CRE戦略
遊休不動産はどう活用するべき?~放置するリスクと具体的な活用事例~
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遊休不動産の取り扱いに悩んでいる方は多いのではないでしょうか。不動産は所有すると固定資産税や管理費がかかるだけでなく、周辺環境に悪影響を及ぼした場合には損害賠償請求が発生する可能性があります。
不動産を活用しないまま所有することはデメリットの方が多く、活用策を考えることが重要です。この記事では、遊休不動産の活用方法や放置するリスクなどを紹介していきます。
Ⅰ.遊休不動産とは
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遊休不動産とは、本来の趣旨とは異なった形態で活用されていない土地や建物のことをいいます。
企業において、遊休不動産が生まれる主な理由として下記が挙げられます。
- 新規事業で活用する予定で取得したが、事業が頓挫したか、計画が変更された
- 売却したいが、買い手が見つからない
- 活用しようにも資金繰りがうまくいかない
このように何らかの理由で、売却も活用もされず放置されているのが遊休不動産です。
Ⅱ.企業が遊休不動産を放置することによる3つのリスク
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企業が遊休不動産を放置するリスクとして、次の3つが想定されます。
- 物理的なリスク
- コストが発生し続けるリスク
- 企業評価が下がるリスク
それぞれ詳しくみていきましょう。
ⅰ.物理的なリスク
物理的なリスクとは、不動産が何らかの物理的な影響を受けるものを指し、防犯・防災・景観上のリスクに大別できます。
防災上のリスクでは、風水害などの自然災害や火災・老朽化などを要因として起きる不動産の損壊や全壊・半壊が想定されます。具体的には不動産を管理せずに放置していることが原因で台風などの自然災害を理由に建物が倒壊してしまえば、補修や整理にコストがかかってしまうでしょう。さらに、建物が倒壊したことが原因で、近隣の建物を破損したり通行人に怪我をさせたりするなど、被害が近隣に及べば、場合によっては損賠賠償の責任を負うなどのリスクもあります。
防犯上のリスクでは、外部から侵入されやすい状態を放置してしまうことで犯罪の温床になりやすいといったパターンが挙げられます。
景観上のリスクでは、放置していた建物に害虫や害獣が発生することで、景観や環境が悪化することなどが考えられます。
ⅱ.コストが発生し続けるリスク
不動産を所有していると、活用の有無にかかわらず毎年固定資産税・都市計画税が課せられます。不動産の状態によっては、固定資産税の軽減措置も適用できずに高額な固定資産税が科せられる可能性もあるでしょう。
また、周囲に悪影響を及ぼさないように適切に管理することが大切ですが、管理するにも維持管理費が発生します。
このように遊休不動産は、活用して収入を得られないのに支出だけは発生するため、マイナスの財産といえます。
ⅲ.企業評価が下がるリスク
活用しない不動産を所有し続けることで、企業評価が下がるリスクもあります。投資家・株主は、企業が不動産をうまく活用できていない経営方針やマイナスの資産を所有し続けていることに対し、不信感を得てしまう可能性があるからです。
Ⅲ.CRE戦略としての遊休不動産活用方法とその事例
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CRE戦略とは、企業の保有する不動産を活用することによって企業価値の向上を図る企業戦略のことをいい、積極的な不動産活用及びその最適化が求められます。そのため、CRE戦略においては遊休不動産の活用も重要なポイントとなるのです。
具体的な方法として『バリューアップ』や『売却』があります。
ⅰ.バリューアップ
バリューアップとは、読んで字のごとく「不動産の価値を上げる」ことです。経年劣化した設備や収益性の低い建物に投資し、魅力的な物件にすることで需要アップ・収益向上を目指します。例えば、社員寮を改装して賃貸物件として活用する、交通アクセスの良い工場を物流倉庫として活用する方法などがあります。
バリューアップをする場合は、事前に市場ニーズや不動産の状況の徹底的な調査が必要です。ニーズに合わない用途へ不動産を改変しても、かけた費用が無駄になる恐れがあります。
