公示地価動向分析2024 首都圏「住宅地」

~10年前からの上昇率ランキングから探る地価上昇要因~

2024年3月26日、「令和6年地価公示」1が公表されました。東京圏の「住宅地」2の平均変動率は、+3.4%と3年連続で上昇を示し、上昇率も前年の+2.1%から拡大しています。
国土交通省は、「都市中心部や、利便性・住環境に優れた地域などでは住宅需要は堅調であり、地価上昇が継続している」と考察しています。では、都市中心部の中でも特に顕著な上昇を示しているのは具体的にどのエリアなのか、またそれらのエリアにはどのような共通点や傾向、特徴があるのでしょうか。

本レポートでは、過去10年間の調査地点別の公示地価データを集計し、この10年間で特に顕著な上昇を示した地点をランキング形式で明らかにするとともに、持続的なエリアポテンシャルアップに繋がっている要因を探ります。
今回は、首都圏3の「住宅地」、2014年から連続してデータが取得できる3,812地点を対象に考察します。


【サマリー】

  • エリア別では、「東京23区」が2014年比141.4%で最も上昇が著しい。
  • 駅距離別では、駅に近い地点ほど明確に上昇率が高い。特に「徒歩11分以上」との差は顕著。
  • 10年前と比較して最も上昇した地点は、「港区港南3丁目6番7」。
  • 東京23区以外の各エリアで最も上昇した地点の駅は、東京都下は「立川」、神奈川県は「平沼橋」、埼玉県は「南浦和」、千葉県は「木更津」。
  • 直近10年における地価上昇の代表的な要因は、「(新駅開業も含めた)再開発や住宅開発」、「超一等地への投資需要の一層の高まり」、「割安感のある郊外部の急激な評価の見直し」。

1地価公示法に基づき、国土交通省土地鑑定委員会が毎年3月下旬に公示(公表)する、その年の1月1日時点における標準地の単位面積(1㎡)当たりの正常な価格(土地評価)が公示地価。調査地点は全国約26,000地点。国内で最も代表的な土地評価であり、一般の土地取引価格の指標となるだけでなく、公共用地の取得価格の算定基準ともなっている。
2市街化区域内の第一種低層住居専用地域、第二種低層住居専用地域、第一種中高層住居専用地域、第二種中高層住居専用地域、第一種住居地域、第二種住居地域及び準工業地域並びに市街化調整区域並びにその他の都市計画区域内並びに都市計画区域外の公示区域内において、居住用の建物の敷地の用に供されている土地を指す。
3ここでは、東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県の一都三県を指す。

Ⅰ.全データの集計結果

ⅰ.エリア別と最寄駅徒歩分数別の10年前からの上昇率

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図表1は、エリア別に見た10年前からの上昇率です。「東京23区」の上昇率が突出しています。ただ、その他のエリアも110%以上となっており、地価上昇は首都圏全域に及んでいることが確認されます。
図表2は、最寄駅徒歩分数別に見た上昇率です。駅距離による差が鮮明です。「6~10分以内」と「11分以上」の差の大きさは、「徒歩10分以内」の住宅需要の強さを顕著に表していると言えるでしょう。

【図表1】エリア別・10年前からの上昇率
20240725_image2.jpg出所:国土交通省土地鑑定委員会「地価公示」より当社作成
【図表2】最寄駅徒歩分数別・10年前からの上昇率
20240725_image3.jpg出所:国土交通省土地鑑定委員会「地価公示」より当社作成
【図表3】エリア別と最寄駅徒歩分数別の10年前からの上昇率・クロス集計結果(単位:%)
20240725_image4.jpg出所:国土交通省土地鑑定委員会「地価公示」より当社作成

図表3は、図表1と2のクロス集計結果です。「東京23区」の「5分以内」が最も上昇率が高く、「6~10分以内」、「11分以上」も他のエリアを圧倒する上昇率を示しており、足元で顕著となっている都心の住宅需要の旺盛さが改めて確認できるデータと言えます。「10分以内」か「11分以上」かで、上昇率が大きく異なるという特徴は全エリア共通で、最寄駅までの距離が住宅需要を左右している首都圏の住宅市場の特徴が鮮明に表れていると言えます。

