不動産投資コラム

不動産投資家ならこれだけは知っておきたい!法人化するときの注意点

第1回のコラム「不動産を法人で取得するメリットデメリット」でお話したように、個人と法人では税率も違い、法人では減価償却費の調整が可能であり、また役員報酬を支払うことができます。これにより、百万円単位で節税ができる場合があります。

個人所有の不動産を法人化した方がよいかどうかは人によって異なりますが、法人化した方がよい場合でも注意点がいくつかあります。

そこで今回は、法人化するときの注意点を解説します。法人化することになって、「え?そんなの聞いていない?」ということにならないように、事前に確認しておいてください。

所得分散について

これは、第11回のコラムでお伝えしたように、減価償却費を借入期間で均等に計上した場合に、継続的に利益が出ているかどうかがポイントです。つまり利益のよく出る物件かどうかということです。

それだけではありません。法人化した後、もっとも節税効果として大きいのは、その利益を分散させることです。つまり、役員報酬として家族へお給料を支払うことで、税金の支払額を減らすことが可能です。

例えば、1,000万円利益の出る物件を法人化した場合、役員報酬を支払わないと1,000万円の利益に対して法人税がかかります。一方で、1,000万円の役員報酬を支払うと法人の利益は0円になります。そして、給料という形で1,000万円の個人所得が発生します。しかし、この1,000万円は「給与収入」というものであり、ここから「給与所得控除」というものを差し引いて「給与所得」になります。

1,000万円(給与収入)-220万円(給与所得控除)=780万円(給与所得)

この780万円(給与所得)に対して、所得税がかかってきます。

このように、法人化してその後役員報酬として個人へ再度所得を移転させることで節税が可能になります。

ただし、家族全員の所得が高い場合は、所得税率が高くなりますので、節税効果がない場合があります。また、副業禁止規定のある会社に勤めている方がいる場合は、法人から役員報酬を支払うことができないので、法人化した後の所得分散というもっとも大きい節税効果が使えなくなります。現時点の皆さんの環境を考えて、トライしてみてください。

売却予定があるかどうか

法人化した後に第三者へ不動産を売却した場合、個人から法人へ売却、法人から第三者へ売却という流れになります。不動産の場合、売買することで「登録免許税」「不動産取得税」「司法書士報酬」などが発生しますので、あまり頻繁に売買すると却って損をするケースがあります。そのことを考えると、個人で所有し続ける方が得することも多いでしょう。

消費税の課税事業者か免税事業者か

過去1、2年の間に物件を売却したことがある人は要注意です。個人が課税事業者(消費税の納税義務のある事業者)に該当する場合、法人化に際しての物件売却時に、建物にかかっている消費税を納めなくてはいけません。

例えば、建物価額が1億800万円であれば800万円の消費税を納めなくてはならず、これが免税事業者(消費税の納税義務のない事業者)なら納めなくてもかまいません。法人化するときは、個人が消費税法上の課税事業者に該当するかどうか、必ずチェックするようにしてください。

消費税の還付が可能かどうか

今度は逆に、法人側のお話です。法人が消費税法上の課税事業者に該当する場合、消費税が還付される可能性があります。

例えば、建物価額が1億800万円の場合、800万円が税務署から法人に還付されることとなります。また、そういった法人を設立して、消費税の還付を受けることも考えられます。

帳簿価額と借入残債のバランス

法人化には、個人から法人への物件売却が伴います。つまり、そこで利益が出た場合、個人で譲渡所得が発生し、39%(もしくは20%)の税金がかかります。

個人と法人で売買する際、「時価」で取引することになりますが、その「時価」がいくらであるか算定しなくてはなりません。一つの方法として、不動産鑑定評価を出すことです。ただし、これには費用もかかりますので、一般的には個人における帳簿価額(個人の決算書に載っている金額)で売買します。帳簿価額で売買すると、個人では利益が出ません。なぜなら、譲渡所得の計算が以下のとおりになるからです。

