不動産投資コラム

空き家と将来的な不動産市場への影響の検討 第三回 将来の賃貸市場に対する空き家の影響

空き家と将来的な不動産市場への影響の検討 第三回 将来の賃貸市場に対する空き家の影響

借家の空き家は入居者の入退室に伴うもの以外にも大量に存在します。借家の空き家が増加し続ければ賃貸市場やその供給、ひいては個人・法人の資産設計にも大きな影響を与えます。本章では将来の賃貸市場に対する借家の空き家の影響を検討します。

<サマリー> ・賃貸用空き家は全国に4,555千戸あり、空室率は23.9%となっている。

・賃貸用以外の空き家からは新たに賃貸用とされる空き家は少ない。

・老朽化した賃貸用の建物は持ち家よりも除却率が高い

・賃貸用建物の建築着工件数は減少傾向

・大都市圏の築40年程度の賃貸用建物について経済合理性で検討すると、初めての資本的支出が実行されない建物の比率は高いと思われる。

・その結果、大都市圏では賃貸物件の新陳代謝が進むことにより賃貸市場は安定、適確な物件の選択により、新たな購入による不動産投資も期待収益を得ることが可能と思われる。

・地方圏では、除却されず継続して賃貸市場に残る物件が多くなる傾向になる可能性があるため、投資を行うにあたっては慎重に検討する必要がある。

I.借家の空き家の現状と空き家から発生する借家の賃貸市場への影響

1.借家の空き家の現状
総務省「住宅・地価統計調査―賃貸用等空き家の所有の種類、建築の時期別空き家数」によると賃貸用等の空き家は計約4,555千戸(種類の不詳含)※1であり、平成30年の借家のストック19,065千戸で除すと空室率は23.9%※2となります。

民営の空き家は3,604千戸・空室率23.6%、民営以外(公共団体、公社、UR、給与住宅に区分されるもの等)は819千戸・空室率21.7%となっています。

※1:ここで採用されている民営と民営以外を区分する元となる賃貸用等空き家数総数(4,555千戸)は、本テーマの第一回 図表I-1「賃貸用の住宅」記載の数(4,327千戸)と約5%の差異があります。両方とも「住宅・地価統計調査」によるもので差異の理由は現在のところ発見できておりませんが、①民営と民営以外の区分は必要であること②差は本レポートの主旨に課題の残るものではないことから、ここでは「住宅・地価統計調査―賃貸用等空き家の所有の種類、建築の時期別空き家数」に記載された数値を記載しました。

※2:第一回でご説明したように、全国賃貸住宅経営者協会連合会が発表した民間賃貸住宅の空き家率は全国平均で21.4%(本書での記載は23.6%)となっています。空き家数は同一ですが、ストックが16,845千戸と住宅・地価統計調査15,295千戸より多くなっています。しかも前者の数値は共同住宅のみで戸建・長屋は参入されていないため、実際の空室率は21.4%より低位となる可能性があります。ストック数の差異が発生した理由については現在のところ判明しておりませんが、ここでは、差は本レポートの主旨に課題の残るものではないことから「住宅・地価統計調査」の数値を用いて算出した結果を採用しています。

2.現在の空き家から発生する借家について
国交省の「空き家所有者実態調査」(回答者ベース 以下「実態調査」)によると、「賃貸」の区分以外で、今後の利用意向を「賃貸」と答えた回答数は、70となりました。回答者は二次的住宅・売却・その他の所有者であり空き家を複数所有しているのではなく、一人一戸の所有であると想定します。

実態調査のサンプルの中においては70戸の新たな賃貸物件が既存の空き家から発生する可能性があることになります。

一方で、現在借家の空き家を所有している方の一人当たりの空き家数(所有棟数×一棟あたりの空き室)については、前回「第二回 現在の「空き家」から発生する売却物件について」において、22と想定しています。

その結果、現在の実態調査のサンプルの中における賃貸用の空き家は3,828戸(174(賃貸用の回答数)×22(一人当たりの戸数))となります。新たな賃貸物件の割合は現在空き家となっている戸数に対し1.8%(70÷3,828)程度、賃貸物件全体に対しては0.4%(1.8%×23.9%(借家の空室率))となり賃貸市場にはあまり大きな影響はないと考えることできます。

