建設コストの高騰とその要因について 2024年 ~第1回:建築費指数と建築費並びにゼネコンの動向~

建設業界は、この十年ほど東京オリンピックをはじめとした首都圏の再開発事業や、大阪万博やIRに向けた開発や整備・リニア新幹線関連工事等、建設バブルともいわれるほどの好況を見せています。直近では国家施策による半導体工場の建設も加わり、2024年度の建設投資額は74兆円1を超える見通しです。
一方で建設工事費も右肩上がりに上昇しており、「建設工事費デフレーター2」をみると2013年から1.3倍近くになりました。工事費上昇にともない、新築や建て替えが延期となるケースも増加しており、都市の再開発等にも影響を及ぼしています。
2024年4月からは、「働き方改革関連法」の適用も始まり、人手不足等に拍車もかかりそうです。
本レポートでは全2回にわたり、建設コストの動向について確認していきます。


【サマリー】

  • 建築費指数の上昇が続いています。東京の事務所(RC造)の工事原価はコロナ禍以降20%超の上昇となりました。建築着工統計からみた事務所の構造別建築坪単価は、東京でS造が179万円、RC造が178万円、SRC造が190万円となりました。
  • 建設費高騰にともない、建て替えの延期等の事例が増加しています。
  • 全国的に建設需要は高く、ゼネコンの手持ち工事高は高い水準で推移しています。人手不足も相まって、ゼネコンやサブコン等では受注選別が起きており、発注者側が事前にゼネコンを確保しておく必要がある状況です。
  • 2024年4月以降、働き方改革関連法の適用開始にともない、建設業では現場の閉所回数や時間外労働の上限規制が設けられました。工期が長期化することは、労務費および仮設費等の上昇につながります。

1(一財)建設経済研究所「建設経済モデルによる建設投資の見通し(2024年4月)」より
2建設工事に係る「名目工事額」を基準年度の「実質額」に変換する、国土交通省が月次で発表している指標

Ⅰ.建設コストの動向

ⅰ.建築費指数

建築費指数は2016年以降、右肩上がりが続いています。直近2024年5月における事務所RC造(東京)の工事原価3指数は129.9(前年同月比8%)となりました。特にコロナ禍以降は急騰しており、2021年4月から比較すると、23%の上昇です。集合住宅RC造(東京)も同様で、2024年5月は130.5(前年同月比8%)、2021年4月からみると23%上昇しています。

【図表 1】建築費指数推移(東京・工事原価、2015年=100)
20240827_image1.jpg出所:(一財)建設物価調査会「建設物価 建築費指数」より野村不動産ソリューションズ作成

なお、実際に発注を行ったり、工事を請け負ったりする現場からは、指数以上に建築費が高騰しているとの声も聞こえます。この差異については、複数要因が重なっていると考えられます。有力な要因としては、建築費指数の工事原価にゼネコン等の一般管理費等が含まれていないこと、指数調査時から発表時まで時間差が生じている可能性があることが挙げられます。また、建築工事における工事請負価格を数年前の見積価格で「握っている」ケースも多く、このような実態も影響を与えていると推察されます。


3最終的な工事費のうち、ゼネコン等の一般管理費や消費税、設計管理費等を除くもの。各種建築費(仮設、土工、躯体、仕上げ等)や設備費(電気、衛生、空調等)および現場管理費が含まれています。

ⅱ.建設単価

建物種類別坪単価を算出しました。「建築着工統計」により各都道府県へ提出された工事予定額の合計を、工事予定床面積の合計で除したものです4

【図表 2】2023年度建物種類別 予定平均面積(坪)、予定平均単価(坪/単価:万円)
20240827_image2.jpg出所:国土交通省「建築着工統計」より野村不動産ソリューションズ作成 ※網掛は建築棟数が少ないため参考値

ほとんどの種別で東京の平均単価が突出していますが、事務所RC造では東京と福岡がほぼ同水準となりました。福岡は、平均面積が500坪弱と規模の大きい事務所が多かったことが、単価の高さに影響しているといえそうです。また、倉庫S造・RC造においても、東京より大阪や福岡の単価が高くなりました。冷蔵・冷凍倉庫の建築申請が多く含まれた結果と考えることができます。


4建築着工統計は、建築基準法第15条第一項に基づき、建築主より各建築主事へ届出がされた内容について、床面積10㎡超の着工工事の内容が集約・集計されたものです。都府県内の着工工事の単純平均である点に留意する必要があるほか、工事予定額の合計であるため、実際の工事費とは差異が生じています。

ⅲ.建て替え延期事例の増加

建築費の高騰にともない、建て替えが延期または中止となる事例も増加しています。2024年4月には、東京五反田に存する複合施設「TOCビル」の建て替え計画が延期となることが発表されました。当初は2023年解体、2027年に竣工予定でしたが、2022年9月に建設費の高騰等を踏まえ順延を発表、2024年4月の解体開始に向けて、建物はすでに閉館していました。今後は一度リニューアルを行い、本年9月以降再リーシングを行い、オフィスや催事場の賃貸事業を再開した上で、最終的には2033年頃の着工を目指して計画を見直すとしています5
札幌では、札幌駅南口の再開発ビルの開業が建設費高騰等により最大で2年遅れるほか、規模の再検討を発表しています。名古屋栄にある「名古屋栄三越」は、2029年複合高層ビルへの建て替え完成を目指していましたが、2023年7月建設費の高騰等により計画を一時凍結することを決定しました。東京多摩市では、日本医科大学多摩永山病院が、建設費高騰等を理由に移転・建て替え計画を断念することを発表しています。今後も建設費高騰にともなう建て替え延期や中止の事例が相次ぎそうです。


