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#マンション構造のヒミツ

2019.11.26

マンションの「床暖房」、電気orガスどちらがいい?

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RC造のマンションでの冬の暮らしにおいて、床暖房は現在販売されているほとんどのマンションで標準仕様となっています。床暖房の種類はいくつかありますが、床暖房の構造や仕組みを知れば、感じる暖かさやコストについても理解を深めることができ、マンション選びやリフォームで役立つことでしょう。

床暖房の構造とメリット・デメリット

底冷えのするような寒い冬でも床暖房があると、床面から部屋全体を暖かくするため、室温自体はそれほど高くなくても快適に過ごすことができます。暖められた床に触れることで熱が身体に伝わるほか、床の表面から放射される輻射熱が人をじんわりと暖めることも、体感的な心地よさに関係しています。

また、ファンヒーターやエアコンなどと比べてホコリやダニといったハウスダストを舞い上げないのは大きなメリットです。ひとたび床暖房の入ったマンションで暮らせば、冬から春先までは毎日使い、なくてはならない設備であることを実感することでしょう。

床暖房は、温水式と電気式に大きく分けられます。

温水式はボイラーなどで暖めたお湯を床下に設置する温水パネル(マット)に循環させる方式です。お湯をつくるための熱源にはガスや石油、電気(ヒートポンプ)などが用いられますが、マンションの温水式床暖房ではガスが一般的です。

なかでも高性能の給湯器でつくった温水を、配管を通して循環させるTES(テス/セントラル温水暖房システム)は近年よく採用されています。また、タワーマンションなどに多いオール電化のマンションでは、ヒートポンプ技術を利用してお湯をつくるエコキュートによる温水式床暖房が採用される例もあります。

図1:温水式の床暖房の構造

電気式は、専用のパネルに電気を通して発熱させて暖めるものです。電熱線などのヒーターをパネルに内蔵した電熱線式と、カーボン素子を利用した面状発熱体式があります。

後者で最近よくみられるのはPTCヒーター式というもので、これは暖房面の一部が窓からの日差しで暖められるなどして温度が高くなると、その部分だけ発熱をヒーター自体が抑え、無駄な電気を使わないように自動でコントロールします。また、割安な深夜電力を利用して床下の蓄熱材に熱を蓄え、日中に放熱させるタイプもあります。

図2:電気式の床暖房の構造

構造上、温水式はスイッチを入れてから暖まるまでの時間が比較的長く、床面が暖かいと感じるまでに30~60分ほどかかります。立ち上がりの間はエアコンを併用すれば、寒いと感じる時間が短くてすむでしょう。いったん暖められれば持続しやすいので、日中家にいる時間が長い家庭には向いています。また、オン/オフのタイマー設定ができるので、起床時刻の1時間前にオン、就寝時刻にオフなどと設定して運転するとよいでしょう。

電気式は比較的早く暖まりやすいので部分的に暖めたい場合や、オン/オフが頻繁な生活スタイルに向いています。

コストは、「イニシャルコスト」と呼ばれる導入費用と「ランニングコスト」と呼ばれる運転費用のどちらとも、各メーカーが競い合いながら抑えられてきました。一般的には、導入費用は電気式のほうが安く、運転費用は温水式のほうが安い傾向にあります。

床暖房からさらに変わりつつあるガスの使い道

マンションの床暖房で多く採用されてきたことで存在感を増したガスですが、現代の住まいでのガスの使い道は大きく分けて5種類あります。

1.ガスコンロ、ガスオーブンなどの調理機器
2.キッチンやシャワーなどの給湯や風呂の湯はりなどを行うガス給湯器
3.温水床暖房やファンヒーターなどで暖房として使うこと
4.浴室やサニタリーで使う暖房・乾燥としての設備
5.ガスを利用した発電・創エネルギー

温水式の浴室暖房換気乾燥機は、洗濯物を乾かせるほか、浴室の除湿やカビ予防にも効果的で人気があります。そしてお湯を細かい霧状にして噴霧する「ミストサウナ」が組み込まれる仕様もあります。

以前のいわゆる団地では、ガスはキッチンのコンロと瞬間湯沸かし器、また浴室の「バランス釜」と言われた給湯器で主に使われていましたが、これらの機器は1990年代頃から徐々に姿を消しました。