また、古い物件など安全性や法的な問題を抱えている場合もあるので、問題の解消と調査を先にする必要があります。しっかりとした調査をもとに、バリューアップに取り掛かるようにしましょう。
バリューアップの具体的な方法として、次の2つがあります。
- リノベーション
- コンバージョン
それぞれ事例とともに詳しくみていきましょう。
(Ⅰ)バリューアップの事例-リノベーション
リノベーションとは、同じ用途で建物に付加価値を付けて元の状態よりも良い状態にする方法です。
ちなみに、リフォームは修繕工事などで元の状態に戻すことをいいます。リフォームがマイナスをゼロに戻すのに対し、リノベーションはマイナスからプラスにするという違いがあります。
リノベーションでの活用事例には、下記のようなものが挙げられます。
- 社員寮の間取りを変更し賃貸物件やホテルとして活用する
- 古い賃貸物件の間取りや設備を見直し需要アップさせる
- 郊外の土地に太陽光パネルを設置して太陽光発電事業をスタートさせる
(Ⅱ)バリューアップの事例-コンバージョン
コンバージョンとは、建物の用途を変更、転用することです。遊休不動産になる要因の中に、ニーズの変化による不動産用途とのミスマッチがあります。現状ではニーズのない不動産用途自体を変更することで、今のニーズに用途を合わせ、収益化を目指すことが可能となります。
不動産の立地上、例えば賃貸マンションとして活用するよりサービス付き高齢者向け住宅として活用したほうが良いなど、より適した使用目的が想定される場合、リノベーションよりコンバージョンの方が適しているでしょう。用途変更を伴う工事になると大規模工事が必要ですが、もともとある不動産を活用できるので使用目的によってはリノベーションよりコンバージョンの方が費用を抑えられる可能性もあります。
コンバージョンでの活用事例には、下記のようなものが挙げられます。
- 高速道路周辺の工場を物流倉庫にする
- 賃貸マンションをサービス付き高齢者向け住宅(サ高住)にする
- 繁華街に近い立地にあるオフィスを店舗にする
ⅱ.売却
活用できていない不動産は、コストがかかるマイナスの資産です。とはいえ、活用するにも費用がかかるため活用が難しいというケースもあるでしょう。活用できない・将来的に活用する予定もない不動産であれば、売却してしまう方が有効的です。
企業の不動産売却は決算に大きな影響が出る可能性もあるので、注意しなければなりません。例えば、売却で高額な売却代金の動きがあり、場合によっては株価に影響が出る恐れもあります。情報漏洩などがあっては、インサイダーなどの不正を疑われる恐れもあるため細心の注意を払って検討・実行することが大切です。
売却することで、売却金を得られるだけでなく、それ以降の管理の手間やコストを削減することにもつながります。また、売却して手放してしまえばその不動産が起因となるリスクを取り除くことも可能です。
(Ⅰ)売却事例
売却の事例としては次のようなものが挙げられます。
- 活用しない土地を売却して売却金を得る
- 遊休不動産を売却して売却金で別の不動産を購入する
単に売却するだけでなく、売却したお金で別の不動産を購入し活用する買い替えという方法も検討できます。買い替えによる資産の入れ替えは、条件を満たせば課税を将来に繰り延べられる特例の適用もできるので検討するとよいでしょう。
売却の場合は、売却金が計上される期の調整や最低売却額の設定など企業側の事情を確認したうえで検討することが大切です。
売却を検討する場合、不動産の市場価値や市場のニーズなどの調査を踏まえて検討する必要があります。
Ⅳ.まとめ
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遊休不動産は所有しているだけでコストがかかるだけでなく、物理的なリスクや投資家から評価が下がるなどのリスクも伴います。
CRE戦略を図るうえでは遊休不動産の活用も重要になるため、バリューアップや売却など、その企業に合った方法で遊休不動産を活用していきましょう。
逆瀬川 勇造
保有資格:宅地建物取引士・相続管理士・2級FP技能士(AFP)
地方銀行、不動産会社を経て2018年にライターとして独立。2020年に合同会社7pocketsを設立。
現場で得た知識や経験を元に、読む方に理解しやすい記事を執筆している。
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