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#マンション構造のヒミツ

2019.05.21

マンションの外壁は、やっぱりタイル張りがいい!?

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マンションの外壁は、特に分譲タイプではタイル張りがスタンダードとなっています。高級感が醸し出されることが大きな特徴ですが、機能やメンテナンスの面で優れていることも、数多く採用されている理由でしょう。そうしたタイルの種類や、タイルがどのように取り付けられているかを知っておけば、長期にわたってタイルと付き合うコツが分かります。

タイル張りのマンション外観

最初のコストは高くてもメリットが多いタイル仕上げ

マンションの外壁は、建物全体の雰囲気を決定づけ、風雨や日差しから建物を守る役割をもつ重要な部位です。建物の構造に関わるコンクリートの面は、そのままでは傷みやすく汚れやすいため、表面には何らかの仕上げが施されます。中でも人気があるのは、タイル仕上げです。

タイル仕上げは、もとはヨーロッパのレンガ造に由来するもので、格調の高さが感じられます。レンガの表情を模したレンガタイルから発展し、現在では焼成するときの温度や方法、またタイルの表面に施す釉薬(ゆうやく・うわぐすり)の種類によって、さまざまな色調や表面の質感をもつタイルが販売されています。

タイル張りになっているマンションの外壁

タイルの分類は、釉薬の有無、成形方法による種類(押出し成形/プレス成形)、そして吸水率による種類によって分けられます。以前は性質や焼く際の温度によって「磁器質」「せっ器質」「陶器質」と呼び分けられていましたが、現在のJISでは製法にかかわらず吸水率で「I類」「II類」「III類」と区分されるようになりました。

ただし、設計や施工の現場では「磁器質」「せっ器質」「陶器質」という用語も使われており、メーカーのカタログにも「AⅡ[せっ器質]|無釉]のように旧区分表記が併記されている場合があり、I類が磁器質、II類がせっ器質、III類が陶器質にほぼ対応します。またカタログでは、「屋内壁」「屋内床」「屋外壁」「屋外床」など、該当するタイルを使用できる部位が表示されています。外装用のタイルとして用いられるのは、吸水率の低いI類とII類がほとんどです。

図1:タイルの成形方法及び吸水率による種類

設計者はメーカーの推奨する使用個所や現物の表情やサイズを見て、またコストを比較検討しながら、慎重に選んでいきます。また「割付(わりつけ)」といって、タイルの目地をきれいに揃えながら壁の大きさにピッタリと合わせる検討も、時間をかけて行われます。

タイルのサイズはレンガに由来する「小口平(こぐちひら)」という60×108mmの長方形を基本としたもの、「45二丁(よんごにちょう)」と呼ばれる45×95mmとやや小型のもの、「ボーダータイル」という細長いもの、正方形のものなどがあります。また、コーナーの出っ張った部分などでは「役物(やくもの)」と呼ばれる特殊な形状のタイルが使われます。

図2:タイルの種類とサイズ

タイル仕上げは、長い期間に渡って汚れが目立ちにくく、傷みにくいのが大きなメリットです。材料費や工事費の初期コストは塗装よりも高くなりますが、数十年住み続けるマンションではメンテナンス費用も定期的にかかってくるため、耐久性や汚れにくさは重要な要素です。また、タイルは耐熱性や耐火性、防水性も比較的高いです。

タイル仕上げが主流になる前に普及していたのは吹き付けタイル

マンションの外装には、「吹き付けタイル」もよく用いられています。これはタイルという名前が付いてはいますが、塗装による仕上げです。合成樹脂とモルタルなどを混ぜ合わせた材料を吹き付けて、外壁を覆うものです。

塗装であるのに吹き付けタイルというのは、塗装表面がタイル表面に似ているためです。ツルツルした表面で水をよくはじき、汚れが付きにくい特徴があります。

タイル仕上げが主流になる以前は、この吹き付けタイルが一般的でした。色はさまざま選べますし、専用ローラーを使って表面に模様を付けることもできます。ただし、タイルに比べると汚れやカビは付きやすく、大規模修繕ごとに塗り替えが必要となります。

