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#マンション市場動向

2019.01.15

多くの記事が見落とす「賃貸vs購入」の盲点

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家は買ったほうが得なのか、賃貸を借り続けたほうが得なのか。住宅検討の普遍的なテーマのひとつであり、多くのメディアの記事で損得が語られている。かく言う筆者も住宅情報誌の編集をしていた十数年の間に、同じテーマで数十本の記事を企画してきたし、その場数はおそらく日本一級だと自負している。

その筆者から見ると、世に出回っている「賃貸vs購入」記事には、現実の市場動向を無視したものや大事なポイントを見落としたものが残念ながら散見される。そうした穴のある記事に惑わされないために、賃貸と購入の比較を構造的に捉えておこう。

住宅ローンと家賃とでは、払うお金の中身が違う

賃貸と購入を比べる場合、すぐに思いつくのが、購入する場合の住宅ローン返済や諸費用、管理費、税金などの支出総額と賃貸の家賃や更新料を払い続けた場合の支出総額を、数十年間の累積で比較する方法だ。しかし、ここに第一の盲点がある。

というのは、賃貸の家賃や更新料は100%大家さんや不動産会社に払う「経費」なのに対し、住宅ローンの返済はそうではないからだ。住宅ローン返済は、借入元本の返済と利息の支払いに分けられる。このうち利息は銀行などの借入先に払う「経費」だが、元本返済分は買った家の代金に充当される(借金が減る)ので、自身の資産の一部になるわけだ(図1)。

図1

具体的な金額で説明しよう。わかりやすさのため管理費等はいったん考えないでおくと、家賃と住宅ローン返済がそれぞれ月額10万円だとすると、家賃は全額が経費(純支出)だが、住宅ローン返済は利息が約3万円、元本返済が約7万円(金利1%、35年元利均等返済の初回分)となり、純粋な支出は約3万円ということになる。

銀行口座から住宅ローン返済の10万円が引き落とされれば、表面的には家賃同様「10万円の支出」に見えるが、実は元本返済に回る約7万円分は不動産に形を変えて自身の資産となっているのだ。

ただし、不動産は築年数の経過や時々の市況によって評価額が目減りする可能性が高く、元本返済分が満額資産となるわけではない。たとえば35年後、住宅ローンを完済した時点で、購入時5,000万円だった住宅の売却想定額が半額になっていたら、元本返済分の価値も半額になってしまう。とはいえ、半額でも価値が残れば、売却することでまとまった金額の現金資産を手にできるわけで、一銭も残らない家賃支出とはそこが決定的に違うのだ。

購入した住宅の将来の売却価値を考慮せず、表面的な「支出比較」だけで損得を語る記事は少なくないが、実はそうなってしまう事情も筆者には理解できる。それは30~40年後に、購入した住宅が購入時の何%の価値を維持できているか見当がつかないからだ。

そもそも中古住宅は同等の築年数や面積でも、立地条件によって評価額が大きく異なる。記事の読者がどんなエリア・立地条件で住宅を買い求めるかわからない以上、売却想定額を安易に設定すると大いなる誤解を生じてしまいかねない。そうした事態を回避するため、あえてシンプルな支出比較に留めている場合もあるだろう。

精度高く比較するには「将来の資産評価」を考慮すべき

しかし本コラムでは、あえてそこに切り込んでみたい。下表をご覧いただきたい。

表A-1では、価格5,000万円の新築マンションを頭金500万円、借入額4,500万円で購入した場合の40年間の総住居費⑦を試算した。ここでは当然だが、購入時の諸費用や管理費・修繕積立金、固定資産税などの負担も考慮している。そして表A-2は40年後の売却想定額が新築時の20%~80%として、それぞれ売却した場合の手取額⑩を試算し、⑦から⑩を差し引くことで、40年後の売却(資産評価)を考慮した実質総住居費⑪を求めた。つまり、⑪欄が、設定条件で購入した場合の住居費負担の総額となる。

40年後の価格維持率の設定については、賛否あるかもしれない。ただ、東京都心の好立地などでは築40年超の旧耐震マンションでも新築時の50%以上の価格相場を維持している例もあるし、特段不便な立地でもなければ維持率20%~40%程度なら無理筋というわけでもないだろう。いずれにしても未来のことはわからないので、楽観シナリオと悲観シナリオをそれぞれ想定しておくことが大切だ。

次に、賃貸に住み続けた場合の総負担額を見てみよう。表Bをご覧いただきたい。

家賃10万円~20万円/月に場合分けして、設定条件のように40年間の総負担額⑯を試算した。表Bの⑯欄と表A-2の⑪欄を比べれば、賃貸と購入とではどちらが得かイメージがつくはずだ。たとえば、購入した場合の40年後の売却想定額が最も控えめな購入価格の20%だった場合の実質負担額は7,111万円なので、家賃13万円台以下の賃貸に住み続ければ賃貸のほうが得になり、家賃14万円以上だと買ったほうが得ということになる。

ただし、現実の住宅市場を見ると、価格5,000万円の新築マンションと同等クラスの賃貸物件を家賃13万円台以下で見つけるのはかなり難しい。つまり賃貸に住み続けて得するには、購入するよりも住宅の質や条件を妥協せざるをえないということだ。そこを妥協できないならば、相応の家賃を払うことになるわけで、結果的に買ったほうが得になる可能性は高い。さらに、購入する場合は住宅ローン減税(現行制度では一般住宅で最大400万円の税還付を受けられる)などの制度も利用できるため、より有利といえる。

購入が有利になる最大の要因は「歴史的な低金利」

こうした結論になるのは、現在の住宅ローン金利が歴史的な低水準にあるからだ。今回は1%で試算したところ、35年間の利息は借入額の約18.6%で済んだ。しかし、たとえば10年前に金利が3%前後だった固定型を借りていれば、それが61.6%に跳ね上がるのだ。表A-1と同じ借入額4,500万円なら、利息だけで約2,772万円にもなる(1%なら約835万円)。その場合は、家賃が18万円で購入と賃貸の負担がようやく拮抗する水準となり(購入価格の維持率が20%の場合)、結論は全く違ったものになってしまうのだ。

「賃貸vs購入」の比較は普遍的なテーマではあるが、ここ数年のように購入する場合の価格が急上昇したり、金利水準が変わったり、実はその時々の市況によって結論が変わるテーマでもある。たとえ過去に同じテーマの記事を読んだことがあっても、今も同じ結論になるとは限らないのだ。

最後に、筆者がネットや雑誌などで「賃貸vs購入」記事を読むときに、内容の妥当性をチェックするポイントをお伝えしよう。

①購入する場合の住宅ローン金利の設定が現在の金利水準に合致しているか
②購入した不動産の資産評価を考慮しているか
③賃貸の家賃の12カ月分が、比較対象の購入価格の3.5~4%程度に設定されているか

この3点を押さえておけば、穴のある記事に惑わされることはないだろう。

山下伸介(やました・しんすけ)

山下伸介(やました・しんすけ)

住宅ライター
1990年、京都大学工学部卒業、株式会社リクルート入社。2005年より住宅情報誌「スーモ新築マンション」「都心に住むbySUUMO」等の編集長を10年以上にわたり務め、2016年に独立。現在は住宅関連テーマの企画・執筆、セミナー講師などを中心に活動。財団法人住宅金融普及協会「住宅ローンアドバイザー」運営委員も務めた(2005年~2014年)。株式会社コトバリュー代表

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