企業の不動産保有と売却の動向(2022年度上期)

~財務諸表からみた土地購入の状況~

新型コロナウイルスの影響により2020年度は企業の設備投資が大幅に減少しました。2021年度は回復傾向ではあったものの、コロナ禍前の水準に戻ったとは言えない状況が続いていますが、企業の不動産保有と売却の動向はどのようになっているのでしょうか。本レポートでは、企業の財務諸表から「土地」の購入企業を集計し、業種分類と財務上の特徴を調査しました。


<サマリー>

●貸借対照表における「土地」の増価(※)企業をみると、増価企業数の割合は輸送機械、運輸サービスが45%を超えて上位となった。1社あたり土地増価額では、小売が最も高く、広告・情報通信サービス、輸送機械、運輸サービスと続いた。(※増価は価格の増加、以下同じ)
●土地購入の要因となりうる企業の成長性を示す財務指標として、売上高増加率と従業員増加率を取り上げ、土地増価企業数の割合と土地増価額を確認した。その結果、各指標が上昇するほど1社あたりの土地増価額が増していることが判明した。
●売上高増加率については、売上高増加率20%以上の企業群において、全企業群比で7億円以上、1社あたり土地増価額が大きかった。従業員増加率については、従業員増加率20%以上の企業群において、全企業群比で17億円程度、1社あたり土地増価額が大きい結果となった。

Ⅰ.業種別 土地増価企業

企業会計における貸借対照表上、有形固定資産の「土地」価額は取得価額[1]であり、通常、土地を購入した際に計上されます。すなわち土地の価額が増加している企業は、企業買収等の場合を除いて土地を購入したケースが多いと言えるでしょう。

なお土地の価額の減少については、減損など売却以外のケースも多いと想定されます。

1. 業種別 土地増価企業数

まず、2019年度以降の業種別の土地の増価企業数と割合をみていきます。


全企業における土地増価企業数は、2019年度924社(25.8%)、2020年度916社(25.6%)、2021年度1,037社(28.9%)であり、直近では土地を購入する企業の割合が増加していると考えられます。2020年度の土地増価企業数は前年度より減少しているため、コロナ禍で動きが止まっていた反動もあるかもしれません。なお、本レポートにおける全企業とは、実需以外の土地の売買が多い不動産業と建設業を除いた企業とします。

次に、金融を除く全16業種のうち2021年度に土地増価企業数の割合が上昇した業種は11業種あり、5つの業種において土地増価企業数の割合が4割を超えています。上表の業種はSPEEDA[2]の業界大分類に基づいて分類しています。業種別にみると、輸送機械、運輸サービスは、3年度連続で土地増価企業数の割合が4割を超えています。なお、運輸サービス業界では陸上輸送、輸送機械業界では自動車部品製造などにおいて、土地増価企業数の割合が高い結果となりました(末尾「【参考】 業種別 土地増価企業数と増価額(SPEEDA業界中分類)」参照)。


2. 土地増価額


次に、年度以降の業種別の土地増価額をみていきます。



2021年度の1社あたり土地増価額を見ると、小売が最も高く82億3,400万円でした。小売業界の中で土地増価額が1位のA社は、2021年度に複数社の株式取得をしたため土地価額が大幅に増加しており、これが業界全体の平均を押し上げていますが、A社を除いても小売の1社あたり土地増価額は37億2,400万円と、金融除く16業種で1位となっています。詳細を見ると、食品スーパーや百貨店が土地増価額上位であり、10億円以上増価した企業は29社(9.8%)でした。


次いで、広告・情報通信サービスの1社あたり土地増価額が26億7,700万円となっています。地上波放送が上位を占め、10億円以上増価した企業は11社(1.7%)でした(末尾「【参考】 業種別 土地増価企業数と増価額(SPEEDA業界中分類)」参照)。


全企業の1社あたり土地増価額を見ると直近3年度で減少し続けています。これはコロナ禍で成長が伸び悩んだ企業や手元資金確保のために所有から賃貸に切り替える企業があったことが要因の一つと考えられます。一方で、小売と広告・情報通信サービスは1社あたり土地増価額が増加しており、コロナ禍でも打撃を受けず事業拡大を図った企業があったと推察されます。


[1] 取得価額には、土地の買入代金のほかに、仲介手数料や整地費用などの付随費用があればその代金も含まれる。
[2] SPEEDAとは、株式会社ユーザベースが運営する、企業情報や市場・業界データ等を格納する経済情報プラットフォームのこと。


Ⅱ.財務上の端緒からみる土地購入企業

次に、土地購入企業における特徴的な財務上の端緒を確認していきます。一般的に、土地が大きく増価している企業は、事業規模・範囲が拡大している成長企業と考えられるため、本章では企業の成長性を示す指標に着目して土地増価企業の割合と土地増価額を調査しました。

1.売上高増加率


まず、企業の成長性や企業規模の拡大ペースを示す基本指標となる売上高増加率について調査しました。以下は、2019年度から2021年度の3年度における売上高増加率の水準別に、土地が増価している企業数の割合(以下「土地増価企業割合」)と1社あたりの土地増価額(以下「1社あたり土地増価額」)を示したグラフです(3年度通算)。



不動産・建設業を除く全企業群(3,583社)、売上高増加率10%以上の企業群(1,274社)、売上高増加率20%以上の企業群(860社)について、土地増価企業割合と1社あたり土地増価額を見てみます。

土地増価企業割合は売上高増加率10%以上の企業群が最も高いものの、どの企業群も35%前後という結果でした。また1社あたり土地増価額は売上高増加率が上がるほど高くなり、売上高増加率10%以上の企業群は全企業群比で平均約3億円、売上高増加率20%以上の企業群は全企業群比で平均7億円以上高くなっています。

売上高増加率20%以上の企業群については、土地価額が大きく増価している企業がある一方で、土地を所有しない方針の企業も半数程度あるようです(3年度連続で土地価額が増加していない)。

2.従業員増加率


次に、売上高増加率とともに成長性を示す指標となりうる従業員増加率に着目しました。従業員の増加は事務所や店舗の拡大、ひいては土地の増価にも繋がるケースがあります。以下は、2019年度から2021年度の3年度における従業員増加率別に、土地増価企業割合と1社あたり土地増価額を示したグラフです(3年度通算)。




不動産・建設業を除く全企業群(3,583社)、従業員増加率10%以上の企業群(1,061社)、従業員増加率20%以上の企業群(665社)を比べると、土地増価企業割合は従業員増加率10%以上が最も高く、4割弱の企業で土地が増価していました。


1社あたり土地増価額は従業員増加率が上がるほど高くなっています。従業員増加率10%以上の企業群は全企業群比で平均約6億円、従業員増加率20%以上の企業群は全企業群比で平均約17億円高い結果となりました。従業員数が増加すれば、本社や生産拠点の規模が拡大するのは当然とも考えられますが、従業員増加率が20%の水準以上となると、大規模な事業拡大が行われていると言えそうです。

【参考】 業種別 土地増価企業数と増価額(SPEEDA業界中分類)

提供:法人営業本部 リサーチ・コンサルティング部

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