ⅱ.2014年以降のエリア別の指数推移

図表4はエリア別に見た指数の推移です。この10年間、一貫して他のエリアを圧倒する伸びを示してきたのは「東京23区」であることが改めて確認されます。

【図表4】2014年以降のエリア別の指数推移
20240725_image5.jpg出所:国土交通省土地鑑定委員会「地価公示」より当社作成

コロナ禍による在宅勤務の定着を受けて、都心部から郊外部へと住宅需要がシフトする可能性が指摘された時期もありました。しかしながら、少なくとも、この住宅地価の推移を見る限り、「東京23区」の圧倒的な優位性は動かず、むしろ足元では都心部の需要がさらに高まっていることも垣間見えるデータとなっています。

次章から、特に上昇の著しい具体的なエリアについて、ランキングに沿って考察していきます。

Ⅱ.首都圏上昇率ランキング・トップ10地点と地価上昇要因の傾向

ⅰ.首都圏上昇率ランキング・トップ10地点

【図表5】10年前からの上昇率ランキング・トップ10地点(全て2014年=100の指数推移)
20240625_image6.jpg出所:国土交通省土地鑑定委員会「地価公示」より当社作成

ⅱ.首都圏上昇率ランキング・トップ10地点に見る地価上昇要因の傾向・特徴

(Ⅰ)「山手線新駅」が港南・芝浦エリア全体のポテンシャルアップに ~「港南」、「芝浦」

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2014年からの上昇率トップは、「港区港南3丁目6番7」で、2014年比203.1%を記録しています。近隣の「港区芝浦2丁目1番33」も3位であり、港区のベイエリアの地価上昇の勢いが確認されます。この著しい地価上昇の背景には、49年ぶりとなる山手線新駅と大規模開発への期待があります。
トップの地点(港南)は、2020年に開業した新駅「高輪ゲートウェイ駅」の東側に当たります。2025年の全面開業時には、駅の東側に歩行者連絡通路が整備される予定であり、整備後は、現在よりも格段に利便性が向上することになります。高輪ゲートウェイ駅前では、総延床面積80万㎡超に上る大規模複合開発「TAKANAWA GATEWAY CITY」の建設が進んでおり、大規模オフィスの他、賃貸860戸超の超高層タワーマンションも整備される予定です。また、調査地点の斜向かいの街区では、日鉄興和不動産らによる大規模分譲マンション「リビオタワー品川」(総戸数815戸)の建設が2026年5月竣工予定で進み、さらにその西側街区では、大和ハウス工業による458戸の大規模賃貸マンションの建設が2025年1月竣工予定で進んでいます。
3位の地点(芝浦)でも、近年は大規模マンションの供給が活発です。調査地点周辺では、「ブランズタワー芝浦」(2021年竣工・482戸)、「プラウドタワー芝浦」(2023年竣工・421戸)等が供給されています。再開発や大規模マンションの供給によって急速に立地イメージが変わりつつあるベイエリアの今後がますます注目されます。

(Ⅱ)資産性評価で他を圧倒 国内トップ級の超一等地の実力 ~「代官山」、「赤坂」

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2位と4位の地点は、ともに国内トップクラスの地価水準を誇る超一等地という点で共通しています。
2位の地点(恵比寿西)は、代官山駅前にあります。代官山は、高級住宅街が多い渋谷区の中でも屈指の人気を誇り、「街そのものがブランド」とも評されるほどの超一等地です。代官山駅前では、東急不動産による複合施設「フォレストゲート代官山」が2023年10月にオープンし、さらに賑わいを増しています。商業や業務機能の他、総戸数57戸で構成される高級賃貸マンション「フォレストゲート代官山レジデンス」も整備され、話題を呼んでいます。
日本一の地価水準を誇る4位の地点(赤坂)は、さらに周辺の開発が活発です。地点から1㎞四方以内のエリアに限っても、近年、「プラウド虎ノ門」(2019年竣工・62戸)、「ブランズ愛宕虎ノ門」(2021年竣工・93戸)、「パークコート虎ノ門」(2022年竣工・120戸)等が供給され、足元では「シティタワー虎ノ門」(144戸)の建設が2024年6月竣工予定で進んでいます。なお、2023年11月に開業して大きな話題となった大規模複合再開発「麻布台ヒルズ」内で竣工した「麻布台ヒルズ レジデンス A」(320戸)も地点から1㎞以内の場所となります。さらに、当地点に隣接する街区(「ホテルオークラ別館」跡地)では、鹿島建設による地上50階規模の住宅・ホテル・商業等で構成される大規模複合施設の開発が検討されており、開発の活発さに伴う土地需要の旺盛さは他を圧倒しています。
「代官山」、「赤坂」とも、こうした活発な開発による効果もさることながら、そもそも国内トップクラスの超一等地である点を反映した将来性・資産性に対する定評や信頼感の高さが国内外投資家からの圧倒的な需要を醸成していると考えられます。国内不動産市場を牽引し、その市況感を推し量るベンチマークの役割を担っていると言っても過言ではない東京都心部の超一等地の地価動向から今後も目が離せません。

