不動産投資コラム

年収1000万円の独身者による不動産投資|詳細収支シミュレーション

不動産投資をすると、どのくらい儲かるのでしょう。投資にはいくつかの目的があり、収入を増やしたい、節税をしたいなど、自身の年収や将来設計によってゴールが変わってきます。例えば、年収1000万円のサラリーマンの手取り収入はおよそ730万円。270万円も控除されていますが、不動産投資には節税効果もあると言われます。では、実際に年収1000万円で不動産投資をはじめた場合、どのような収支が想定できるのでしょう。宅建士と一級建築士の資格を持つ筆者が、その収支想定を公開します。

不動産投資による収入と税金

不動産投資として現物投資をはじめると、空き物件でなければ、物件取得後1カ月ほどで家賃収入が発生します。一般的に家賃はオーナーの預金口座に入金されますが、入金された金額すべてがオーナーの収入になるわけではありません。

不動産投資は賃貸事業であり、事業には必要経費がかかります。毎月の収入から支出される必要経費があり、1年間の収入から必要経費を差引いた金額が「不動産所得」になります。不動産投資により最終的に利益が出たのか出ないのか、その判断は所得税を支払ったあとの手取り金額で判断しなければなりません。

また、不動産投資のために取得した不動産を売却する場合もあります。売却した利益については譲渡所得となり、不動産投資には不動産所得と譲渡所得の2種類の所得税があることを理解しておきましょう。

投資方法により課税の仕方が変わる

賃貸事業として運用する場合の不動産所得と、売却した場合の譲渡所得ですが、このふたつは課税の方法が異なります。

不動産所得は「総合課税」のため、サラリーマンが不動産投資を行い不動産所得があると、本業の給与所得に不動産所得を加えた合計所得に対し課税されます。

もうひとつの税金が譲渡所得です。不動産を売却すると、売却価額から不動産を取得したときの「取得費」を差引き、さらに売却に要した費用を差引いた残額が「譲渡所得」となります。譲渡所得には「分離課税」の譲渡所得税が課税され、給与所得とは別に確定申告し課税されます。

このほか、不動産投資に関係する所得税の課税方法には、次のような区分があります。
・REIT(リート)による投資における譲渡所得は分離課税ですが、分配金は総合課税か分離課税の選択が可能
・投資型クラウドファンディングの利益は総合課税

不動産投資シミュレーションの方法

不動産投資として賃貸事業をはじめるには、事前に収支シミュレーションを行って収益性を確認することが大切です。

賃貸事業のシミュレーションの結果算出される「不動産所得」と、本業で得られる給与所得を合算したうえで所得税の課税額を確認し、投資の収益性や節税効果などを検証することが投資のセオリーです。

賃貸事業のシミュレーションについては次章で例をご覧いただきますが、物件取得費、ローンの返済額、家賃設定、賃貸事業に必要な経費などを設定して行います。

不動産投資シミュレーション

前述したように、不動産所得は本業の給与所得と合算して申告します。年収1000万円の給与所得課税額は805万円であり、これに不動産所得を加算した合計所得が所得税の課税対象額です。(便宜上ここでは、社会保険料控除などは省きます。)

ここで行うシミュレーションは不動産所得を算出するまでですので、読者の方は、ご自身の給与所得を加えて税金を算出してみてください。なお、税額を算出する場合の税率や控除額は「国税庁のHP」で確認してください。

以下仮定したシミュレーションでは、次の4種類の設定条件に基づき行い結果を記載しました。

1.一棟アパート
2.区分所有マンション
3.一戸建て貸家
4.節税目的の一戸建て貸家
あくまでも、筆者の主観に基づくものですので、実際の数値とは異なる可能性があることをご了承ください。

一棟アパートのシミュレーション

都区部に一棟アパートを持つと仮定した場合、シミュレーション条件は以下の通りです。

項目内訳金額備考
物件取得価格 総投資額 72,600,000
土地価格 40,000,000 50坪、坪単価80万円
建物価格 27,000,000 60坪、坪単価45万円
取得時諸経費 5,600,000
資金計画 総投資資金 72,600,000
自己資金 7,600,000
借入金 65,000,000
アパートローン金利 2.0%
返済回数 240回
賃貸条件 間取タイプ ワンルーム
月額家賃(1戸) 60,000
戸数 8戸
年間収入 5,760,000
表面利回り 8.60%


