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「改正リースに関する会計基準」と不動産(第2回)
~公開草案における会計処理~
「改正リースに関する会計基準」と不動産 各回の内容
第1回 公開草案の概要解説
公開草案で明らかにされた、重要な変更点とその影響(総資産の増加、ROAの低下、営業利益/EBITDAの改善)などについて確認します。
第2回 公開草案の会計処理
不動産賃貸借取引を例に、設例を用いて借手・貸手の会計処理について解説します。
- 借手のリース及び貸手の所有権移転外ファイナンス・リース
- 借手のリース及び貸手の所有権移転ファイナンス・リース
- 残価保証
- 契約条件の変更
- 経過措置_現行基準におけるオペレーティング・リース
- 簡便的な取扱い
第3回 (仮)公開草案の不動産業への影響と準備
セール・アンド・リースバック、サブリース、借地権への影響と今後必要となる準備について検討します。
Ⅰ.はじめに
第1回では、公開草案の概要を解説しました。第2回では、設例を用いて本公開草案の会計処理について解説します。図表1にて用語集を示しましたので、適宜ご参照ください。
所有権移転ファイナンス・リース | 契約上の諸条件に照らして原資産の所有権が借手に移転すると認められるファイナンス・リース |
所有権移転外ファイナンス・リース | 所有権移転ファイナンス・リース以外のファイナンス・リース |
追加借入利子率 | 借手が、同様の期間にわたり、同様の保証を付けて、使用権資産と同様の価値を有する資産を同様の経済環境において獲得するのに必要な資金を借り入れるために支払わなければならないであろう利率 |
所有権移転条項 | リース期間終了後またはリース期間中途で、リース物件の所有権が借手に移転する条項 |
割安購入選択権 | リース期間終了後またはリース期間中途で、名目的な価額またはその行使時点のリース物件の価額に比して著しく有利な価額で買い取る権利 |
残価保証 | リース終了時に、原資産の価値が契約上取り決めた保証価額に満たない場合、その不足額について貸手と関連のない者が貸手に対して支払う義務を課せられる条件 |
Ⅱ.借手のリース及び貸手の所有権移転外ファイナンス・リース
前提条件
- 顧客(借手)及びサプライヤー(貸手)は、契約はリースを含むと判断した
- 所有権移転条項なし
- 割安購入選択権なし
- 原資産は特別仕様ではない
- リース開始日X1年4月1日
- 借手及び貸手のリース期間5年
- 貸手は製品又は商品を販売することを主たる事業としていない
- 貸手による原資産の現金購入価額48,000千円
(借手において当該価額は明らかではないため、借手は貸手の計算利子率を知り得ない) - リース料 月額1,000千円 支払は毎月末
借手及び貸手のリース期間の月額リース料の合計額60,000千円 - 原資産の経済的耐用年数8年
- 借手の減価償却方法 定額法(減価償却費は四半期ごとに計上)
- 借手の追加借入利子率 年8%(借手は貸手の計算利子率を知り得ない)
- 借手の付随費用ゼロ
- 貸手の見積残存価額ゼロ
- 決算日3月31日
ⅰ.借手の会計処理
借手は貸手の計算利子率を知り得ないため、借手の追加借入利子率である年8%を用いて借手のリース料60,000千円を現在価値に割り引くと、次のとおり①49,318千円がリース開始日におけるリース負債及び使用権資産の計上額となります。
リース負債の返済スケジュールを図表2に示します。
例えば、X1/4/30返済合計の内訳と月末元本の計算は次のように算出されます。
- 利息分:①49,318千円×8%×1か月/12か月=③329千円
- 元本分:④1,000千円-③329千円=②671千円
- 月末元本:①49,318千円-②671千円=48,647千円
会計処理は次のとおりです。なお、利息相当額は利息法で会計処理し、単位は千円です。
以降、同様に会計処理
ⅱ.貸手の会計処理
まず、貸手のリースがファイナンス・リースに該当するのか、オペレーティング・リースに該当するのかを判断します。具体的な判定基準は次のとおりです。
ファイナンス・リース:①と②のいずれかに該当するリース | |
① | 現在価値基準 貸手のリース料の現在価値が、原資産の現金購入価額の概ね90パーセント以上 |
② | 経済的耐用年数基準 貸手のリース期間が、原資産の経済的耐用年数の概ね75パーセント以上 |
オペレーティング・リース:ファイナンス・リース以外のリース |
(ア)及び(ウ)により所有権移転外ファイナンス・リースに分類されます。
