不動産デューデリジェンスとは?概要や種類・実施の流れなど解説

不動産デューデリジェンスは、企業を買収したり不動産に投資したりする際に、対象の不動産について多角的な側面から調査を行うものです。
本記事では、そもそもデューデリジェンスがどのようなものなのかといった点やデューデリジェンスの種類、流れなどお伝えするとともに、不動産デューデリジェンスを行う際のポイントをご紹介します。

Ⅰ.デューデリジェンスとは

そもそもデューデリジェンスとはどのようなものなのでしょうか。

デューデリジェンス(Due Diligence)は、ある企業やプロジェクトについて、十分な調査と分析を行うことで、投資や取引に関するリスクを評価することを指します。

デューデリジェンスでは、企業やプロジェクトについて、以下のような内容を調査します。

業績
財務状況
法律的な問題
市場動向
競合状況
リスク管理の体制
社会的責任など

上記内容を調査するためには、以下のような項目を調査・評価する必要があるでしょう。

財務諸表
税務申告書
契約書
特許や商標登録状況
従業員数や人事制度
取引先や顧客情報
規制や法令遵守状況

デューデリジェンスの種類

デューデリジェンスにはいくつかの種類があります。

ここでは、そのうち以下5つについて見ていきましょう。

不動産デューデリジェンス
ビジネスデューデリジェンス
財務デューデリジェンス
法務デューデリジェンス
ITデューデリジェンス

不動産デューデリジェンス

不動産デューデリジェンスは、不動産に投資したり、企業を買収したりする際に買収対象企業が所有する不動産について調査を行うものです。

具体的には、不動産の所有権や土地の法的な権利、物件の評価、建物や設備の状態、リース契約、税務情報などの詳細な情報を調査し、不動産取引や投資におけるリスクを最小限に抑えるための情報を調査します。

また、不動産デューデリジェンスでは不動産の現地調査も行われます。

具体的には、土地の形状や立地条件、周辺環境、交通アクセス、建物の状態や構造、設備の機能性、騒音や悪臭の問題、防犯性などを調査します。

これら現地調査については、不動産鑑定士やコンサルティング会社に委託するのが一般的です。

ビジネスデューデリジェンス

ビジネスデューデリジェンスは、調査対象企業の将来性や自社とのシナジー効果など分析するために行うものです。
調査対象企業の価値を評価し、リスクを最小限に抑えて成功させるために行うものだといえるでしょう。

具体的には、ビジネスモデルや取引状況、市場の環境、業界に関連する法規の変遷や競合他社などが調査対象になります。

なお、調査にあたっては自社で調査を実施することもありますが、外部のコンサルタントに依頼することも可能です。
調査にあたっては、書類等の分析のほか、オーナー経営者へのインタビューが行われることもあります。