この条件に基づいて収支シミュレーションを行った場合、初年度の結果は以下の通りです。

費目金額備考
年間収入 5,760,000 満室
修繕費 460,800 家賃収入の8%
管理委託費 316,800 家賃収入の5.5%
共用電気料 20,000
火災保険料 150,000 年1回払い
固定資産税 231,000
都市計画税 158,000
借入金返済 3,975,187
 元金返済(上記の内訳) 2,675,187 利益計算から除外
 金利返済(上記の内訳) 1,300,000 利益計算に参入
建物減価償却費 2,700,000 利益計算に参入
当期税引前利益 423,400
税引前キャッシュフロー 448,213


なお、減価償却は以下の条件に基づいています。
(経過年数を15年とすると償却年数は10年となり、償却率が0.1)

当期税引前利益が不動産所得に該当しますので、この金額に本業の給与所得を加えて所得税を算出します。

給与所得を805万円と仮定すると課税所得は8,473,000円となり、所得税の算出式は以下のようになります。(10円単位は切り捨て以下同様)
8,473,000×0.23-636,000=1,312,700円

区分マンション1室のシミュレーション

都区部に区分所有マンション1室を持つと仮定した場合、シミュレーション条件は以下の通りです。

項目内訳金額備考
物件取得価格 総投資額 30,700,000
物件価格 28,300,000 1K約7.7坪、坪単価367万円
取得時諸経費 2,400,000
資金計画 総投資資金 30,700,000
自己資金 18,500,000
借入金 12,200,000
不動産担保ローン金利 2.0%
返済回数 420回
賃貸条件 間取タイプ 1K
月額家賃(1戸) 95,000 共益費込み
戸数 1戸
年間収入 1,140,000
表面利回り 4.03%


初年度のシミュレーション結果は次のようになります。

費目金額備考
年間収入 1,140,000 満室
修繕費 57,000 家賃収入の5%
管理委託費 62,700 家賃収入の5.5%
管理費・修繕積立金 240,000 月額2万円
火災保険料 30,000 年1回払い
固定資産税 168,000
都市計画税 58,000
借入金返済 480,027
 元金返済(上記の内訳) 240,027 利益計算から除外
 金利返済(上記の内訳) 240,000 利益計算に参入
建物減価償却費 733,700 利益計算に参入
当期税引前利益 -449,400
税引前キャッシュフロー 44,273


なお、減価償却は以下の条件に基づいています。
(物件取得費の建物部分を2,530万円とし、経過年数を15年とすると償却年数は35年となり、償却率が0.029)

不動産所得は△449,400円と赤字となりますが、税引前キャッシュフローは44,273円あり、投入した自己資金1,850万円に対するリターンは0.2%と、銀行の定期預金より高い結果が得られます。

不動産所得と給与所得の確定申告は、所得金額が7,600,000円となり、所得税の計算式は次のようにわずかですが節税効果と約4万円のキャッシュフローが生じます。
7,600,000×0.23-636,000=1,112,000円

一戸建て貸家のシミュレーション

都区部に一戸建て貸家を持つと仮定した場合、シミュレーション条件は以下の通りです。

項目内訳金額備考
物件取得価格 総投資額 34,400,000
土地価格 23,800,000 14.5坪、坪単価164万円
建物価格 8,000,000 23坪、坪単価35万円
取得時諸経費 2,600,000
資金計画 総投資資金 34,400,000
自己資金 14,400,000
借入金 20,000,000
不動産担保ローン金利 2.0%
返済回数 240回
賃貸条件 間取タイプ 2LDK
月額家賃(1戸) 140,000
戸数 1戸
年間収入 1,680,000
表面利回り 5.28%


初年度のシミュレーション結果は次のようになります。

費目金額備考
年間収入 1,680,000 満室
修繕費 84,000 家賃収入の5%
管理委託費 92,400 家賃収入の5.5%
火災保険料 60,000 年1回払い
固定資産税 79,000
都市計画税 78,000
借入金返済 1,223,134
 元金返済(上記の内訳) 823,134 利益計算から除外
 金利返済(上記の内訳) 400,000 利益計算に参入
建物減価償却費 1,000,000 利益計算に参入
当期税引前利益 -113,400
税引前キャッシュフロー 63,466