5株式会社テーオーシー「新TOCビル計画の変更等に関するお知らせ」(2024年4月9日)

Ⅱ.ゼネコンの動向

ⅰ.手持ち工事高

工事を受注するゼネコン側の動向はどうでしょうか。ゼネコンの手持ち工事高推移をみると、2023年度は23兆円(前年比7%)を超え、バブル期以降の最高額となりました。手持ち工事高は、ゼネコンがどれだけの工事を抱えているかの目安となる数字です。高いほど受注している工事量が多く、新規受注に対して大きな価格競争をする必要がなくなります。すでに各社では選別受注を進めており、不動産開発業者からも、先回りしてゼネコンを確保しておかないといけない、といった声も聞こえます。

【図表 3】手持ち工事高推移
20240827_image3.jpg出所:国土交通省「建設工事受注動態統計調査(大手50社調査)」より野村不動産ソリューションズ作成

選別受注の波はゼネコンだけではなく、サブコン6にも起きています。ゼネコン側も、サブコンを事前に確保しないと受注ができない状況が発生しています。特に電気設備関連は、半導体関連やデータセンター等の工事が増加していることから人手不足が生じており、これがより一層のコスト増につながっているといえます。


6サブ・コンストラクターの略。ゼネコンから主に設備関連の工事を請け負う企業のこと。電気工事や空調当専門分野の工事を担当する。建設工事に不可欠な存在。

ⅱ.受注高の傾向

受注高を発注者別にみると、「製造業」は過去2年間前年比から大きく増加していた反動か、昨年度はほぼ横ばいとなりました。しかしながら、コロナ禍前の2019年度からみると38%も増加しており、好調ぶりがうかがえます。「農林漁業」「鉱業、建設業」「情報通信業」「金融・保険業」「不動産業」も、コロナ禍以降増加しています。一方、「電気・ガス・熱供給・水道業」は昨年度は前年より36%増加していますが、コロナ禍前からみると25%の減少となりました。また、「卸売業、小売業」は昨年度は前年比26%減、コロナ禍前からみても7%減となり、コロナ禍以降、設備投資等がすすんでいない状況にあるといえそうです。

【図表 4】受注高内訳(民間工事、発注者の業種別)
20240827_image4.jpg出所:国土交通省「建設工事受注動態統計調査(大手50社調査)」より野村不動産ソリューションズ作成

工事種別別に受注高をみると、2023年度は「事務所・庁舎」「店舗」「教育・研究・文化施設」「娯楽施設」が前年比より増加しました。「工場・発電所」は昨年度については前年比を下回ったものの、コロナ禍前の2019年度からみると、52%増加しており、2.5兆円を超えました。「宿泊施設」はコロナ禍の影響もあり前年比61%と減少していますが、昨今の訪日外客数等の伸びから、今後回復が見込まれる種別といえそうです。

【図表 5】受注高内訳(建築、工事種別別)
20240827_image5.jpg出所:国土交通省「建設工事受注動態統計調査(大手50社調査)」より野村不動産ソリューションズ作成

各所での大型プロジェクトや半導体、データセンター等の同時進行により、全国的に人手不足・資材不足が発生しています。資材の納期遅延も起きており、引き続きコスト増の状況は続きそうです。

Ⅲ.建設業の2024年4月問題 ~働き方改革の適用開始~

20240827_image6.jpg

2024年4月、働き方関連法で一部猶予期間が定められていた建設業他4業界において、ついに残業規制等が適用開始となりました。これにともない、建設業では「週休2日制(4週8閉所)」および「時間外労働の上限規制(原則として月45時間・年360時間)」が設けられることになりました。労働時間の制限や現場閉所数の増加は、工期の長期化に直結し、労務費や仮設費等が増加することにつながります。また、以前と同等の工期でスケジュールを進めようとすると、人手を増やす必要があり、労務費が嵩むことになります。
現場からは4月以降、労務費がさらに5~10%増加しているとの意見もあります。本規制への対応が落ち着くまでは、労務費の高騰等が続くかもしれません

Ⅳ.まとめ

国内では、このところ大都市を中心とした再開発や大阪万博、リニア関連工事、半導体関連工事等により建設投資額が増加しており、建設業界は忙しさを増しています。直近では、国家施策である半導体関連工事や、各所におけるデータセンター等の建設計画も多数あり、当面建設ラッシュが続きそうです。
一方でコロナ禍以降、建築費指数は大幅に上昇しており、今なお右肩上がりの状況が続いています。建築費高騰にともなう建て替え計画の延期等の事例も相次いでいます。受注するゼネコン側も、現在多数の工事を抱えており、サブコンも含め選別受注が発生しています。
2024年4月からは、働き方改革関連法の適用にともない、現場の週休2日制や時間外労働の上限規制が設けられるようになりました。これにより工期の長期化が発生しているほか、工期を短縮するための人手不足が生じています。国家施策関連の大規模工事と、働き方改革関連法の適用が同時期に発生したことにより、人手不足に拍車がかかっているともいえそうです。
第2回では、労務費および資材費の動向についてより詳細に確認していきます。

提供:法人営業本部 リサーチ・コンサルティング部

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