【Special Report】SDGs視点の問題提起で価値創出

日経リアルエステートサミット2022 イベントReport
企業不動産戦略 これからの針路
 ~未来につながるCRE戦略とは~

SDGs視点の問題提起で価値創出


コロナ禍でライフスタイルや価値観の多様化が進み、社会のニーズや構造も大きく変化した。
企業は個人の幸せや環境への配慮など、アフターコロナに向けた新しい価値の創出へ戦略を転換していく必要がある。
新時代で求められる企業としての姿勢やSDGsを軸とした不動産活用の指針について、専門家による議論が展開された。

アフターコロナの経済・金融動向

慶応義塾大学大学院
メディアデザイン研究科 教授
岸 博幸氏

失われた30年 コロナで転機

経済成長、課題は民間に

アフターコロナの世界経済は地政学的、市場的な2つのリスクから調整局面を迎えると考えられる。米国、欧州の経済や株価は若干落ち込み、中国は政府の経済政策次第で先行きが変わると予想される。一方、日本経済においては比較的厳しいシナリオがあり得るのではないか。

日本経済はコロナ以前から低迷を続けてきた。経済規模の指標となる名目GDP(国内総生産)は1990年から2020年の30年間でわずか16%しか増えていない。他国の同期間の成長率を見てみると、米国は3.5倍、韓国が10倍、中国では54倍となっている。他国と比較しても、日本経済の伸び率は低い。

日本の経済成長の遅れはひとえに企業の生産性の低さが原因だ。生産性は人件費や原材料費といった生産コストに対し、どれだけの利益を生み出せたかで判断できる。デジタル化やグローバル化で人件費などを削減、あるいは新たな社会的価値を生み出し利益を拡大していかなければ、生産性は上がらない。現に、90年代から世界では急速にデジタル化、グローバル化への構造改革が進んだ。米アップルはその典型例といえるだろう。同社は30年間で売り上げを50倍に拡大している。背景にはスマートフォンの普及ももちろんあるが、製造拠点を人件費の安い海外に置くことで生産コストを抑え、コンテンツのデジタル化で自社製品の価値を高めていった結果でもある。

では、なぜ日本では海外のような構造改革が行われなかったのか。いくつか理由はあげられるが、主要な原因は民間企業の努力不足にあるといえるだろう。本来、一つ一つの企業が生産性を向上させることでその国の経済は拡大していく。しかし、日本企業の多くは昭和の高度経済成長期を経験しており、経営者には当時の成功体験があるために、組織体制や事業モデルの変革に積極的ではなかった。その結果、日本ではイノベーションが進まず、経済も停滞してしまったのだ。

進む改革、価値創造の好機

今回のコロナ禍は日本企業が再生する絶好の機会と捉えることもできる。歴史的に見ても外的ショックが発生した際は構造改革が起きやすい。コロナ禍においても、在宅勤務の普及や遠隔医療の発展、デジタル庁創設など、デジタル化の流れは大きく加速した。また、価値観の多様化が進んだこともあり、再生可能エネルギーを活用するGX(グリーントランスフォーメーション)やSDGs(持続可能な開発目標)の重要性も高まりつつある。デジタル化やグローバル化によるコスト削減、GXやSDGsの需要を満たす新たな社会的価値の創出を実現できれば、企業の生産性も大きく改善されるはずだ。

不動産分野においてもイノベーションの余地は十分にあるといえる。在宅勤務の普及で多くの企業がオフィスの在り方を見直すことになっただろう。出社が減り、広いオフィスが不要になった企業も少なくないはずだ。本業だけではなく、保有不動産をどのようにしてGXやSDGsにつなげて有効活用していくかも、企業のこれからの課題の一つといえる。

CRE戦略の新潮流 ~コロナ禍の不動産市場と SDGs視点の新・企業不動産戦略

野村不動産ソリューションズ
常務執行役員
原田 真治氏

投資判断 「非財務情報」が軸

幸福の実現、オフィスでも

2021年は不動産の大型取引が活発な1年間だったといえる。理由としては新型コロナウイルスの影響や働き方改革などがあげられるが、とくに大きな要因になったのは不動産市場全体の好調だろう。セグメント別に見てもマンションは中古、賃貸ともに在宅時間の増加でニーズの高まりを見せている。オフィスやホテルセグメントはコロナ禍で低迷したものの、一部では回復や積極投資の兆しが見え、市場全体としては顧客の不動産取得ニーズも旺盛といえる。

今回のコロナ禍で企業はオフィスの在り方や価値の見直しを迫られている。特に重要視されているのは従業員のウェルビーイング(心身の健康や幸福)への寄与だ。リモートワークの普及により、サテライトオフィスや在宅など、働く場の選択肢は大幅に増加した。人が集まるメインオフィスは質の高いコミュニケーションや価値創出の場として、サテライトオフィスは集中して作業する場として、そして在宅勤務はリラックスやワークライフバランスを両立できる場として、今後ますます役割を明確にしていくだろう。それぞれの場所が持つ価値や目的を整理し、必要に応じて従業員が選択できる環境をつくる。個人のウェルビーイングを主軸としたオフィス戦略がアフターコロナの主流となるはずだ。

地域貢献で不動産評価

企業のCRE戦略もSDGsを軸に大きく変わりつつある。そもそもCRE戦略とは「企業価値向上の観点から、不動産投資の効率性を向上させる」経営戦略だ。従来、企業価値といえば売上高や利益などの財務的価値に限定されていた。しかし、昨今では経営戦略や社会課題への取り組みといった非財務情報も重要視されている。SDGsへの対応が長期的な企業価値の向上に寄与すると考えられているのだ。

価値判断の変化は不動産においても同様だといえる。当社ではこれまで、不動産を「自社における使用価値」と「市場価値」の2軸で分析してきた。今後は「SDGsへの貢献」を含めた3軸での評価を行っていくべきだと考える。特に地域社会や経済への寄与、従業員のウェルビーイングは重要な評価基準となるだろう。3つの視点から総合的に考えることで、時代に即した新しい価値を創出できるはずだ。日本には歴史的な価値を持つ建造物が多くあるが、自治体によっては維持や管理に課題を抱えているケースもある。SDGsの観点から不動産活用に取り組めば、建造物が持つ本来の価値を守りつつ、商業利用といった新たな価値の創出で地域社会へ貢献することもできるだろう。

とはいえ、ただCRE戦略にSDGsを取り入れればいいというわけではない。CRE戦略はあくまで、SDGsを考慮した企業の全体最適の一部。まずは企業としてのSDGsとの向き合い方を明確にする必要がある。その上で、「SDGs上の課題を含めた現状把握」「価値創出の選択肢の検討」「SDGs上の効果や収益性を考慮した施策の方針決定」「課題解決の実行」と、4つのステップでCRE戦略を進めていく。これら一連の業務を専門家の知見を生かしながら、外部や顧客との継続した関係性の中で進めていくことが重要だ。

※本記事は2022年3月18日(金)付 日本経済新聞朝刊掲載 広告特集を再構成したものです

NIKKEI Real Estate Summit 2022

主催:日本経済新聞社
協賛:野村不動産ソリューションズ株式会社 法人営業本部

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