実際の取引事例における路線価倍率 ~賃貸住宅編~

不動産の売買価格の検討・査定において、相続税路線価は一つの基準として参考にされることが多くあります。一般的に、相続税路線価は地価公示・都道府県地価調査の8掛け水準と言われるためですが、もちろん「地価公示・都道府県地価調査=時価」ではなく、また常に「地価公示・都道府県地価調査×0.8=相続税路線価」でもありません。2024年7月に掲載したレポートに続き、2024年のREITの取引事例を追加して、前面相続税路線価に対する実際の取引価格の倍率(以下、「路線価倍率」)を調査しました。


【サマリー】

● 各エリアの路線価格帯別の路線価倍率は、以下の通りとなった。

エリア 路線価 路線価倍率
東京 都心6区 1,000千円/㎡以上 概ね3倍前半
500~1,000千円/㎡ 3倍後半
東京 城南エリア 500~1,000千円/㎡ 3倍前半
300~500千円/㎡ 概ね3倍後半
東京 城東エリア 500~1,000千円/㎡ 4倍半ば
300~500千円/㎡ 4倍半ば
東京 城西・城北エリア 500~1,000千円/㎡ 3倍半ば~後半
300~500千円/㎡ 概ね3倍半ば
大阪 500~1,000千円/㎡ 4倍前後
300~500千円/㎡ 4倍半ば
300千円/㎡以下 4倍後半
名古屋 300千円/㎡以下 概ね3倍後半

Ⅰ.調査方法

本調査は、前回と同様にREITのプレスリリースを用いて行いました。具体的な手順は以下の通りです。

20250421_2_image01.jpg
  • ① REITの取引事例(プレスリリース「資産の取得に関するお知らせ」など)より、各物件の取引価格、土地比率を抽出する。
  • ② 取引価格に土地比率を乗じ、土地価格を算出する。
  • ③ ②を土地面積で除し、土地単価を算出する。
  • ④ ③を取引年の相続税路線価(以下、「路線価))で除し、路線価倍率を算出する。
  • (例)プライムアーバン西日暮里の場合
    取得価格9.81億円、土地比率94.2%、地積416.52㎡、路線価650千円/㎡
    • ⇒ 土地価格 = 9.81億円 × 94.2% = 9億2,410万円
    • ⇒ 土地単価(㎡)= 9億2,410万円 ÷ 416.52㎡ ≒ 2,218,626円/㎡
    • ⇒ 路線価倍率 = 2,218,626円/㎡ ÷650,000円/㎡ ≒ 3.41倍

Ⅱ.路線価倍率の検討

東京、大阪、名古屋、札幌、仙台、京都、福岡の7都市における2024年のREIT取引事例について、路線価倍率を算出します(末尾【図表11】路線価倍率の算出表参照、今回札幌と仙台は検討条件に該当する取引なし)。この算出表をもとに、路線価倍率の中央値の推移を、都市別かつ路線価格帯別に集計しました。

事例がない若しくは極端に少ない都市の路線価格帯については傾向を分析することが難しいため、本レポートでは、都心6区の1,000千円/㎡以上・500~1,000千円/㎡、城南、城東、城西・城北の500~1,000千円/㎡・300~500千円/㎡、大阪の500~1,000千円/㎡・300~500千円/㎡・300千円/㎡未満、名古屋の300千円/㎡未満の価格帯について、過年度数値等1も踏まえた直近の路線価倍率を分析しました。


1当社CRE戦略支援サイト「CRE-NAVI:実際の取引事例における路線価倍率(2023年)~賃貸住宅編~」参照。

ⅰ.東京

(Ⅰ)都心6区

1,000千円/㎡以上の価格帯の路線価倍率は、概ね3倍前半であることがわかりました。過去からの推移をみると、2021年・2022年は下落し、2023年・2024年は上昇しています。また、取引事例数は2022年から徐々に増えていることがわかりました。

