会計・税・鑑定
特定資産の買換え特例(法人税)_事例編 (全2回)(第1回)

法人税法上、法人が所有する資産を売却したことで生じる譲渡益については、原則として益金に算入されることとなります。
しかしながら、法人が特定の資産を譲渡し、定められた期間内に特定の資産に買い換える場合、圧縮記帳の適用により、譲渡益を圧縮し、減価償却を通じ課税を繰り延べることが認められています。なお、圧縮記帳の効果はあくまで譲渡益の繰延べ、すなわち法人税の繰延べであるため、税負担の軽減にはならないことに注意が必要です。
今回は法人(法人税)について事例を紹介させていただきます。
Ⅰ.目的
ⅰ.特定資産の買換え特例の目的
法人の特定資産の買換え特例は、大都市圏等の過密地域から建物等の分散を促進することや、過疎地域への企業誘致を促進することなどの国内の土地の有効活用、コロナ禍からの経済社会活動の回復を確かなことにする等、持続的な経済成長のために民間投資を促進することを目的とした制度です。本制度は租税特別措置法第65条の7に規定されており、特に第2項は買換え資産に土地等がある場合の制限(面積要件)を明確にし、土地の有効活用に繋がる規定となっています。
<適用要件>
① | 特定の譲渡資産(棚卸資産は除く)を昭和45年4月1日から令和8年3月31日迄の間に譲渡すること |
---|---|
② | 特定の買換資産を取得すること |
③ | 取得の日から1年以内に買換資産を事業の用に供する又は供する見込みであること |
④ | 損金経理により買換資産の帳簿価額を減額する方法や積立金として積み立てる方法等、一定の経理方法を採用すること |
⑤ | 確定申告書への損金の額に算入される金額を記載するとともに、明細書(別表13(5))等一定の書類を添付すること |
⑥ | 「特定の資産の買換えの場合の課税の特例の適用に関する届出」を譲渡資産の譲渡日又は買換資産の取得日のいずれか早い日を含む3月期間の末日から2月以内に提出すること(注) |
(注)3月期間とは、事業年度開始の日から3月ごとに区分した各期間を指します。例えば、4月1日~3月31日を1事業年度としている法人の場合、以下の期間となります。

<措置法65条の7第2項(土地の面積要件)>
① | 買換え資産に土地等があること |
---|---|
② | 取得する土地の面積が300㎡以上であること |
③ | 取得する土地の面積のうち、譲渡した土地等の面積の5倍以内までを買換え資産とみなす |
本制度を利用した場合、一定の適用要件を満たすことで、原則として譲渡益の80%(※)を繰り延べることができます。特定資産の買換え特例の概要については、「特定資産の買換え(法人税)について(第1回)【概要】」1「特定資産の買換え(法人税)について(第2回)【事例】」2をご確認ください。
※譲渡資産、買換資産の所在地によって60%~90%の範囲の割合になることがあります。
1,2 本サイト「CRE-NAVI」にて2024年6月18日および25日配信。
Ⅱ.事例
ⅰ.同事業年度に譲渡と取得が発生した場合
1. 取得資産1、譲渡資産1のパターン
最もシンプルな特定資産の買換え特例のパターンとなります。
具体例、計算パターンにつきましては、(参考)圧縮限度額の算定をご覧ください。
2. 取得又は譲渡のいずれかが複数のパターン
- 2-1. 取得資産2、譲渡資産1のパターン
取得資産が複数で、その内に土地等の非償却減価資産がある場合、圧縮基礎取得価額の算定は非償却減価資産から行います。減価償却資産の場合、圧縮積立金は減価償却を事由に取崩しを開始しますが、土地等の非減価償却資産の場合はその資産を売却するまで課税の繰延べが可能となり、本制度のメリットを長く享受できるためです。また土地の面積要件が絡むことになりますので、計算式が少し変わることに注意が必要です。なお複数の土地を取得又は譲渡する場合、面積要件の判断をそれら全ての土地の合計面積で行うケースもございますので、要件を満たすかの判断にも注意が必要となります。
具体例、計算パターンにつきましては、(参考)圧縮限度額の算定をご覧ください。 - 2-2. 取得資産1、譲渡資産2のパターン
譲渡資産が複数の場合、差益割合の判定に使用する譲渡対価の額をその譲渡した全ての資産の譲渡対価の額の合計額にする必要があります。譲渡対価から差し引く譲渡直前簿価も同様です。なお、このパターンでも取得資産に土地がある場合は面積要件が絡むことにも注意が必要です。
