SDGs
経理や人事などのバックオフィスが取り組むSDGsアクションとは
数年前に比べると、社会のさまざまな場所でSDGsやサステナビリティに関する話題を見聞きする機会が増えてきました。
例えば企業の取り組みであれば、ESGを軸とした非財務目標を方針として打ち出し、より本格的な取り組みに移行する企業が増加しています。
そのような企業で働いている従業員の方は、自社のマテリアリティや目標に対して所属する部署で実施できる取り組みを考える機会が求められます。しかし、何から始めればいいのかわからないというお悩みがあるかもしれません。
そこで今回の記事では、人事部と経理部のバックオフィスと呼ばれる領域で取り組めるSDGsアクションをいくつか紹介します。ぜひ取り組みの参考にお役立てください。
Ⅰ.バックオフィスのSDGsとは?
バックオフィスとは、経理・人事・総務といった社内向けの業務を担当する管理部門に位置する部署のことで、顧客と直接関わる機会はほとんどありません。そのため、会社を陰で支える縁の下の力持ちのような役割を担っています。
このような特徴からか、社内でSDGsアクションを考える際に、バックオフィスには具体的にどのようなアクションができるのかイメージがしにくいという声をよく聞きます。
SDGsのアクションをイメージしやすい部署と言えば、製造や営業などが挙げられます。
製造であれば工場を稼働することで発生するCO2や排水を減らすことや、営業であれば環境に配慮した商品を販売することで世の中の環境負荷を減らすことなどが思い浮かびます。
これらのアクションは、SDGsに含まれる社会問題の解決に貢献できるため、SDGsアクションとして認識されやすいです。
一方でバックオフィスは、基本的に自社で働く人向けに業務を行うため、製造や営業と比べて具体的なアクションがイメージしにくいわけです。
とはいえ、バックオフィスだから実行できるSDGsアクションもあるので、その具体例を見ていきましょう。
Ⅱ.人事部が実行できるSDGsアクション3例
人事部の役割は、従業員の採用や研修などによる人材育成と、従業員の評価・配置や人事制度の設計・運用などによって、従業員がより成果を出せるように人材の活性化を担うことです。
そのため、人事部で実行できるSDGsアクションも人材採用・育成や人事に関することになります。
ⅰ.全社員がサスティナビリティの知識を伸ばせるように研修計画を立てる
SDGsに取り組むことになった企業では、SDGsやサステナビリティに関する研修が実施されます。しかし、研修を実施しても「研修の内容がうまく伝わっていない」「従業員が自信を持ってSDGsについて話せるようにはなっていない」といった課題があると企業のSDGs担当者からよく聞きます。
そこで重要なことは、1回の研修で終わるのではなく、さまざまな手法を用いてサステナビリティを学ぶ機会を定期的に設けることです。
1回数時間の研修を受けたとしても、そのあと実際に学んだことを使ったり学び直したりする機会がなければ、知識は定着しません。
座学・ワークショップ・現場見学・アイデアコンペなど、形式にこだわらずバラエティ豊かな研修計画を立てましょう。
ⅱ.未来の社員に向けて自社のSDGsの取り組みを伝える
新卒・中途に関わらず優秀な人材を獲得する上で、人事部が自社のSDGs・サステナビリティへの取り組みをしっかりと伝えられる必要があります。なぜなら人材サービスを扱う企業による各種調査で、就職先・転職先を探す上で「企業のSDGsへの姿勢や取り組み」「事業の社会貢献性」などを重視する傾向があるとわかっているからです。
このような志向を持つ求職者に対して、求人情報や面接の場でわかりやすく的確に自社のSDGs・サステナビリティに対する姿勢を伝えることは、人事部の役割だと言えるでしょう。
そのため、自社のSDGs委員会や他部署と連携して、自社のSDGsアクションを伝えられるようなコンテンツを作成することは、人事部ができるSDGsアクションの1つです。
ⅲ.人事評価にESG評価を組み込む設計をする
企業におけるSDGsの取り組みは、SDGs委員会や経営層が立てた目標を全社に浸透させて、目標達成に向けて各部署・各社員が適切なアクションを実行することが不可欠です。そのアクションを促す方法として、抜群の効果を発揮するのが「人事評価にESG評価を組み込む」ことです。
一部の大手企業で導入が進んでおり、2023年1月にユニ・チャーム株式会社でも一般社員の人事評価指標にESG項目が採用されています。同社の中長期ESG目標を達成するために先立って2020年から取締役・執行役員に採用されたESGの評価指標が、全社員にまで広がったのです。
具体的には、営業部門が「環境配慮型商品の取扱店率の向上・返品削減による廃棄ロスの軽減」、開発部門が「環境配慮型商品の開発・使用原材量削減による環境負荷軽減の推進」など、部署ごとに具体的な項目が設定されており評価全体の10%から25%を占めます。
