不動産投資コラム

店舗建物の貸主における消費税の2割特例の適用と、適用後の簡易課税選択届出の特例

1.適格請求書等保存方式の概要

(1)借主における適格請求書等保存方式のポイント
消費税の納付税額は、原則、課税期間(個人事業者は原則その年1月1日~12月31日、法人はその事業年度)中の消費税が課税される取引(課税売上)に係る消費税額から、事業に係る資産の取得やサービスの提供を受けること(課税仕入れ等)に係る消費税額を控除(仕入税額控除)して計算します(消費税法30条。以下この課税方式を「原則課税」という)。

令和5年10月1日から、消費税の仕入税額控除の方式として、「適格請求書等保存方式」が導入されました。適格請求書等保存方式では、適格請求書等の保存が仕入税額控除の要件となります(同条9項)。したがって、店舗建物を賃借する借主が、支払家賃に係る消費税について仕入税額控除を行うためには、適格請求書の保存が必要になります。

(2)貸主における適格請求書等保存方式のポイント
適格請求書を交付できるのは、「適格請求書発行事業者」に限られます。店舗建物の貸主が借主の要請を受けて適格請求書発行事業者となる場合は、税務署長に申請して登録を受ける必要があります。適格請求書発行事業者の登録ができるのは、課税事業者のみです。免税事業者(注)が適格請求書発行事業者の登録を受けるには、原則、「課税事業者選択届出書」を提出し、課税事業者となる必要があります。

ただし、令和11年9月30日までの日の属する課税期間中に登録を受ける場合は、適格請求書発行事業者の登録申請書に登録希望日を記載することで、登録希望日から課税事業者となる経過措置が設けられています(28年改正法附則(改正法附則)44条4項、改正令附則15条2項、消費税法基本通達21-1-1)。この経過措置の適用を受ける場合は、課税事業者選択届出書を提出する必要はありません。

(注)基準期間(個人事業者の場合はその年の前々年、事業年度が1年の法人の場合は、その事業年度の前々事業年度)における課税売上が1,000万円以下であることにより消費税の納税義務が免除されている事業者をいいます(消費税法9条1項)。

2.2割特例の概要

(1)概要
2割特例とは、その課税事業者の消費税の計算上、課税売上に対する消費税額から控除する仕入税額控除の金額を、特別控除税額(原則、課税売上に対する消費税額の8割相当額)とする特例です(改正法附則51条の2第1項、2項)。2割特例の適用を受けることにより、消費税の納税額が課税売上に対する税額の2割とされ、原則課税や簡易課税(注)に比べて税負担が大幅に軽減されます。

(注)基準期間の課税売上が5,000万円以下の事業者が、選択により課税売上に一定のみなし仕入率(不動産賃貸業は40%)を掛けて仕入税額控除の金額を計算する方法です(消費税法37条)。

(2)2割特例の適用期間と適用制限
2割特例の適用期間は、令和5年10月1日から令和8年9月30日までの間の各課税期間となります。ただし、2割特例は、免税事業者が適格請求書発行事業者となることにより課税事業者に該当する場合を想定して設けられた特例であることから、基準期間における課税売上が1,000万円を超える課税期間は、適格請求書発行事業者とならなくとも課税事業者に該当するため、2割特例の適用を受けることはできません(改正法附則51条の2第1項)。

3.2割特例を適用した課税期間の翌課税期間に簡易課税を選択する場合の届出の特例

2割特例の適用を受けた課税期間の翌課税期間につき、上記2(2)より、その基準期間における課税売上が1,000万円を超えるため同特例の適用を受けられない事業者が、その翌課税期間につき簡易課税を選択する場合は、次の特例が設けられています。

簡易課税により消費税の申告をする場合は、原則として、その適用を受けようとする課税期間の初日の前日まで(つまり、適用を受けようとする課税期間の前課税期間中に)に「簡易課税制度選択届出書」を提出する必要があります(消費税法37条第1項)。

ただし、2割特例の適用を受けた事業者が、その適用を受けた課税期間の翌課税期間中に税務署長に対し、その課税期間から簡易課税の適用を受ける旨を記載した「簡易課税制度選択届出書」を提出した場合は、その課税期間の初日の前日に「簡易課税制度選択届出書」を提出したものとみなされます(改正法附則51条の2第6項)。つまり、簡易課税の適用を受けようとする課税期間(2割特例の適用を受けた課税期間の翌課税期間)中に、その届出書を提出すればよいこととされています。

税理士法人タクトコンサルティング

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