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2016/07/29
非課税で配偶者や子・孫に贈与する5つの方法と老後資金

相続税改正と生前贈与

平成27年1月1日、相続税が改正され、相続税の基礎控除額が引き下げられ、税率が見直されました。
改正前までは相続税がかからなかった方が、改正後は相続税課税の対象となり、大きな話題となりました。

≪基礎控除額の引き下げ≫

多くの人は「相続税はできるだけ少なく、できれば納付したくない」と思っています。相続税対策が必要な人にとって「生きているうちに、非課税で資産を贈与(=生前贈与)できる」という国の制度があると言えば、とても魅力あるものに聞こえるでしょう。
では、どのような制度があるのかご紹介します。

非課税で贈与する方法は5つ

生前贈与の主な対象は「多額の金融資産や不動産を持つ高齢者」で、目的は「所有する資産の一部を早期に現役世代に移す」ことにあります。

配偶者や子・孫への非課税での贈与を増やすため、国は「暦年贈与」「夫婦間で居住用の不動産を贈与した時の配偶者控除」「住宅取得資金贈与の特例」「教育資金一括贈与の特例」「結婚・子育て資金贈与の特例」の5つの制度を設けています。

(1)暦年贈与
贈与税は、一人の人が1年間(1月1日~12月31日)に贈与された金額に対し課税しますが、110万円までは基礎控除として差し引くことができます。これを一般に「暦年贈与」と言います。1年間に受け取った資産の合計が110万円以内であれば贈与税はかかりませんし、申告の必要もありません。

暦年贈与を利用する人は多いのですが、相続段階で「相続税対策ではないか」として税務署から贈与を否定されることも少なくないようです。その対策としてあえて111万円を贈与して贈与税1,000円(=(111万円-110万円(基礎控除))×贈与税率10%)を納税し、贈与の証拠を残す人も多くいます。

利便性が高く利用者が多い「暦年贈与」は、税務署が否定できないよう細心の注意を払って贈与の足跡を残す必要があります。ポイントは次の4つです。
・毎年一定日に一定額の贈与はしない(=振込額や振込日を変える)
・銀行振り込みなどで贈与の記録を残す
・贈与する相手の通帳や印鑑を自分で保管しない
・贈与する相手に贈与することと贈与方法を伝えておく

暦年贈与は、相続が発生するとさかのぼって3年間の贈与はなかったものとして相続財産に組み入れられます。「身体の具合が悪くなったから急いで暦年贈与」というのでは相続対策にならない可能性があります。

(2)夫婦間で居住用の不動産を贈与した時の配偶者控除 
婚姻期間が20年を超える夫婦間で居住用不動産または居住用不動産を取得するための資金を贈与する場合は、2,000万円までは配偶者控除できる(=非課税)という特例です。前出の基礎控除110万円を加算し、2,110万円まで利用することができます。同じ配偶者からのこの贈与は一生に一度だけの適用です。

ただし、贈与を受けた不動産に翌年3月15日までに住み、その後も住み続ける必要がありますので注意しましょう。また税務署への申告が必要です。

(3)住宅取得資金贈与の特例
平成31年6月30日までに、20歳(贈与を受ける年の1月1日の年齢)以上の子、もしくは孫が、自分が住むための家屋の新築・取得・増改築等のために父母や祖父母から資金の贈与を受けた場合、最高1,200万円まで非課税になる制度です。
この特例を利用するにあたっては、贈与を受ける人のその年の年収が2,000万円以下であることの他に、取得する住宅の床面積や耐震などが一定の要件を満たす必要があります。

非課税の適用を受けるには、贈与を受けた翌年2月1日~3月15日の間に、贈与税の申告書と一定の書類を税務署に提出しなければいけません。意外とこの手続きを忘れる人が多いようです。注意しましょう。

(4)教育資金一括贈与の特例
父母や祖父母が、30歳未満の子や孫に教育資金を一括贈与する場合は、1,500万円(塾やお稽古ごとのような学校以外への支出は500万円)までを非課税とする制度です。受取人が30歳になった時に残額があった場合は、贈与税が課されます。2019年3月31日までの贈与が対象です。

なお、この制度を利用するには信託銀行・銀行・証券会社などの金融機関と契約し(1金融機関1営業所に限定)、領収書を金融機関に提出する必要があります。金融機関からの支払いには、前払いと後払いがありますので、金融機関を選択する際に確認しましょう。