なお、減価償却は以下の条件に基づいています。
(経過年数を17年とすると償却年数は8年となり、償却率が0.125)

税引前キャッシュフローは63,466円あり、投入自己資金に対する割合は0.4%と、区分マンションよりは高い投資効果となりました。

不動産所得と給与所得の確定申告は、当期税引前利益が△113,400円のため所得金額が7,936000円の申告となり、所得税の計算式は次のようになります。
7,936,000×0.23-636,000=1,189,000円

節税目的投資のシミュレーション

節税目的で不動産投資を行うケースもあります。節税目的とは、不動産所得は給与所得と合算するため、必要経費として収入から控除できる減価償却の金額によって、不動産所得がマイナスになるケースがあるのです。

設定条件を以下のようにしてシミュレーションしてみましょう。

項目内訳金額備考
物件取得価格 総投資額 46,000,000
土地価格 35,400,000 13坪、坪単価270万円
建物価格 7,400,000 22坪、坪単価33万円
取得時諸経費 3,200,000
資金計画 総投資資金 46,000,000
自己資金 23,000,000
借入金 23,000,000
不動産担保ローン金利 2.0%
返済回数 240回
賃貸条件 間取タイプ 3DK
月額家賃(1戸) 160,000
戸数 1戸
年間収入 1,920,000
表面利回り 4.49%


シミュレーション結果は次のようになります。

費目金額備考
年間収入 1,920,000 満室
修繕費 96,000 家賃収入の5%
管理委託費 105,600 家賃収入の5.5%
火災保険料 60,000 年1回払い
固定資産税 132,000
都市計画税 99,000
借入金返済 1,406,605
 元金返済(上記の内訳) 946605 利益計算から除外
 金利返済(上記の内訳) 460,000 利益計算に参入
建物減価償却費 1,850,000 利益計算に参入
当期税引前利益 -882,600
税引前キャッシュフロー 20,795


なお、減価償却は以下の条件に基づいています。
(経過年数を27年とすると償却年数は4年となり、償却率が0.25)

税引前キャッシュフローは20,795円とわずかですが、当期税引前利益は△882,600円であり、本業の給与所得から882,600円が控除できます。

年収1000万円の給与所得は約805万円なので、このケースの場合、課税所得を約716万円に下げることができるのです。

このように築年数が経過し法定耐用年数に近い物件あるいは超えた物件は、1年間の減価償却が大きくなり節税効果が生まれます。

サラリーマン大家の投資戦略

年収1000万円のサラリーマンが不動産投資を行う場合、まず重要なことは投資目的を明確にすることです。

投資目的としてあげられるものとして、リタイア後の収入確保、副収入による年収アップ、節税対策による手取りアップ、などがありますが、目的を明確にすると投資スタイルが自ずと決まってくるでしょう。

投資スタイルの検討

サラリーマンが選択できる現物投資の投資スタイルには、主に以下の3つあります。

・一棟物件
・区分所有マンション
・一戸建て貸家

どの投資スタイルを選択するのかに関係するのが年収です。

年収が高いほど選択範囲が広がり、年収が少なくなると区分所有マンションのように、総投資額の少ないものに限られてきます。なぜなら、投資にあたって全額自己資金を投入することはなく、金融機関からの借り入れが必須条件となるからです。

金融機関からの与信は年収が高いほどよく、そのため年収によって投資スタイルの選択肢が決まってきます。そのような意味で年収1000万円の方であれば、上記の3つのスタイルすべてが選択肢となるでしょう。

分散投資のすすめ

投資はリスクを伴います。例えば株式投資は企業の経営破たんにより、所有している株が無価値になることも想定されます。

一方、不動産投資では大地震により投資した物件が倒壊するなどのリスクがありますが、比較的リスクの少ない投資と言われます。しかし、空室の増加などは非常に大きなリスクとなります。分散投資はリスク対策として重要な手法であり、投資物件をひとつに限定せず、複数の物件に投資することを検討してみてください。

・一棟アパートを数棟所有
・区分所有マンションを複数戸所有

上記のように「投資物件数」に着目する方法や、アパートと区分マンション、アパートと一戸建て、のように複数のジャンルに投資する方法もあります。そのほか、都心と郊外や、交通機関の沿線を分散させるなどエリアに着目する方法もあるでしょう。

