M&Aとは何かを簡単に・わかりやすく解説

経営者の高齢化などを背景に、M&Aを実施する中小企業が増えています。新聞やテレビをM&A関連のニュースが賑わすこともあり、M&Aは決して耳慣れない言葉ではありません。しかし、M&Aについて詳しくは知らないという人は多いでしょう。この記事では、M&Aとは何かを簡単にわかりやすく解説していきます。
M&Aの目的やメリット・デメリット、手順なども要点を絞ってわかりやすく解説するため、M&Aの基礎知識を習得できるでしょう。

Ⅰ.M&Aとは何か?

M&Aという言葉は耳にしても、意味がよくわからない人もいるでしょう。また、ハゲタカファンドなどを連想して、悪いイメージを抱いている人もいるのではないでしょうか。ここでは、M&Aとは何かについてわかりやすく解説します。

M&Aの読み方

M&Aは英語の「Mergers and Acquisitions」の略語で、エムアンドエーと発音します。Mergersはマージャーズと発音し、合併という意味です。Acquisitionsはアクイジションズと発音し、意味は買収です。

M&Aは「企業の合併と買収」という意味になり、日本では「エムアンドエー」で通じます。

M&Aの意味と定義

M&Aは直訳すると「企業の合併と買収」という意味であり、他の企業を合併したり会社全体や事業の一部を買い取ったりすることです。

なお、これは買い手(合併や買収をする側)の立場からの意味であり、売り手(合併や買収をされる側)の立場からだと「会社売却・事業売却」という意味になります。

M&Aを実施して会社全体や事業の一部を売買することで、買い手は事業規模を拡大でき、売り手は金銭的利潤が得られます。

Ⅱ.M&Aの歴史

M&Aは19世紀のアメリカが発祥で、ヨーロッパや日本も19世紀から始まりました。日本のM&Aは1980年代のバブル経済期の頃から盛んになり、海外企業を買収するケースが増加しました。

アメリカを代表する映画会社を日本企業が買収するなど、バブル時代を象徴する逸話が残っています。バブル崩壊後は事業再編のためのM&Aが増加し、2000年代に入るとライブドアなどのIT企業によるM&Aが活発に行われました。

現在は経営者の高齢化による事業承継M&Aや、国境を越えて行うクロスボーダーM&Aが増加しています。

Ⅲ.M&A増加の背景

日本でM&Aが増加している背景として、経営者の高齢化による承継者問題などが挙げられます。東京商工リサーチの2021年「全国社長の年齢」調査によると、社長の平均年齢は62.77歳で、2009年以降最高齢です。

70代以上の社長が全体の32.7%を占めており、経営者の高齢化が顕著になっているといえるでしょう。70代以上になると体力や気力が衰え、引退を考える経営者が増えますが、後継者がいない場合はM&Aによる会社売却をするケースが増加しています。

M&Aを実施すると廃業せずに済むため、従業員の雇用を守りながら社長の後継者問題の解決も可能です。社長の高齢化は今後も進むことにより、M&Aを実施する中小企業は今後も増加すると予測されます。

出典:東京商工リサーチ 2021年「全国社長の年齢」調査

Ⅳ.M&Aの目的

M&Aの目的は売り手側と買い手側で異なります。売り手側の目的は事業承継や創業者利益の獲得、従業員や技術の承継などです。後継者がいない場合は会社を売却することで創業者利益を獲得でき、従業員や技術は買い手側の企業に承継されます。

買い手側の目的はリスクを抑えながら低コストで事業の拡大を図ることです。一から新規事業を立ち上げるには膨大なコストと時間がかかりますが、M&Aを実施すると少ない費用で短期間のうちに新規事業を始められます。

売り手側の企業の人材や技術を獲得することを目的にM&Aを実施することもあります。また、2つ以上の企業が統合されることによるシナジー効果(相乗効果)を目的にする企業も少なくありません。

Ⅴ.M&Aの種類

M&Aの種類(スキーム)は「買収」「合併」「提携」の3種類に大別できます。買収と合併は狭義のM&A、提携は広義のM&Aと呼ばれ、M&Aの大半は買収と合併です。ここではM&Aのスキームについて要点を絞ってわかりやすく解説します。

買収

買収によるM&Aのスキームは「事業譲渡」「株式譲渡」などがあります。事業譲渡とは売り手側の企業が有する事業の全てや一部を買収するスキームです。株式譲渡とは、売り手側の企業が株式を売却し、買い手側の企業が対価を支払うことで経営権を取得します。