財務デューデリジェンス

財務デューデリジェンスでは、企業の財務情報を調査します。

財務デューデリジェンスでは、財務諸表や財務指標、キャッシュフロー、債務や資産の状況、税務問題、契約の状況、資金調達の状況などが調査の対象となります。

具体的には、貸借対照表や損益計算書、キャッシュフロー計算書などの分析を行うと考えるとよいでしょう。

なお、財務デューデリジェンスは税務デューデリジェンスや資産・債務デューデリジェンスなど、より特化した内容に分類することも可能です。

財務デューデリジェンスは会計事務所や監査法人が行うことが多いです。

法務デューデリジェンス

法務デューデリジェンスでは、調査対象の企業における法務上の問題やリスクについて調査を行います。

具体的には、会社の沿革や商業登記の内容、株主についてや過去のM&Aなど確認・調査を行うほか、過去に行われた契約や訴訟についても調べることになります。

そのほか、業種によっては許認可の確認も重要です。

事業を行うにあたり許認可が必要な場合、実際にどのような許認可が行われているかを確認しなければなりません。

また、許認可が行われている場合でも、企業買収後に許認可を引き継げるかどうかを調査する必要があるでしょう。

許認可を引き継ぐことができなければ事業を継続することができず、買収を判断するにあたり非常に重要な項目だといえるのです。

ITデューデリジェンス

ITデューデリジェンスでは調査対象の企業の情報システムに関して調査を行います。

企業買収するにあたり、買収後は情報システムを統合しなければならないこともあるでしょう。

そのようなケースでは、事前に調査対象企業がどのような情報システムを採用しているのか、自社の情報システムとの互換性はあるのかなど確認しなければなりません。

そのうえで、買収後に情報システムを統合することが可能なのか、可能なのであればどの程度の費用が必要なのか調査することで、企業買収の是非を判断できます。

ITデューデリジェンスは、情報システムに関する専門的な知識を持つ専門家に調査を依頼する必要があるでしょう。

Ⅱ.デューデリジェンスにかかる費用はどのくらい?

デューデリジェンスにはどの程度の費用がかかるのでしょうか?

具体的な費用については、調査対象の企業の規模やどの程度の調査が必要なのか、また調査を依頼するコンサルタントや各種専門家によって大きく異なります。

企業の規模を中小企業と大企業に分けた場合のおおよその費用相場としては、以下のように考えるとよいでしょう。

中小企業:数十万円から数百万円程度
大企業:数百万円から数千万円程度

なお、デューデリジェンスの種類ごとに時間単価を見てみると、おおよその相場は以下のようになります。

不動産デューデリジェンス:2~5万円程度
ビジネスデューデリジェンス:2~10万円程度
財務デューデリジェンス:2~5万円程度
法務デューデリジェンス:2~5万円程度
ITデューデリジェンス:不明

例えば、不動産鑑定士に不動産デューデリジェンスを依頼する場合、1日の実働が8時間とすると1日あたり16~40万円程度の費用がかかります。

調査報告書の作成までに10日かかるとすると、総額で160~400万円の費用が必要ということになります。

Ⅲ.デューデリジェンスの流れ

デューデリジェンスは以下のような流れで進めていきます。

調査チームの発足
秘密保持契約の締結
事前準備
調査の実施
調査結果を書面にまとめる

それぞれ見ていきましょう。

調査チームの発足

まずは調査を行うためのチームを発足します。

自社内に財務部や法務部がある場合、自社スタッフにより調査を進めてもよいでしょう。

一方、自社内に専門知識を持つスタッフがいない場合、また顧問弁護士や顧問税理士にデューデリジェンスの経験がない場合は、外部の専門家に協力を求めることになります。

デューデリジェンスは、調査対象となる範囲が広く専門知識を必要とするため、外部の専門家に依頼するのが一般的です。

第三者の中立の立場から評価してもらうことで、買収価格の妥当性や投資採算性などを判断することができ、重大リスクの見逃しも軽減されます。

不動産デューデリジェンスや法務デューデリジェンスなど必要な調査に応じて、信頼できる専門家に依頼しましょう。

秘密保持契約の締結

デューデリジェンスを行う場合、調査対象企業の重要な情報も閲覧することになるでしょう。

取得した情報を外部に漏らして問題になることがないよう、調査対象企業とは秘密保持契約を結びます。

これは、調査を通して取得する情報以外にも、例えば調査途中でM&Aを進めていることが社員や取引先に漏れてしまうことが防ぐ目的もあります。

調査を進める中でこれらの情報が漏れると、社員の離職や取引停止につながる可能性があるからです。

事前準備

実際に調査を始める前に、事前の準備を行います。

具体的には、以下のようなことが挙げられるでしょう。

重点的に調査する内容の決定
調査対象から取得した情報の確認
専門家との調整

調査を行うにあたり、方針を決めずに始めてしまうとむやみに時間がかかってしまい、必要な情報が得られないばかりか多額の費用がかかってしまう可能性があります。

そうしたことを防ぐために、事前に調査の方針と重点的に調査する内容を決めておく必要があるのです。

方針を決めたら、調査対象から得た資料から、情報を確認することになります。
資料を受け取った段階でしっかり資料を読み込んでおくことで、調査の精度を上げることにつながります。

