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不動産開発・建設 全103社 「建築コストに関するアンケート」

~ディベロッパー・ゼネコンそれぞれの高騰への対策と新築工事費の水準~
近年、建築コストの高騰が社会問題化しています。建設コストの高騰はディベロッパー・ゼネコンのみならず、オフィス・工場・倉庫・店舗などの企業の設備投資にも影響を与えています。また個人の住宅投資においても、新築分譲マンションの購入価格が上昇し、注文住宅の発注金額も値上がりしています。
このように建築コストの高騰が社会経済に影響を及ぼす中、野村不動産ソリューションズは、不動産経済研究所と共同で「建築コストに関するアンケート」1を実施しました。本稿では、不動産開発業者67社・建設業者36社の計103社から得られた回答を集計し、その結果を報告します。
【サマリー】
- 3年前を100とした現在の新築工事費は、オフィスビルが133.0、住宅(マンション)が149.5となりました。工事原価の推移と比較すると、新築工事費はより大きく上昇しており、工事原価以上に設計・監理費、一般管理費等も含む営業余剰が拡大していることを示唆する結果となりました。
- オフィスビルの新築工事費の単価の最頻値は200万円/坪以上220万円/坪未満(18社、30.5%)、中央値は220万円/坪以上240万円/坪未満(5社、8.5%)でした。住宅(マンション)の新築工事費の単価は、最頻値・中央値ともに180万円/坪以上200万円/坪未満(21社、25.0%)となりました。
- 建設業者は、施工・設計など不断の改善による効率化・省力化に加え、建設ロボットや3Dプリンターの導入などイノベーションによる生産性の向上にむけた対策等を講じています。不動産開発業者は、アセットの見直しやリノベーション・コンバージョンの推進などの事業の転換をすすめています。
- しかしながら、これらの取り組みには限界があり、政府や地方自治体の支援が不可欠です。本アンケートからは、労働力の確保と質の向上を目指す教育・訓練プログラムの拡充、建築業界への補助金や助成金の提供、建築資材の輸入関税の引き下げ・国内生産の促進、環境規制・建築関連の法規制の見直しと緩和などが求められます。
1末尾に概要を記載。
Ⅰ.建築コストの高騰局面における新築工事費と工事原価
建築コストの高騰は、建築材料の価格上昇、労働力不足、環境規制の強化など、複数の要因が複雑に絡み合って発生しています。当社レポート「建設コストの高騰とその要因について2024年 ~第1回 建築費指数と建築費並びにゼネコンの動向~」2では、右肩上がりの建築費について、その状況を伝えました。また、建設や不動産開発の現場においては、工事原価以上に新築工事費が高騰している可能性を伝えていました。
本アンケートでは、直近3年間の新築工事費3の変化について、建設業者と不動産開発業者に訊ねました。
図表1の実線は、オフィスビルの新築工事費(指数)の推移です。3年前を100とした場合、1年前は133.3、現在は133.0との回答が得られました4。直近はほぼ横ばいですが、3年前に比べると大幅に上昇しています。図表2の実線は、住宅(マンション)の新築工事費(指数)の推移です。3年前を100とした場合、1年前は154.8、現在は149.5との回答が得られました。直近はやや下落していますが、やはり3年前に比べると大幅に上昇しています。オフィスビルと住宅(マンション)の新築工事費の推移を比較すると、住宅(マンション)の新築工事費がより大きく上昇しています。住宅の新築工事では設備機器が多い、労務負担が大きいなどの理由が考えられます。
また図表1・2の破線は、工事原価(指数)5の推移です。3年前を100とした場合の現在は、オフィスが114.2、住宅(マンション)が112.8です。新築工事費と工事原価の推移を比較すると、いずれの用途・時点においても、新築工事費がより大きく上昇しています。これは工事原価以上に、設計・監理費、一般管理費等も含む営業余剰が拡大していることを示唆しています。
【図表】新築工事費と工事原価の指数(建設業者および不動産開発業者)(3年前=100)