II.貸し家のストックの状況

1.貸し家の着工戸数
住宅着工戸数の総数は、1970代には年間1,800千戸を超えた年もありましたが、1980年代以降は下落傾向が続き、2008年には800千戸を割り込みました。その後、一時2013年には987千戸、2016年には974千戸まで回復したものの、2020年は812千戸となっています。

貸し家(給与住宅を含む)※1は調査開始以降住宅着工全体同様年々増加していき、1972年に800千戸を超えました。その後は低迷していましたが1980年代後半に増加し、1987年には900千戸となったのをはじめ、その後3年間も800千戸を超えるほどの大量供給がなされました。それからは全体的には減少傾向となり2020年は310千戸とピーク時の1/3の水準となっています。

持ち家と貸し家の比率をみると、1960年代、1980~1990年代の着工戸数では、持ち家等を貸し家等が上回った時期がありましたが、2000年代以降は持ち家等の方が多くなっています。リーマンショック前後の2005年~2009年、相続税の強化と金融機関の貸し家に対する融資姿勢の緩和姿勢があった2016~2018年には、持ち家等と貸し家等の比率が近づいた時期もありましたが、概ねこの20年間の貸し家と持ち家の比率は40%:60%となっています。

2.老朽化した貸し家の維持について
i.貸し家の残存率について

貸し家と持ち家の維持に対する姿勢を検討するため、各年代で持ち家と貸家のどちらが残存している割合が多いかを確認します。貸し家の各年代の残存戸数を着工件数で除した残存率は持ち家より低くなっており、その傾向は築年が古くなるにつれより強くなっています。したがって貸し家の方が、持ち家より優先して選択的に除却されていると考えられます。

ii.持ち家に比較して貸し家の解体が進んだ理由について
貸し家が持ち家と比較して先に除却が進んだ理由としては下記が考えられます。

<技術・デザインが現在の貸し家と適合しておらず賃借人がつきにくい>
・旧耐震基準(1981年以前の建築確認の物件)であり賃借人から敬遠された
・施工・デザイン・設計レベルによる機能性の劣化が市場から受け入れられなくなった
・持ち家よりも維持管理がなされず、物理的状態が悪い場合が多い

<収益性の低下>
・築年が進むごとに賃料は逓減傾向であり、リフォームの採算がとれなくなった
・入居者は築年を重視する傾向にあること
・建物耐用年数の満了により、税効果等が得られなくなった

<立地・処分>
・貸し家にする場所は売却するにも好立地で一戸建てや分譲宅地に転換された
・相続で処分するにも換価処分が容易であった
・相続で引き継いだ方の知識・経験不足により賃貸業をやめることとした

<持ち家特有の保有意識が希薄>
・貸し家の方が所有者の愛着が少ない傾向にある
・一般に親類が居住することの少ない貸し家の退去は、事務的で売却への支障が少ないこと

<築古賃貸物件としての売却の課題による解体の進行>
・建物耐用年数を基準に融資がなされているため、築古の賃貸住宅の流通性は劣ること
・建物の償却が大きくないため、購入者の税負担が大きい場合があること

<今般の融資姿勢による老朽化賃貸物件の流通性の悪化>
・サブリース会社が社会的問題になったことも要因となった収益物件全体への融資の引き締め
・不動産分野への融資残高が高位であり、極端な緩和は現在のところ期待できないこと

iii.1980年代と今般の建築状況の違いについて
1990年代後半(図表III-II-4赤囲み①)までは我が国の消費者物価指数は上昇、それにつれて民営家賃指数等の不動産関連の指数も上昇していきました。建築費指数にいたっては1989年前後のバブル期へ建築需要の高まりから、民営家賃指数より高い上昇率が見られました。

当時の貸し家建築の収支シミュレーションでは、毎年家賃が0.5~1%上昇することを前提に置いていた場合も多かったものと思われます。金利が高くても家賃が追い付くことによりシミュレーション上は収支が成り立つ時代でした。

しかしその後、2000年代前半までは金利・家賃・建築費ともに下落傾向となりました。2010年代以降(図表III-II-4青囲み②)は、金利は低位安定、家賃は下落傾向でしたが建築費だけ上昇傾向となりました。

1980年代に賃貸物件を建築した投資家は年が経つにつれ、当初思い描いていた市場とは異なる前提で運用を行っている状況を伺うことができます。

III.老朽化した物件の追加投資についての検証

以前より数は減ったとはいえ、未だ賃貸住宅は供給されています。今後も賃貸市場が安定するためには、既存の物件が一定量除却(解体・用途転換を含む)されることが必要となります。