Ⅲ.エリア別上昇率ランキング・トップ20地点と地価上昇要因の傾向

ⅰ. 東京23区上昇率ランキング・トップ20地点

【図表6】東京23区上昇率ランキング・トップ20地点(表中の数値は円/㎡、以下同)
20240725_image9.jpg出所:国土交通省土地鑑定委員会「地価公示」より当社作成

ⅱ.東京23区における地価上昇要因の傾向・特徴(「品川」、「田町」、「代官山」、「溜池山王」以外)

(Ⅰ)「東京ドームシティ」近接で将来性も大 「都心6区」の住宅需要底堅く ~「本郷」

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全体でも5位の上昇率を示しているのが文京区本郷の地点です。調査地点は、大型複合娯楽施設「東京ドームシティ」にも近接する都心性に優れた立地です。文教地区としても名高く、高級住宅地としても評価の高いエリアで住宅需要は非常に旺盛です。本郷1丁目に限っても、近年、「ザ・パークハウス本郷」(2018年竣工・92戸)、「ブランズ文京本郷一丁目」(2021年竣工・45戸)等が供給されています。さらに、「東京ドームシティ」の再開発も検討されており、将来性への期待も大きいエリアです。住宅需要の強さから「都心6区」とも括られる文京区の住宅地価動向には今後も注目です。

(Ⅱ)タワーマンションの需給が高水準で均衡 タワマン街の代表格 ~「豊洲」

首都圏を代表するタワーマンション林立街である江東区豊洲がエリア内7位です。埋立地であるが故の断続的な開発によって、ポテンシャルアップが継続している湾岸エリアを象徴する街と言えます。豊洲駅前を中心とした街としての成熟度が増すとともに開発余地が乏しくなってきた面も否めず、かつて程の開発の勢いはありませんが、足元でもオフィス中心の「豊洲4-2街区開発計画」が進んでいます。既に、「職・住・遊」が融合する人気居住地としての地位を確立した感のある豊洲ですが、なおも一層の発展が期待される街と言えます。

(Ⅲ)駅前再開発が地価上昇を牽引 改めて見直される下町の「コスパ」 ~「綾瀬」

「都心6区」の地点が上位を席巻する中、注目されるのがエリア内8位、全体でも9位にランクインしている足立区綾瀬です。綾瀬駅東口で「シティタワー綾瀬」(2025年竣工予定・422戸)を中心とした再開発が行われていることが近年の大幅な地価上昇に繋がっていると見られますが、もともと大手町駅まで20分程度の利便性に優れたエリアです。再開発を起点とした評価の見直しが急速に進む下町を象徴するエリアの一つと言えるでしょう。

ⅲ.東京都下上昇率ランキング・トップ20地点

【図表7】東京都下上昇率ランキング・トップ20地点
20240725_image11.jpg出所:国土交通省土地鑑定委員会「地価公示」より当社作成

ⅳ.東京都下における地価上昇要因の傾向・特徴

(Ⅰ) 多摩地区を代表する大ターミナル 活発なマンション開発で上昇基調続く ~「立川」

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東京都下エリアでトップは立川です。人気の中央線沿線、多摩地区を代表するターミナルとして住宅需要が安定しているエリアです。直近10年における大きなイベントは、立川駅直結且つ市内で最高の高さを誇る建築物である再開発ビル「立川タクロス」が2016年に竣工したことです。住宅部分の「プラウドタワー立川」(319戸)は、当時の周辺相場を大きく上回る価格で早期完売を果たし、立川エリアの住宅需要の強さが改めて証明されました。足元では、「エクセレントシティ立川 THE GRAN」(2024年2月竣工・157戸)が供給され、「エクセレントシティ立川 ザ・レジデンス」(2024年7月竣工予定・114戸)等の建設が立川駅周辺で進んでいます。引き続き注目すべきエリアの一つです。