次に、500~1,000千円/㎡の価格帯の推移をみると、2021年は下落しましたが、2022・2023年は連続で上昇しています。2023年は大通り背後の物件で路線価が低く抑えられた事例が複数含まれ、大通りの路線価水準に補正した路線価倍率をみると、中央値は3.97倍となりました。2024年は特別な事例はなく、ほぼ横ばいでの推移となりました。以上を踏まえ、都心6区の500~1,000千円/㎡の価格帯の路線価倍率は3倍後半であると言えそうです。

【図表1】東京 都心6区の路線価倍率(千代田区、中央区、港区、渋谷区、新宿区、文京区)カッコ内は取引事例数、以下同じ
路線価 2020年 2021年 2022年 2023年 2024年
1,000千円/㎡~ 2.83 (6) 2.62 (3) 2.45 (2) 2.92 (4) 3.22 (6)
500~1,000千円/㎡ 3.21 (4) 3.07 (5) 3.42 (3) 4.70 (4) 3.93 (2)
300~500千円/㎡ 1.46 (1) - - - -

(Ⅱ)城南

500~1,000千円/㎡の価格帯の推移をみると、2020年以降は2倍半ば~後半で推移しています。各年の個別事例をみると、路線価倍率が4倍以上となる事例も散見されますが、2020・2022年は路線価倍率が4倍以上となる事例はなく、路線価倍率の中央値が例年より低く抑えられたと考えられます。2024年の個別事例をみると、大通り背後の物件において、7倍後半、8倍弱など極端に倍率の高い事例がありました。そこで、大通り背後の物件を大通り路線価水準に補正してみると、中央値は3.29倍となりました。よって、城南エリアの500~1,000千円/㎡の価格帯の路線価倍率は3倍前半と言えそうです。

次に、300~500千円/㎡の価格帯の推移をみると、2021年は上昇、2022年に大幅に下落、2023年に再び上昇しています。各年の個別事例をみると、2021年は大通り背後の物件の事例も多く含まれているため、大通り路線価水準に補正すると、路線価倍率の中央値は3.83倍となりました。2022年においては路線価倍率が極端に低い特殊事情が想定される事例1件のみとなったため、路線価倍率が低くなっていると想定されます。また、2023年は路線価倍率が5倍以上となる事例が含まれており、路線価倍率が例年より高めの水準になったと考えられます。2024年の1事例は駅から徒歩15分以上を要し、戸建住宅が建ち並ぶ地域に立地します。以上から2023年の水準を踏襲し、城南エリアの300~500千円/㎡の価格帯の路線価倍率を概ね3倍後半と判定しました。

【図表2】東京 城南の路線価倍率(品川区、目黒区、大田区、世田谷区)
路線価 2020年 2021年 2022年 2023年 2024年
1,000千円/㎡~ - - 5.48 (1) - -
500~1,000千円/㎡ 2.64 (7) 2.94 (8) 2.62 (4) 2.91 (7) 3.98 (5)
300~500千円/㎡ 3.69 (3) 4.31 (3) 1.74 (1) 3.92 (4) 2.43 (1)

(Ⅲ)城東

500~1,000千円/㎡の価格帯をみると、2020・2021年は4倍台、2022年は3倍台、2023年は6倍台、2024年は5倍台と年によって路線価倍率のばらつきがあります。2024年の個別事例をみると、大通り背後の物件において、6倍台や8倍台、10倍台など極端に倍率の高い事例がありました。そこで、大通り背後の物件を大通り路線価水準に補正してみると、中央値は4.37倍となりました。以上を踏まえ、城東エリアの500~1,000千円/㎡の価格帯の路線価倍率は4倍前半と判定しました。

