【Special Report】人的資本・環境配慮、不動産にも

日経リアルエステートサミット2024 イベントReport

人的資本・環境配慮、不動産にも


コロナ禍やインフレ転換を経て、日本経済は今、失われた30年を取り戻す絶好の機会にある。2024年2月16日に都内会場とオンラインで同時開催された「NIKKEI Real Estate Summit 2024」では、復活の要となる新時代の不動産活用戦略について、2人の専門家が論じた。価値観が多様化する中、法人保有の膨大な不動産にも人的資本や環境配慮の視点が求められている。

基調講演 グローバルの金融動向と日本経済の見通し

慶應義塾大学大学院
メディアデザイン研究科教授
岸 博幸氏

ウェルビーイング追求で企業の生産性改善

日本経済は続伸

日経平均株価は史上最高値に迫るが、あくまで通過点にすぎない。日本経済の見通しは明るいといえよう。2024年後半にかけては米国の利下げや大統領選があり、世界経済に大きな影響を与える可能性はあるものの、今後も米国と日本の二人勝ちは続く見込みだ。日本銀行は今春にもマイナス金利を解除すると見られ、その後は段階的に引き上げられるだろう。

一方、日本経済には物価上昇というリスク要因もある。人口減少に伴う人手不足が深刻化する昨今、人件費の高騰も見逃せない。賃上げに対応できない企業は淘汰され、生産性の高い企業に人材が集まるのは必至だ。短期的にはあつれきが生じかねない状況だが、長期的にみれば望ましい方向に進んでいるといえる。

働きやすさへの投資を

企業の生産性向上には、デジタルトランスフォーメーション(DX)推進は大前提だ。グリーントランスフォーメーション(GX)も当たり前になりつつある。脱炭素に注目されがちだが、広くSDGs(持続可能な開発目標)の観点からウェルビーイング(心身の健康や幸福)が求められる時代になるだろう。イノベーションの源泉が個人のクリエーティビティーにあると考えれば、待遇や働き方の改善、オフィス環境の整備など、働きやすい職場づくりへの投資も重要度を増す。

諸外国と比べ不動産を保有している企業が多い日本では、自前での不動産の活用、または専門家と協力しての付加価値向上を目指す取り組みも求められる。デフレからインフレに転換し、日本が失われた30年を取り戻す好機となった今こそ、不動産の有効活用にも注力したい。

企業講演 持続的な企業価値向上への新・CRE戦略

野村不動産ソリューションズ
常務執行役員
原田 真治氏

~企業成長ホルモン強化への処方箋~
企業価値向上、要素は4つ

非財務情報を意識

日本ではPBR(株価純資産倍率)が1倍に満たない企業が全体の約4割を占める。この割合は世界的に見ても大きく、東京証券取引所は該当する企業に対して改善を要請している。

PBRの改善には、財務情報と非財務情報からなる企業価値の向上が重要だ。とはいえ、自社株買いなどによる短期的な収益性、つまり財務情報の改善効果は一過性と考えられる。必要なのは、非財務情報を通じて得られる中長期的な価値創造に対する市場からの期待獲得だ。

特に非財務情報に影響する①人的資本強化②知的資本創出③環境対策④社会・地域貢献の4つの企業成長ホルモンを強く意識した不動産戦略が、企業の持続的な価値向上に欠かせない。オフィスや福利厚生施設、研究施設・生産拠点においてをいかに戦略的に見直していくかがカギを握る。

企業成長ホルモンと企業価値向上の関係
血管である非財務情報を通じ、財務情報に浸透し、持続的な企業成長へ

企業成長ホルモンと企業価値向上の関係の図

自前主義から脱却を

オフィスにはウェルビーイングを実現する働く場の提供が求められている。働きやすさは、優秀な人材の確保や生産性の向上にも寄与し、人的資本、知的資本の強化につながるだろう。また、環境配慮型ビルを選択する企業は増加してきている。近年は従業員、株主や取引先などへもオフィス機能の説明責任が広がっており、環境性能に優れた物件への入居は、企業の脱炭素への取り組み姿勢を伝えるメッセージにもなり得るからだ。

しかし、これらを自社オフィスでまかなうには、昨今の建築費の高騰もあり、コスト面の課題が伴う。働き方の変化が進む中で、フレキシブルに対応できることは重要であり、古くなったオフィスビルは売却し、賃借するという自前主義からの脱却は、有効な手段となる。

保養所や寮、社宅といった福利厚生施設にも、多様化するニーズ、趣味嗜好を捉えた豊富な選択肢が必要だ。足下では福利厚生サービスの外部委託や借り上げ社宅を導入する企業が増えている。従業員は好みやライフスタイルに合わせて選択できるだけでなく、企業にとっても、不動産の維持管理コストや事務手続きの削減メリットがある。また、住環境の整備には国際的な視点も取り入れたい。海外人材が快適に暮らせる場の提供は、海外からの人材獲得競争において有利に働き、人的資本の強化、社会貢献へ一役買うことになる。

企業不動産にも変革の波

研究施設に関してもウェルビーイングの考え方が広まる。賃貸型研究施設である都市型ラボビルは、研究開発とオフィス機能の両面で高い機能と利便性を持つ。事業戦略に応じて機動的に活用できれば、人材確保やイノベーション創出の後押しとなるだろう。生産拠点には再生可能エネルギーなどを利用した積極的な二酸化炭素(CO2)対策、森や水辺環境保全といった生物多様性への配慮も求められる。行政とも連携した地域雇用の創出や地域活性化への貢献も、日本各地にある研究・生産施設の大切な役割だ。

日本では新築至上主義ともいえる文化があったが、エンボディド・カーボン(解体・建築時の排出CO2)の観点からも、今後は既存の構造を残して活用する視点を持たなくてはならない。当社で取り組んだ空き工場の異業種間マッチング事例では、地域への新たな企業進出を望む行政と買い主探索で連携し、買い主と行政は防災、減災や脱炭素、地域の活性化に関する包括連携協定を締結した。企業にとって効率的な成長投資、環境対策、地域社会への貢献と、様々なプラス効果があった事例といえる。多様化する社会では不動産をフレキシブルに、変化に対応出来る様にしておくことは重要だ。戦略的に、自前で持つものと外部のサービスを活用するもので、メリハリをつけて成長投資に振り向ける不動産戦略が重要なのだ。世界はこの30年で大きく変わった。日本の企業不動産も、「これまでの当たり前」を見直す変革期に来ているといえる。

※本記事は2024年3月22日(金)付 日本経済新聞朝刊掲載 広告特集を再構成したものです

NIKKEI Real Estate Summit 2024

主催:日本経済新聞社
協賛:野村不動産ソリューションズ株式会社 法人営業本部

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