実際の取引事例における路線価倍率 ~賃貸住宅編~

【サマリー】

●路線価倍率の調査方法は次の通り。①REITの取引事例より、各物件の売買価格、土地比率を抽出する。②取引価格に土地比率を乗じ、土地価格を算出する。③②を土地面積で割り、土地単価を算出する。④③を取引年の相続税路線価で除し、路線価倍率を算出する。

●各エリアの路線価格帯別の路線価倍率は、以下の通りとなった。

 ・【東京都心6区】 1,000千円/m2以上:2倍後半、 500~1,000千円/m2:3倍前後
 ・【東京城南エリア】 500~1,000千円/m2:3倍前後
 ・【東京城東エリア】 500~1,000千円/m2:4倍台
 ・【名古屋】 300~500千円/m2:3倍台、 300千円/m2以下:3倍後半~4倍前後
 ・【福岡】 300千円/m2以下:2倍後半~3倍前半

Ⅰ.調査方法

本調査はREITのプレスリリースを用いて行いました。具体的な手順は以下の通りです。

(ア) REITの取引事例(プレスリリース「資産の取得に関するお知らせ」など)より、各物件の売買価格、土地比率を抽出する。
(イ)取引価格に土地比率を乗じ、土地価格を算出する。
(ウ)②を土地面積で除し、土地単価を算出する。
(エ)③を取引年の相続税路線価(以下、「路線価」)で除し、路線価倍率を算出する。

(例)プラウドフラット戸越公園の場合
取得価格25.8億円、土地比率78.7%、地積1,452.80m2、路線価530千円/m2
⇒ 土地価格 = 25.8億円 × 78.7% = 20億3,046万円
⇒ 土地単価(m2)= 20億3,046万円 ÷ 1,452.80m2 ≒ 1,397,618円/m2
⇒ 路線価倍率 = 1,397,618円/m2 ÷ 530,000円/m2 ≒ 2.64倍

Ⅱ.路線価倍率の検討

はじめに、東京、札幌、名古屋、大阪、福岡の5都市における2018年~2021年のREIT取引事例について、路線価倍率を算出します(末尾「集計データ」参照)。この集計データをもとに、路線価倍率の中央値の推移を、都市別かつ路線価水準別に集計しました。

以上より東京の路線価倍率を分析すると、都心6区の1,000千円/m2以上の価格帯については、概ね2倍後半であることがわかりました。500~1,000千円/m2の価格帯について路線価倍率の推移をみると2020年に上昇、2021年に下落していることが読み取れます。

個別事例を見ると、2020年には日本橋エリアの大通り背後の物件で、路線価倍率が高い事例が見られました。このような都心至近でオフィスやホテル等他のアセットとも競合するエリアでは、収益物件の開発ニーズは高いのに対して路線価が低く抑えられているため、路線価倍率が高くなりやすい傾向があります。

この事例を除くと2020年の路線価倍率の中央値は2.84倍となります。これより、都心6区の500~1,000千円/m2の価格帯の路線価倍率は3倍前後であると言えそうです。

城南エリアの500~1,000千円/m2の価格帯では、路線価倍率は2020年に下落、2021年に上昇して推移していることがわかりました。各年の個別事例をみると路線価倍率が4倍以上となる事例も散見されますが、2020年にはそれがなく、路線価倍率が例年より低く抑えられたと考えられます。よって、城南エリアの500~1,000千円/m2の価格帯の路線価倍率は、概ね3倍前後と言えそうです。

城東エリアの路線価倍率は、500~1,000千円/m2の価格帯では4倍台であることがわかりました。300~500千円/m2の価格帯は年によって路線価倍率のばらつきが大きくなっていますが、推移をみると2020年に下落、2021年に上昇していることが読み取れます。

個別事例を見ると、例年路線価倍率が5倍以上となる事例が複数含まれているのに対し、2020年は5倍以上の事例が1件のみであり、全体として路線価倍率の水準が下がったというよりは高倍率の事例が少なかったためと考えられます。

江東区や墨田区における都心へのアクセスが良好なエリアについては、賃貸住宅のニーズは高く賃料単価は一定水準以上となるものの、路線価は低く抑えられているため、路線価倍率が高くなりやすいと言えそうです。また、城東エリアについては、2021年に取引件数が倍増していることがわかりました。

次に、地方都市の路線価倍率の推移を見ていきます。

いずれの都市も、300千円/m2以下の価格帯について、路線価倍率は2020年に下落し、2021年に上昇していることがわかりました。

年によってばらつきが大きく、路線価倍率の傾向が読み取れない都市もありますが、名古屋の300~500千円/m2の価格帯は3倍台、名古屋の300千円/m2以下の価格帯は3倍後半~4倍前後、福岡の300千円/m2以下の価格帯は2倍後半~3倍前半と言えそうです。

また、大阪の300千円/m2以下の価格帯についてはばらつきが大きくなっていますが、取引事例を見ると2020年には3倍台以下の事例が6割以上を占めているのに対し、2021年は全て4倍後半以上の事例となっています。これはマーケット全体で路線価倍率が上がったというよりは、エリアや物件の個別事情によるものと考えられます。

※集計データ(共有持分や詳細が不明な物件等は原則として集計から除外。)

提供:法人営業本部 リサーチ・コンサルティング部

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