日銀短観から考える不動産市場①

4月1日に2022年3月調査 日銀短観が発表となりました。新型コロナ・ウクライナ情勢と不安定な経済情勢の中、企業の現状や先行きの見通しをまとめています。本レポートでは、短観から見える不動産市場への姿勢について検討したいと思います。今回は2部に分けた一回目で、短観の性格と、選択した項目の概略について記載します。

【サマリー】

●日銀短観の調査項目の中でも「設備投資」「土地投資額」「新卒採用」「雇用DI」「貸出態度DI」に着目し、不動産市場を検討します。

●「設備投資」「土地投資額」「貸出DI」の3月回答は、コロナ前の水準ではないものの、10年単位でみた場合、堅調であると考えます。

●「雇用DI」では、全般的には人不足の状況ですが、「新卒採用」は非製造業が製造業と比較して強気の状況となっています。

●雇用や採用、現在の失業率を勘案すると、たとえ完全失業率が低下してもオフィスワーカーの数自体が変化しない限り、オフィスの空室率はコロナ前の水準に至らない可能性が高いと思われます。

Ⅰ.日銀短観と長期的な景気動向との関連

日銀短観は、正式名称を「全国企業短期経済観測調査」といいます。日本銀行が行う、全国の約1万社の企業を対象とした企業動向の調査です。実数のほか、景気が「良い」と答えた企業の割合から「悪い」と答えた企業の割合を差し引いた指数DIで結果を表している項目も多く、実際の景気をよく反映しているといえます。

下記「日銀短観DIと景気後退(図表Ⅰ)」では、短観での景気の悪化回答(グラフがマイナスかつ右下がりの部分)が、内閣府が設定する景気後退期[1]と重なっている様子を見ることができます。

Ⅱ.今回の日銀短観について

1.概要

大企業の業況判断DIは、製造業、非製造業とも7四半期ぶりに悪化しました。ウクライナ問題、資源価格の高騰やオミクロン株の流行などが企業の景況感を押し下げたものと思われます。

さらに、3か月後の見通しでは、大企業の製造業で5ポイントの悪化、非製造業で2ポイントの悪化が見込まれています。

事業計画の前提となっている想定為替レート(全規模・全産業)は111.93円/ドルとなっています。4月26日現在の水準である127円/ドルとは大幅な差異があり、企業業績に与える影響も大きくなることが想定されます。

2.不動産市場にとくに関連する事項と概略

不動産市場を検討するために、短観の調査項目の中でも、とくに不動産への投資に関連する「設備投資」、直接の投資である「土地投資額」、オフィスワーカーに関連する「「新卒採用数」「雇用DI」、設備投資の実現性や業界の好不調をあらわす「貸出態度DI」に着目したいと考えます。

本書では概略をお伝えし、各産業については次回のご連絡とさせていただきます。

ⅰ.設備投資

事業法人にとって不動産への資金の投入は、設備投資の一環であることが多いため、その動向は売買・賃貸双方の市場に影響があるものと考えます。

まず昨年度(2020年度)の設備投資の状況を見ると、数では数パーセント程度である大企業が、投資額では60%以上を占めます。平均投資額は50億円前後となっています。実績においては、全規模、大企業[2]、製造業・非製造業ともに前年(2019年度)比8~10%程度減少しました(図表Ⅰ‐Ⅱ③)。分母が減少するため、2019年度と同水準になるためには9~11%程度の上昇が必要になります。

2020年3月末年度の設備投資の予想を、短観の「実績ベース」と「回答ベース」から行います。

まず「実績ベース」では「2021年度の前年比予測(実績ベース)[3]」(同⑥)を算定しました。製造業は+20%以上、非製造業も+10%以上となっています。

また「回答ベース」では、前年同月の回答と比較した「2021年度の前年比予測(回答ベース)」(同⑦)を算定しました。こちらも同じく製造業が+10%以上、非製造業が+5%前後となっています。

これらを勘案すると、一昨年度よりも設備投資が増加するのは確実ではありそうです。一方、予想レンジは、コロナ前への回復をはさんでいます。したがって、コロナ前の水準を超える可能性もある一方、非製造業は2019年度の水準の回復には至らず、製造業も同水準程度にとどまった可能性もありそうです。



[2] 資本金10億円以上

[3] 図表Ⅰ‐Ⅱ⑥の計算に使用した「換算率」は同⑤で算定しています。

今年度(2021年度)の実績は次回6月の調査で確定します。今回の調査に対する企業の答えは、期末に確定する「実績」に対して想定した「3月回答」となります。例年、「実績」と「3月回答」とに発生するずれを修正する率を換算率(同⑤)とし、2016~2018年を調査して算定しています。

Ⅲ.まとめ

全般的には堅調な設備投資意欲・貸出態度やまだ企業に不足感のある雇用状況の中、全般的にはオフィスワーカーを削減している状況とはいえません。3か月後の業況判断DI見通しについて、大企業の製造業で5ポイントの悪化、非製造業で2ポイントの悪化が見込まれていることが懸念材料ではありますが、出遅れている産業が収益向上し、オフィスワーカーの増加につながることを期待したいと考えます。

一方で、働き方改革によりオフィスを削減した企業が、短期間でオフィスを増加させることも考えにくいと考えます。完全失業率が新型コロナ前の水準にもどったとしても、首都圏労働者人口の増加がなければ、オフィスの空室率が2020年2月に記録した直近最低値1.49%まで低下するのは困難だと思われます。

土地投資額については、引き続き不動産・建設は旺盛ですが、そのほかの産業についても換算率が大きいながら増加のサインはでています。実際の投資額がどういった方向性であったのか次回の調査に注目したいと考えます。

以上

提供:法人営業本部 リサーチ・コンサルティング部

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