ただし、帳簿価額で売買する場合には何点か注意が必要です。「帳簿価額<時価×50%」である場合、時価で売買したものとみなされて、時価と帳簿価額の差額に対して税金がかかってきます。また、「帳簿価額≧時価×50%」であっても、同族会社間の取引であれば、税務署はその取引を否認できる権限を持っています。つまり、税務署の権限で「売買価額は帳簿価額というのはおかしい」と言えてしまうのです。その場合、税務署が時価を算定して、その時価と帳簿価額の差額に対して課税されてしまいます。

結局、帳簿価額と時価がそれほど乖離していない場合には、帳簿価額での売買も税務署は認めてくれますが、明らかに両者が乖離している場合には、税務調査で否認される可能性もあるということになります。
譲渡所得=収入金額-(取得費+譲渡費用)「収入金額」というのが売買金額を意味し、「取得費」というのが帳簿価額を意味しますので、例えば、1億円で売買する物件の帳簿価額が1億円であれば

譲渡所得=1億円-1億円=0円

となります。

よって、帳簿価額で売買すれば譲渡所得が発生しないので、法人化する際は帳簿価額で売買すれば問題ないと思われがちですが、実はもう1点注意が必要です。それは、「残債額」です。

仮に、1億円の帳簿価額の物件を1億円で法人へ売却するとします。この場合、法人で新たに融資を引く必要がありますが、フルローンであれば1億円の融資を引くことができます。一方で、個人の残債が1億3,000万円あったとすると、個人は1億円の売却収入に対して、1億3,000万円の返済をしなくてはなりません。

では、1億3,000万円で売買すればどうでしょう。法人は、フルローンを引くことができれば、1億3,000万円の融資を受けて、その金額を個人へ支払います。一方、個人は1億3,000万円の売却収入に対して、1億3,000万円の返済を行います。特に問題ないように思いますが、個人は1億円の帳簿価額の物件を1億3,000万円で売却しているので、譲渡所得が発生し、税金を支払わなくてはなりません。

つまり、「借入残債>帳簿価額」という状況になっていると、法人化するのはハードルが高くなります。売却収入では賄えない借入残債を自己資金で返済するか、もしくは税金を払うかという選択肢になります。

ゆえに、「借入残債<帳簿価額」という状態のうちに、法人化を検討するようにしてください。特に、建物の金額の一部を「建物付属設備」などで認識をしている方は、減価償却が早く進みますので、「借入残債>帳簿価額」となっている可能性がありますのでご注意ください。

ただ、金融機関によっては、1億円の売買に対して1億3,000万円の融資をしてくれるケースもありますので、「借入残債>帳簿価額」となっている方でも、法人化が不可能というわけではありません。いずれにしても、法人化する際には、早めの検討が必要です。

まとめ

個人所有の不動産を法人へ移転する場合には、あくまでも「売買」という位置づけですので、融資の問題や税金の問題が出てきます。また、必ず売買契約書作成や領収書の発行も忘れないようにしましょう。もちろん、不動産取得税や登録免許税も発生します。司法書士報酬なども必要になってきますので予め、節税効果と初期費用を検討したうえで、法人化するかどうかをご検討ください。

加えて、法人化する際には、消費税の状況や残債と帳簿価額のバランスを必ず確認するようにしましょう。個人と自分の法人だからといって、資料の整備のみで移転できると思っていると多額の出費が発生することもあるので、しっかり検討するようにしてくださいね。

塩田 雅人
塩田 雅人

塩田 雅人不動産投資 専門税理士

不動産投資に関する税務をさまざまな角度(所得税・法人税・消費税・相続税など)から検討し、トータルでサポートを行う。個人所有物件の法人化や消費税の還付に精通。銀行との良好な関係を築き、顧問先の借り換え提案や金利交渉に力を発揮する。

 

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