企業の不動産保有と売却の動向(2022年度下期)

~2022年度上期の不動産売却事例と財務改善の状況~

新型コロナウイルスは未だに収束したとは言えないものの、不動産マーケットはコロナ禍以前の水準に戻りつつあるように見えますが、実際の不動産売買市場動向はどのようになっているのでしょうか。
2022年度上期の事業法人の不動産売却について調査するとともに、2021年度の決算から企業の財務指標と不動産売却の関連性について考察しました。


<サマリー>

●2022年度上期の不動産売却企業数は64社。100億円以上の大型売却は1件のみだったが、売却件数は138件と例年より多かった。
●業績好調のタイミング、または業績不調のタイミングにあわせて売却損を出す企業もみられた。
●売却事例を売主業種別にみると、多い順にサービス業、小売業、不動産業と続いた。例年売却件数が多い業種が並んでおり、財務体質改善や資産効率の向上を目的として不動産売却に取り組む事例が目立った。
●2021年度不動産売却企業について、財務の改善状況を以下の通り確認した。

【各財務指標における対前年度改善率(2021年度)】

営業利益ROIC損益分岐点比率
対前年度改善310.3%58.9%79.3%

Ⅰ.不動産売却事例と物件種類別の売却企業数

1.事業法人の不動産売却事例


2022年上期に適時開示等で公表された不動産の売却事例を集計すると、全部で64社138件ありました。前期比では企業数は減少していますが、売却件数は増加しています。事業法人の不動産売却は上期よりも下期の方が増加する傾向があるため、2022年上期は売却件数が例年よりも多かったと考えられます。

一方で、1物件で100億円を超える大規模売却事例は減少しました。2021年下期の大規模売却事例が多かったこともありますが、コロナ禍における財務体質改善を目的とした大規模な固定資産の売却は、落ち着いてきた可能性があります。また、2021年下期と比べ、売却損を出した企業が増加しました。業績が好調のため損出しを企業があった一方で、業績不調の際にまとめて売却損が出る固定資産を売却した企業もあったと考えられます。


2022年上期の不動産売却企業を業種別にみると、最も多かったのはサービス業と小売業の11社でした。サービス業については、運営は継続しつつ自社施設を売却するケースが複数みられました。小売業では、財務体質の改善を目的とした本社や遊休資産の売却が行われています。3番目に多かったのは不動産業の6社で、開発資金の確保やコロナ禍におけるビジネスモデルの転換を理由とした賃貸用不動産の売却がありました。

長期的な不動産売却企業数の推移をみてみます。以下は、東京証券取引所に上場している企業のうち、国内不動産の売却を開示した企業数の推移です。

2021年度までは東証1部・2部上場を対象に調査していましたが、東証の市場再編に伴い、2022年度からは東証に株式上場する企業を対象としています。そのため単純比較はできないものの、2022年上半期に不動産売却を公表した企業は46社と、前年同期の開示社数を10社上回る結果となりました。

不動産売却は下半期に増加する傾向があり、年度通期では15年ぶりに100社を超える可能性があります。コロナ禍以降、売却企業数が増加傾向にあることが確認できました。

2.物件種類別の売却企業数の割合

次に、2021年上期から2022年上期までの3半期に売却された不動産について、物件種類別の売却企業数の割合をみてみます。

「本社・支店」を売却した企業の割合は減少傾向にあります。2020年度以降、コロナ禍における手元資金の確保を目的に加速したと思われる資産整理が落ち着いてきた可能性がありますが、依然として売却する企業が一定数あることが伺えます。

一方、「自社施設」の売却企業割合は増加しています。長引くコロナ禍で資産整理にとどまらず事業構造を切り替える動きもあり、ホテルや店舗を運営する企業が、運営のみ継続し不動産を売却するケースが見られました。「賃貸用不動産」と「遊休資産」を売却した企業の割合は30~40%を占めており、コロナ禍における資金需要に加え、売買市場動向を踏まえて「売り時」であると判断した企業もあるかもしれません。

Ⅱ.不動産売却による財務改善

不動産売却の理由としては、「財務体質の改善」と「資産効率の向上」が多く挙げられます。本章では、2021年度に不動産売却を公表した企業(以下「2021年度不動産売却企業」)について、財務改善の状況を確認しました。

①営業利益

2021年度不動産売却企業について、2018年度~2021年度の営業利益の平均値とその改善率(対前年度)を調べると、以下の通りとなりました。

2019年度、2020年度と2期連続で減少していた営業利益が2021年度に大幅に回復しています。2020年度は新型コロナウイルスの影響による落ち込みが大きく、2021年度に改善したのは当然とも言えますが、2021年度は不動産売却が活発化しており、営業利益改善の一端を担ったと考えられます。

②ROIC(投下資本利益率)

不動産売却は、ROICを向上させるための有効な手法の一つですが、2021年度不動産売却企業について、2018年度~2021年度のROICの平均値とその改善率を調べると、以下の通りとなりました。

2021年度もROICの平均値はマイナスとなっていますが、改善が見られます。3年度連続でROICがマイナスの企業は本社や工場を売却しており、ROICの改善のため、投下資本の中で大きな割合を占める固定資産の売却をしたと考えられます。

③損益分岐点比率

損益分岐点比率を下げるためには固定費の削減が有効であり、不動産売却は代表的な手法の一つです。2021年度不動産売却企業について、2018年度~2021年度の損益分岐点比率の平均値とその改善率を調べると、以下の通りとなりました。

損益分岐点比率は2020年度に大幅に悪化していますが、2021年度には改善しています。直近2~3期連続で損益分岐点比率が80%を超えた企業が大規模な遊休資産を売却し、80%以下に改善している事例が複数見られました。

【参考】 業種別 不動産売却件数と譲渡損益合計額

提供:法人営業本部 リサーチ・コンサルティング部

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