株式譲渡は企業をそのままの状態で存続させられ、事業譲渡は譲渡対象の資産を選択して譲渡することが可能です。

合併

合併によるM&Aは、複数の会社を1つに統合するスキームです。「新設合併」と「吸収合併」があり、新設合併は2つ以上の会社が合併して新会社を設立します。吸収合併は2つ以上の会社が1つに統合され、吸収される会社は消滅します。

合併によるM&Aのほとんどは吸収合併であり、新設合併はあまり利用されません。

提携

提携は契約や覚書を交わして企業間の協力関係を構築するスキームです。「業務提携」と「資本提携」があり、業務提携は資本の移動を伴わずに協力関係を構築するもので、広義のM&Aに分類されます。

資本提携は支配権を伴わない範囲で株式を持ち合うなどして、協力関係を構築するものです。

Ⅵ.M&Aのメリット

M&Aを実施すると、売り手(譲渡側)と買い手(譲受け側)の双方がメリットを得られます。M&Aのメリットを知っておくと、事業承継や老後資金の不足などの問題が解決する可能性もあるでしょう。ここではM&Aのメリットを立場別に解説します。

譲渡側のメリット

譲渡側のメリットとして、金銭的利潤の獲得が挙げられます。会社を売却すると事業の現金化が図れ、高齢で引退を考えている経営者は老後資金を得られます。借入金が残っている場合は、獲得した利潤で返済したり個人保証を解除したりすることも可能です。

後継者がいない場合は、会社を売却することで事業を継承できます。従業員やこれまで培ってきた技術も継承されるため、安心して引退できるようになるでしょう。

若手の経営者はM&Aで上場企業や優良企業の傘下に入ると、より大きな仕事ができる可能性があります。

譲受け側のメリット

譲受け側のメリットは時間とコストをかけずに迅速な事業展開が可能になることです。既に事業展開をしている企業を買収することで、人材や設備、技術などをそのまま受け継いで事業を始められます。

また、短期間で事業規模やマーケットシェアを拡大できることもメリットです。さらに、無形資産であるのれんを獲得できることもメリットであり、評判が高い企業ののれんを承継できるとブランドの確立や向上に大きく貢献します。

Ⅶ.M&Aのデメリット

M&Aにはメリットだけでなくデメリットも存在します。期待通りの成果が確実に得られるわけではなく、売却先の選定などはデメリットを知ったうえで慎重に行うことが大切です。ここではM&Aのデメリットを立場別に解説します。

譲渡側のデメリット

売却先が見つからないことがあり、必ずしも売却したいタイミングで相手先が見つかるとは限りません。買い手が見つかっても、希望価格で売却できない場合もあります。詳細調査(デューデリジェンス)後に不正経理が発覚すると、M&Aの実施が困難になることもあるでしょう。

また、企業文化の不一致で、従業員がストレスを抱えてしまう傾向があることもデメリットです。M&Aをした結果、従業員の雇用条件が悪化するケースもあります。

譲受け側のデメリット

譲受け側のデメリットとして、譲渡企業のリスクも承継してしまう恐れがあることが挙げられます。財務諸表に記載されていない未払金などの簿外債務も引き継ぐため、金額によっては多大な損失を被ることもあるでしょう。

損失を防ぐには、慎重に調査したうえで、想定外のリスクがないかを見極めることが欠かせません。

また、期待していたシナジー効果が出なかったり、想定していた収益が上がらなかったりすることもあり、M&Aを実施しても成功するとは限りません。

Ⅷ.M&Aの基本的な流れ

M&Aを検討する際は専門家に相談するのが一般的です。専門家に相談したり依頼したりする際は、M&Aの流れを知っておくと要望などが伝わりやすくなります。ここでは、仲介会社に依頼して会社を売却することを前提に、M&Aの基本的な流れをご紹介します。

M&Aの目的や方向性を明確にする

専門家に相談する前の事前準備として、M&Aの目的や方向性を明確にしておくことが大切です。目的や方向性がはっきりしていると、専門家は要望を実現するためのプランを提案しやすくなります。