このように人事部でESG指標を人事評価に組み込むことで、自社で決めたSDGsに関する目標への貢献度合いを測定して、適切に評価し結果に応じて従業員に還元すれば、目標に対して積極的に取り組む機運を高めることができます。
Ⅲ.経理部のSDGsアクション
経理部の役割は、日常的なお金の動きを管理・処理したり、物品の数量や価値を把握したりすることで、会社のお金やモノの情報を管理しています。
そのため、経理部で実行できるSDGsアクションも、お金やモノの管理に関することになります。
ⅰ.社内の備品の見直し
企業活動において使用するさまざまな備品を、環境に配慮した商品に切り替えることは、何にどれぐらいのお金を使っているか把握している経理部だからできるSDGsアクションになります。
例えば印刷用紙・名刺・会社のパンフレット・各種レポートなどの紙製品の素材を、FSC認証を取得している紙に変更することが挙げられます。
FSC認証とは、持続的な森林環境を守るために紙の製造によって自然環境・野生生物・人間・気候変動などに悪影響を出していないことを示す国際認証です。そのため、FSC認証を取得した紙を使用することでSDGsへの貢献になります。
また、パンフレットやレポートの印刷を依頼する印刷工場にも注目しましょう。印刷工場の選定基準に金額や納期だけでなく、その工場が実施しているSDGsの取り組みや環境対策(再エネを採用しているなど)も考慮することは、経理部だからこそできるアクションです。
さらに脱プラスチックを志向することも、備品を見直す際に重要な視点です。例えば、会社のノベルティとして作成されるクリアファイル。多くのクリアファイルの素材はプラスチックです。プラスチック製品が製造から廃棄にいたるなかで生まれる環境負荷を考えると、クリアファイルの作成自体を見送ることや、紙製のファイルに切り替えることによって、SDGsアクションになります。
ⅱ.各種エネルギー利用量の記録
2050年カーボンニュートラルの実現を目指す日本では、どの企業にも気候変動対策が求められます。気候変動対策の実行は、まず過去数年間に自社が排出したCO2排出量の算定から始まります。
この算定には、社用車に使用したガソリン量や電気量などのデータが必要です。しかし、気候変動対策を始めるにあたって、過去数年分のデータ収集に苦戦する企業が多いです。そのため、経理部が気候変動対策の実行を見越してこれらのデータを適切に記録しておくことが、SDGsアクションになります。
ⅲ.経費申請のデジタル化
経理部の仕事の1つが、従業員から提出された経費申請書類の確認と精算です。経費申請には、確認の手間や申請のミス、申請金額の不正などコスト増やガバナンスの悪化リスクが潜んでいます。
経費申請をデジタル化することは、これらの状況の改善につながり、かつペーパーレス化によって書類を印刷することによって発生していた環境負荷も軽減でき、紙だと必要だった書類保管スペースが不要になります。
加えて、デジタル化によって経理部に直接書類を手渡す必要がなくなれば、在宅・遠方での勤務もしやすくなる効果が見込めます。
このように、環境負荷低減や働きやすさを高めることから、経費申請のデジタル化も経理部ができるSDGsアクションです。
Ⅳ.まとめ
企業によるSDGsの取り組みは、大企業だけでなく中小零細企業においても当たり前になりつつあります。全社でSDGsアクションを実行しようにも、製品・サービスの製造・販売に直接関わらないバックオフィスは自社の目標に貢献しにくいと考える方もいるかもしれません。
しかしそんなことはありません。今回の記事で紹介したように、従業員が自社の目標に貢献しやすくなるようなアクションや、日常業務で当たり前に使っていたモノや行動を見直すことで、立派なSDGsアクションになります。
今回紹介したSDGsアクションはほんの一例ですが、取り組みを考える上で参考にしてもらえれば幸いです。
玉木 巧(たまき こう)
合同会社波濤 代表 兼 株式会社Drop SDGsコンサルタント
1988年12月生まれ 大阪市出身。 SDGsコンサルティングを手掛ける株式会社Dropの創業メンバーとしてジョイン。事業部責任者として、これまで大企業から中小企業のサステナビリティ推進を支援。それらの経験をもとに、これまで40万人以上のビジネスパーソンにセミナーも実施。 株式会社Dropのメンバーとして働きながら、企業のサステナビリティ推進をより加速すべく、2022年9月に自身の会社として合同会社波濤を設立し、現在は二足の草鞋を履いて活動中。 他にもYouTuber・Voicyパーソナリティー・Schoo講師など、SDGs を軸に多角的に活動を広げる。
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