SDGs
SDGsと企業不動産 ~企業の導入フローと不動産分野との関わり~
【サマリー】
●企業がSDGsを導入する手順として、①SDGsの理解、②優先課題の決定、③目標設定、④経営へ統合、⑤報告・コミュニケーションを行う、といった5つのステップがあり、②から⑤を繰り返していくことでSDGsへの貢献を高めていくことが求められている。●ステップ2「優先課題の決定」では、自社の活動だけでなくバリューチェーン全体を考慮した上で、SDGsの目標と紐づけることが重要である。
●ステップ3「目標設定」では、ステップ2で特定された優先課題全体を網羅する目標を設定することが望ましく、各目標についてはベースラインを設定することが重要である。
●すべての事業活動には不動産が密接に関わっており、国内の二酸化炭素排出量において不動産分野は3分の1以上を占めるため、不動産分野における気候変動対策はすべての企業が取り組むべき課題である。
国連サミットにおいて同意された「2030年アジェンダ」では2020年1月からの10年は「行動の10年(Decade of Action)」とされており、SDGsへの取り組みの加速が期待されています。現在の日本国内企業の取り組み状況はどうでしょうか。
帝国データバンクが2021年6月に1万1,109社を対象に行った調査によると、「SDGsに積極的」な企業は昨年調査の15.3ポイント増の39.7%と、大幅に増加する結果となりました。一方で、SDGsに取り組んでいない企業は50.5%と半数を超えています。
また、SDGsに積極的な企業の景況感を表す「SDGs景気DI(総合)」を見ると、SDGsに積極的でない企業の景況感を上回る水準で推移していることがわかりました。
このことからも、SDGsへの取り組みと企業活動は、切り離せないものになってきていると言えるかもしれません。では、具体的にはどのような手順でSDGsを導入すれば良いのでしょうか。
Ⅰ.企業がSDGsを導入するために
1.企業の取り組みフロー
SDGsの目標を達成するためには、政府や自治体の取り組みだけでなく経済や雇用、環境に密接に関わる企業の協力が欠かせません。そこで2016年3月、国際的なNGOのGRI、国連グローバル・コンパクト、国際企業で構成される組織WBCSDの3者によって、SDGs導入における企業の行動指針として”SDGコンパス”が作成されました。
SDGコンパスは、大規模な多国籍企業に焦点を置いて開発された経緯がありますが、その他の企業や団体でもSDGコンパスの内容から新たな発想を生み、企業・団体の現状や事業内容に合わせてSDGコンパスの指針を活用することが期待されています。
企業がSDGsを経営戦略と整合させ、SDGsへの貢献を測定し管理していくにあたり、SDGコンパスでは以下5つのステップを提示しています。
企業がSDGsを導入するための第一歩として、まずはSDGsが掲げる17の目標を理解することが必要です。しかしながら、これらの目標には目標値は設定されているものの、具体的な解決策は明記されておらず、企業が実際に取り組むためには各企業が自社の事業に落とし込み、行動していかなければなりません。
上図の通りステップ2から5を繰り返していくことによって、SDGsへの貢献をより高めていくことが求められています。
SDGsを実践に移す前の準備段階として、社内体制と長期ビジョンの構築が必要です。SDGsに取り組むための体制づくり、企業のトップをはじめとした経営陣のリテラシーの醸成、社内での意思統一を図っていきます。
2.優先課題の決定
社内体制が整えたら、次はステップ2「優先課題の決定」です。各企業がSDGsに対して及ぼす最大の社会的・環境的な影響は、各企業の活動範囲を超える可能性があります。そのためSDGコンパスでは、優先課題を決定するための出発点として、バリューチェーン全体を考慮することを推奨しています。
まず、自社が生産する商品の原材料の調達から、生産、販売、使用、廃棄など、バリューチェーン全体をマッピングし、各活動段階で関わる企業や団体を特定します。次に、各活動段階で発生する正と負の課題を洗い出します。これは、バリューチェーンの各段階において各SDGの目標の詳細な評価を行うものではなく、最大の効果が期待できる領域を高いレベルで俯瞰するためのものです。
影響が大きい領域を特定するために、マッピングにおいては、事業活動やバリューチェーンの他の区分がSDGs達成度の低い地域にどれだけ近いかなど、背景状況も考慮することとされています。影響が大きい領域を特定するためには産業部門のデータも有用です。
影響が大きい領域を漏れなくマッピングするために、業種別の独立した手引書「SDG Industry Matrix」や、「SASBマテリアリティマップ」等が役立ちます。SDGコンパスよりも具体的な指示・指摘がありわかりやすくなっているため、参考になります。
また、マッピングでは外部のステークホルダーと協業し、SDGs全体に対して自社が現在与えている、または与える可能性のある影響に関する見解や関心も確認する必要があります。SDGコンパスでは企業の決定や活動により悪影響を受ける可能性のあるステークホルダーを優先するよう推奨しています。