(ア) 現在価値基準による判定
貸手のリース料を現在価値に割り引く利率は、貸手のリース料の現在価値と見積残存価額の現在価値の合計額が、当該原資産の現金購入価額と等しくなるような貸手の計算利子率になります。
本件は見積残存価額がゼロであり、現金購入価額が48,000千円であることから年⑪9.154%となります。原資産の見積残存価額がゼロであるため、貸手のリース料を年9.154%で割り引いた現在価値48,000千円は、貸手の現金購入価額48,000千円と等しくなります。
現在価値48,000千円/現金購入価額48,000千円=100%≧90%
したがって、このリースはファイナンス・リースに該当します。
(イ) 経済的耐用年数基準による判定
このリースはファイナンス・リースに該当すると判断されたため、経済的耐用年数基準による判定は不要となります。なお、経済的耐用年数基準による判定を必要とする場合の計算結果は次のとおりです。
貸手のリース期間5年/経済的耐用年数8年=62.5%<75%
(ウ) ファイナンス・リースの分類
所有権移転条項又は割安購入選択権がなく、また、原資産は特別仕様ではないため、所有権移転ファイナンス・リースには該当しません。
リース投資資産の回収スケジュールを図表3に示します。
会計処理は次のとおりです。なお、利息相当額は利息法で会計処理し、単位は千円です。
以降、同様に会計処理
Ⅲ.借手のリース及び貸手の所有権移転ファイナンス・リース
前提条件
- 顧客(借手)及びサプライヤー(貸手)は、契約はリースを含むと判断した
- ・5年の契約期間終了時に借手が原資産を1,000千円で購入できる購入オプション(割安購入選択権)が付与されている。
・借手にとって、借手が当該購入オプションを行使することは合理的に確実である。
・貸手にとって、借手による当該割安購入選択権の行使が確実に予想されている - リース開始日X1年4月1日
- 借手及び貸手のリース期間5年
- 貸手は、製品又は商品を販売することを主たる事業としていない
- 貸手による原資産の現金購入価額48,000千円
(借手において当該価額は明らかではないため、借手は貸手の計算利子率を知り得ない) - リース料 月額1,000千円 支払は毎月末
借手及び貸手のリース期間の月額リース料の合計額60,000千円 - 原資産の経済的耐用年数8年
- 借手の減価償却方法定額法(減価償却費は四半期ごとに計上)
- 借手の見積残存価額10%
- 借手の追加借入利子率年8%(借手は貸手の計算利子率を知り得ない)
- 借手の付随費用ゼロ
- 決算日3月31日
ⅰ.借手の会計処理
借手が購入オプションを行使することが合理的に確実であり、契約上の諸条件に照らして原資産の所有権が借手に移転すると認められるリースに該当します。よって、以下を除いて【Ⅱ.借手のリース及び貸手の所有権移転外ファイナンス・リース】の【ⅰ.借手の会計処理】と同様となります。
- 使用権資産の減価償却費について、耐用年数を経済的使用可能予測期間、残存価額を合理的な見積額として、原資産を自ら所有していたと仮定した場合に適用する減価償却方法と同一の方法により算定
- 購入オプション1,000千円分をリース料に増額
ⅱ.貸手の会計処理
(ア)リースの分類
① 現在価値基準による判定
貸手の計算利子率は次のように算定されます。
この貸手の計算利子率を用いて貸手のリース料61,000千円(貸手のリース期間の月額リース料の合計額60,000千円に、行使が確実に予想される割安購入選択権によるリース料1,000千円を加えた金額)を現在価値に割り引くと、次のとおりです。
現在価値48,000千円/購入価額48,000千円=100%≧90%
したがって、このリースはファイナンス・リースに該当します。
② ファイナンス・リースの分類
前提条件2により、借手は割安購入選択権を有し、その行使が契約時において確実に予想されます。
①及び②により、このリースは所有権移転ファイナンス・リースに該当します。
(イ)会計処理
リース債権の回収スケジュールを図表4に示します。
会計処理は次のとおりです。なお、利息相当額は利息法で会計処理し、単位は千円です。
以降、同様に会計処理
Ⅳ.残価保証
前提条件
- 顧客(借手)及びサプライヤー(貸手)は、契約はリースを含むと判断した
- 所有権移転条項なし
- 割安購入選択権なし
- 原資産は特別仕様ではない
- 当該契約には契約期間終了時に借手が原資産の処分価額を5,000千円まで保証する条項(残価保証)が付されている。借手は残価保証による支払見込額を3,000千円と見積っている
- リース開始日X1年4月1日