300~500千円/㎡についても、年によって路線価倍率のばらつきがありますが、推移をみると、2021年に上昇、2022年にやや下落、2023年は再び上昇しています。各年の個別事例をみると、2023年は訪日外国人の増加の影響を受けて実際の取引価格が高騰する一方、路線価の上昇率は緩やかであったため、高い路線価倍率となりました。また、大通り背後の物件の事例も複数含まれています。これらの事例を補正すると、路線価倍率の中央値は4.59倍となります。以上を踏まえ、城東エリアの300~500千円/㎡の価格帯の路線価倍率は4倍半ばと判定しました。

【図表3】東京 城東の路線価倍率(台東区、墨田区、江東区、荒川区、足立区、葛飾区、江戸川区)
路線価 2020年 2021年 2022年 2023年 2024年
1,000千円/㎡~ - 4.06 (2) 4.17 (2) 2.82 (1) -
500~1,000千円/㎡ 4.09 (4) 4.53 (5) 3.74 (1) 6.19 (7) 5.23 (11)
300~500千円/㎡ 3.55 (4) 4.44 (8) 4.16 (12) 6.62 (7) 4.75 (10)
~300千円/㎡ - - 4.41 (2) 3.89 (1) -

(Ⅳ)城西・城北

500~1,000千円/㎡について、各年の個別事例を確認すると2020・2021年は大通り背後の事例があり、大通りの路線価水準に補正して路線価倍率をみてみると、2020年は3.74倍、2021年は3.85倍となりました。2023年は、最適用途が戸建住宅地、指定容積率が低い、高度地区の制限により容積消化率が抑制される事例や築年が30年を超えている事例を除くと、3.21倍となりました。2024年は特別な事例はなかったため、城西・城北エリアの500~1,000千円/㎡の価格帯の路線価倍率は3倍半ば~後半と言えそうです。

次に、300~500千円/㎡について、個別事例を確認すると、2022年は取引時の築年数が30年以上経過した物件で路線価倍率が低い事例が複数あり、これらを除くと、2022年の路線価倍率の中央値は3.53倍となります。2023年は最適用途が戸建住宅地である事例や大通り背後の事例が含まれており、これらの事例を補正すると、2023年の路線価倍率の中央値は3.86倍となります。2024年の城西・城北エリアの300~500千円/㎡の価格帯の路線価倍率は概ね3倍半ばと言えそうです。

【図表4】東京 城西・城北の路線価倍率(中野区、杉並区、練馬区、豊島区、北区、板橋区)
路線価 2020年 2021年 2022年 2023年 2024年
1,000千円/㎡~ - - - - 3.41 (1)
500~1,000千円/㎡ 4.14 (2) 4.44 (3) 3.41 (4) 2.11 (4) 3.70 (4)
300~500千円/㎡ 3.43 (3) 3.86 (3) 2.67 (7) 2.97 (3) 3.61 (2)
~300千円/㎡ - 3.43 (1) - - -

ⅱ.大阪・名古屋

(Ⅰ)大阪

500~1,000千円/㎡について、価格帯の推移を確認すると、2021年に下落、2022年に上昇していますが、2023年は再び下落となりました。2023年の個別事例を確認すると、4件すべてが築後15年を経過している物件のため、路線価倍率が低くなっていると想定されます。2024年の取引件数は1件ですが、特別な事例ではなかったため、大阪の500~1,000千円/㎡の価格帯の路線価倍率は4倍前後と言えそうです。

300~500千円/㎡の価格帯の推移をみると、2022年は大幅に上昇し、2023年は下落していますが、2022年は路線価倍率が極端に高い事例があり、それらを除いた路線価倍率は4.83倍となります。2024年は特別な事例はなく、昨年からほぼ横ばいで推移しました。以上のことを踏まえ、300~500千円/㎡の価格帯の路線価倍率は4倍半ばと言えそうです。