(Ⅱ)中央線人気を象徴する都区部隣接の二駅 住宅需要安定 ~「吉祥寺」、「三鷹」

エリア内トップ10のうち、吉祥寺と三鷹で半数を占めます。ともに中央線沿線で、都区部に隣接する利便性を強みに持つ多摩地区屈指の人気エリアです。特に2位と3位の吉祥寺は、多摩地区を代表する商業集積地の一つで、商業・住宅ともに土地需要が旺盛です。特筆すべき住宅系再開発等が無い中でも高い上昇率を示している点に、吉祥寺エリアの住宅需要の底堅さが垣間見えます。一方、三鷹駅周辺では開発が活発です。南口では、相鉄不動産・三菱地所レジデンス・細田工務店らが事業協力者として参画した再開発組合による「グレーシアタワー三鷹」(2019年竣工・184戸)、北口では、「シティハウス武蔵野」(2022年竣工・162戸)等が供給されています。中央線と多摩地区の住宅需要を推し量るベンチマークとしても、吉祥寺・三鷹エリアの地価推移には今後も注目です。

(Ⅲ)駅地下化で駅前の回遊性や賑わいがアップ マンション供給も活発 ~「調布」

中央線エリアが上位を席巻する中、京王線の調布駅前の地点が4位で注目されます。2012年に完了した駅の「地下化」や「駅前広場整備」の効果に加え、「ブランズシティ調布」(2021年竣工・305戸)、「パークホームズ調布 ザ レジデンス」(2021年竣工・162戸)等の活発なマンション開発が地価上昇に繋がっていると見られます。

ⅴ.神奈川県上昇率ランキング・トップ20地点

【図表8】神奈川県上昇率ランキング・トップ20地点
20240725_image13.jpg出所:国土交通省土地鑑定委員会「地価公示」より当社作成

ⅵ.神奈川県における地価上昇要因の傾向・特徴

(Ⅰ)巨大ターミナル「横浜」の隣接駅 希少な横浜市都心部の住宅街 ~「平沼橋」

エリア内トップは、相鉄本線の平沼橋駅周辺の地点です。乗降客数が多い駅ではありませんが、巨大ターミナル・横浜駅から一駅の希少な都心住宅街です。調査地点から500m程度の横浜駅西口・「南幸地区」におけるダイエー横浜西口店跡地で、商業施設「CeeU Yokohama」が2023年12月に開業し、その隣接地では都市再生機構らによる大規模賃貸マンション「横浜ヴェールタワー」(252戸)が2025年竣工に向けて建設中です。横浜市中心部のポテンシャルアップの効果を享受しやすい立地条件が近年の地価上昇に繋がっていると見られます。

(Ⅱ)「リニア中央新幹線」への期待が住宅地価にも波及 開業時期に注目 ~「橋本」

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JR 東海が進める「リニア中央新幹線」の新駅「神奈川県駅」(仮称)が建設される予定である橋本駅周辺の地点が複数ランクインしており、「リニア中央新幹線」開業への期待を反映した土地需要の高まりが鮮明です。代表的事例は、駅前で進展している土地区画整理事業の近接地で建設が進む「ブランズタワー橋本」(2026年竣工予定・458戸)であり、販売価格や周辺地価への波及効果も注目されます。今後は、大幅に遅れが生じている「リニア中央新幹線」の進捗と開業時期に注目が集まります。