代わって普及したのが、水を温めてお湯をつくる「給湯」と、浴槽の水を追い焚きする「風呂釜」を組み合わせた「ガス温水機器」です。さらに給湯器では約80%が限界だった給湯熱効率を、排気熱・潜熱を回収するシステムによって約95%にまで向上できるようになりました。これが「エコジョーズ」と名付けられている次世代ガス給湯器です。

そして、この給湯器でつくった温水を、配管を通して各部屋に循環させることで、どの部屋でも暖房できるシステムが「TES」です。給湯のほか、温水式床暖房や浴室暖房換気乾燥機などに用いられ、近年の新築マンションで多く採用されています。家庭用ガス温水床暖房を居室で使用する場合、ガス料金が割引になる契約プランもあります。

図3:東京ガス「エコジョーズ」の仕組み
東京ガスホームページより引用)

ガスを利用した発電・創エネルギーとしては、燃料電池で都市ガスから水素を取り出し、空気と化学反応させて発電、そのときに生まれる熱で給湯するシステム「エネファーム」があり、マンションタイプも近年開発されました。自宅で発電するため送電のロスがなく、排熱も利用するので節電のほかCO2削減効果も見込まれ、普及が進んでいます。

新築マンションの場合/リフォームする場合の床暖房の選び方

方式や給湯器などが多様化している床暖房ですが、現在販売されている新築マンションであっても、床暖房が敷設されている部屋は、ほとんどが10~15畳のリビング・ダイニングに限定されています。家での過ごし方も多様化しているため個室などにも床暖房がほしいところですが、なかなかそうはいきません。主な理由は、温水式床暖房の熱源機と供給できるお湯の関係にあります。

ガスの熱源機は、お湯を一度に使える量によって「号数」が定まっています。水温+25℃のお湯が1分間に出る量(リットル)が20Lであれば20号、24Lであれば24号という形です。

人数が多い家庭では、夕飯の後に床暖房を付けながら、入浴でシャワーを使い、キッチンで洗い物をするようなシーンがあります。こうしたファミリー層では24号が選ばれますが、それでも例えばリビング・ダイニング以外の個室などにも床暖房を設けようとなると、お湯が足りなくなります。

図4:給湯器の仕組みとお湯の流れ

そこで「ガス暖房専用熱源機」という、床暖房や浴室暖房乾燥機などに使う温水暖房機能のみを備えた熱源機をさらにプラスし、暖房回路を増設する必要が出てきます。このときに新築マンションであれば、供給側では増額するコストをかけて入居者全員がそこまでのお湯を使うだろうかとブレーキがかかるでしょう。

リフォームでは、玄関ドアの脇などにあるパイプスペースに熱源機をもう1つ設置できるだけのスペースがない、また共有部である外壁などに新たに配管を通すための孔を開けられない、という問題があります。

マンションリフォームでは、既存で温水式の床暖房が入っていれば、床仕上げとともに温水パネルを取り替えるかたちで工事できます。既存に床暖房が入っていない場合、新たに導入するのは先述したように共有部との兼ね合いで基本的には難しいですが、マンションの個別の構造によっては可能性があるかもしれません。いずれにしても、設計者や工事業者、管理組合によく相談することが必要です。

電気式は分電盤から電気回線を取ることができれば設置できるため、リフォーム向けの製品も多く出ています。ただし運転費用は比較的高く、電気代は床暖房の広さによって変わりますので、敷設する範囲を吟味して限定したり、節約できるように電気プランを見直す必要があるかもしれません。温水式の床暖房のような穏やかな輻射熱の暖かさをより暮らしに取り入れたいのであれば、電気を利用したパネルヒーターを設置するのもよいでしょう。

電気式パネルヒーターの例:ピーエス「PS HR(E)」

寒い冬もマンション暮らしをより快適にするために、構造や仕組みを知ったうえで、家での過ごし方や使い方を具体的に思い描きながら、床暖房の種類や広さを選んでいきましょう。

加藤純(かとう・じゅん)

加藤純(かとう・じゅん)

1974年生まれ。建築ライター・エディター。出版物やWEBコンテンツ等の企画・編集・執筆を行い、意匠・歴史・文化・工学を通して建築の奥深さを広く伝える。1997年東京理科大学工学部第一部建築学科卒業、’99年同工学研究科建築学専攻修士課程修了。株式会社建築知識(現・エクスナレッジ)月刊「建築知識」編集部を経て、2004年独立。著書に『日本の不思議な建物101』(エクスナレッジ)、『「住まい」の秘密』<一戸建て編><マンション編>(実業之日本社)など。

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