出所:本アンケートおよび国土交通省「建設工事費デフレーター」より野村不動産ソリューションズ作成
2当社CRE戦略支援サイト「CRE-NAVI」にて2024年8月27日配信。https://www.nomu.com/cre-navi/
3新築工事費を以下のとおり定義。新築工事費=工事原価+設計・監理費、一般管理費等も含む営業余剰
4オフィスビル、住宅(マンション)ともに「200以上」との回答については210として平均値を算出した。
5国土交通省「建設工事費デフレーター(2015年度基準)」。建設工事費デフレーターは、営業余剰、間接税等をウエイト項目に含めていないためそれらを含まない。また建設工事費とは、「本工事費」、「付帯工事費」、「測量及び試験費」、「機械器具費」、「営繕費」からなる。オフィスは『RC事務所・その他』、住宅(マンション)は『住宅総合・非木造住宅・鉄筋RC』、3年前は2021年11月、1年前は2023年11月、現在は2024年11月の数値を採用し、2021年11月を100として算定した。
Ⅱ.建築コストの高騰による影響とその要因
ⅰ.建設業者
建設業者に対して、過去1年間の受注状況を訊ねたところ(図表3)、「過去1年以前に比べ、受注は多かった」との回答が25社(69%)に上りました。巷間、建設工事原価の上昇や建設労働者の不足が伝えられるなどしていますが、直近の受注状況は順調のようです。また、建築コストの高騰の要因を訊ねたところ(図表4、複数回答)、「労働力不足による人件費の上昇」が30社(43%)、「設備工事費の上昇(エレベーター、変電設備など)」が29社(41%)、「建築材料の価格上昇(鉄鋼、木材など)」が9社(13%)を占めました。労働力不足の解消と設備供給能力の増大が、建築コストの正常化に向けた鍵になると言えそうです。


ⅱ. 不動産開発業者
不動産開発業者に対して、建築コストの高騰による開発事業への影響を訊ねたところ(図表5)、ほぼ全社が「非常に感じる」・「やや感じる」と回答しました。また「非常に感じる」・「やや感じる」の回答者に影響の内容を訊ねたところ(図表6、複数回答)、38%(55社)が「開発事業の遅延」、24%(35社)が「設備・仕様の変更」、18%(26社)が「開発事業の中断」と回答するなど、さまざまな影響が生じている実態が明らかになりました。


Ⅲ.現在時点における建築コストの水準
ⅰ.オフィス
図表7は、建設業者と不動産開発業者のオフィスビルの新築工事費の単価です。最頻値は200万円/坪以上220万円/坪未満(18社、31%)、中央値は220万円/坪以上240万円/坪未満(5社、9%)でした。これらと240万円/坪以上260万円/坪未満(10社、17%)を合わせると、全体の過半を占めます。他方、280万円/坪以上も8社、14%と一定数を占め、オフィスビルにおいては規模等による単価の違いを窺い知ることができます。

ⅱ.住宅(マンション)
図表8は、建設業者と不動産開発業者の住宅(マンション)の新築工事費の単価です。最頻値、中央値ともに180万円/坪以上200万円/坪未満(21社、25%)となりました。160万円/坪以上180万円/坪未満(18社、21%)と200万円/坪以上220万円/坪未満(18社、21%)を合わせると、全体の7割弱を占めます。またオフィスビルよりもやや低廉であることが分かります。

Ⅳ.高騰する建築コストへの対処
ⅰ.建設業者
建設業者に対して、今後1年間の受注に対する考え方を訊ねたところ(図表9)、「選別して、新規の受注を行う」との回答が27社(75%)に上り、「これまでと同様に、新規の受注を行う」が3社(8%)、「当面、新規の受注を見合わせる」が2社(6%)となりました。足元の受注状況は順調であるものの、工事力の確保や工事原価の高騰を警戒している様子が窺えます。また、建築コストの高騰に対する対策を訊ねたところ(図表10、複数回答)、29社(47%)が「効率化・省力化の推進(施工方法の変更、設計変更など)」、12社(19%)が「新たな技術の導入(モジュール化、ドローン、ロボット、ICT、BIM/CIMなど)」、9社(15%)が「建築資材の代替品の採用」、8社(13%)が「新たな人材の採用(外国人人材など)」と回答しました。施工・設計など不断の改善による効率化・省力化に加え、建設ロボットや3Dプリンターの導入などイノベーションによる生産性の向上がこれまで以上に求められます。


