オフバランスで企業価値は向上する?意味やメリット・手法などをご紹介

オフバランスという用語はM&Aやオプション取引などで使われますが、意味がよくわからないという方も多いでしょう。オフバランス化するとROA(総資産利益率)の向上につながるなどのメリットが得られます。
この記事ではオフバランスの意味やメリット、手法などを解説し、オフバランスで企業価値は向上するのかを明らかにします。

Ⅰ.オフバランスとは?

オフバランス(off-balance)とは、オフバランスシート(off-balance sheet)の略称です。企業が保有する不動産などの資産を貸借対照表(バランスシート)から外すファイナンス手法を指します。

英語のoffは「切り離す」という意味があり、貸借対照表から切り離すというのがオフバランスの言葉の由来です。貸借対照表上に計上されない簿外取引をオフバランス取引といい、貸借対照表に資産や負債を計上しない会計処理をオフバランス処理といいます。

例えば、貸借対照表に資産計上している不動産を第三者に売却して賃貸に切り替え、貸借対照表から外すという取引・会計処理がオフバランス取引・オフバランス処理の一例です。

不動産などの固定資産を売却(オフバランス)することで貸借対照表のスリム化が図れ、企業の財務改善につながります。

Ⅱ.オフバランスとオンバランスの違い

オフバランスとオンバランスの違いは、貸借対照表に計上するかしないかです。取引対象の資産や負債を貸借対照表に計上しない簿外取引をオフバランス取引といい、貸借対照表に計上する通常の取引をオンバランス取引といいます。

オフバランス・オンバランスのどちらであるかは、企業価値を評価する上で極めて重要です。オフバランス化・オンバランス化によって資産や負債、自己資本の総額は変化し、自己資本比率やROE(自己資本利益率)、ROA(総資産利益率)も変化します。

資産や負債をオフバランス化することでROAが高まり、経営効率の良い企業と判断されます。しかし、オフバランス化を悪用して好業績を演出する企業の存在が問題になっており、オンバランス化の方向に変化しているのが現状です。

Ⅲ.オフバランス化の要件

資産や負債の項目をオフバランス化・オンバランス化する要件は、日本の会計基準(日本基準)やIFRS(国際会計基準)によって決まります。近年は経済のグローバル化でIFRSを導入する企業が増えており、オフバランス化の要件は厳格化傾向にあります。

日本の会計基準は損益計算書を重視するのに対して、IFRSは貸借対照表を重視するのが特徴です。IFRSの導入により、これまでオフバランス処理していた資産や負債をオンバランス処理する傾向にあります。

オフバランス取引に含まれるリース取引は、国際財務報告基準IFRS16号による「新リース会計基準」が強制適用され、リース資産はオンバランス処理が原則になっています。

Ⅳ.オフバランス化のメリット

貸借対照表に計上している資産や負債をオフバランス化することで、自己資本比率やROE、ROAなどの指標が変化します。ここでは、オフバランス化のメリットについて解説します。

収益性向上が見込める

オフバランス化することで貸借対照表がスリムになり、財務体質の改善が図れます。そして、それが収益性の向上につながっていきます。財務状況が良くなれば企業価値が向上し、資金調達もしやすくなるでしょう。

貸借対照表に計上する資産や負債を減らすと財務体質が強化される理由は、ROAが高くなるからです。ROAは総資産に対してどれだけの利益が生み出されるのかを示す指標で、数値が高くなるほど効率良く利益を出していると評価されます。

ROAの計算式は以下の通りです。

ROA(総資産利益率)= 利益 ÷ 総資産

ROAを高めるには、利益率を改善するか総資産を減らすかのどちらかが必要です。したがって、無駄な資産を売却して借金などの負債を減らすことで総資産利益率が高まり、財務体質は強化されます。

資産の価格変動リスクから解放される

オフバランス化することで、資産の価格変動リスクから解放されることはメリットの一つです。不動産などの資産を保有することは担保力が高まるなどのメリットがある反面、価格変動の影響を絶えず受けます。

