公示地価動向分析2023 東京23区「商業地」

~10年前からの上昇率ランキングから探る地価上昇要因~

2023年3月23日、「令和5年地価公示」1が公表されました。東京圏の「商業地」2の平均変動率は、+3.0%と2年連続で上昇を示し、上昇率も拡大していることが確認されています。
国土交通省は、「都市部を中心に上昇が継続するとともに、(中略)コロナ前への回復傾向が顕著」と考察しています。では、都市部の中でも特に顕著な上昇を示しているのは具体的にどのエリアなのか、またそれらのエリアにはどのような共通点や傾向、特徴があるのでしょうか。

本レポートでは、過去10年間の調査地点別の公示地価データを集計し、この10年間で特に顕著な上昇を示した地点をランキング形式で明らかにするとともに、持続的なエリアポテンシャルアップに繋がっている要因を探ります。
今回は、「東京23区」の「商業地」、2013年から連続してデータが取得できる521地点を対象に考察します。


【サマリー】

エリア別では、「都心5区」が2013年比165.7%で最も上昇が著しい。
駅距離別では、駅に近い地点ほど明確に上昇率が高い。
10年前と比較して最も上昇した地点は、「台東区浅草1丁目16番14外」。
直近10年における地価上昇の代表的な要因は、①「インバウンド拡大」、②「(新駅開業も含めた)再開発」、③「割安感のあった下町エリアの見直し」。

<本レポートにおける「エリア」の区分>
「都心5区」:千代田区、中央区、港区、新宿区、渋谷区
「城南」:品川区、目黒区、大田区、世田谷区
「城西」:中野区、杉並区、練馬区
「城北」:文京区、豊島区、北区、板橋区
「城東」:台東区、墨田区、江東区、荒川区、足立区、葛飾区、江戸川区


1地価公示法に基づき、国土交通省土地鑑定委員会が毎年3月下旬に公示(公表)する、その年の1月1日時点における標準地の単位面積(1㎡)当たりの正常な価格(土地評価)が公示地価。調査地点は全国約26,000地点。国内で最も代表的な土地評価であり、一般の土地取引価格の指標となるだけでなく、公共用地の取得価格の算定基準ともなっている。
2市街化区域内の準住居地域、近隣商業地域、商業地域及び準工業地域並びに市街化調整区域並びにその他の都市計画区域内並びに都市計画区域外の公示区域内において、商業用の建物の敷地の用に供されている土地を指す。

Ⅰ.全データの集計結果

1.エリア別と最寄駅徒歩分数別の10年前からの上昇率

図表1は、エリア別に見た10年前からの上昇率です。「都心5区」の上昇が特に顕著です。商業・業務機能が集積する都心部ほど伸びが顕著ですが、最も低い「城南」でも10年前から1.5倍近い上昇を示しており、地価上昇は23区全域に及んでいることが窺えます。
図表2は、最寄駅徒歩分数別に見た上昇率です。駅距離による差が明確であり、駅前立地の需要の強さが垣間見えます。

図表3は、図表1と2のクロス集計結果です。「都心5区」の「5分以内」が最も上昇率が高く、「城東」の「11分以上」が最も上昇が緩やかです。表中の「①と②の差」に着目すると、「城東」においては差が特に顕著です。様々な要因が考えられますが、「城東」は対象面積が広いこともあって、駅に遠い調査地点が相対的に多く配されていることも要因の一つと推察されます。

2.2013年以降のエリア別の指数推移

図表4はエリア別に見た指数の推移です。コロナ禍以降、回復基調にある点は各エリア共通です。
次ページから、特に上昇の著しい具体的なエリアについて、ランキングに沿って考察していきます。

Ⅱ.東京23区上昇率ランキング・トップ10地点と地価上昇要因の傾向

1.東京23区上昇率ランキング・トップ10地点

2.東京23区上昇率ランキング・トップ10地点に見る地価上昇要因の傾向・特徴

i.人気観光地に強烈な追い風「インバウンド効果」の大きさ ~「浅草」、「銀座」、「渋谷」

2013年からの上昇率トップは、「台東区浅草1丁目16番14外」で、2013年比263.0%となっています。「浅草2丁目(以下略)」も6位に入っており、地価上昇が浅草エリア全体に及んでいることが確認できます。
銀座と渋谷も複数地点がランクインしていますが、これらのエリアには共通点があります。本レポート調査対象期間である2013年以降は、訪日外国人旅行者が急激なペースで増加した時期に当たりますが(図表6)、この3エリアとも訪日客にとっては都内屈指の人気スポットであることが共通しています(図表7)。