空室はさまざまな要因により生まれるため、100%のリスク対策はありません。常に「分散投資」を念頭に投資をすすめることが重要です。

シミュレーションするときに注意したいポイント

投資物件の購入を検討する際に収支シミュレーションを必ず行います。
シミュレーションでは注意したいポイントは以下です。

・シミュレーションする期間はローン返済期間以上とする
・出口戦略を考慮して投資期間を決める
・家賃設定は経年により低下するよう設定する
・一棟アパート・マンションでは大規模修繕を必ず設定する
・区分マンションでは大規模修繕の時期を考慮した出口戦略とする

以下に説明を補足していきます。

出口戦略

不動産投資は将来必ず終了する時期がきます。

・投資目的を達成した
・投資物件が老朽化し運用が難しくなった
・売却が難しくなる前に売却したい
・大規模修繕などの再投資が必要になる前に売却する

上記のような理由により、賃貸事業を行っていた物件の売却時期を、あらかじめ設定します。これを「出口戦略」と言います。

投資の終了時期は、投資物件取得時にある程度予想することができます。ゴールの目標地点として「〇年後」と設定し、シミュレーションにおいて終了時期の累積利益を算出してみてください。これに売却により得られる収入を加算すれば、トータルの投資による成果を評価できます。

家賃設定

シミュレーションにおいてもっとも重要な要素が「家賃設定」です。実際に入居する時点で設定した家賃から数%低下するだけでも、収益性は大きく悪化します。シミュレーションでは楽観的な見とおしを描きがちですが、厳しめに設定するのが投資成功の秘訣です。投資期間中に家賃は下落するのが一般的であり、その下落率は年間1%程度と言われます。

また入居率(空室率の逆数)も重要です。退去から新規入居までの期間が長くなると入居率は低下しますので、入退去の頻度が高い物件は入居率が悪くなります。シミュレーションでは必ず設定すべき条件と言えるでしょう。

大規模修繕

投資で運用する建物は一定期間で大規模修繕が必要になります。金額により必要経費ではなく、資本的支出となる場合が多く、シミュレーション上は「内部留保」からの支出になります。

また、資本的支出は減価償却ができるので、利益の増加が見込めキャッシュフローはよくなりますが、内部留保は減少するのでトータルの投資成果を検証する必要があります。投資物件によっては、大規模修繕の時期が到来する前に売却するといった出口戦略も一案となるでしょう。

区分マンションの出口戦略

上記の大規模修繕の時期が到来する前の売却は、とくに区分所有マンションの出口戦略として有効な考え方です。

取得の時点で大規模修繕を終えた物件を購入し、次の大規模修繕の時期となる取得後15年前後に売却するなどの考え方を折り込んだシミュレーションは、より実戦的な投資戦略と言えるでしょう。

また区分所有マンションは投資サイクル(物件の入替)を10年程度とし、複数の物件を所有しつつ計画的に売却するなど、分散投資を考慮した投資戦略が有効です。

まとめ

投資対象として例示したのは、一棟アパート、区分マンション、一戸建てでしたが金融機関からの借り入れを予定した場合、年収1000万円であれば物件の選択肢は広く、リスクに対応した分散投資も可能になります。最初は投資額の少ない区分マンションからスタートし、実績が付いたところで一棟アパートを追加するなど、段階的に事業規模を広げていくほうが無難な戦略と考えられるでしょう。

例示したシミュレーションでは、おおむね自己資金比率を1割程度に設定しましたが、投入できる自己資金と借り入れのバランスを考慮し、安全性の高い投資戦略を検討してみてください。

弘中 純一
弘中 純一

弘中 純一一級建築士・宅地建物取引士 

国立大学建築工学科卒業後、一部上場企業にてコンクリート系工業化住宅システムの研究開発に従事、その後工業化技術開発を主体とした建築士事務所に勤務。資格取得後独立自営により建築士事務所を立ち上げ、住宅の設計・施工・アフターと一連の業務に従事し、不動産流通事業にも携わり多数のクライアントに対するコンサルティングサービスを提供。現在は不動産購入・投資を検討する顧客へのコンサルティングと、各種Webサイトにおいて不動産関連の執筆実績を持つ。

 

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