上記の準備が済んだら、調査を行う専門家に調査対象の情報や調査のスケジュールなど共有します。

調査の実施

事前準備が済んだら調査を実施します。

調査対象から取得した資料の分析を行うとともに、現地調査を行うことも必要です。

例えば、不動産デューデリジェンスにおいては、調査対象が保有する不動産の調査を行いますが、資料だけでなく実際に現地に赴いて調査します。

具体的には、外観や経年劣化の程度の確認、境界の確認、周辺環境の確認など行うことになるでしょう。

そのほか、ビジネスデューデリジェンスなどの場合、調査対象企業の経営陣や関連部署の従業員にインタビューなど行うこともあります。

調査結果を書面にまとめる

各種調査が終わったら、調査結果を書面にまとめます。

単に書面にまとめるだけでなく、各分野の専門家から受け取った調査結果から、調査対象が投資をするのにふさわしいかどうかを話し合うのです。
なお、受け取った調査内容だけでは判断できないという場合は、追加で調査依頼することもあります。

また、調査により問題点が明らかになった場合、改めて調査対象に該当の問題点について意見を聞いたり、解決策を要求したりといったことも可能です。

Ⅳ.不動産デューデリジェンスの3つのポイント

最後に、デューデリジェンスの中でも不動産デューデリジェンスにおける以下の3つのポイントについてお伝えしていきます。

経済的側面
法的側面
物理的側面

それぞれ見ていきましょう。

経済的側面

不動産デューデリジェンスでは、企業が保有する各不動産について、経済的側面の調査を行う必要があります。

具体的には、公示価格や基準地価、相続税路線価などの公的価格を確認したり、実勢価格を調査したりします。

公示地価や基準地価については、国土交通省『土地総合情報システム』から「地価公示・都道府県地価調査」に進むことで確認できます。

また、実勢価格を調べる際には同サイトから「不動産取引価格情報検索」に進むことで、近隣で過去に成約された不動産の価格を知ることが可能です。

なお、不動産の経済的側面について調査を行う場合は、不動産の価値だけでなく今後の開発計画や市況など、将来の価格変動も考慮しなければなりません。

法的側面

不動産デューデリジェンスでは法的側面の調査も行わなければなりません。

まずは権利関係の調査を行う必要があるでしょう。

例えば、不動産の所有者は法人名義になっているのか、企業の代表者や役員の名義になっているのかなどを確認します。

また、境界の確認も重要です。

調査時点で境界が確定していない場合、後になって想定していた面積よりかなり小さいといったことが判明するリスクもあります。

境界が確定していないことが分かった場合には、その理由の確認や、必要に応じて境界を確定してもらうよう提案するといったことも大切です。

そのほかにも接道の問題で既存不適格建築物になっていたり、消防法の基準を満たしていなかったりといった可能性もあるため、この段階で調査をして明らかにしなければなりません。

物理的側面

不動産の物理的側面においては、主に建物が対象となります。

具体的には、建物の築年数や、現地調査でどの程度劣化しているかなどを確認します。

さらに、築年数によっては建築材にアスベストが含まれていないかなど、有害物質の有無、土壌汚染の確認なども重要なポイントとなります。

また、土地においては、がけ規制や土砂災害警戒区域に含まれているかといった点も調査する必要があるでしょう。

土地・建物の物理的側面の調査を行ったうえで、どの程度の修繕を行う必要があるのかなど算出しておくことで、投資の是非を判断するのに役立てることができます。

Ⅴ.まとめ

デューデリジェンスの概要や種類、具体的な流れについてお伝えするとともに、不動産デューデリジェンスを実施する際のポイントをご紹介しました。

投資では大きなお金が動くこともあり、事前の綿密な調査が重要となります。

投資を検討する際には、本記事の内容を参考になさってください。

逆瀬川 勇造

保有資格:宅地建物取引士・相続管理士・2級FP技能士(AFP)

地方銀行、不動産会社を経て2018年にライターとして独立。2020年に合同会社7pocketsを設立。 現場で得た知識や経験を元に、読む方に理解しやすい記事を執筆している。

企業不動産に関するお悩み・ご相談はこちらから

関連記事

ページ上部へ