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実際の取引事例における路線価倍率(2022年)~賃貸住宅編~
不動産の売買価格の検討・査定において、相続税路線価は一つの基準として参考にされることが多くあります。
オフィス編に続き、賃貸住宅についてもJ-REITの取引事例をもとに、前面相続税路線価に対する実際の取引価格の倍率(以下、「路線価倍率」)を調査しました。
【サマリー】
●路線価倍率の調査方法は次の通り。
①J-REITの取引事例より、各物件の売買価格、土地比率を抽出する。
②取引価格に土地比率を乗じ、土地価格を算出する。
③②を土地面積で割り、土地単価を算出する。
④③を取引年の相続税路線価で除し、路線価倍率を算出する。
●各エリアの路線価格帯別の路線価倍率は、以下の通りとなった。
エリア | 路線価 | 路線価倍率 |
---|---|---|
東京 都心6区 | 1,000千円/㎡以上 | 概ね2倍半ば |
500~1,000千円/㎡ | 3倍前後 | |
東京 城南エリア | 500~1,000千円/㎡ | 概ね2倍後半 |
東京 城東エリア | 500~1,000千円/㎡ | 4倍前後 |
300~500千円/㎡ | 4倍前半 | |
東京 城西・城北エリア | 500~1,000千円/㎡ | 3倍半ば~後半 |
300~500千円/㎡ | 3倍半ば | |
札幌 | 300千円/㎡未満 | 2倍台 |
名古屋 | 300~500千円/㎡ | 3倍前半 |
300千円/㎡未満 | 3倍後半~4倍前後 | |
大阪 | 300千円/㎡未満 | 4倍後半 |
福岡 | 300千円/㎡未満 | 3倍半ば |
Ⅰ.調査方法
本調査はJ-REITのプレスリリースを用いて行いました。具体的な手順は以下の通りです。
① J-REITの取引事例(プレスリリース「資産の取得に関するお知らせ」など)より、各物件の売買価格、土地比率を抽出する。
② 取引価格に土地比率を乗じ、土地価格を算出する。
③ ②を土地面積で除し、土地単価を算出する。
④ ④を取引年の相続税路線価(以下、「路線価」)で除し、路線価倍率を算出する。
(例)プライムアーバン東中野コートの場合
取得価格70.2億円、土地比率79.5%、地積3,025.78㎡、路線価580千円/㎡
⇒ 土地価格 = 70.2億円 × 79.5% = 55億8,090万円
⇒ 土地単価(㎡)= 55億8,090万円 ÷ 3,025.78㎡ ≒ 1,844,450円/㎡
⇒路線価倍率 = 1,844,450円/㎡ ÷ 580,000円/㎡ ≒ 3.18倍
Ⅱ.路線価倍率の検討
J-REITの取引事例について、路線価倍率を集計し(中央値。各取引事例の路線価倍率については末尾「路線価倍率の算出表」参照)、過去数値等も踏まえた直近の路線価倍率を検討しました。なお調査対象は、東京23区および地方都市(札幌、名古屋、大阪、福岡)としました。
1. 東京23区の路線価倍率
i. 都心6区
1,000千円/㎡以上の価格帯の路線価倍率は、概ね2倍半ばであることがわかりました。500~1,000千円/㎡の価格帯について路線価倍率の推移をみると、2020年から2021年にかけて下落し、2022年に上昇していることが読み取れます。個別事例をみると、2020年には日本橋エリアの大通り背後の物件で、路線価倍率が高い事例が見られました。このような都心至近でオフィスやホテル等他のアセットとも競合するエリアでは、収益物件の開発ニーズは高いのに対して路線価が低く抑えられているため、路線価倍率が高くなりやすい傾向があります。
この事例を除くと2020年の路線価倍率の中央値は2.84倍となります。2022年は、大通り背後の物件で路線価が低く抑えられた事例や、稼働実績が乏しくやや高額で取得したと推定される事例があり、路線価倍率が上昇したと考えられます。以上の推移等も踏まえ、都心6区の500~1,000千円/㎡の価格帯の路線価倍率は3倍前後であると言えそうです。
ii. 城南エリア
城南エリアの500~1,000千円/㎡の価格帯では、路線価倍率は2020年に下落、2021年に上昇、2022年に下落していることが読み取れます。ここで城南エリアの路線価の推移をみると、2019年から2020年は上昇、2021年にかけては横ばい~やや下落、2022年に再び上昇となっています。取引価格が同じ場合、路線価と路線価倍率は負の相関関係にあるため、路線価の上下が路線価倍率に影響したと言えそうです。