【図表6】訪日外国人旅行者数の推移

出所:(図表6)日本政府観光局(JNTO)「訪日外客数」より野村不動産ソリューションズ作成

【図表7】訪日外国人旅行者が訪問した場所

出所:(図表7)東京都「平成31 年・令和元年 国・地域別外国人旅行者行動特性調査」より野村不動産ソリューションズ作成

このことから、直近10年においては、インバウンドの急激な拡大が都心部の地価上昇の大きな要因の一つであったことが確認できます。なお、同じく人気の観光地「新宿・大久保」は、地価上昇地点が分散している上、特に大久保エリアでは、2000年代前半の「韓流ブーム」によって既に相応の水準に押し上げられていたこと等から、浅草等に比べれば緩やかな上昇率にとどまっていると見られます。

ii.オフィス街の魅力をさらに高める「東京大改造」~「泉岳寺」、「虎ノ門」、「渋谷」

港区2地点の共通点は、近隣で大規模再開発が複数進展していること、新駅が開業していることの2点です。高輪(泉岳寺駅付近)では、山手線の新駅「高輪ゲートウェイ駅」が2020年3月に開業しています。新駅の駅前では、オフィス中心の「品川開発プロジェクト(第Ⅰ期)」が2025年3月の開業に向けて進展しています。虎ノ門エリアでも、東京メトロ日比谷線の新駅「虎ノ門ヒルズ駅」が2020年6月に開業、近隣では断続的に大規模再開発が行われています。
「100年に一度の再開発」とも称される連鎖型の再開発に沸く渋谷駅前エリアも、こうした「東京大改造」によって著しい地価上昇を果たしているエリアの一つに挙げられると考えます。

iii.割安感も味方に急速に見直しが進む下町エリアの利便性や魅力 ~「北千住」

近年、大学のキャンパス開設やタワーマンションの開発等が活発な北千住駅前エリアが3位につけています。もともと高い利便性を有する周辺を代表する商業集積地とは言え、この北千住エリアの躍進は、近年急速に見直されつつある下町エリアを象徴する動きと言えるのではないでしょうか。

Ⅲ.エリア別上昇率ランキング・トップ20地点と地価上昇要因の傾向

1.都心5区上昇率ランキング・トップ20地点

2.都心5区における地価上昇要因の傾向・特徴

i.港区2地点の共通点は、「再開発」&「新駅」~「泉岳寺」、「虎ノ門」

前述の通り、再開発の進展と新駅の開業が2地点に共通しています。各地点周辺の近年の代表的な動きを図表9にまとめました。インバウンドに依存した街ではないため、浅草等と異なり、コロナ禍による地価への影響は軽微で、着実な地価上昇を続けている点が特徴と言えます。

【図表9】高輪と虎ノ門の各エリアにおける近年の代表的な動き

出所:野村不動産ソリューションズ調べ
高輪2丁目周辺エリア ・「高輪ゲートウェイ駅」開業(2020年3月)
・品川開発プロジェクト(Ⅰ期)(2025年3月以降順次竣工予定)
・泉岳寺駅地区第二種市街地再開発事業(2028年3月竣工予定)
虎ノ門1丁目周辺エリア ・虎ノ門ヒルズ森タワー(2014年5月竣工)
・虎ノ門ヒルズビジネスタワー(2020年1月竣工)
・東京虎ノ門グローバルスクエア(2020年6月竣工)
・「虎ノ門ヒルズ駅」開業(2020年6月)

ii.「インバウンド」がさらに高める国内随一の商業地のブランドとポテンシャル ~「銀座」

上位20地点中7地点を占めているのが銀座エリアです。日本一の地価水準を誇る「銀座4丁目2番4」をはじめ、既に高水準にあった地価が、前述したインバウンドの急拡大および訪日客からの高い評価を経て、さらに一段の上昇を示している点に、商業地・銀座のポテンシャルの高さが窺えます。

iii.「100年に一度の再開発」で「若者の街」から都内屈指のオフィス街に ~「渋谷」

上位20地点中6地点は、渋谷駅周辺エリアです。近年、Googleが入居する「渋谷ストリーム」、サイバーエージェント等が入居する「渋谷スクランブルスクエア」等が相次いで開業した同エリアは、今や一大オフィス街へと変貌を遂げました。2023年11月には、「渋谷サクラステージ」の竣工が予定されています。まだ途上と言える「100年に一度の再開発」と渋谷エリアには今後も注目です。