分譲マンションなどは管理会社が定期的な修繕のアドバイスを行いますが、賃貸建物はキャッシュフローが優先され、建築後30年~40年でもあまり資本的支出がなされていない物件が多いものと考えます。

しかしながらその後の10年以上に渡り賃貸の市場性を維持させるためには、内・外部の設備や外壁・屋根等の更新にまとまった資金が必要となるものと思います。

そのような場面で、経済合理性を基に意思決定を行う投資家が所有する、建築数の多い1980年代物件に対して資本的支出が必要になった場合の投資態度を取り上げて、今後の賃貸市場を考えます。

1.主な追加投資の判断基準
検討にあたって以下の想定を行います。

i.収益を得る対象と利回りについて
・投資対象(元本)は土地と資本的支出の合計額
既存の建物本体分については40年の間に利益、支出分は回収したと設定し、投資対象(元本)は土地と資本的支出の合計額とします。なお期待利回りの設定は、検討する物件が存する地域の新築収益レジを参考としています。

ii.収益の残存存続期間
・木造は10年、鉄筋コンクリートは20年とします
所有者が考えるであろう建物の存続期間を木造50年、鉄筋コンクリート60年とし、差し引き、資本的支出の回収期間は木造10年、鉄筋コンクリート※2は20年と設定します。なお本項における資本的支出は構造を補強することまでは想定していません。

※2:鉄骨造を検討するならば、建物グレードにより異なりますが回収期間は10~20年と考えます。

iii.他資本的支出の判断の検討における設定項目
上記を含め、資本的支出の判断の検討における設定項目を本章の末尾図表III-III-4の通りとしました。

iv.追加投資の判断と賃貸継続の可能性の検討
下記図表III-III-1は、投資していた築40年の収益物件について、今後目標とする期待利回りを達成する賃料設定の目安を表したものです。物件は同図表「①場所イメージ」記載の場所となり、今後必要となる資本的支出額は想定で設定しています。

(I)大都市圏の場合
例えばこの表中の番号1(赤字部分)を取り上げます。

東京23区南西部をイメージした場所(表中①)で、木造築40年の賃貸物件(同⑥期間10年)につき、今後も期待利回りを確保できる賃貸経営のために賃貸面積あたりの資本的支出が344千円/坪※3(同⑤)必要であった場合、12.9千円/月・坪(同⑥期間10年・青ます)の賃料の取得が必要であることを示しています。

なおこの例の容積100%あたりの坪単価は1,500千円/坪(②)、期待利回りは4%(同③)、想定空室率は15%にしています(同④)※4。

賃料水準はこの地域の賃料の相場を超えており、資本的支出を行って賃貸経営を継続するのは合理的とはいえず、他の方法によることとなります(図表III-III-2参照)。

※3:賃貸部分に直接投資する金額で250千円/坪。ワンルーム換算で一部屋あたり税前1,500~1,900千円/坪)

※4:本テーマの第一回【図表Ⅰ-2】では東京都の民営賃貸物件の空室率は17.1%とされています。本章では築年・地域等総合的に勘案して15%に設定しました。空室率が高い方がより高額な賃料を取得しないと期待利回りは達成できません。15%は例えば「10戸のアパートの1部屋は常に空き。全部屋4年で入れ替わりその度退去から入居まで3ヶ月かかる状況」となります。東京都23区南西部でこの状況なら多くの投資家が投資を継続する水準と考えます。

一方で、表中の番号1でも鉄筋コンクリート造であり、資本的支出の収益の継続期間が20年(同⑥ 期間20年・赤ます)だとすると必要となる賃料は10.9千円/月・坪であり、物件の地域性・建物の品等によっては確保できそうな家賃水準です。

また、まったく支出を行わない場合は6.9千円/月・坪(同⑥ 支出なし・黄ます)以上であれば期待利回りが達成されることになりますが、このタイミングで手をなにもいれないということは建物の寿命自体も短くなることが予想されます。

図表III-III-1中の1~8の大都市の物件では同様の傾向であると思われます。鉄筋コンクリートであっても全ての物件が必要とされる賃料水準を確保できる訳ではなく、地域や物件によるもの、さらに容積率の未消化があった場合、そして賃借人の選別を希望する場合や今後の資本的支出に要する人件費の上昇等を勘案すると、期待利回りを満たす賃料を見込めない相当数の物件が市場から退出し、他の方法が選択されることと思われます(図表III-III-2参照)。