また、各年の個別事例をみると2019年、2021年には路線価倍率が5倍以上となる事例も散見され、路線価倍率が例年より高めの水準となったと考えられます。よって、城南エリアの500~1,000千円/㎡の価格帯の路線価倍率は、概ね2倍後半と言えそうです。
iii. 城東エリア
城東エリアの路線価倍率は、500~1,000千円/㎡の価格帯では4倍前後と推定されます。
300~500千円/㎡の価格帯は年によって路線価倍率のばらつきがありますが、推移をみると2020年に下落、2021年に上昇、2022年にやや下落していることが読み取れます。一方で城東エリアの路線価は、2019年から2020年は上昇、2021年にかけては下落、2022年に再び上昇となっており、城東エリアも路線価の上下が路線価倍率に影響したと言えそうです。
また、個別事例をみると、例年、路線価倍率が5倍以上となる事例が複数含まれているのに対し、2020年は5倍以上の事例が1件のみであったことも、路線価倍率が低く抑えられた要因の一つと考えられます。
2021年に取引事例の多かった、江東区や墨田区における都心へのアクセスが良好なエリアについては、賃貸住宅のニーズは高く賃料単価は一定水準以上となるものの、路線価は低く抑えられているため、路線価倍率が高くなりやすいと言えそうです。2022年については、不動産市況が過熱していないエリアの事例が複数あり、路線価倍率が低く抑えられたと考えられます。
以上を踏まえ、城東エリアの300~500千円/㎡の価格帯の路線価倍率は4倍前半と言えそうです。
iv. 城西・城北エリア
城西・城北エリアの500~1,000千円/㎡の価格帯について、個別事例を確認すると2020年、2021年とも大通り背後の事例があり、大通りの路線価水準に補正して路線価倍率をみてみると2020年は3.74倍、2021年は3.85倍となりました。城西・城北エリアの500~1,000千円/㎡の価格帯の路線価倍率は3倍半ば~後半と言えそうです。
300~500千円/㎡の価格帯について、2022年の路線価倍率が大幅に下落していますが、個別事例を確認すると、取引時の築年数が30年以上経過した物件で路線価倍率が低い事例が複数ありました。これらを除くと2022年の路線価倍率の中央値は3.53倍となります。以上を踏まえ、城西・城北エリアの300~500千円/㎡の価格帯の路線価倍率は3倍半ばと言えそうです。
取引件数を見ると、都心6区、城南エリアでは減少傾向、城東エリア、城西・城北エリアでは大幅に増加傾向にあることが読み取れます。各エリア内でも住宅地として好立地の取引が減少しており、路線価倍率が下落した要因となった可能性があります。
2. 地方都市の路線価倍率
事例が少なく路線価倍率の傾向が読み取れない価格帯もありますが、名古屋、大阪の300千円/㎡以下の価格帯について、路線価倍率は2020年に下落、2021年に上昇、2022年に下落と推移していることがわかりました。名古屋、大阪の路線価については2020年に上昇、2021年に下落、2022年に上昇しており、路線価倍率の推移に影響を与えた可能性があります。
以下、各都市について、過去数値等も踏まえた直近の路線価倍率を検討します。
札幌の300千円/㎡以下の価格帯の推移をみると、2021年が3.7倍と高くなっていますが、個別事例をみると大通り背後の物件が複数あり、補正後の路線価倍率は2.67倍となります。札幌の300千円/㎡以下の路線価倍率は2倍台と言えそうです。
名古屋の300~500千円/㎡の価格帯の路線価倍率は3倍前半、名古屋の300千円/㎡以下の価格帯の路線価倍率は3倍後半~4倍前後であることがわかりました。
大阪の300千円/㎡以下の価格帯は年によってばらつきが大きいですが、路線価の推移と反比例して上下しており、路線価の変動が路線価倍率に影響を与えたと考えられます。よって、直近の大阪の300千円/㎡以下の価格帯の路線価倍率は4倍後半と言えそうです。
福岡の300千円/㎡以下の価格帯の推移をみると、2020年以降、路線価倍率は上昇しています。個別事例を確認すると、2022年は大通り背後の事例があり、大通りの路線価で補正すると路線価倍率の中央値は3.45倍となります。よって、福岡の300千円/㎡以下の価格帯の路線価倍率は3倍半ばと言えそうです。
※路線価倍率の算出表(共有持分や詳細が不明な物件等は原則として除外。)
提供:法人営業本部 リサーチ・コンサルティング部
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