3.城南エリア上昇率ランキング・トップ20地点

4.城南エリアにおける地価上昇要因の傾向・特徴

i.「住みたい街」としての人気も強み 東急沿線の実力 ~「三軒茶屋」、「自由が丘」

東急田園都市線と東急世田谷線が乗り入れている三軒茶屋駅周辺地点がエリア内1位と5位、東急東横線と東急大井町線が乗り入れる自由が丘駅周辺地点が2位と8位にランクインしています。ともに周辺を代表する商業集積地であるとともに、居住地としての支持も厚い都内屈指の好イメージ人気エリアです。3位の池尻大橋駅周辺も含め、大規模再開発やインバウンドに依存しない地価上昇を果たしている点が特徴であり、また強みであるとも評価できます。

ii.都内最大級の事業面積を誇る再開発で複合機能を有する街へ ~「二子玉川」

同じ世田谷区でも4位の二子玉川駅周辺は、再開発効果の大きいエリアと言えます。オフィス、タワーマンション、ショッピングセンター等から構成される「二子玉川ライズ」は、「二子玉川東地区市街地再開発」として段階的に整備されてきました。2015年には、楽天がオフィス棟に本社を移転し(ビル名は「楽天クリムゾンハウス」)、二子玉川駅の乗降客数も大幅に増加しました。現在、二子玉川は、下北沢、三軒茶屋とともに世田谷区の「広域生活拠点」に指定されています。

iii.山手線沿線立地の底堅さと将来性への期待 ~「目黒」、「五反田」

目黒駅周辺と五反田駅周辺も複数地点ランクインしています。目黒駅前では、都営バス営業所跡地における再開発が2017年に完了、再開発によって整備されたオフィスビル「目黒セントラルスクエア」にはAmazon等が入居し、賑わいが増しました。もともとIT系スタートアップやベンチャー企業等からの支持が厚い五反田も、着実な地価上昇が継続しています。五反田エリアでは、「ゆうぽうと」跡地におけるオフィスビル「五反田計画」も2023年12月に竣工する予定です。また、東五反田2丁目では大規模再開発も進められており、エリア全体の将来性への期待も高まっています。

5. 城西エリア上昇率ランキング・トップ20地点

6.城西エリアにおける地価上昇要因の傾向・特徴

i.駅周辺で進む「中野版・100年に一度の再開発」 当面は上昇が継続か ~「中野」

中野駅周辺地点の上昇が際立ちます。2012年、警察大学校跡地における再開発によって「中野セントラルパーク」が整備されました。キリンビールが本社を置き、明治大学や帝京平成大学等が新校舎を開設したことも話題となりました。その後も、中野駅周辺では断続的な大規模開発が進められています(図表12)。さらなる発展性が期待される注目すべきエリアと言えるでしょう。

ii.安定感際立つ中央線沿線立地のポテンシャル ~「高円寺」、「阿佐ヶ谷」、「荻窪」

城西エリア内トップ20の大半を占めるのが、中野を含めた中央線沿線立地です。特に高円寺、阿佐ヶ谷、荻窪といった各駅は、中野駅前のような再開発が活発なエリアではなく、インバウンドの恩恵を享受しているエリアでもありません。それでも着実に地価上昇を続けているのは、各駅前に地元密着型の商業機能が集積しており、且つ都心へのアクセスに便利で居住地としての人気も安定して高いという中央線の「沿線力の強さ」にあると推察します。
進学で上京した学生や、卒業後も住み続ける若い社会人、新婚や子育て世帯、数世代にわたって住み続けている世帯まで、居住者の属性は幅広く、それ故に底堅い土地需要が恒常的に見込めるエリア、と評価する声もあります。急激な地価上昇が期待されるエリアとは言えませんが、価値が下がりにくいエリアであるとも評価できるのではないでしょうか。

