの場合)

これによると、都市部のマンションで3人世帯なら75m2(3~5歳児が1名いる場合は65m2)、4人世帯なら95m2(同85m2)が理想の広さとなります。

この広さは一つの目安となりますが、現状では都市部で供給されているマンションはコンパクト化が進み、1戸当たりの平均専有面積は70m2前後、間取りとしては3LDKが全体の7割を占めています。

これに準じた住戸であれば数多くあるので選びやすい一方で、4人家族なので90m2程度の4LDKがいいな、と思っても、そういった間取りの数は少ないため、見つけるのは少し難しいかもしれません。

また、専有面積が広くなればなるほど販売価格が高くなるため、予算との兼ね合いもあり、それぞれの家庭の事情により適切な広さは変わってくると言えます。もし専有面積に余裕がなければ、子どもの成長に従って住まい方を工夫できる、可動性間仕切り建具などを使用した可変性の高い間取りを選択するとよいでしょう。

子育て世帯に人気のセミオープンキッチン

現在、子育て世帯に人気があるのは、キッチンがリビングに対面しており、一部の壁がオープンになっているセミオープンキッチンの間取りです。【写真1】はセミオープンキッチンのキッチン側からリビング方向を見ています。キッチンで作業をしていてもリビングにいる子どもの様子を見ることができること、リビングにいる家族とコミュニケーションを取りやすいことなどが人気の理由です。

【写真1】セミオープンキッチンよりリビングを見る

小さな子どものいるファミリーにおススメの間取り

【図1】リビングインの子ども部屋がある角部屋

【図1】は専有面積82m2、3LDKの間取りです。第3回で「角部屋の間取り例」として紹介しました。この間取りの洋室(2)と洋室(3)はリビング・ダイニングから直接入れるリビングイン形式で、子ども部屋として人気があります。

特にこの間取りは二つの洋室が広さもほぼ同じでそれぞれに窓があり、収納も充実しているため、子どもが二人いるファミリーにとっては理想的な間取りではないでしょうか。この「リビングイン」という言葉は最近とてもよく耳にしますが、メリットとともにデメリットもあるので注意が必要です。

【リビングインの子ども部屋のメリット】
・キッチンにいても、子ども部屋にいる子どもの様子がわかりやすい
・子ども部屋に入るためには必ずリビング・ダイニングを通るため、子どもの顔を見る回数が増える
・子どもの家の出入りを把握しやすい
・子どもの友達が来た時なども様子がわかりやすい

【リビングインの子ども部屋のデメリットと注意点】
・プライバシー性はやや低く、子どもが成長した時に嫌がる可能性がある
・リビングの音が子ども部屋に伝わりやすく、夜遅くにリビングから出る音(会話・テレビ)に注意が必要
・リビングに隣接している個室でも、窓がない場合は閉め切って使用することもある子ども部屋には不向き。

次に子どもが大きくなったファミリーに向く間取りを紹介します。

子どもが大きいファミリーにお勧めの間取り

【図2】タワーマンションの間取り例

【図2】は専有面積83m2、3LDKの間取りです。間取りの特長は「PP分離」になっていることです。PP分離とは、パブリック空間(リビング・ダイニング)とプライベート空間(個室)がきちんと分けられていることを言います。このようなPP分離の間取りはタワーマンションに多く見られます。

洋室(1)~洋室(3)まで3つある個室にはそれぞれ廊下からダイレクトに入るため、それぞれの個室の独立性は高くなります。また、リビングにお客様が来ていても、顔を合わせることなく自室に入ることができます。PP分離になっていて、それぞれの空間の独立性が高いという点で、子どもが比較的大きく自立しているファミリーに向く間取りです。

最もポピュラーな田の字プランは子育てに向く?

最後にもう一つ、マンションで最もポピュラーな田の字プランと子育てのしやすさを考察してみたいと思います。【図3】は第3回にも出てきた田の字プランの一例です。

【図3】田の字プランの例

田の字プランの場合、バルコニーに面した洋室(2)と外廊下側の洋室(3)を子ども部屋として使用することが多いでしょう。洋室(2)はバルコニーに対して掃き出し窓があり、明るく自然通風を得やすいため、子ども部屋としてよい室内環境が整っています。また、人気のリビングインでもあり、子どもが小さい時はここを子ども部屋として使うことをお勧めします。三本引き戸を開け放してプレイルームや勉強するスペースとしても適しています。

子どもが二人いる場合は、洋室(3)も子ども部屋として使いますが、こちらは廊下から直接入る形で独立性が高いため、年長の子どもの部屋として使うとよいでしょう。こうしてみると、田の字プランも子育てをしやすい間取りと言えるでしょう。田の字プランは最もポピュラーで多くつくられているため、選択肢も多く、選びやすいというメリットもあります。

子どもは成長し、独立していくもの。長いスパンで子ども部屋を考えよう

今回は、角部屋、タワーマンションの間取り、田の字プランの3つの間取りを例に、子ども部屋に着目して解説をいたしました。ひと口に「子ども部屋」といっても、子どもの年齢に応じて、親の目の行き届き方やプライバシー性など必要な条件が変わっていきます。

小さい頃はリビングインの子ども部屋で見守っていた子どもも、成長とともに反抗期を迎え、顔を見合わせなくて済む時間も必要となり、独立した子ども部屋が欲しい時期もあるでしょう。そして、あっという間に独立していってしまいます。

長いスパンで見たときに、子どもが一緒にいる時間は一定期間内のため、子どもが巣立った後にその空間をどう利用するか、先のことまで考えて、理想の間取りを見つけていただきたいと思います。

井上恵子(いのうえ・けいこ)

井上恵子(いのうえ・けいこ)

住まいのアトリエ 井上一級建築士事務所主宰/一級建築士/インテリアプランナー
総合建設会社の設計部で約14年間、主にマンションの設計・工事監理、性能評価などを担当。2004年の独立後は生活者の視点から「安心・安全・快適な住まい」「間取り研究」をテーマに、webサイトでの記事執筆、新聞へのコラム掲載、マンション購入セミナーの講師として活動。
著書に「住宅リフォーム計画」(学芸出版社/共著)「大震災・大災害に強い家づくり、家選び」(朝日新聞出版)などがある。夫と子ども2人との4人暮らし。
住まいのアトリエ 井上一級建築士事務所 http://atelier-sumai.jp/

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