300千円/㎡以下の価格帯は年によってばらつきが大きいですが、各年の個別事例を確認すると、2021年は大通り背後の事例があり、大通りの路線価水準に補正すると、路線価倍率の中央値は4.84倍となります。2023年の取引事例では、大阪市中心部へのアクセスが良く、賃料単価は一定水準以上となるものの、路線価は低く抑えられているため、路線価倍率が高くなりました。2024年は、土地形状が不整形かつ道路付けの良くない事例が含まれ、また、大通り背後の事例があり、大通りの路線価水準に補正すると、路線価倍率の中央値は4.63倍となりました。以上を踏まえの300千円/㎡以下の価格帯の路線価倍率は4倍後半と言えそうです。

【図表5】大阪の路線価倍率
路線価 2020年 2021年 2022年 2023年 2024年
1,000千円/㎡~ 2.08 (2) - - 2.84 (1) 3.85 (1)
500~1,000千円/㎡ 3.80 (5) 3.23 (1) 4.30 (2) 2.79 (4) 4.07 (1)
300~500千円/㎡ - 4.35 (1) 5.60 (4) 4.60 (1) 4.64 (4)
~300千円/㎡ 3.39 (6) 5.85 (5) 4.77 (6) 5.33 (2) 7.22 (3)

(Ⅱ)名古屋

300千円/㎡以下の価格帯について、各年の個別事例を確認すると、2021年は大通り背後の事例があり、大通りの路線価水準に補正すると、路線価倍率の中央値は3.52倍となります。2023年は2倍後半と大きく下落しています。2023年は最適用途が戸建住宅地である事例と敷地の過半が低容積率である事例が含まれており、これらの事例を除くと路線価倍率の中央値は3.74倍となりました。2024年には大通り背後の事例や、周辺に低層の事務所が立ち並ぶエリアの事例、極端に路線価が低い事例があり、これらの事例を補正すると、路線価倍率の中央値は3.75倍となります。以上を踏まえ、名古屋の300千円/㎡以下の価格帯の路線価倍率は3倍後半と言えそうです。

【図表6】名古屋の路線価倍率
路線価 2020年 2021年 2022年 2023年 2024年
500~1,000千円/㎡ - 2.32 (2) 2.70 (1) 2.82 (4) 3.66 (1)
300~500千円/㎡ 3.20 (4) 3.48 (4) 3.13 (2) 1.74 (3) -
~300千円/㎡ 3.54 (9) 4.10 (11) 3.87 (4) 2.73 (8) 3.47 (8)

ⅲ.その他の都市(参考)

事例が少なく路線価倍率の傾向が読み取れないエリアについては、参考情報として以下表に記載します。

【図表7】札幌の路線価倍率
路線価 2020年 2021年 2022年 2023年 2024年
300~500千円/㎡ 2.03 (1) 2.00 (2) 2.16 (2) 0.87 (1) -
~300千円/㎡ 1.52 (4) 3.70 (3) 2.09 (7) 2.68 (4) -
【図表8】仙台の路線価倍率
路線価 2020年 2021年 2022年 2023年 2024年
500~1,000千円/㎡ 1.96 (2) - - - -
300~500千円/㎡ 1.83 (2) - - - -
~300千円/㎡ 3.46 (1) 1.90 (1) - - -
【図表9】京都の路線価倍率
路線価 2020年 2021年 2022年 2023年 2024年
300~500千円/㎡ - - 2.10 (3) 2.13 (1) -
~300千円/㎡ - 1.98 (1) 3.22 (2) - 3.34 (1)
【図表10】福岡の路線価倍率
路線価 2020年 2021年 2022年 2023年 2024年
500~1,000千円/㎡ - 3.28 (1) - 2.93 (1) -
300~500千円/㎡ 4.78 (1) 1.93 (1) 1.56 (1) 4.12 (2) -
~300千円/㎡ 2.36 (2) 3.41 (6) 4.98 (2) 3.43 (3) 1.70 (1)
【図表11】路線価倍率の算出表(2024年。共有持分や詳細が不明な物件等は原則として除外。)
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提供:法人営業本部 リサーチ・コンサルティング部

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