7.城北エリア上昇率ランキング・トップ20地点

8. 城北エリアにおける地価上昇要因の傾向・特徴

i.駅前百貨店の動向にも注目 3大ターミナル駅のポテンシャルと将来性 ~「池袋」

新宿、渋谷と並ぶ大ターミナル・池袋駅周辺が20地点中8地点ランクインしています。近年に限っても、2019年に「ダイヤゲート池袋」(西武ホールディングス本社)が竣工、2020年に豊島区役所本庁舎跡地において「ハレザタワー」が竣工する等、活発な開発が続いています。さらに、「東池袋一丁目地区」、「西池袋一丁目地区」、「池袋駅東口地区」、「池袋駅西口地区」等の再開発が池袋駅周辺において検討されており、今後の発展性を期待させる材料も十分です。
池袋を代表する百貨店「西武池袋本店」の動向にも注目が集まっています。売却予定先の米投資ファンドとの交渉が難航しており、本稿執筆時点でも売却には至っていません。池袋を象徴する大型百貨店の動向は、今後のエリアポテンシャルに少なからず影響すると推察され、この動向からも目が離せません。

ii.居住地としての人気も上昇中 将来性を占う再開発の進展にも注目 ~「赤羽」

赤羽駅周辺も地価上昇に繋がるイベントが多いエリアです。総戸数3,373戸からなる巨大団地「赤羽台団地」の建替えが今も進行中で(「ヌーヴェル赤羽台」)、2017年には、近隣の中学校跡地に東洋大学が新キャンパスを開設しました。また、約300戸のタワーマンション等を整備する「赤羽一丁目市街地再開発事業」も検討されています。ここ数年、漫画やドラマ等の舞台としても取り上げられることも多く、多方面から高い注目を集めているエリアです。

iii.再開発で街の機能にさらなる厚み 東京ドーム近接で将来性にも期待 ~「春日」

タワーマンションや高層オフィス、商業施設等の複合施設「文京ガーデン」(2022年4月グランドオープン)によって、街の魅力をさらに高めた春日駅周辺。近接する複合娯楽施設「東京ドームシティ」の将来的な再開発計画も検討されており、エリア全体の発展性も期待されます。

9.城東エリア上昇率ランキング・トップ20地点

10. 城東エリアにおける地価上昇要因の傾向・特徴

i.今や「インバウンド」を象徴する街に ホテル開発ラッシュも地価上昇に拍車 ~「浅草」

インバウンドによる地価上昇が著しい浅草エリアですが、特にコロナ禍前までの急激な上昇の背景の一つに、訪日客の宿泊需要を見込んだホテル開発ラッシュが挙げられます。図表15は、浅草エリアにおける新築ホテル(「簡易宿所」含む)の竣工年別棟数の推移です。2018年からの竣工ラッシュが確認できます。回復基調にあるインバウンドや、それに伴って再燃しつつある各方面からのホテルアセットへの投資動向等には今後も要注目と言えます。

ii.急速に見直しが進む下町の大ターミナル 将来性にも期待 ~「北千住」

下町を代表する大ターミナルの一つである北千住駅周辺地点も上位です。2012年の東京電機大学の進出や、大型分譲マンションの相次ぐ竣工等により、この10年で急速に見直しが進んだ下町の代表的なエリアと言えます。さらに、東口エリアでは2つの再開発事業が検討されており、一層の発展性が期待されるエリアと言えます。

iii.再開発効果で注目高まる山手線のラストフロンティア ~「日暮里」

2011年に駅前の再開発が完了した日暮里駅周辺も上位です。近接する西日暮里駅では再開発も予定されています。以前は、「山手線の穴場」と称されることも多かったエリアですが、今後の発展性が期待されます。

Ⅳ.東京23区上昇率ランキング・トップ100地点

「銀座」や「築地」、「水天宮前」等がランクインした中央区がトップの58%となりました。
港区は、「泉岳寺」や「虎ノ門」の他、「浜松町」、「品川」等の今後の再開発計画が目白押しのベイエリアがランクインしています。
渋谷区は、再開発が盛んな「渋谷」周辺エリアが多数ランクインを果たしています。
豊島区は、ランクイン地点の大半が「池袋」周辺です。
土地取引の基準である地価動向について、今後も定期的な観測を続けていきます。

提供:法人営業本部 リサーチ・コンサルティング部

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