具体例、計算パターンにつきましては、(参考)圧縮限度額の算定をご覧ください。
3. 取得と譲渡のいずれも複数のパターン
2-1.取得資産2、譲渡資産1と2-2.取得資産1、譲渡資産2の計算要素を合わせた計算式となります。基本的な考え方は2-1、2-2と同じとなります。圧縮による損益への効果、メリット・デメリットにつきましては、「特定資産の買換え(法人税)について(第1回)【概要】」「特定資産の買換え(法人税)について(第2回)【事例】」をご確認ください。
具体例、計算パターンにつきましては、(参考)圧縮限度額の算定をご覧ください。
(参考)圧縮限度額の算定
【前提】 | |||||
譲渡資産 | 買換資産 | ||||
---|---|---|---|---|---|
土地 | 面積 | 100㎡ | 土地 | 面積 | 500㎡ |
譲渡対価 | 1,500,000千円 | ||||
譲渡直前簿価 | 700,000千円 | 取得価額 | 1,200,000千円 | ||
譲渡経費 | 200,000千円 | ||||
建物 | 譲渡対価 | 1,000,000千円 | 建物 | 取得価額 | 1,100,000千円 |
譲渡直前簿価 | 400,000千円 | ||||
譲渡経費 | 100,000千円 |
(単位:千円) | ||||||
【2】事例 | 1. | 2-1. | 2-2. | 3. | ||
---|---|---|---|---|---|---|
資産の種類 | 買換:建物 譲渡:建物 |
買換:建物、土地 譲渡:土地 |
買換:土地 譲渡:建物、土地 |
買換:建物、土地 譲渡:建物、土地 |
||
譲渡経費 | 100,000 | 200,000 | 300,000 | 300,000 | ||
差益割合 | 0.5 | 0.4 | 0.44 | 0.44 | ||
圧縮基礎取得価額 | 土地 | 譲渡 | ― | 1,500,000 | 2,500,000 (1,500,000+ 1,000,000) |
2,500,000 (1,500,000+ 1,000,000) |
買換 | ― | 1,200,000 | 1,200,000 | 1,200,000 | ||
小さい | ― | 1,200,000 | 1,200,000 | 1,200,000 | ||
建物 | 譲渡 | 1,000,000 | 300,000 (1,500,000- 1,200,000) |
― | 1,300,000 (2,500,000- 1,200,000) |
|
買換 | 1,100,000 | 1,100,000 | ― | 1,100,000 | ||
小さい | 1,000,000 | 300,000 | ― | 1,100,000 | ||
圧縮限度額 | 土地 | ― | 384,000 | 422,400 | 422,400 | |
建物 | 400,000 | 96,000 | ― | 387,200 | ||
※全パターンにおいて繰延割合は80%と仮定しています。 |
<計算パターン>
(1)譲渡経費
各譲渡資産に係る譲渡経費の額の合計額
(2)差益割合
全譲渡資産の譲渡対価の額の合計額-(全譲渡資産の譲渡直前簿価の合計額+全譲渡資産の(1)譲渡経費の額) |
全譲渡資産の譲渡対価の額の合計額 |
(3)圧縮基礎取得価額
➀ 譲渡対価の額の合計額 ② 取得価額 のいずれか小さい金額
※1 買換え資産に土地等がある場合、取得価額は以下の算式で求めることとなります。
取得金額 × | 譲渡した土地の面積×5 |
取得した土地の面積 |
※2 買換え資産が複数で、かつ資産の種類が異なる場合(上記具体例2-1、3など)、取得価額は資産の種類ごとになります(土地の取得価額+建物の取得価額とはしません)。
※3 譲渡資産が複数の場合(上記具体例2-2、3など)、第2順位の譲渡資産の譲渡対価の額は、譲渡対価の額の合計額から第1順位の譲渡資産の圧縮基礎取得価額を除いた額となります。
(4)圧縮限度額
(3)圧縮基礎取得価額×(2)差益割合×80%(※)
※譲渡資産、取得資産の所在地等の要件によっては60%~90%の間で変動します。
税理士法人 令和会計社
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