かつては、企業が自社ビルなどの不動産を所有することは財務状況が健全であると評価され、ステータスの象徴でした。しかし、バブル崩壊後は地価が大きく下落し、所有するメリットよりリスクの方が大きくなっています。

不動産だけでなくあらゆる資産は価格変動リスクがあり、オフバランス化して価格変動の影響を受ける資産を貸借対照表から外すことで企業評価は高まります。有効活用されていない資産はオフバランス化するのが望ましいでしょう。

企業評価が向上する

オフバランス化するとROAが高まり、企業評価は向上します。ROAの数値が高ければ、少ない総資産で大きな利益を出している経営効率の良い企業と判断されます。したがって、オフバランス化は企業評価を高めるのに有効です。

一般的にROAの目安は5%以上とされており、ROAが5%以上あると優良企業であると判断されます。ただし、業種や経済環境によっても異なるため、全てにおいて5%以上であるとは限りません。

なお、オフバランス化することで自己資本比率も高くなり、倒産しにくい安定した企業と判断されます。自己資本比率は以下の計算式で算定され、50%以上が優良企業の目安です。

自己資本比率 = 自己資本 ÷ 総資本 × 100

資金調達がしやすくなる

資金調達がしやすくなることも、オフバランス化のメリットです。オフバランス化で資産や負債を減らすと自己資本比率やROE、ROAが改善し、収益性が向上します。

収益性が向上すると企業価値が高まり、投資家などから多様で有利な方法での資金調達がしやすくなるでしょう。また、固定資産として保有している不動産を売却すると売却代金で負債を圧縮でき、固定資産税や修繕費などの経費も削減できます。

保有する固定資産を売却して資金調達することをアセットファイナンスといい、返済の必要がなく、信用度に関係なく資金調達ができます。多様な方法で資金調達ができることはオフバランス化のメリットです。

Ⅴ.オフバランス化のデメリット

貸借対照表から資産や負債を外すと、企業価値が高まるなどのオフバランス効果が期待できますが、逆にデメリットが発生するケースもあります。ここでは、オフバランス化のデメリットについて解説します。

現金化できる資産が少なくなる

オフバランス化すると貸借対照表から資産を外すため、必然的に現金化できる資産が少なくなります。資金繰りが悪化した場合、不動産などの固定資産を保有していると、固定資産を売却することで資金調達が可能です。

しかし、オフバランス化で資産を売却すると、現金化できる資産が減少して資金調達力が低下する可能性があります。オフバランス化して現金化できる資産が少なくなると、資金需要に対応できなくなる可能性があることはオフバランス化のデメリットでしょう。

オフバランス化をすると企業価値が高まり、多様な資金調達がしやすくなりますが、将来的な資金需要の発生も考慮して、長期的な視点で総合的に判断することも大切です。

資産利用コストが増大する

オフバランス化すると、資産利用コストが増大する可能性があります。保有している資産を売却して賃貸やリースに切り替えた場合、賃貸料やリース料、手数料などのコストがかかり、トータルコストが割高になることもあるでしょう。

保有している資産を売却してオフバランス化すると、資産を維持管理するための経費を削減できますが、必ずしもトータルコストの削減につながるとは限りません。

オフバランス化を検討する際は、賃貸やリースなどに切り替えた際の将来的なコストの発生も考慮して、総合的に判断することが大切です。また賃貸やリースだけでなく、アウトソーシングやクラウドソーシングなどもトータルコストが割高になる可能性はあります。

粉飾決算とみなされる可能性がある

粉飾決算とみなされる可能性があることもオフバランス化のデメリットです。オフバランス化を悪用して意図的に資産や負債を貸借対照表に計上せず、企業の実態を実際よりもよく見せるという粉飾決算が問題になっています。

2000年代の前半に大きな社会問題になった「エンロン事件(エンロン・ショック)」や「ライブドア事件」などは、オフバランス化の悪用の一例です。粉飾決算が発覚し、株価が大暴落して大勢の投資家が被害を受けました。

オフバランス化は経営効率を改善するために行われるべきであり、オンバランス化しなければならない資産や負債を貸借対照表に計上しないのは犯罪行為です。近年はディスクロージャーが進んでいることもあり、オフバランスの要件は厳しくなっています。