(Ⅲ)再開発と新駅開業の効果でエリアポテンシャルアップ続く ~「綱島」

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4位の綱島は、再開発と新駅開業効果による地価上昇が鮮明です。2023年3月に日吉駅と新横浜駅を結ぶ「東急新横浜線」が開通し、同時に「新綱島駅」が開業しました。2023年12月には、再開発事業として新綱島駅直結の複合施設「新綱島スクエア」が開業し、分譲マンション「ドレッセタワー新綱島」も整備されました。従前から住宅需要が底堅い人気エリアであり、新駅開業効果が続く綱島エリアには今後も注目です。

ⅶ. 埼玉県上昇率ランキング・トップ20地点

【図表9】埼玉県上昇率ランキング・トップ20地点
20240725_image16.jpg出所:国土交通省土地鑑定委員会「地価公示」より当社作成

ⅷ.埼玉県における地価上昇要因の傾向・特徴

(Ⅰ)県内随一の高級住宅街 文教地区でファミリー層からの支持の厚さも強み ~「浦和」

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エリア内2位となっているのが「さいたま市浦和区岸町」の地点です。県内随一の高級住宅街である浦和エリアの中でも、「岸町」は、「常盤」や「高砂」等と並ぶブランド立地です。文教地区としても著名で、教育熱心な子育て世帯からの住宅需要も旺盛です。さらに浦和駅前では、再開発による分譲マンション「URAWA THE TOWER」(総戸数525 戸)の建設が2026年4月竣工予定で進んでいます。従前からの旺盛な住宅需要に加え、将来性への期待の高さも土地需要の安定に繋がっていると見られます。

(Ⅱ)複数路線利用可で利便性良好 戸建て・マンション双方の需要安定 ~「南浦和」

南浦和駅周辺の地点が上位に複数ランクインしています。南浦和駅は、JR京浜東北線およびJR武蔵野線が乗り入れている利便性に優れたエリアです。ランクインしている地点は、いずれも川口市アドレスで、また駅前とは言い難いエリアですが、都内近接立地にしては比較的割安であることも背景に、子育て世帯等からの戸建てを中心とした底堅い住宅需要に支えられ、高い地価上昇率を示しています。また、南浦和駅徒歩圏エリアでは、野村不動産による「プラウドシティ南浦和テラス」(2017年竣工・54戸)や「プラウドシティ南浦和ヒルトップ」(2017年竣工・147戸)等の板状型マンションも供給されており、戸建て・マンション双方の安定した住宅需要がある点が強みのエリアと言えます。

(Ⅲ)都内隣接のベッドタウン 沿線には延伸計画も ~「川口元郷」、「南鳩ヶ谷」

埼玉高速鉄道沿線の二駅がランクインしています。東京メトロ南北線直通の利便性が評価され、主に都内通勤者からベッドタウンとしての支持を集めています。基本的に戸建て主体のエリアながら、「ブランズ川口元郷」(2019年竣工・119戸)や「リビオシティ川口元郷」(2020年竣工・291戸)等のマンションも供給されています。沿線の終点である浦和美園駅と東武野田線の岩槻駅を結ぶ延伸計画も検討されており、将来的な沿線力の向上も見込まれます。この両駅含め、川口市の地点が上位を席巻している実態からは、都内近接地の土地需要の底堅さも垣間見えます。

ⅸ.千葉県上昇率ランキング・トップ20地点

【図表10】千葉県上昇率ランキング・トップ20地点
20240725_image18.jpg出所:国土交通省土地鑑定委員会「地価公示」より当社作成

ⅹ.千葉県における地価上昇要因の傾向・特徴

(Ⅰ)今や東京も通勤圏に 改めて注目される「アクアライン効果」~「木更津」、「君津」

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県内のトップ10のうち1~9位までを木更津市と君津市の地点が占め、内房エリアの急激なポテンシャルアップが如実に表れる結果となっています。いずれも駅遠隔地の地点であり、車移動が中心となる典型的な郊外エリアと言えます。もともとの地価水準が低いことを割り引いても、著しい地価上昇が両市のエリア広範に及んでいる点は注目に値します。
両市の不動産価値を大きく変えたのは、1997年に開通した高速道路「東京湾アクアライン」4です。これにより、木更津~川崎間の移動距離が約100㎞から約30㎞に、所要時間も約90分から約30分に大幅に短縮されました。東京駅までもバスで約40分と今や東京も通勤圏内となっています。4,000円と高額であった料金が当初からの課題でしたが、2009年にETC無線通行に限って終日800円へと大幅に引き下げられました。この効果もあり、図表11の通り、この10年余りの間で、木更津金田IC周辺を中心に、「三井アウトレットパーク木更津」をはじめとする大規模商業施設の開業が相次ぎました。