- 借手及び貸手のリース期間5年
- 貸手は製品又は商品を販売することを主たる事業としていない
- 貸手による原資産の現金購入価額53,000千円
(借手において当該価額は明らかではないため、借手は貸手の計算利子率を知り得ない) - リース料 月額1,000千円 支払は半年ごと(半期分を期首に前払い)
借手及び貸手のリース期間に係る月額リース料の合計額60,000千円 - 原資産の経済的耐用年数6年
- 借手及び貸手のリース期間終了後に原資産は2,000千円で処分された
- 借手の減価償却方法 定額法
- 借手の追加借入利子率年8%(借手は貸手の計算利子率を知り得ない)
- 借手の付随費用ゼロ
- 決算日3月31日
- 中間決算及び年度決算の年2回の決算を実施している
ⅰ.借手の会計処理
借手は貸手の計算利子率を知り得ないため、借手の追加借入利子率である年8%を用いて借手のリース料63,000千円(借手の支払うリース料の合計額60,000千円+借手の残価保証による支払見込額3,000千円)を現在価値に割り引くことで、52,639千円がリース開始日におけるリース負債及び使用権資産の計上額となります。
リース負債の返済スケジュールを図表5に示します。
会計処理は次のとおりです。なお、利息相当額は利息法で会計処理し、単位は千円です。
以降、同様に会計処理
残価保証支払額の確定時に一括して、次の会計処理を行うこともできます。
ⅱ.貸手の会計処理
(ア)リースの分類
① 現在価値基準による判定
貸手の計算利子率は次のように算定されます。
この計算利子率を用いて貸手のリース料65,000千円(残価保証額含む)を現在価値に割り引くと53,000千円となります。
現在価値53,000千円/購入価額53,000千円=100%≧90%
したがって、このリースはファイナンス・リースに該当します。
(イ)会計処理
リース投資資産の回収スケジュールを図表6に示します。
会計処理は次のとおりです。なお、利息相当額は利息法で会計処理し、単位は千円です。
Ⅴ.契約条件の変更
前提条件
- A社(借手)は、2,000平方メートルの事務所スペースに係る、不動産賃貸借契約をB社(貸手)と締結した
- A社は当該契約がリースを含むと判断した
- リース開始日X1年4月1日
- 借手のリース期間10年
- リース料 年額 100,000千円 支払は毎年3月末
- 借手の追加借入利子率 年6%(借手は貸手の計算利子率を知り得ない)
- X6年4月1日に、A社とB社は契約条件を次のように変更することに合意する
・X6年4月1日から1,500平方メートルの事務所スペースを追加
・合計3,500平方メートルに係る年間リース料を150,000千円とする。なお、リース料は毎年3月末に支払い
・対応するリース料の増額は、範囲が拡大した部分に対する独立価格に特定の契約の状況に基づく適切な調整を加えた金額分だけ増額しているものではない
・契約期間を10年から8年に短縮
- X6年4月1日現在のA社の追加借入利子率は年7%である
- A社は次のとおり割引率を使用する
・契約期間の短縮によるリースの範囲の縮小について変更前の割引率を使用し、その後、変更後の割引率を使用してリース負債の修正を行う
・事務所スペースの追加によるリースの範囲の拡大について変更後の割引率を使用
ⅰ.会計処理
前提条件7の契約条件の変更について、事務所スペースに係る契約期間の短縮によるリース範囲の縮小と、事務所スペースの追加によるリース範囲の拡大については、別個に会計処理を行います。リースの契約条件の変更前の使用権資産及びリース負債を図表7に示します。
リース開始日(X1年4月1日)における使用権資産及びリース負債の計上額は次のように算出されます。
(ア)事務所スペースに係る契約期間の短縮(リースの範囲の縮小)
変更前の2,000平方メートルの事務所スペースに係る契約期間が短縮される変更は、リースの契約条件の変更に該当し、リースの範囲が縮小されるものです。会計処理は次のとおりです。
- 契約期間の短縮によるリースの範囲の縮小に対応したリース負債
(変更前の年間リース料100,000千円の変更後の借手の残存リース期間3年分を変更前の割引率の年6%で割り引いた現在価値)
変更後の条件を反映してリース負債を修正
- リース負債の減少額:㊶421,237千円-267,301千円=153,935千円
リースの一部解約を反映するように使用権資産を減額
- 使用権資産の減少額:㊷368,004千円×40%(2年/5年)=147,202千円
- 使用権資産の減少額とリース負債の修正額との差額:6,733千円
- 割引率の変更による修正後のリース負債
