SDGs達成に向けて男性育休は必要不可欠なのか?

男性育休はここ数年、法改正もあり企業で注目されているトピックです。2023年3月17日には、岸田首相が少子化対策の基本方針について考えを表明しました。これまでの2025年度までに取得率30%とする目標を「2025年度に50%、2030年度には85%」に上方修正するものでした。
さらなる取り組みが求められるようになった男性育休について、SDGs視点と取得率向上に向けた視点で解説します。

Ⅰ.SDGsと男性育休の関係性

SDGsと聞いてまずイメージされやすいのは、気候変動対策・カーボンニュートラルなど環境に関連するものばかりです。しかし、全17目標で構成されるSDGsには環境以外にも多様な目標が含まれており、男性育休に関係のある社員の健康や働き方を改善させる目標もあります。

その中でも日本国内で注目度が高まっているのが、女性活躍の分野です。世界経済フォーラムが毎年発表しているジェンダーギャップ指数において、2022年の発表で日本は146カ国中116位と低迷しています。

特にビジネス領域での女性活躍が遅れている現状があります。この状況を打破し女性活躍を推進するためには、女性管理職や女性社員の採用を増やすなど女性対象の対策だけでは不十分です。加えて、女性が存分に企業で活躍できる環境を整えるためには、男性の育児参加の環境を整えることが必要だとされています。

Ⅱ.業種別に見る男性育休の取得状況

厚生労働省が発表している「雇用均等基本調査」によると、2021年度の日本全体の男性育休取得率は13.97%で、この結果は9年連続で上昇しています。

産業別の取得率の上位と下位は、以下のとおりです。

  • <上位ランキング>
    • 1位「金融業、保険業」:取得率40.64%
    • 2位「鉱業,採石業,砂利採取業」:取得率24.54%
    • 3位「サービス業(他に分類されないもの) 」:取得率24.45%
  • <下位ランキング>
    • 1位「卸売業,小売業」:取得率5.81%
    • 2位「不動産業,物品賃貸業」:取得率8.19%
    • 3位「電気・ガス・熱供給・水道業:取得率8.27%

なお、下位ランキングに該当する業界で働く女性の育休取得率は90%前後であるため、育休という制度自体は多くの会社で整備されていることがわかります。しかし、男性の取得率が極めて低いことには、男性の育休取得が進まない要因がなにかあると考えられます。

産業別・男女別に見た育児休業取得率(%)の順位(民間企業)

画像参照:https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=73219?pno=2&site=nli

Ⅲ.男性育休の取得が進まない理由

三菱UFJリサーチ&コンサルティングが発表した「平成29年度 労働者アンケート調査結果」の、「制度はあり利用しなかったが利用したかった」という層が回答した、取得しなかった理由から男性育休の取得率が低い理由を考えてみましょう。

  • <回答ランキング>
    • 1位:業務が繁忙で職場の人手が不足していた(38.5%)
    • 2位:職場が育児休業を取得しづらい雰囲気だった(33.7%)
    • 3位:自分にしかできない仕事や担当している仕事があった(22.1%)

この結果から、社内の人手不足や属人化した業務が育休取得を阻む理由であることが読み取れます。また職場によっては、周囲からのプレッシャーや子育てに対する偏見など、周囲の人が持つ意識的な問題から育休が取得しづらいケースもあることがわかります。

Ⅳ.男性の育休取得率を向上させるために企業が実施すべきこと

上記のような人手不足・業務の属人化・職場の雰囲気(暗黙の了解)を打破して、男性育休を推進するために、企業はどんな施策が実施できるのでしょうか。ここでは、3つ紹介します。

①経営層の宣言

経営層が男性の育休取得を推奨する企業姿勢を明確に示すことは、男性育休の推進に効果が見込めます。トップダウンで意向を伝えることで、社員が持つ育休に対する認識のズレを解消でき、取得しやすい雰囲気が醸成されるでしょう。

もし経営層の宣言だけでは現場の動きが伴わない場合は、社内研修などで男性育休の取得に対する意識改革を目指すことも合わせて実行すると、さらなる効果が見込めます。

②制度の改善

育児休暇制度は子どもが1歳になるまで取得できます。しかし、その期間中の給与が全額支給されるわけではありません。支給金額は、それまでに支給されていた給与の67%で、収入が減ることを懸念して取得を避ける人もいるでしょう。