マンションでは、吹き付けタイルがタイル仕上げと組み合わせられている場合も多くあります。道路に面した外壁はタイル張りとし、外からは直接見えないバルコニーの裏側や、共用廊下の壁や腰壁を吹き付けタイルとするものです。これは全面をタイル張りにすると、初期コストが高くなるためです。目立たない個所では、吹き付けタイルを使用して建設費を抑えることができます。

通りに面する左側はタイル張り、側面は吹き付けタイルの建物

外観デザインにあわせて石材の使用やコンクリート打ち放しも

一方で、マンションの顔となるエントランス部分では、石材が用いられることがよくあります。コストはタイルよりも高くなりますが、御影石や大理石を張ることで、重厚な高級感が得られるためです。

バブル経済期には外壁全面に石材を用いた高級物件もみられましたが、現在では部分的に用いられることが多いようです。また、石の表情を再現した大判のタイルも近年では多く流通し、採用される事例も増えています。

エントランスの一部が石張りになっているマンション

コンクリート打ち放しといって、コンクリートのミニマルな表情をそのまま見せる壁も、一定の人気があります。ただし、型枠パネルを取り外したままではコンクリートの壁はざらついていることが多く、モルタルなどで補修して平滑にされます。

また、コンクリートには防水性がないため、表面に水が溜まっていると内部に染み込んでしまいます。そこで、コンクリート打ち放し仕上げでは、表面に水分をはじく撥水剤を塗ります。コンクリートの質感を楽しみたいことから、できる限り透明で、何も塗っていないように見える撥水剤が開発されています。

コンクリート打ち放しのマンション

経年による浮きや剥離と、メンテナンス

タイルの張り付け方は、コンクリート面にモルタルを下地としてタイルを圧着する「湿式工法」と、下地に接着剤を併用して留める「乾式工法」があります。

図3:湿式工法と乾式工法

湿式と呼ばれるのは、現場で水を使って作業するためです。モルタルは、セメントと砂を水で練ってつくります。歴史の長い工法ですが、タイルを張る職人の技量や、工事中の天候で、仕上がりの質や耐久性が左右される側面はあるため、改良が加えられてきました。コンクリート壁をつくる型枠にタイルをあらかじめセットし、コンクリートと同時にタイルを張り上げる方法も開発されています。

乾式工法は、コンクリート壁に専用の下地材を施し、接着剤を塗ったタイルを引っ掛けて固定する方法が多く開発されています。湿式工法と比較するとコストは高くなることが一般的ですが、モルタル材を使わないため品質が一定で作業期間が短く、メンテナンスが簡単になることが特徴です。

湿式工法では、接着剤の役割をしている下地のモルタルは弾力性に欠けるため、地震による建物の揺れや、外部の温湿度の変化による収縮によってタイルに負担がかかり、タイルがひび割れたり、コンクリート壁から浮いたりする恐れがありました。

また、モルタルの石灰成分が水分とともに溶け出して白くタイルを汚す「エフロレッセンス(白華現象)」を起こすこともありました。

最近では技術が進んで改良されているとはいえ、タイル外壁では剥離や落下が起こる可能性はあります。そこで完成後は10年ごとに「打診検査」といって、専用の道具でタイルを叩くなどして具合を確認する作業が行われます。浮きやひび割れがあれば部分的に補修しますが、程度がひどければ広範囲で張り替えることもあります。

補修や高圧洗浄の作業は外壁の周りに足場を巡らせることが必要ですが、足場を組むには膨大な費用がかかるため、マンションでは10数年おきに実施される大規模修繕工事と同時に行うことが一般的です。

マンション外壁の打診検査の様子

長く付き合うマンションの外壁は、美観や機能を保つうえで大切な部位です。仕上げの色や形状、表情だけでなく、その裏側にある要素にも注意を払うことで、マンション選びに差が出ることでしょう。

加藤純(かとう・じゅん)

加藤純(かとう・じゅん)

1974年生まれ。建築ライター・エディター。出版物やWEBコンテンツ等の企画・編集・執筆を行い、意匠・歴史・文化・工学を通して建築の奥深さを広く伝える。1997年東京理科大学工学部第一部建築学科卒業、’99年同工学研究科建築学専攻修士課程修了。株式会社建築知識(現・エクスナレッジ)月刊「建築知識」編集部を経て、2004年独立。著書に『日本の不思議な建物101』(エクスナレッジ)、『「住まい」の秘密』<一戸建て編><マンション編>(実業之日本社)など。

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