(変更前の年間リース料100,000千円の変更後の借手の残存リース期間3年分を変更後の割引率の年7%で割り引いた現在価値)
- リース負債の減少額:4,870千円=267,301千円-262,431千円
(イ)事務所スペースの追加(リースの範囲の拡大)
追加の1,500平方メートルの事務所スペースに係る変更は、対応するリース料の増額が、範囲が拡大した部分に対する独立価格に特定の契約の状況に基づく適切な調整を加えた金額分だけ増額しているものではありません。したがって、独立したリースとして会計処理を行いません。会計処理は次のとおりです。
- 事務所スペースの追加によるリースの範囲の拡大に対応したリース負債の増加額
(追加の事務所スペースに係る年間リース料50,000千円(150,000千円-100,000千円)の3年分を変更後の割引率の年7%で割り引いた現在価値)
Ⅵ.経過措置_現行基準におけるオペレーティング・リース
前提条件
- リース開始日 X1年4月1日
- 借手のリース期間5年
- リース料 年額10,000千円 支払は毎年3月末
借手のリース期間に係る年額リース料の合計額 50,000 千円 - 借手の減価償却方法 定額法
- 借手の追加借入利子率 年5%(X2年4月1日時点)
- 借手の付随費用ゼロ
- 決算日3月31日
- 本公開草案を、X2年4月1日以後開始する事業年度から適用する。
- 現行基準においてオペレーティング・リース取引に分類していたリースについて経過措置を適用する。
リース開始日から5年間にわたる借手のリース期間のリース料を、本公開草案の適用初年度の期首 時点の借手の追加借入利子率(5%)を用いて割り引いた場合のリース負債の返済スケジュールについて、図表8に示します。
ここで経過措置として次のような会計処理を選択適用できます。リース負債の計上金額はどちらも同じですが、使用権資産の計上金額が異なります。
ⅰ.使用権資産をリース開始日から本公開草案を適用されていたかのような帳簿価額で計上
使用権資産:34,636千円=㊺43,295千円-過年度減価償却費8,659千円
過年度減価償却費8,659千円=43,295千円×1年/5年
ⅱ.リース負債と同額の使用権資産を計上
Ⅶ.簡便的な取扱い
ⅰ.短期リース
短期リースとは、リース開始日において、借手のリース期間が12か月以内であるリースのことをいいます。リース期間の決定にあたっては、延長オプションの行使可能性も考慮した上での判断が必要です。そのうえで、短期リースに該当する場合は、使用権資産・リース負債を計上せず、リース期間にわたりリース料を費用計上するといった現行基準と同様の会計処理ができます。なお、第1回【現行基準からの変更点_その他】(キ)再リースにて記載のとおり、再リースについては当初のリースと独立したリースとして会計処理可能ですので、再リースに短期リースの規定が適用されると考えられます。
ⅱ.少額リース
少額リースとは以下を指しますが、これに該当した場合も短期リースと同様に、現行の会計処理のように使用権資産・リース負債を計上せず、リース期間にわたりリース料を費用計上することができます。
少額リース | |
① | 重要性が乏しい減価償却資産について、購入時に費用処理する方法が採用されている場合で、借手のリース料が重要性の基準額より少額なリース |
② | 次のいずれかを満たすリース(次のいずれかを選択できるものとし、選択した方法を首尾一貫して適用) ・企業の事業内容に照らして重要性の乏しいリースで、リース契約1件当たりの借手のリース料が300万円以下のリース ・原資産の価値が新品時におよそ5,000米ドル以下のリース |
ⅲ.使用権資産総額に重要性が乏しいと認められる場合
使用権資産総額に重要性が乏しいと認められる場合とは次のとおりです。
未経過の借手のリース料の期末残高 未経過の借手のリース料・有形固定資産・無形固定資産の期末残高<10%
これに該当する場合、次のいずれかの会計処理を選択可能です。
① | 借手のリース料から利息相当額の合理的な見積額を控除しない方法。この場合、使用権資産及びリース負債は、借手のリース料をもって計上し、支払利息は計上せず、減価償却費のみ計上する |
② | 利息相当額の総額を借手のリース期間中の各期に定額法により配分する方法 |
提供:令和アカウンティング・ホールディングス株式会社
TEL:03-3231-1935
Email:info@rw-ah.com
HP:https://rw-ah.net
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