バリューチェーンマッピングにより影響の大きい領域が明らかになったら、ロジックモデルを作成し、必要なデータの収集と分析をします。事業活動による直接的な結果がもたらす短期的・長期的な社会や環境への変化・成果について、投入・活動・産出・結果・社会への影響の5段階に分けて整理するのがロジックモデルです。このロジックモデルを踏まえたうえで、SDGsと自社事業との繋がりを考え、SDGsの17の目標や169のターゲットと紐づけていきます。
3.目標の設定
ステップ3では「目標の設定」を行います。持続可能な開発の経済的・社会的・環境的な側面すべてを対象に、ステップ2特定された優先課題全体を網羅する目標を設定することが推奨されています。そのうえで目標に対する進捗度を測るための指標としてKPIを設定します。
そしてSDGコンパスでは、各目標についてベースラインを設定することが重要であると主張しています。ベースラインは、特定の時点や期間から設定されますが、この設定が目標達成の可能性を大きく左右することになるため、ベースラインの選択の仕方と選択の理由について透明性を確保することが大切です。
次に絶対目標と相対目標のいずれかの目標タイプを選択します。絶対目標とはKPIのみを考慮した数値目標であり、相対目標とはKPIを算出の単位と比較した目標です。
絶対目標は、社会に対して及ぼすと期待される影響を表すのに最適ですが、企業の成長や衰退が考慮されていません。一方、相対目標は達成度の測定における正確性に優れていますが、目標が社会に与える影響については把握しきれていません。
どちらにしても完全な全体像はつかめないため、両者を適切に使い分け、各企業が目指す影響をしっかりと説明することが推奨されています。
そして目標には意欲度を盛り込むことも重要です。意欲度の高い目標を決定することで、自社のイノベーションや創造性を促進させ、また、宣伝効果や同業他社に働きかける効果を高めることが期待されます。
意欲度の設定においては、目標達成に向けての時間軸の設定が重要です。業界が現状から大幅に異なる未来を創造するうえで大きな転換点となるような目標を設定できるよう、時間軸を長く取るべきという主張もあります。
ただし、時間軸が長いほど説明責任が曖昧になるため、長期にわたる目標を設定する場合、短・中長期的な目標も併せて設定する必要があります。
具体的な目標を設定する際のアプローチとして、SDGコンパスでは、従来の「インサイド・アウト・アプローチ」から新しい「アウトサイド・イン・アプローチ」に転換すべきだと提唱しています。
従来の企業における考え方としては、過去のデータや現在の潮流、同業他社の目標などをもとに今後の動向と道筋を予測する「インサイド・アウト・アプローチ」が一般的でした。
しかしながら、世界レベルであるべき未来像に向かって目標を掲げ、実践することが求められるSDGsの達成に向けては、この考え方では課題全てに十分対応することは難しいでしょう。
そこで、世界的・社会的ニーズから自社事業で対処できるニーズを選び、取り組んでいく「アウトサイド・イン・アプローチ」こそ、SDGs達成にとって重要な考え方と言えます。
目標設定が完了したら、取り組み目標の一部またはすべてを公表します。目標を公表することで、従業員や取引先のモチベーションが上がる、外部のステークホルダーとの建設的な対話の基盤になる、といったメリットがありますが、一方で期限内に達成できなかった場合に批判の対象となるリスクも考慮すべきです。
この対処法としては、情報を定期的に発信し、取り組み内容、達成状況、課題等について透明性を確保することが有効です。
4.当社グループ事例
当社グループを例として、目標決定までのプロセスを見てみます。まずステークホルダーと当社グループ双方の視点から、重要度に応じてテーマをマッピングし、4つの重点テーマを決定しました。
そして4つの重点テーマについて、社会課題・重要な理由・当社グループのアプローチ・関連する経営戦略などについて整理し、SDGsの目標と紐づけました。
Ⅱ.不動産分野における取り組みの重要性
ここまでは、本業の事業活動を中心に、優先課題の特定、目標設定を説明してきましたが、工場・倉庫・オフィスなど、すべての事業活動には不動産が密接に関わっています。
そして、SDGsの目標の中でも世界的に関心の高い「気候変動対策」において、不動産分野は重要な課題のひとつとなっています。不動産分野における二酸化炭素排出量は、商業・サービス・事務所などの業務部門と住宅部門で、日本全体の3分の1を占めており、いまだ増加基調にあるのが現状です。
更にここには工場等の産業部門に分類される不動産は含まれていません。不動産分野として果たす役割は大きく、省エネ・省CO2などの環境価値を高めた不動産のストックを形成していくことが求められています。そしてこれは、不動産を所有・使用するすべての企業が取り組むべき課題と考えられます。
日本が掲げる「2050年カーボンニュートラル宣言」を達成するために、自社のバリューチェーンに関わる不動産の二酸化炭素排出量を正確に把握し、これを削減していくことが必要となるでしょう。
提供:法人営業本部 リサーチ・コンサルティング部
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