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3年後のオフィス空室率は5.1%に

2020年04月28日

型肺炎がホテルや小売り、商業施設などの不動産市場に打撃を与えている。オフィス市場には現時点で大きな需給変動はないが、感染が長引けば年内にも影響が出始める可能性もある。オフィスビル総合研究所代表取締役で三幸エステート・チーフアナリストの今関豊和氏に東京のオフィス市場について聞いた。

―東京都心5区の賃貸オフィスの市況をどうみる。

今関氏 中小規模(1階面積50坪以上)以上のビル全体について言えば、空室が少なく賃料も緩やかに上がる状態が続いている。第1四半期(Q1、3月末時点)の空室率は0.6%と低く、新型肺炎の影響はまだ数字には出ていない。ただ4月に入り需要の下振れがみられる。空室率は上昇に転じるだろう。

―数字には出ないが市場に変化の兆しがある。

今関氏 政府が緊急事態宣言を発出した4月上旬以降に企業や個人の警戒心が特に強まり、入居の契約交渉が休止または延期される事例がかなり増え始めた。そうした事例は空室率などの数字にカウントされない。多くの多国籍企業が世界的に入居契約を止めている。決済権者が来日できず、内見もできないため交渉や契約を中断せざるを得なくなっている。

―そうした事情が数字に表れるタイミングは。

今関氏 早くても今年後半以降だろう。入居者が解約予告をしてから退去するまでに半年強はかかるからだ。テナントがいま解約を申し出ても空室になるのは秋以降だ。とは言え景況がさらに悪化すれば、入居契約が土壇場で破談になる件数も増え、空室率が上がっていくという流れが避けられなくなる。

―空室率の上昇カーブを具体的にどう予測する。

今関氏 このままGDP(国内総生産)が下がり失業率が上昇すると仮定すれば、3年後の23年Q1時点で空室率は5.1%に高まると予想している。賃料も現状の約2万3400円から2万4000円程度になるだろう。空室率は20年Q1時点の0.6%が、Q2に1.4%、Q3に2.2%、Q4に3.0%などと上昇する可能性がある。ただ空室率が上がるとは言え、今年の上期は1%強程度を保つため即座に需給バランスが緩んだという感じにはならない。来年にかけて2%、3%と上がるにつれ市場の潮目が変わったいう感覚が強まるだろう。

―フリーレントの月数が増え始めているようだ。

今関氏 これからさらに増えるだろう。ビルオーナーも状況の変化を感じているし、テナント確保の方策としてまずはフリーレントを取り入れようと考える。

―テレワークの普及でテナント企業の需要が大型から中小規模のビルに移るという見方もある。

今関氏 テレワークがどれほど定着するかにもよるが、オフィス内の配置や必要面積を考え直す企業は増えそうだ。これだけ多くの企業がテレワークを試行すれば、感染収束後も以前のような働き方には戻らないだろう。ただテレワークには企業文化や業種などによって向き不向きがある。収束後に本社機能を縮小して分散型オフィスを採用したり、従来の勤務体制に戻したりと企業によって対応が分かれると思う。

―オフィス立地の価値観が変わりつつある。

今関氏 中小規模のビルについて言えば、分散型オフィスの1つとして使えそうな都内主要駅付近の物件の需要が高まると考えられる。ただ中小規模のビルに本社機能を移し、複数の分散型オフィスやシェアオフィスを配置する企業が増えるとは考えにくい。

―この先、オフィスにどんな機能が求められるか。

今関氏 高度な通信環境がないビルは競争の土俵にも上がれなくなる。築年数が古い建物にはLAN配線などを通す上下の配管が設置されていないことも多く、新型肺炎収束後の新たな価値観に基づく世界で競争していく上では不利になる。ビルの規模や立地よりも、ビデオ会議を円滑に行える通信環境や個室ブースのような設備が重視されるようになる。テレワークが定着すれば駅から遠い立地もハンデにならなくなる。

◎リーマン危機よりも直接的な影響小さい

―オフィス売買市場の状況は。

今関氏 昨年は活況だったが、今年に入って新型肺炎の影響で先がみえなくなり様相が変わった。買う意欲が強い投資家は今もいるが、賃料や稼働率が下がるという予測もあり適正価格を見定めにくくなっている。取引が動きにくいという話を聞くが、一方で今が買い場だと判断している投資家もいる。リートや機関投資家などは様子見の姿勢が強く、一部の外資系機関投資家などは買っているようだ。今後、事業会社などが資金確保のために手持ち資産を売る動きが活発になる可能性があり、出物を待つ投資家も多い。

―リーマンショック当時との景況の違いは。

今関氏 新型肺炎の影響はまだ本格化していないという前提で言えば、リーマン後はオフィス就労者が多い金融業などが業績を悪化させ、オフィス需要が急減した。今回は小売りやホテル、運輸などといったオフィス就労者が少ない業種が打撃を受けており、その意味ではリーマンショックよりも直接的な影響は小さいと考えられる。リーマン後の10年Q1は空室率が8%を超え、平均賃料も7000円ほど下がった。一方、今回は3年後に空室率が5.1%に上がるとみているが、10年前に比べれば賃料設定が大きく崩れるような空室率の上がり方ではない。ただそれもこの先、景気がどこまで後退するかに大きく左右される。

(提供:日刊不動産経済通信)

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