(5)結婚・子育て資金贈与の特例
20歳から50歳未満の子や孫に対し、結婚や子育ての資金を父母や祖父母が贈与する場合、1,000万円(結婚に対しては300万円)までは非課税とする制度です。2019年3月31日までの贈与が対象です。50歳に達した時に残金があった場合は贈与税が課されます。

この制度を利用する場合は、教育資金の一括贈与と同じく金融機関に専用の口座を開設し、領収書を金融機関に提出する必要があります。また「教育資金の一括贈与の特例」と併用することができます。

「相続時精算課税の特例」は仮の贈与

非課税で贈与できる制度として紹介されることの多い「相続時精算課税の特例」は、本当のところは贈与でなく相続です。この制度を使って贈与された財産は、贈与されたときの時価で相続財産に組み入れられ、相続税が計算され、税金の精算を行うことから「相続時精算課税の特例」という名前が付きました。

原則60歳以上(贈与する年の1月1日の年齢)の父母や祖父母から、20歳以上(贈与を受ける年の1月1日の年齢)の推定相続人である子や孫に対し財産を贈与する場合に選択できます。利用回数に関係なく通算して2,500万円まではとりあえず贈与税がかかりませんので、将来値上がりしそうな土地や建物等の相続には利用価値の高い制度です。

ただし、この制度をいったん選択するとそれ以降の「暦年贈与」は使えませんし、戻すこともできません。実行する前に資産の内容を棚卸して、資産の値上がりの可能性と暦年贈与が使えないデメリットを比較検討することをお勧めします。

利用する場合は、贈与を受けた年の翌年2月1日~3月15日に「贈与税の申告書」を税務署に提出する必要があります。

利用者が増えている贈与信託

非課税で贈与する5つの方法の中の「暦年贈与」は、相続発生時に税務署から贈与を否定される可能性や贈与の足跡を残す手間などから、利用を躊躇する人が少なからずいます。この問題を解決するのが信託銀行や一部の銀行が取り扱う「暦年贈与信託」です。

「暦年贈与信託」は、「贈与をする人が、3親等以内の親族の中から贈与を受ける人(複数も可)を決め、贈与額と時期をその都度決め、毎年1回贈与する、という契約を信託銀行と結び、信託銀行は贈与を実行する度に贈与を受ける人に通知する」というものです。長期間の暦年贈与を「簡単・確実・便利・安心」に実行するための使い勝手のいい支援サービスですので、取り扱う銀行のすそ野が広がることが望まれます。

また、「結婚・子育て資金贈与の特例」や「教育資金一括贈与の特例」には、「教育資金贈与信託」や「結婚・子育て支援信託」があります。「教育資金贈与信託」の平成28年3月の累計契約数は16万234件、信託財産設定額(累計)は1兆925億円に上ります。一方「結婚・子育て支援信託」は平成28年3月の合計契約数が4471件、信託財産設定合計額は100億円と低調です。これは、子や孫の結婚や出産、教育等に対して親や祖父母が通常必要と思われる金額を援助することは、贈与税の課税対象外とされることが影響しているのではないかと思います。

老後資金を確保した上で利用

子や孫に非課税で贈与できる制度がどんどん整備される中、住宅取得資金や孫の教育費にまとまった額を贈与する高齢者が増えています。話を伺うと、「家を買うから500万円支援してほしい」「子どもを小学校から私立に通わせたいから教育費の支援をしてほしい」など贈与税非課税の特例を踏まえて子どもから提案されることが増えたとか。中には老後資金の一部を取り崩して贈与し、日々の生活が厳しくなったという人もいます。

豊かな高齢者は、贈与税非課税の特例を利用しない手はありません。専門家に早めに相談をして、相続税対策をどんどん進めましょう。
しかし老後資金にあまりゆとりがない人は、先ずは老後資金を確保し、残り資金の一部を必要に応じて暦年贈与するといいのではないでしょうか。

自立して老後を過ごすために必要な「健康・お金・人間関係」を維持するために、贈与税の非課税制度は賢く利用しましょう。

執筆者:大沼恵美子

専業主婦の身から外貨預金に興味を持ったことを機会にファイナンシャル・プランナーの勉強を始め、2000年にCFP (FPの上級資格)の試験に合格。2002年に独立開業し、個人向けにリタイアメントプラン、年金、貯蓄、賃貸経営などの相談業務を行う。また各種セミナーの講師も担当。1級ファイナンシャルプランニング技能士、福祉住環境コーディネーター2級、年金アドバイザーなどの資格を持つ。
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