(II)大都市以外の場合
一方で図表III-III-1中番号9、10(大都市以外・緑字)のような地域のように、土地の価値が低い場所であれば、土地からの期待収益もわずかとなります。賃貸住宅以外の用法も難しく売却しても大きな金額は得られないことから、現状の利用(「⑥支出なし」)で少しでも賃料が取得することを選択する投資家が多くなると思われます。

それに加え採算に合う物件は資本的支出もなされることとなりますから、市場から退出する物件の比率は低くなり空室率は上昇することとなります。

空室率がさらに上昇すると必要となる月家賃は上昇する一方で家賃自体は下落傾向になると考えられることから資本的支出が施される物件は減少することとなりますが、現状の利用(「⑥支出なし」)カテゴリーにはそう大きな変化がおこらず、結果需給の調整はなされにくいことが予想されます。

(III)まとめ
以上より、賃貸市場・空室率の調整についてまとめます。III.章における検討の前提は、築40年目でそれまで資本的支出がなされていない物件に対する追加投資の姿勢から検討する、ということでした。地域の売買・賃貸市場や物件個別の事情で状況は異なりますが、あえて単純化すると、大都市では賃貸市場・空室率の調整がなされていき、比較して大都市以外では進みにくいものと考えます。

この姿勢は、建築着工戸数が多かった1980年代~1990年代の物件が今後築40年を迎えることから、賃貸市場により大きな影響を与えるものと考えます。

(IV)他資本的支出の判断の検討における設定項目について

IV.空き家問題から見るこれからの賃貸物件への投資

以上により大都市圏では、賃貸化されていない現在の空き家から賃貸物件が増加する可能性は低く、また築年を経た数多くの物件が市場から退出する可能性が高いと思われます※1。

実際には賃貸物件の空室率自体の上下はあるとは思いますが、賃貸に不利なエリアから淘汰が始まる可能性があることを考えると、駅距離に恵まれる物件など市場性が高い築浅物件については継続的に市場性を維持できる可能性が高いと思われます。

大都市圏以外では市場から退出する物件の割合が大都市圏より低いと考えられ、相対的に賃貸市場の調整が進まない可能性があると考えます。人口減少要因が加わる地域では空室率上昇のペースがさらに早くなることになります。投資についても大都市以上に慎重な調査を行い行うべきと考えます。

住宅賃貸市場への貸主としての市場参加者は、純粋に収益目的の投資家等経済合理性を基に意思決定を行う投資家(土地も購入して相続対策を行う富裕層含)だけではありません。

民間では、将来的に不採算になる可能性があるにもかかわらず情報不足により投資を行ってしまう方や、元々所有している土地を手放さないためだけに投資を決断する地主の方がいて、また政策的な必要性により建築する公共セクターがあります。

これらは地域の供給過剰の一因となります。そのため、民間においては投資リテラシーを向上させ、人手不足で悩む地域においては物的・人的資源の最適配分のため建築を抑える等の施策がとくに必要になるかもしれません。

また、環境負荷の観点から建替えより大規模修繕が望ましい、との風潮が除却を進ませない可能性もありますが、検討する材料に乏しいため今回は本書の対象外とさせていただきます。

ここまでの検討は一般経済はもとより、現在の売買・賃貸(労働者の生産性に起因する支払可能賃料の観点含む)・建築市場の動向を勘案しています。これらの要因に着目し、今後も市場を見ていきたいと考えます。

※1:ここで持ち家と賃貸物件の資本的支出の姿勢の差について検討します。持ち家は貸し家より築古物件の資本的支出の誘因が大きいと思われます。

・持ち家の稼働は100%で「空室率」がなく、行われた資本的支出が効率的に利用されます。
・賃貸物件は面積あたりの設備が多く、資本的支出は持ち家より割高となります。
・住宅は資本的支出により受取賃料を上昇させることができますが、その負担は賃貸は賃借人、持ち家は自己になります。持ち家は自己の選択で投資金額を調整することができますが、賃貸は市場の評価によることになります。
・持ち家は収益目的で保有しないため、土地の期待利回りについては検討されない方が多いものと思われます。
・持ち家の場合、築年を経た建物でも自己の使用価値が高い場合が多いため、売却・解体よりも継続利用が有利になると考えることが多いと思われます。

 

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