政府は支給率を80%程度まで引き上げることを検討しているものの、実現まではまだ期間が必要です。そのため、例えば企業独自に育児休暇期間中の給与が全額支給される制度を導入できれば、収入面の不安が取り除かれ育休取得を促進できるでしょう。

③職場環境の改善

実際に男性社員が育休を取得すると、そのポジションを他の社員で埋める必要があります。しかし、先にあったようにその人にしかできない業務があれば育休取得を躊躇させてしまうでしょう。

そのため業務を属人化させない仕組みづくりが必要です。例えばジョブローテーションによって多様な業務ができるようにしたり、ITツールの導入で業務効率を見直したりすることが、育休を取得しやすい職場環境づくりに繋がります。

Ⅴ.企業事例①|大東建託

男性の育児休業取得率

※2018年10月より男性従業員の育児休業取得を義務化(5日間)
画像参照:https://www.kentaku.co.jp/diversity/work-life-balance

週刊東洋経済の調査結果によると「男性の育児休業取得率」で1位を獲得したのが大東建託です。その育休取得率は驚異の3年連続100%です。

このような高い取得率につながった最大の要因が「育休を取ろう」ではなく「育休を取らせる」ための組織改革です。歴史を見ると、2016年の取得率は0%、2017年は5.9%と男性育休が十分に取得されているとは言えない時期もありました。

しかし2018年10月に、男性従業員の育児休業取得(5日間)を義務化したことにより、取得率が80%に向上し、その後は毎年100%を記録しています。義務化開始に対して「やり過ぎだ」という意見もあったそうですが、筆者としては職場の雰囲気や当たり前を変革しようとした大東建託の強い意思や決意が感じられます。

Ⅵ.企業事例②|コーソル

コーソルは、2004年に創業した東京に本社を構える従業員、約150名のIT企業です。2021年度に男性の育児休業取得率が100%、平均取得日数は58日を記録しています。

このような高い取得率と取得日数につながった背景には、段階的な取り組みがありました。その流れは、風土醸成→制度導入→制度運用です。

まず風土醸成のきっかけは男性社員からの「育児休業に興味はあるけれども、実際取るにはどうしたらいいのか」という声だったそうです。これを機に社内で座談会や育児休業セミナーを開催することで、仕事と育児を両立できるという風土を醸成していきました。この結果、男性の育休取得率は5年前と比較して伸び、さらに離職率が減少しました。

画像参照:https://www.jil.go.jp/event/ro_forum/20211011/houkoku/06_jirei3.html

次に、制度導入と運用です。男性育休の制度があるものの育休取得が進まない企業があるように、制度はいかに運用させるかが重要です。そのため、社員と対話して男性育休に関して求められるニーズを把握して、ニーズを満たすような制度の導入や改定を進めていきました。社員全員が働きやすい環境をつくったことで社員満足度が向上し、それがお客様に質の高いサービスを提供することにつながったそうです。

Ⅶ.まとめ

政府が男性育休に高い目標を持ちコミットしていることからも、まだまだ多くの企業で男性育休が十分に取得されているとは言えない状況があります。男性育休を取得できるように制度や風土を整えていくことは、女性が働く環境に対してもプラスの影響をもたらし、それがSDGsの達成にもつながります。

男性育休に関する制度づくりや風土づくりがこれからだという企業は、今回ご紹介した取得率向上に繋がる取り組みや企業事例を参考に、ぜひ取り組みを進めていってください。

玉木 巧(たまき こう)

合同会社波濤 代表 兼 株式会社Drop SDGsコンサルタント

1988年12月生まれ 大阪市出身。 SDGsコンサルティングを手掛ける株式会社Dropの創業メンバーとしてジョイン。事業部責任者として、これまで大企業から中小企業のサステナビリティ推進を支援。それらの経験をもとに、これまで40万人以上のビジネスパーソンにセミナーも実施。 株式会社Dropのメンバーとして働きながら、企業のサステナビリティ推進をより加速すべく、2022年9月に自身の会社として合同会社波濤を設立し、現在は二足の草鞋を履いて活動中。 他にもYouTuber・Voicyパーソナリティー・Schoo講師など、SDGs を軸に多角的に活動を広げる。

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