Ⅵ.オフバランスの手法

オフバランスの手法には、「不動産売却」「リースバック」などがあり、「オプション取引」「ファクタリング」もオフバランスの手法に該当します。ここでは、これらのオフバランスの手法をどうやってするのかを解説します。

不動産を売却する

不動産売却は代表的なオフバランスの手法です。利益を生み出さない不動産を所有しているとROAが悪化し、経営効率が低下する原因になります。不動産を売却することで資産と負債を減らすことができ、経営効率が向上します。

不動産を売却すると貸借対照表がスリム化するだけでなく、現金化することでキャッシュフローを獲得できることもメリットです。キャッシュフローが悪化している場合は、不動産を売却することで資金繰りが改善します。

固定資産税や維持管理費の負担がなくなることもメリットです。また、含み損が生じている不動産を売却して含み損を顕在化させることで売却損を赤字として計上でき、大きな節税効果が得られます。

不動産の証券化

不動産の証券化とは、所有する不動産を「証券」にすることで売買しやすくするものです。高額な不動産はそのままでは買い手がつきにくいですが、不動産を小口化して証券にすると不特定多数の投資家に販売できます。

不動産の証券化のスキームとして、まず不動産を信託銀行に信託譲渡し信託受益権化します。次に信託銀行は信託受益権をSpecial Purpose Vehicle (SPV) に譲渡し、SPVは投資家から出資を受け配当を行うという仕組みです。

企業は不動産を貸借対照表から外すことで財務体質が改善し、不動産経営のリスクを投資家に分散できます。投資家にとっても、少額で不動産投資ができるというメリットが得られます。

リースバック

不動産売却の方法は、売却して現金化を図る方法だけでなく、「セールアンドリースバック」という方法もあります。セールアンドリースバックとは、所有する不動産を売却と同時にリース契約を締結するものです。

例えば、自社ビルを売却すると同時にリース契約を締結すると、リース料を支払うことで売却後も自社ビルで営業を続けられます。同じ拠点で営業を続けたい企業にとっては、セールアンドリースバックは最適な手法でしょう。

ただし、セールアンドリースバックによる売却額は、周辺の相場よりも低めになる傾向があります。また、売却後は毎月のリース料が経営を圧迫することもあるため、デメリットも考慮して多角的に検討することが大切です。

オプション取引

オプション取引や先物外国為替(為替予約)、金融先物取引などのデリバティブもオフバランス取引に含まれます。オプション取引や先物取引は元本を想定して取引を行いますが、想定元本を資産として貸借対照表に計上しない簿外取引です。

デリバティブは元本に相当する資金が不要であり、元本が必要な通常の金融取引と比べると投下資本に対する利益の割合が大幅に向上します。限られた資本を効果的に活用できることがデリバティブの特徴です。

ファクタリング

中小企業向けの資金調達方法であるファクタリングを活用すると、保有している資産をオフバランス化できます。ファクタリングによる資金調達では、売掛金を売却すると手数料を差し引いた金額を現金で受け取ることが可能です。

売掛金は資産であり、ファクタリングを利用すると資産が減少します。また、ファクタリングは金融機関からの融資ではないため負債も増えません。ファクタリングを活用すると、資産と負債を減らすことで貸借対照表のスリム化が図れます。

Ⅶ.まとめ

オフバランスとは、企業が保有する不動産などの資産や負債を貸借対照表から外すファイナンス手法を指します。オフバランス化すると自己資本比率やROE(自己資本利益率)、ROA(総資産利益率)などの指標が改善し、企業価値は向上するでしょう。

ただし、オンバランス化が必要な資産や負債を貸借対照表に計上しないと粉飾決算になるため注意が必要です。近年はIFRS(国際会計基準)を導入する企業が増えていることもあり、オフバランス化の要件は厳しくなっています。

北浦 章弘

大学卒業後、不動産コンサルティング会社に入社。 専業トレーダーを経て、2011年よりフリーランスライターとして活動を始める。 金融や不動産を中心に、さまざまなジャンルにおいて豊富な執筆実績がある。 保有資格:宅地建物取引士

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