なお、事前に組織体制を見直すなどして企業価値を向上させておくと、より良い条件で会社を売却できる可能性が高まります。

専門家に相談を申し込む

事前準備ができたら、仲介会社に相談を申し込みます。まずは目的や要望などのヒアリングが行われ、さまざまな助言をしてもらえます。相談料は無料のケースが多く、売却価格のおおよその金額を算定してもらうことも可能です。

なお、買い手が見つからなければM&Aは成立しないため、買い手が見つかる可能性があるかについても相談しましょう。

仲介契約(アドバイザリー契約)を締結

仲介会社に正式に依頼する際は仲介契約(アドバイザリー契約)を締結します。契約後はM&Aをするための書類を準備することが必要です。主な必要書類として次のものが挙げられます。

登記事項証明書
事業報告書
確定申告書
決算書
定款や株主名簿
人事労務関連資料

必要書類を仲介会社に提出すると、社名を記載しないノンネームシート(説明資料)や企業概要書を作成してくれます

M&Aを行う相手候補を選定する

契約を締結すると、仲介会社は買い手候補の会社を10~30社程度紹介してくれます。M&Aを検討していることは会社の機密情報であるため、最初は売り手・買い手とも匿名で相手候補を見つけるのが一般的です。

M&Aを行う相手候補を選定できればNDA(秘密保持契約)を締結し、会社名を明かして本格的な交渉に進みます。

トップ面談を行う

トップ面談は売り手と買い手の経営者同士が顔を合わせて面談するものです。トップ面談では交渉は行わず、決算書や資料だけではわからない経営者の人間性や経営理念などを確認することを目的とします。

トップ面談が行われた後に、仲介会社を交えて売却金額などの条件をすり合わせる条件交渉を行い、合意を目指します。

基本合意書の締結を行う

トップ面談や条件交渉の結果、M&Aの合意ができれば基本合意書(MOU)の締結を行います。基本合意書は仮契約であり本契約ではありませんが、基本合意書を締結すればM&Aが成立する可能性は高まるといえるでしょう。

基本合意書には売却予定金額や売却予定日、M&Aのスキーム、従業員や役員の雇用条件などが記載されます。

デューデリジェンスを実施する

基本合意書の締結後はデューデリジェンスを行います。デューデリジェンスは買い手企業の主導で行う詳細調査であり、売り手企業の財務・法務・労務・ビジネスについて詳細に調査します。

デューデリジェンスは公認会計士や弁護士などが行い、専門家の視点で行われるのが特徴です。デューデリジェンスを行うことで、売り手企業の詳細なリスクが判明します。

最終契約を締結する

デューデリジェンスの結果が判明すれば、最終契約(DA)を締結します。最終契約にはデューデリジェンスの結果を反映させ、売却価格などの具体的な決定事項を記載します。

最終契約は法的拘束力があり、契約を破棄すると損害賠償を請求されるので注意が必要です。その後、譲渡手続きや譲渡代金の決済などのクロージングが行われるとM&Aは完了します。

Ⅸ.M&A後の事業展開

M&A成立後は統合によるシナジー効果を最大限に発揮させるための作業として、PMIが重要になります。PMIとは「Post Merger Integration」の略称で、M&A成立後の統合プロセスを指す言葉です。

統合プロセスがうまくいかないと期待していたシナジー効果は得られず、業務効率の低下や従業員の離職、顧客・取引先の離反などのトラブルが発生することもあります。M&Aを成功させるには、PMIをうまく行うことが極めて重要です。

PMIを成功させるには、時間をかけてじっくりと統合を進めることがポイントです。PMIの実行者は社内で人望のあるリーダーを選び、買収された側の従業員とコミュニケーションをしっかり取ることが成功につながります。

Ⅹ.まとめ

M&Aとは会社全体や事業の一部を売買することを指します。売り手と買い手の双方にメリットがあり、承継者問題などで悩んでいる経営者はM&Aで問題が解決できる可能性があります。

M&Aのスキームは買収や合併などがあり、自社に合った方法を選ぶことが大切です。また、M&Aは売却先が見つからないなどのデメリットもあるため、M&A仲介会社などに依頼するのが一般的です。M&A仲介会社に依頼すると、希望に合致する企業を探してくれます。

北浦 章弘

大学卒業後、不動産コンサルティング会社に入社。 専業トレーダーを経て、2011年よりフリーランスライターとして活動を始める。 金融や不動産を中心に、さまざまなジャンルにおいて豊富な執筆実績がある。 保有資格:宅地建物取引士

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