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建設コストの高騰とその要因について 2024年 ~第2回:労務費及び資材費の動向~
昨今の再開発や半導体関連工事等により、今年度の建設投資額は74兆円を超える見通しである一方、建築費の上昇も続いており、建築費高騰にともなう工事の延期や凍結の事例も相次いでいます。第1回では、建築費指数と建築費並びにゼネコンの動向について確認しました。
第2回の本レポートでは、労務費および資材費の動向について確認していきます。
【サマリー】
- 公共工事設計労務単価は、昨年度に続き5%を超える上昇となりました。過去10年で最高の上昇率です。本年4月より適用開始となった働き方改革関連法にともない、勤務日数が減ることによる給料の減少を防ぐ目的もあるとみられます。
- 建設技能者の高齢化が進んでおり、2023年度は約37%が55歳以上です。若手確保のため、引き続き給料水準の改善や、スキルの可視化、DXによる効率化が急務です。
- 建設資材価格をみると、鋼材は2022年8月をピークに現在ほぼ横ばい、生コンクリートは昨年度まで価格転嫁が難しい状況も相まってか、その反動で直近1年間は段階的に大きく上昇、木材はコロナ禍以降ウッドショック等ありましたが現状は価格が落ち着いているといえます。
- 半導体関連や、データセンター等の工事が集中していることにより、設備費が上昇しています。
Ⅰ.労務費の動向
ⅰ.労務単価の推移
国土交通省が毎年発表している「公共工事設計労務単価」をみると、2024年度も全職種で上昇し、23,600円1となりました。これは2年連続5%を超える引き上げで、過去10年で最大の上昇率です。働き方改革にともない、勤務日数が減ることによる給料の減少を防ぐ目的もあるとみられます2。
なお、本単価には事業主側が負担すべき必要経費(法定福利費3等)が含まれておらず、それらを加味すると、労務単価が23,600円だった場合、事業主が負担する金額は33,276円と、労務単価の約41%増となることに留意する必要があります。(図表2参照)
1 所定労働時間内8時間あたりの単価
2 技能労働者の6割以上は働いた日数に基づく日給月給制をとっており、休日が増えることは収入低下に直結する
3 建設会社が従業員のために負担する保険料(健康保険料、厚生年金保険料、介護保険料、雇用保険料、労災保険料、子ども・子育て拠出)のことで、法律により定められており企業ごとに加入の有無を判断したり、金額を変更したりすることができないもの
ⅱ.技能者の給料水準と高齢化
労務単価の上昇が続いているとはいえ、建設業の給料水準は依然として他産業を下回っています。2012年時点における「建設躯体工事従業者・その他の建設従業者」の賃金水準は、全産業より33%低い水準でした。国土交通省等による賃金引き上げの取り組み等の結果、直近2023年には20%差まで改善されていますが、引き続き対応が急務といえます。
また、建設業はかねてより高齢化が進んでおり、若手技術者の確保および育成が喫緊の課題となっています。2023年度の建設業就業者数は483万人となりましたが、このうち約37%が55歳以上です。若手確保のため、上記給料水準の改善以外にも、建設キャリアアップシステムの運用による技能者の経験・スキルの可視化や、建設DXの導入等による生産性向上等、様々な取り組みが行われています。
建設需要が高まり続ける今、建設業の担い手確保と持続的な発展のため、労務単価の上昇は避けられないといえそうです。
Ⅱ.資材費の動向
ⅰ.資材費指数の推移
資材費の価格指数をみると、直近では合板が148.9(前年同月比▲13%)、生コンクリートが160.0(同+16%)、熱間圧延鋼材が181.6(同▲1%)となりました。生コンクリートは、従来、契約の都度の値上げが他よりも難しい資材でした。2023年度以降は契約形式の見直しが入ったため、現在は東京を中心に出荷の都度の価格設定となっており、今なお大きな上昇が続いていると考えられます。熱間圧延鋼材は、コロナ禍以降中国の経済再開とともに上昇しましたが、2022年6月をピークにほぼ横ばいで推移しています。しかしながら、どちらも燃料費や為替の影響も大きく受けやすいことから、今後も引き続き注視が必要といえそうです。合板は、コロナ禍以降ウッドショックやウクライナショックにより一時大きく上昇しましたが、在庫も増え、価格は下落傾向にあるとみることができそうです。
なお、鋼材およびコンクリートは、業界全体として脱炭素への対応が急務です。そのための研究開発費や設備投資費が必要になるため、原材料費が落ち着いたとしても、コロナ禍以降上昇した価格を従来の水準に戻すのは財源確保の観点からも厳しいといえます。そのため、どちらも価格は上昇することはあっても、下落に転じるということは当面ないと推察されます。
ⅱ.設備の高騰
国内で大型プロジェクトやデータセンター建設等が多数進行している中、全国的に設備工事の需給がタイトとなっています。特に大規模建築物等で使われる設備機器は、汎用品と異なり特注品等となるものが多く、平均的な資材の価格動向より大幅に高騰しているものがあります。例えば空調機類は、2020年12月から2024年3月までの上昇率が、汎用品では10.5%であったのに対し、特注品等では49%と大きな差異があります。(図表6参照)
首都圏では15人を超えるエレベーター(特注)の工事が2026年度以降着工になる等、納期が延びています。また、衛生設備や空調設備等も、納期が不安定な状況が発生しているとの声もあります。
納期遅延の観点からみると、建設業同様、物流業においても働き方改革関連法にともなう残業規制等が4月より適用開始されています。この「物流の2024年問題」による建設現場への間接的な影響も今後出てくるかもしれません。
Ⅲ.まとめ
直近の建設コストの動向について確認しました。
労務費は、かねてより建設就業者への処遇改善等の施策によって上昇しつつありましたが、コロナ禍以降の人手不足や働き方改革の適用等により、さらに上昇圧力が高まったといえます。今後も人材確保等の観点から上昇するといえそうです。
資材費は、燃料費や為替の影響が大きい他、鋼材を中心に脱炭素化に向けた取り組みが急務であり、その財源確保のため価格が下落することは当面難しそうな状況です。また、全国的に大規模建設現場が増加していることから、設備関連のコストが上昇しており、納期も不安定です。納期遅延による工期の長期化も考えられます。
2025年以降は、省エネ基準適合の義務化への対応がはじまります。適合基準を満たす資材の仕入れや審査の厳格化により、さらなる資材不足や人手不足が起きるかもしれません。
新築にこだわらず、建物の用途等によっては既存建物を活用することも、今後選択肢として検討が必要になるかもしれません。
提供:法人営業本部 リサーチ・コンサルティング部
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