ⅱ.不動産開発業者
不動産開発業者に対して、建築コストの高騰に対する対策を訊ねたところ(図表11、複数回答)、35%(39社)が「賃料又は販売価格への転嫁がしやすいアセットへの事業シフト」と回答しました。また、「中古建物を購入してリノベーションやコンバージョンを行う事業の推進」と「建物を取り壊して新築する事業(スクラップ&ビルド)の見合わせ」の合計は37%(42社)となりました。建築コストの高騰は、新築に偏った開発から既存建物を活用した開発への転換等を促しつつあります。当社レポート「築古・中小ビルを高付加価値ビルに再生 バリューアップ事業の有望性~主要プレーヤー3社の動向から探るマーケットの現状と今後の見通し~」6では、オフィスビルのリノベーション・コンバージョン事業について、その実態を明らかにすることを試みました。不動産開発業者は、さまざまな創意工夫でこの局面を乗り切ろうとしている状況が確認されました。
【図表11】建築コストの高騰に対する対策(複数回答)(回答社数:113社)


6当社CRE戦略支援サイト「CRE-NAVI」にて2024年11月19日配信。https://www.nomu.com/cre-navi/
Ⅴ.建築コストの今後
建築コストの今後について、建設業者と不動産開発業者に訊ねました。

図表12は、現在を100とした場合の今後の新築工事費の予想です。オフィスビルについては、1年後が115.9、3年後は115.5との回答が得られました7。住宅(マンション)については、1年後が126.8、3年後は128.1との回答が得られました。1年後から3年後にかけてはほぼ横ばいですが、現在に比べると大幅に上昇することが分かります。
また、建築コストの高騰を緩和するために求められる政策を訊ねたところ(図表13、複数回答)、82社(39%)が「労働力の確保と質の向上を目指す教育・訓練プログラムの拡充に対する支援」、52社(25%)が「建築業界への補助金や助成金の提供」、32社(15%)が「建築資材の輸入関税の引き下げ」、その他1割弱が「環境規制の見直しと緩和」・「建築資材の国内生産の促進」と回答しました。また、建築関連の法規制の見直しや緩和を求める声も聞かれました。建設業者・不動産開発業者においては、自らの取り組みに加え、建築コストの高騰に対処するためには、政府・地方自治体が適切な対策を講じる必要があると考えているようです。

7オフィスビル、住宅(マンション)ともに「170以上」との回答については180として平均値を算出した。
Ⅵ.まとめ
建築コストの高騰は、不動産・建設業界だけでなく、企業の設備投資や個人の住宅購入など、日本経済全体に大きな影響を与えています。
不動産開発業者は、建築コストの高騰を受け、新築に偏った開発から既存建物を活用した開発への転換等をすすめています。建設業者は、施工・設計など不断の改善による効率化・省力化に加え、建設ロボットや3Dプリンターの導入などイノベーションによる生産性の向上にむけた対策等を講じています。しかし、これらの取り組みには限界があり、政府や地方自治体の支援が不可欠です。本アンケートからは、労働力の確保と質の向上を目指す教育・訓練プログラムの拡充、建築業界への補助金や助成金の提供、建築資材の輸入関税の引き下げ・国内生産の促進、環境規制・建築関連の法規制の見直しと緩和などが求められます。
持続可能な建築を推進し、経済の安定と成長を図るためには、官民一体となって取り組むことが重要です。適切な対策を講じることで、建築コストの高騰を抑制し、持続可能な経済成長を実現することが求められます。建築コストの高騰に対処するためには、全ての関係者が協力し、長期的な視点での戦略を構築することが必要です。
調査目的 | 建築コストに関するアンケート調査を実施し、建築費の高騰の実態と影響を明らかにする |
調査時期 | 2024年11月~12月 |
調査対象 | 日本国内の不動産開発業者および建設業者 |
調査方法 | アンケート回答URLおよび手交・FAX・郵送による調査票の送付・回収 |
有効回答数 | 103社(不動産開発業者67社、建設業者36社)の開発部門・管理部門の担当者、経営者・経営陣など |
設問内容 | 新築工事費の水準、建築コストの高騰の影響・要因・対策、求められる政策 |
提供:法人営業本部 リサーチ・コンサルティング部
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