【図表11】木更津市における主な出来事
20240725_image20.jpg出所:当社調べ

これらの商業施設の多くは、既に施行期間を終えている「金田東特定土地区画整理事業」の区域内(155.6ha)に立地します。さらに足元では、計画人口約7,000人を見込む「金田西特定土地区画整理事業」(110.8ha)が進んでいます。金田東地区と合わせた多機能複合型都市「かずさアクアシティ」は未だ発展途上で、将来性も十分と言えます。
一方、足元では、テレワーク定着による郊外移転需要という「追い風」が弱まり、再び都心集中傾向が鮮明となりつつあります。郊外の駅遠隔地でありながら地価が上昇している稀有な街と言える両市の今後の地価推移が注目されます。


4 川崎市と木更津市をほぼ一直線に結ぶ東京湾の中央部を横断する全長15.1㎞の自動車専用の有料道路。1997年12月18日開通。

Ⅳ.東京23区上昇率ランキング・トップ100地点

【図表12】東京23区上昇率ランキング・トップ100地点
20240725_image21.jpg出所:国土交通省土地鑑定委員会「地価公示」より当社作成
【図表13】東京23区の区別・上昇率ランキング・トップ100ランクイン数とランクイン率
20240725_image23.jpg出所:国土交通省土地鑑定委員会「地価公示」より当社作成

国内トップクラスの高級住宅地を抱える千代田区および港区、また、発展著しい湾岸部の地点を複数抱える中央区といった都心3区では、ほぼ全ての地点がトップ100入りを果たしています。足元で鮮明となっている都心部のマンション価格の高騰を表している結果とも見られます。
城南エリアにおいては品川区目黒区、城北エリアにおいては文京区豊島区のランクイン率の高さが目立ちます。いずれも周辺を代表する商業集積地を有し、沿線力や駅力の高いエリアという特徴があります。
城東エリアでは荒川区の高さが目立ちますが、台東区、墨田区、江東区、足立区の地点もランクインしており、比較的広い範囲に地価上昇が及んでいる傾向です。一方、城西エリアでは中野駅前を中心とした開発が活発な中野区以外では、比較的緩やかな地価上昇にとどまっている傾向が窺えます。

Ⅴ.東京23区以外の4エリアの上昇率ランキング・トップ100地点

【図表14】東京23区以外の4エリア(東京都下・神奈川県・埼玉県・千葉県)上昇率ランキング・トップ100地点
20240725_image22.jpg出所:国土交通省土地鑑定委員会「地価公示」より当社作成
【図表15】4エリア(横浜市以外)の主要都市別・上昇率ランキング・トップ100ランクイン数とランクイン率
20240725_image26.jpg出所:国土交通省土地鑑定委員会「地価公示」より当社作成

横浜市以外では、千葉県エリアのランクイン率の高さが目立ちます。市川市船橋市といった都心近接エリアの他、木更津市君津市といった郊外地点が複数ランクインしている傾向が特徴的です。
橋本駅を中心とした神奈川県相模原市が続きます。神奈川県川崎市埼玉県川口市は、いずれも都内隣接のベッドタウンとしての住宅需要が旺盛である点を反映していると見られます。

【図表16】横浜市の区別・上昇率ランキング・トップ100ランクイン数とランクイン率
20240725_image27.jpg出所:国土交通省土地鑑定委員会「地価公示」より当社作成

市中心部の西区をはじめ、神奈川区、鶴見区、中区、港北区といった横浜市東部エリアでランクイン率が高い傾向で、都内近接エリアの土地需要の強さが窺えます。
港南区、戸塚区等の南部エリアもランクインしている点からは、横浜市の住宅需要の底堅さも垣間見えます。

当社では、土地取引の基準である地価動向について、今後も定期的な観測を続けていきます。

提供:法人営業本部 リサーチ・コンサルティング部

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